ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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ラグナちゃん危機一髪?──つるつる

「も、出──」

 

 切なげに震える声を先輩が絞り出すのと、ほぼ同時に。

 

 バァンッ──突然、僕の背後で蓋が思い切り開かれる音がした。

 

「「……へ?」」

 

 全く同時に、僕と先輩が困惑の声を漏らす。そしてそれに続くようにして、ドンと僕は力強く乱暴に突き飛ばされる。

 

「うおっ……!」

 

 目を閉じていたために、身構えることもその場で踏ん張ることもできず、ただ身体を包む一瞬の浮遊感を感じるままに──すぐさま背中を強打する。

 

「がはッ!?」

 

 まるで内臓全体を揺さぶるような衝撃に襲われ、僕は堪らず肺にあった空気を残らず吐き出してしまう。それから慌てて浅い呼吸を繰り返して、自分は棺の外に放り出されたのだと遅れて理解する。

 

 ──な、なにが、起こって……。

 

 そう思いながら、咄嗟にその場で立ち上がる──直前、僕の耳に、先輩の声が届いた。

 

「んなぁ!?ちょ、は、離しっ……!」

 

 そして次の瞬間、ドンと僕の腹部目掛けて何かが落下してきた。そう重くはなかったのだが、また突然のことで身構えられず、先ほど辛うじて肺に取り込んだ空気をまた吐き出してしまう。

 

「ごふッ」

 

 一体先ほどからなにが起こっているのか、全く訳がわからず僕は咄嗟に、今まで閉じていた目を開く。開いて────頭の中が、一瞬にして真っ白になった。

 

 僕の腹部の上には、先輩がいた。琥珀色の瞳を涙塗れにした、先輩が跨っていた。

 

 …………その下になにも穿いていない、そこだけ所謂生まれたままの姿の先輩が。

 

「…………」

 

 真っ白になった頭の中、ただ一言だけが浮かぶ。

 

 ──つるつるだ。

 

 そう思った瞬間、僕の上に跨ったまま呆然としていた先輩の身体が、ぶるりと震えた。

 

「──ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遺跡の最深部にて、クラハとラグナが色々な意味で凄まじい結末を迎えていた頃、酒場『大食らい(グラトニー)』にて。

 

「おい、おいフィーリア。もういい加減起きろ」

 

 そう言いながら、サクラはフィーリアの身体を揺さぶる。結局昼から夕方近くまで酒を飲み続けた彼女は、見事に撃沈してしまっていたのだ。

 

「…………ん~?んんー……」

 

 サクラに揺さぶられて、フィーリアが鬱陶しそうな声を漏らす。そして閉じていたその瞼を、彼女は嫌々にゆっくりと開いた。

 

「……うぇい」

 

 そして隣に座るサクラに顔を向けて、そう言い放った。そんな彼女に対して、サクラはなんとも言えない表情を送る。

 

「フィーリア。今日はもう帰ろう。帰った方がいい。支払いは私がするから」

 

「…………んぇあぁ~」

 

 可愛らしいようであまり可愛くない、珍妙な呻き声を上げてフィーリアは背を伸ばす。と、次の瞬間。

 

 パキキ──フィーリアの周囲が一瞬薄らと輝いたかと思うと、拳大程度の魔石がテーブルに生えた。

 

「…………ぁ」

 

 それを見たフィーリアが、やってしまったという風に声を漏らす。

 

「フィ、フィーリア?これは、一体……?」

 

 そして同じくその光景を目の当たりにしたサクラも、テーブルの薄青色の魔石に奇異の視線を送りながら、そうフィーリアに訊ねたが、しかし彼女はなにも答えず、ただ面倒そうにその魔石に指先を伸ばす。

 

「……らいじょうぶれすよぉ。こぉれぇ、いっがぃととれまぁすんの、でぇ……」

 

 全く呂律の回っていない、間延びした声でそう言うフィーリアの指先が魔石に触れる────その瞬間だった。

 

