『
そしてフィーリアさんの言葉もあって、僕と先輩は早速マジリカを観光することにした。ちなみにサクラさんは僕たちとは別れ、道行くマジリカの女性魔道士に声をかけ、どこかへと去ってしまった。まあ、いつも通りのことなので大丈夫だろう。
先輩と二人きりで、時間を忘れて楽しむマジリカの観光はとても有意義なものだった。フィーリアさんの案内があったさっきとは違い、行き当たりばったりな観光ではあったのだが、これこそ旅の醍醐味というものだろう。
時に住民の話を聞いて。時に己の勘に従って。時に先輩に振り回されて──この一日だけでも、僕たちはマジリカという街を堪能できたことだろう。
そしてあっという間に陽は落ち始めた頃────僕と先輩は、とある場所に訪れていた。
ラディウスとは違った賑やかさで溢れていた繁華街を抜け、しばらく進んだ先。そこに、
実に行き当たりばったりだったマジリカ観光の中で、唯一定めていた目的地。マジリカへ向かうことが決まった時から、是非とも一度は足を運びたいと思っていた場所。
『世界
その場所の名は────魔石塔。不詳の時代からこの地に悠然と聳え立つ、マジリカを代表する観光名所だ。
「……これが」
天に向かって突き立つ、魔石に覆われたその塔を見上げ、僕は感動のため息を吐く。感無量の極みとは、このことだろう。
魔石塔。話によれば、ここマジリカという街が作られる
今までに多くの遺跡学者やら、魔道士たちがこの塔の謎に挑んだという。そしてその全てがあえなく撃沈したという。この塔に関しての文献や資料があまりにも少ないせいもあるが、一番の原因は──その中に
この魔石塔の一番の特徴であり、また象徴でもある魔石。この魔石は驚くことに、破壊することができないのだという。いかなる手段を用いても、絶対に砕くことが叶わないのだという。
そんな魔石は塔を着飾るように覆っており、中へ進むための大扉をも覆ってしまっている。だから、この塔の中には入れないでいるのだ。
「…………」
無窮の神秘に包まれた塔を、僕はある程度離れた位置から眺める。この塔への接近は『世界冒険者組合』が禁止にしている。
それからこの場の周囲へ、目を配らす。この街一番の観光名所──しかし、その周囲にはなにもなかった。
……否、正確には人の気配が微塵もない。全く感じられない。何故ならこの場所は、
元は人々の活気で満ち溢れていたことを証明する、悉く風化し大半が崩れ落ちている建造物を見やって、僕はなんとも言えない気分になる。
──『世界冒険者組合』の介入も一因にあるんだろうけど……。
魔石塔は、その神秘性故に多くの人を惹きつける。しかし、その神秘性は時としてこの上ない不気味さに変じることもある。その不気味さが、自然と人々をこの場所から遠ざけたのだろう。
こうしてここへ訪れて、改めて思う────
──…………もうすぐで、『あの日』だな。
僕がそう思っていた、その時だった。この魔石塔の廃墟街に来てか無言だった先輩が、不意に前へ歩き出した。
「あ、先輩待ってください。魔石塔には……」
僕の注意も虚しく先輩はスタスタとその歩みを進めて、魔石塔のすぐ近くにまで行ってしまう。僕も一瞬躊躇ったが、先輩の後に続くようにして魔石塔に近づく。
遠くから眺めるだけでも充分過ぎるほどに美麗な塔であったが、近くで見るとより一層美麗である。塔自体は至って普通の石塔なのだが、その全体を覆う薄青い魔石が夕陽に照らされ、青と赤が複雑に絡んだ光を発しており、実に幻想的な光景が広がっていた。
その光景に思わず僕の視線と意識が囚われてしまう中、先輩は何故か奇異な表情を浮かべ──スッと、その小さな手を伸ばす。そして細い指先が、魔石の表面にそっと触れた。
「先輩……?」
その先輩の様子に、思わず僕は訝しんだ声をかける。すると少し遅れて、先輩がようやく口を開いた。
「なあ、クラハ」
魔石から僕の方に顔を向けて、先輩は言う。
「初めて、だよな?俺らがここに来んのって」
「……え?」
その先輩の言葉に、僕は思わず怪訝な声を返してしまう。そう、先輩の言う通り、僕たちがここに来たのはこれで初めてだ。しかし、そんなこと僕に訊かなくても、先輩だってわかっているはずだ。
「そう、ですね。そのはずですよ、先輩」
僕の言葉に先輩はすぐには返さず、再び魔石の方へ顔を向けて、少し間を置いてからぽつりと呟いた。
「
そして、触れさせていた指先で魔石をゆっくりと撫でる。僕は、先輩の呟きにただただ困惑させられる他ないでいた。
「懐かしい、って……」
先ほど先輩が僕に確認した通り、僕たちがマジリカに訪れるのも、ましてやこの魔石塔の元へ足を運んだのもこれが初めてだ。初めてのはずだ。
「…………」
先輩は、なにか考えこむように指先に触れる魔石を見つめている。その横顔には困惑と────慈しむような、複雑な感情が宿っていた。
その先輩の表情に思わず見惚れてしまう中、ふと僕は気づく。
──ん?この魔石……どこかで、見たことがあるような……?
塔を青に彩る魔石。その質感に遠い既視感を感じ、頭の片隅に押し込まれた記憶が刺激されたのだが、果たしてそれが一体なんだったのか、僕は思い出すことができなかった。