いつだって、避けられていた。いつだって、嫌われていた。
いつも気持ち悪いと言われていた。いつも化け物だと言われていた。
同い年くらいの子供たちにも、そしてずっと年上の大人たちからも。
最初こそ、嫌だった。そんなことを言わないでほしかった。けれど、誰も止めてはくれなかった。
だから────いつしか、どうでもよくなった。
避けられても特に思うことがなくなった。だって一々気にしていても仕方のないことなのだから。
嫌われても特に思うことがなくなった。だって一々傷ついても仕方のないことなのだから。
気持ち悪いと何度も言われた。化け物めと何度も罵られた。でも別にどうでもいい。だって、全部無駄なのだから。
そうして、とうとう────なにも、感じなくなった。
マジリカと呼ばれるこの街には、とある場所がある。ここの住民たちは皆、その場所のことを──『魔石塔』と呼んでいた。
その名の通り、その塔は全体が薄青い魔石で覆われており、また塔ではあるがそう高くはない。一説によれば、地下があるのだとかなんとか。
この塔についての情報はそれ以上になく、またそれが真実なのか確かめる術もない。何故なら、この塔を覆う魔石が
一見すれば、このフォディナ大陸では全般的に見られるような、至って普通の魔石。しかし、その硬度は常軌を逸していたのだ。
どんな衝撃を与えても
その魔石を調べようとした者もいたが、結局塔と同じくなにもわからなかった。
そんなものだからやがて塔に近づく者も減って、遂には誰もいなくなってしまった。
普段から誰も近づこうとしない魔石塔だったが────わたしにとっては、どんな場所よりも居心地の良い場所だったのだ。
「あなた、ですわね!」
「ついにみつけましたわ。まったく、こんなところにいるなんて」
その言葉に続いて、足音が近づいてくる。だが、気に留めようとは思わなかった。
声の主の正体など別にどうだっていい。声の高さと、まだたどたどしい言葉遣いからして、どうやら子供のようだ。またいつものように心ない罵倒をぶつけられるだけだろう。
わざわざ人を避けるためにこの場所にいるというのに──そんな諦観の念を抱いていると、やがて声の主は目の前にまでやって来た。
どうでもいいと思いつつも、つい目を向けてしまう。そこに立っていたのは──やけに豪華そうなドレスに身を包んだ、同い年くらいの少女だった。
背中を覆うまでに伸びた金髪と、同じく色の瞳。人形のように整った顔には、自信に満ち溢れ勝つこと以外知らないといった、勝気な表情が浮かんでいる。
少女はこちらを一瞥すると、唐突にビシッと人差し指の先を突きつけて、言い放った。
「あなた!なのりなさい!」
……反応に困った。まさか見ず知らずの少女に、出会い頭名乗れなんて言われるとは、思いもしなかった。
「……」
とりあえず沈黙で返して、少女から顔を逸らす。するとその行動が気に入らなかったのか、怒ったように少女が叫んだ。
「ちょっと!このわたくしがなのれといっているのよ!?なのりなさいよ!」
「…………」
この少女、一体何様のつもりなのだろうか。普通、こういう場合は先に名乗ってから、相手に名乗らせるものだろう。
相手にするのも面倒なので、その言葉も無視すると──またムキになったように少女が叫んだ。
「こ、このわたくしをにどもむしするなんて、あなたいいどきょうしてますわね!?」
「………………」
息を荒げる目の前の少女に、仕方なく再度顔を向ける。そして気怠げに、口を開いた。
「……だれ?」
そう訊ねると、わかりやすいくらいに少女は目を見開かせて、それから信じられないように三度叫んだ。
「こ、このわたくしを、ナヴィア=ネェル=ニベルンをしらないの!?」
ぎゃいぎゃいと叫ぶ金髪の少女。しかしその名前──ニベルンというのには聞き覚えがある。確か『四大』の内の一家だったはずだ。
ということは……この少女はニベルン家のお嬢様ということなのだろうか。言われてみれば、その言葉遣いも何処か丁寧というか、上品だった気がする。
……だとすればなおさら謎である。何故『四大』のお嬢様が、供もなくこんな場所にまでやって来て、街の嫌われ者である自分にこうも突っかかってくるのだろう。
そう疑問に思っていると、少女──ナヴィアは、呆れながらも、キッとこちらを睨んだ。
「ま、まあいいですわ。そんなことよりも……あなた!このわたくしとしょうぶなさい!」
「……は?」
この時久々に、本当に久々に、感情らしい感情を込めた声が出たと思う。
そしてこれが、ナヴィアとの──わたしにできた初めての親友との、出会いだった。