ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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ARKADIA────出会い頭口喧嘩

「おーっほっほっほ!」

 

 マジリカの中央広場にて、突如としてそんな高笑いが響き渡る。その声質と高さからして女性のもののようで、実に自信に満ち溢れた高笑いである。

 

 ──な、なんだ?

 

 あまりにも突然のことで、僕は驚きながら周囲を見回す。すると、いつの間にか向こうの方に誰かが立っているのが見えた。

 

 女性、だった。結構距離はあったが、それでもだいぶ目立っている。陽に照らされ燦然と輝く金髪に、その身を覆う豪奢絢爛なドレス。身長も女性にしては高い方で、僕と同じくらいはあるように思えた。

 

 ──あの人は、一体……?

 

 困惑する僕たちの元に、その女性はゆっくりと、優雅な足取りで歩いてくる。その途中、再び広場全体に届かせんばかりに女性が声を出す。

 

「あらまあ、久しぶりですわねえ──フィーリア!相変わらず、小さいこと」

 

 女性の言葉に、またしても僕は軽く驚いてしまう。どうやら彼女は、フィーリアさんと知り合いらしい。

 

 そうしてフィーリアさんの方に顔を向けると──彼女は、まるで苦虫を百匹噛み潰したように顔を歪めさせていた。

 

 ──え?

 

 そんなフィーリアさんの表情に面食らいながらも、一体どうしたのかと訊ねる──前に、早々とフィーリアさんがその口を開いた。

 

「では皆さん行きましょう。私に付いて来てください」

 

 そして言うが早いか彼女は踵を返し、広場を去ろうと歩き出してしまう。

 

「えっ、ちょ、フィーリアさん?」

 

 さっきというか、明らかに普段とは違うその様子に、困惑しながらもとりあえず止めようと、背中越しに呼び止める──その時だった。

 

 ダダダダッ──突然、向こうの方から凄まじい勢いでこちらに駆けてくる足音が、高らかに鳴り響いた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟にその音がする方に視線をやると────信じ難い光景が、そこにはあった。

 

 ──ええっ……!?

 

 先ほどまで優雅に歩いていた金髪の女性が、走っていた。激しい運動をするには絶対に適していないだろうドレス姿で。それはもう、思わず感嘆してしまうような美麗なフォームで。さながら大自然の陸上を駆ける獅子のように。

 

 バッサバッサとドレスの裾が思い切りはためく度に、スラリと伸びた生足が垣間見える。見事な脚線美を描くその足が、何度も地面を蹴りつける。

 

 そうしてこちらとある程度離れていたはずの距離は、あっという間に詰められてしまう──かに思えたその時、僕はさらに卒倒するような、あまりにも衝撃的過ぎる光景を目にすることになった。

 

「この(わたくし)を無視してどこに行く気ですのこの貧乳合法幼女ォッ!!」

 

 ダンッ──もはや優雅さも気品さもない暴言を吐き捨てると、金髪の女性は駆ける勢いそのままに、宙へ跳び上がった。

 

 ──ええぇぇッ?!

 

 武闘家顔負けの、芸術的とまでさえ思えてしまうような跳び蹴り。槍の如く鋭く伸ばされた足先が、その先を歩くフィーリアさんの無防備に晒された背中に突き刺さる──直前。

 

 ヒュン──一瞬にして、フィーリアの姿がその場から消え去った。遅れて、金髪の女性が虚空を貫き、華麗に着地する。

 

「チッ!」

 

 そしてなんとも行儀悪く舌打ちをした瞬間、パッと彼女の背後にフィーリアさんが現れる。現れるなり──

 

「別に私がどこに行こうが私の勝手でしょうがこのデカ乳暴力女ァッ!!」

 

 ──と、あらん限りの怒りを込めて、普段とは全く違う口調で彼女も暴言を吐き捨てた。スッと無言で金髪の女性は地面から立ち上がり、そしてフィーリアさんの方に振り向く。

 

 言い様のない緊張感に包まれる広場にて、フィーリアさんは見上げ、金髪の女性は見下す。そして数秒の沈黙が二人の間に流れた時、それは唐突に破り捨てられた。

 

 

 

「「誰が貧乳(デカ乳)合法(暴力)幼女(女)だッ!!!ああッ!?」」

 

 

 

 そしてそれが、開幕の合図だった。

 

「大体相変わらずなのはあんたでしょあんた!昔っからバッタバタ走っちゃぴょんぴょん跳ねて、その足癖の悪さどうにかなんない訳!?」

 

「あらあらごめんあそばせぇ?二十歳になっても十年前となにも変わらないあなたと違って私は成長が早くてつい活発に身体を動かしたくなってしまいますのぉ。いつまで経っても幼女同然のあなたには一生わからない衝動ですわねえおほほほ!」

 

「はーっ!はーっそうですかはーっ!別にそんな衝動わかりたくも知りたくもないっての!その無駄に育ち過ぎた胸ぶっるんぶるん下品に揺らしながら、無駄にエロいスケパン見せ散らかしても平気でいられる痴女と違ってぇ、二十歳の大人で常識人な私には羞恥心ってものがあるからさぁ!」

 

「え?なに嫉妬?それ嫉妬ですのぉ?こーんなにもナイスバディである私に、色気の欠片もないお子様なあなたがそんなこと言っても、まるで嫉妬しているようにしか聞こえませんわぁ」

 

「は、誰がよりにもよってあんたなんかに嫉妬するかっての。じゃあ訊くけど、あんた恋人できたの?そーんなにもナイスバディで色気ムンムンなあんたなら恋人の一人や二人くらい余裕でしょ?ま、それでもどうせ未だにいないんでしょうけど。いくら顔や身体が良くても性格がアレだしねあ・ん・たは!」

 

「なぁんですってこの小娘ぇ!!じゃあ逆に訊かせてもらうけどあなたはどうなのよあなたは!?あなただってどうせ今もいないし今までできたこともないのでしょう!?あなたの場合、性格も最悪で身体の方もご覧の通り貧相ですもの!殿方が関心を示す訳がありませんわよねえおーっほっほっほ!」

 

「違わい!私はできないんじゃなくて作らないだけだから!その気になれば男の一人や二人どうってことないから瞬殺だからぁ!!!」

 

 …………この『魔法都市』マジリカに訪れてから、一体何度僕はこの短時間で驚かなければならないのだろう。若干、頭の奥が痺れてきた気さえしてくる。

 

 フィーリアさんと金髪の女性の激しい言い争いを前に、僕とサクラさんは呆然とする他ない。そして何故か先輩は面白そうに眺めている。

 

 二人の言い争いは限度を知らずに白熱化していき────結局、その勢いを全く衰えさせずに数分間続いたのだった。

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