ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか──   作:白糖黒鍵

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「……あの、先輩」

 

「あーむっ……ん?何だ?」

 

 まさに至福、という表情で運ばれてきたパフェを食べ進める先輩に、僕は尋ねてみた。

 

「そもそも、何で先輩は……その、女の子になっちゃったんですか?原因とか、わかってるんですか?」

 

「んむ……原因?いや、んー……もぐ」

 

 やや黄色みがかった白色のアイスクリームをスプーンで掬い、口元にまで運び、そして口腔にへと放り込む先輩。

 

「ん〜……!」

 

 そのアイスクリームが如何に美味なのか、それを表情で以て全力で示す先輩。とろぉ、という擬音がさぞ似合いそうな、大変可愛らしく屈託のない、頬の蕩け切った笑顔を前に、僕は思わず心臓の鼓動を早めさせてしまう。

 

 ──この子はラグナ先輩この子はラグナ先輩この子はラグナ先輩この子はラグナ先輩……!!

 

 そう心の中で自分に暗示でもかけるかの如く必死に言い聞かせて、先輩の返事を待つ。するとアイスクリームを十二分に堪能しただろう先輩は、ようやっと僕の質問に対してこう答えてくれた。

 

 

 

「それが、わかんねえんだよ」

 

 

 

 訂正。答えになっていなかった。

 

「……わからない、ですか」

 

 深刻そうに僕は返すが、先輩は大して気にしていない様子で適当に相槌を打つ。

 

「おう。……あむ」

 

 ……今、先輩の関心は全て目の前のパフェに注がれている。この人は、昔からいつもそうなんだ。

 

 大事な依頼(クエスト)に関する話の時も、僕の今後の冒険者(ランカー)人生の相談の時も、先輩はパフェやケーキ等の洋菓子(スイーツ)のことを何よりも最優先し、いつもいつも、毎回毎回食べていた。そう、今この時と同じように。

 

 まあ、別にそれはどうでもいいのだが。僕は別に何とも思っていないのだが。本当に何も、微塵たりとも思っていないのだが。うん。

 

 だがしかし、今回は先輩自身の問題。それも、性別が変わるという、到底捨て置くにも捨て置けないであろう前代未聞の大問題のはず。

 

 …………なのに、この人はどんだけパフェ好きなんだよ。

 

 ──本当に、凄い幸せそうな顔で食べるよなあ毎回……。

 

 洋菓子を食べる女子というのは、絵になる。……まあ、中身は男?なので僕としては結構複雑なのだが。

 

「……あー、じゃあ何か変なこととかもなかったんですか?」

 

「変なこと?」

 

「はい」

 

 藁にも縋る思いでそう尋ねると、先輩はそこで今日初めて考え込むような顔をして、それからあっと何か思い出したような顔になった。

 

「ああ、そうだったそうだった。俺、見たんだよ」

 

「見たって……何をですか?」

 

「夢」

 

「夢、ですか?」

 

 グラスの底をスプーンで突きながら、先輩はその夢とやらの内容を話し始めた──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん、あ?」

 

 ふと、目を開くと。それはもう広大な大海原が目の前に広がっていた。

 

 呆然とその景色を眺めて、それから特に思うこともなく頭上を仰ぐ。そこにあったのは、何処までも突き抜ける晴天だった。

 

「………何だ、ここ。……夢か?」

 

 未だはっきりとしない意識の中で、ラグナ=アルティ=ブレイズは第一にそう思った。そして次に思ったことが──────

 

 

 

「んじゃ寝るか」

 

 

 

 ──────だった。そして即時行動が一つのモットーであるラグナはすぐさま目を閉じた。その瞬間である。

 

 

 

 

 

「おっっっはよおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 鼓膜を震わす、というか破り裂かんばかりの大声量の挨拶が飛んできた。流石のラグナもこれには目を開けずにはいられなかった。

 

「うっせえなぁおい!誰だあ!?」

 

「ボクだよ!」

 

「いやだから誰だ!?」

 

 気がつけば。ラグナの目の前に、女性が立っていた。透き通るような灰色の髪と、それと全く同じ色の瞳をした女性が。

 

「ボクはボクだよ人の子クン!とりあえず、おっは「うっせえ黙れ!」おっはよおおおおおお!!」

 

 ラグナの言葉になど少しも耳を傾けずに、すぐ目の前だというのにこれまた大声量で挨拶を彼にぶちかます女性。当然、眉を顰め額に青筋を思わずラグナは浮かべてしまう。

 

「ブッ飛ばすぞこのアマぁ……!」

 

 並大抵の者であれば、それだけで戦意を喪失させるような形相とドスの効いた声で、ラグナは女性にそう言うが。

 

「全然構わないよヘイカモン!」

 

 全く通じなかった。

 

「……い、いや。冗談だ」

 

 ラグナといえど、流石に女を殴るような趣味は持ち合わせていない。眉を顰め青筋を浮かべながらも、嘆息しつつ再び目を閉じた。

 

「どっかの誰だか知らんが、茶番に付き合う気はねえ。じゃあな」

 

 そして即座に意識を放り投げる──直前。

 

「あれそうなのそうなんだ。じゃあボクも手短に用件、というかお知らせをキミに伝えるよ!」

 

 と、無駄なハイテンションを維持しながら女性がラグナにこう、伝えるのだった。

 

 

 

「全人類からの厳選な抽選の結果お見事キミが選ばれましたおめでとう本当におめでとう!なのでキミにはとっても素敵でステキな祝福(ギフト)を贈っちゃうよ!さあ明日から新しい楽しい人生────否、()()の始まり始まり〜!」

 

「はぁ?」

 

 

 

 瞬間、まるで灯火を吹いて消すように。ラグナの視界は暗転し意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、夢を見た」

 

「いや絶対それですよね原因」


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