ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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ラグナちゃん危機一髪?──しちゃいましょう

「ふ、う……ぁ、んんっ……!」

 

 …………暗く、狭いこの空間に、先輩の喘ぐ声が静かに、艶かしく響く。それは苦悶に満ちていたが──僕からすると、疾しい気分を無理矢理掻き立てられるような、実に悩ましい。

 

 ──……誰か、誰か助けてくれ……今すぐ僕をここから連れ出してくれ……!

 

 必死になって頭の中を空っぽにしつつ、僕は心の中でそう呟く。今すぐにでもここから離れなければ、己を見失いそうで本当に怖い。

 

「は、ぁ……くぅ、ぅぅぅ……!」

 

 だが先輩はお構いなしに、僕に密着したまま、その小さな身体を揺らす。足をもじつかせ、腰を震わせる。そうまでしないと気を紛らわすことができないのだと、僕もわかっている。それはわかっているが……それでも、先輩のその動きや仕草は僕の理性を激しく削っていく。

 

 ──誰か助けてくれぇ……!!

 

 できるだけ先輩の姿を視界に捉えないよう、上を向いて。ふにゅむにゅと下腹部で押し潰されながら踊る感触から意識を必死に遠ざけて。僕は、神頼みするかのように心の中で呟く。

 

 

 

 ……トイレを我慢していることが僕に知られて、開き直ったのか、先輩はあれから随分と大胆になった。

 

 必死に押さえ込んでいた声も僕に聞こえるまで漏らし、その生理現象から気を紛らわせるために、積極的に身体も動かすようになった。……先輩としては、本当ならその手で直接押さえつけてしまいたいところなのだろうが、生憎この狭苦しい空間では、それができなかった。

 

 

 

「…………あ、の。先輩」

 

「な、ぁ……んだ、よ……っ?」

 

 もはや喋ることすら困難なのか、やっとの様子で先輩は口を開く。僕は気を憚られながらも、重要なことだと己に言い聞かせ、訊ねた。

 

「あ、あとどれくらい……できそう、ですか?……その、我慢って」

 

「…………もう、無理…かも。割と、限界近、い……!」

 

 弱々しい声音で、先輩は僕にそう答える。それを聞き、僕の方にも少なからず、焦りというものが出始める。

 

 ──は、早くここから脱出しなければ……!

 

 そう思って、僕は腕を動かせるか試してみる。するとある程度の範囲ならばなんとか動かせることがわかり、僕はそこに一縷の希望を託し己の腕を【強化(ブースト)】し、肘先を棺の蓋に向けてぶつけた。

 

 ドンッ──衝撃によって棺全体が揺れ動き、先輩が驚いたように小さく悲鳴を上げる。

 

 ──……開かない、か。

 

 僕の考えとは裏腹に、棺の蓋は開かず固く閉ざされたまま。であれば、もっと力を込めるだけ──そう、僕が思った瞬間だった。

 

「ク、クラハ……!」

 

「え?な、なんですか先輩?」

 

 不意に先輩に名を呼ばれて、そちらの方に顔を向ける。すると先輩は俯いていた顔を上げて、涙が浮かぶ琥珀色の瞳で、非難するような眼差しをこちらに向けていた。

 

 それから辛そうに、しかし微かな怒りを込めて先輩が言う。

 

「い、いきな、り……なに、しやがん、だ。この、野朗……!で、出るかと、思った、じゃねえか……っ」

 

「え、ええ……!?す、すみません!棺の蓋を、開けようかと……」

 

「そ、そうか。……あ、と、あんまり、大きい声、出すな……頼、む」

 

「りょ、了解です……」

 

 僕がそう返すと、先輩は再び俯いてしまう。脱出するために取った行動が、さらに先輩を追い詰めてしまう結果となり、僕の心に後悔と罪悪感がのしかかる。

 

 ──ど、どうすれば。どうすればいい?僕はどうすればいいんだ……!

 

 先輩のためになにかできることはないのか。必死になって頭を回すも、僕は特にこれといった方法を思いつけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────と、そういった経緯の果てに、僕と先輩はこの状況下に置かれてしまったという訳だ。

 

 先輩への負担なしに、この棺からどうにかして脱出する方法を僕はずっと考えていた。考えていたが、やはりなにも思いつけない。というか、そんな方法あるとは思えない。

 

 仮に僕が【転移】を使えたのなら話は違ったのだろうが……ともあれ、無情にも時間だけが過ぎ、いよいよ以て先輩も限界に達しようとしている。

 

「もう無理無理無理ヤバいヤバいヤバいぃ……!!」

 

 絶え間なく身体を揺らしながら、先ほどからうわ言のように、そう繰り返す先輩。……もはや誰がどう見ても、限界突破間近の状態である。

 

 ……実を言えば、方法は一つ思いついている。いるのだが、その方法は先輩に──恥を掻かせることとなってしまう。しかしこのままでは、どのみち先輩は恥ずかしい思いをすることになるだろう。その違いはそれが、小さいか大きいかのどちらかである。

 

 ──……仕方ない。これは、仕方ないんだ。

 

 身を切る思いで、僕は口を開いた。

 

「先輩」

 

 僕の真剣な声に、ふるふると先輩は顔を向ける。本当に辛そうな表情を浮かべており、今の今まで溜め込んできたその苦しみが、垣間見える。

 

 ──もうこれしかないんだ。きっと、たぶん……これが最善なんだ……!

 

 僕としては、これ以上先輩を追い詰めるような行為をしたくなかったが──心を鬼にし、意を決して切り出した。

 

「しちゃいましょう」

 

 ……一瞬にして、場が静まり返った。僕の言葉を受けて、まるで意味がわからないといったように、先輩は眉を顰める。

 

「……は?」

 

 そして、そう一言だけ口にした。そりゃそうだ、先ほどの僕の言葉では、意味などまるでわからないだろう。

 

 固まっている先輩に、僕は躊躇いながらも、今度こそ意味が伝わるように、言った。

 

 

 

今、ここで(・・・・・)。しちゃいましょう……先輩」

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