 

 

 パキンッ──まるで硝子が割れるように、魔石が儚く砕け散った。

 

 

 

「む?砕け、た?」

 

 飛び散った破片が魔力の残滓となり、宙に霧散していく様を見届けながら、サクラがそう呟く。それから無意識にフィーリアの方に視線を向けると────

 

 

 

「………………」

 

 

 

 ────彼女は、固まっていた。まるで到底信じられないものを目の当たりにしたかのように、その瞳を見開かせていた。普段は魔法で上手く誤魔化しているはずの、七色が入り乱れる右の瞳と、透き通るような灰色の左の瞳を。

 

「……フィーリア?」

 

 明らかに普通ではない彼女の様子に、少し不安そうにサクラが呼びかける。しかし──フィーリアは、なにも答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はあ」

 

 朝。リビングにて独り、僕はそんな重いため息を吐き、頭を抱え込む。

 

 あの(・・)遺跡調査から、一日経った。結局あの遺跡に関する手がかりなどは掴めず、僕はともかく先輩が散々な目に遭うだけで終わってしまった。

 

 …………まあ、なんだろう。結論だけ先に述べてしまうと──これ以上にないくらいに先輩は落ち込んだ。それはもう、ぐうの音も出ないほどに。僕の慰めなど全く届かないほどに。

 

 僕に跨ったまま、楽に(・・)なってしまった先輩は、もうその口を開いてくれなかった。気にしないでください、大丈夫ですからと僕が何度も言っても、先輩はずっと口を閉ざしたままだった。

 

 そうして辛過ぎる無言の中遺跡を出て、オールティアに戻り、そして家に着いても先輩は無言で、そのまま自室に閉じ籠ってしまった。もうどんな言葉をかければいいのか僕もわからず──今に至る。

 

 ──僕が、もっと早く気づいていれば……。

 

 ただただその後悔が、僕の胸の中に募る。そして一体どうすれば先輩を立ち直らせることができるのか考え、ふと唐突に思う。

 

 ──トイレに行きたいことを知られたくなかった、か。……以前の先輩なら、間違いなく出なかった言葉だな。

 

 先輩も、少しは女の子としての恥じらいを覚えたという訳なのだろう。まあ男ならともかく、本来女の子はそういったことを気にするものだし──そこまで思って、僕は疑問を抱いた。

 

 ──あれ……?元は男である先輩が、そんな恥じらいを持つのはおかしいんじゃ……?

 

 リーン──と、そこで突然家の呼び鈴が鳴り響いた。

 

「ん?こんな朝から……誰だ?」

 

 少し奇妙に思いつつも、そこで一旦考えるのを止め僕は玄関に向かう。そしてゆっくり扉を開くと────

 

「おはようございます、ウインドアさん。……えっと、昨日はどうも、すみませんでした」

 

 ────そこにはフィーリアさんの姿があった。しかもただ立っている訳でなく、それなりに大きい白い箱を抱えている。

 

 彼女は何故か少し気まずい様子で、僕に訊いてくる。

 

「あの、ウインドアさん。その、ブレイズさんは……」

 

「え?せ、先輩ですか?……い、今はちょっと、取り込み中というかなんというか」

 

 僕がそう答えると、フィーリアさんはなにか察したような表情を浮かべ、僕から視線を逸らしながら、抱えるその白い箱を僕に差し出した。

 

「これ、ウインドアさんからブレイズさんに渡しておいてください。ちょっとお高い洋菓子(スイーツ)です」

 

「へ?……あ、はい。わかり、ました。ありがとうございます」

 

 困惑しながらも、僕はフィーリアさんからその箱を受け取る。それから彼女はまだなにかあるように立ち留まって、再度またその口を開く。

 

「ウインドアさん」

 

「?は、はい」

 

 箱を側に置きつつ、僕が返事をすると──意を決するように、彼女は話を切り出した。

 

 

 

 

 

「マジリカに、来ませんか?」

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