ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

406 / 481
ARKADIA────魔石塔。懐かしき困惑にて

輝牙の獅子(クリアレオ)GM(ギルドマスター)、アルヴァさんへの挨拶を終え、受付にてこのマジリカに滞在する三日間、外部冒険者(ランカー)である僕たちでも『輝牙の獅子』に発注された依頼(クエスト)を受けられるよう、様々な手続きも終えて、僕と先輩、サクラさんは『輝牙の獅子』を後にした。

 

 そしてフィーリアさんの言葉もあって、僕と先輩は早速マジリカを観光することにした。ちなみにサクラさんは僕たちとは別れ、道行くマジリカの女性魔道士に声をかけ、どこかへと去ってしまった。まあ、いつも通りのことなので大丈夫だろう。

 

 先輩と二人きりで、時間を忘れて楽しむマジリカの観光はとても有意義なものだった。フィーリアさんの案内があったさっきとは違い、行き当たりばったりな観光ではあったのだが、これこそ旅の醍醐味というものだろう。

 

 時に住民の話を聞いて。時に己の勘に従って。時に先輩に振り回されて──この一日だけでも、僕たちはマジリカという街を堪能できたことだろう。

 

 そしてあっという間に陽は落ち始めた頃────僕と先輩は、とある場所に訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラディウスとは違った賑やかさで溢れていた繁華街を抜け、しばらく進んだ先。そこに、それ(・・)は建っていた。

 

 実に行き当たりばったりだったマジリカ観光の中で、唯一定めていた目的地。マジリカへ向かうことが決まった時から、是非とも一度は足を運びたいと思っていた場所。

 

『世界冒険者組合(ギルド)』刊行の雑誌、『冒険人生』。ある月の刊に載っていたのを目にして、人生に一度はこの目で直接見たいと思った場所。

 

 その場所の名は────魔石塔。不詳の時代からこの地に悠然と聳え立つ、マジリカを代表する観光名所だ。

 

 

 

 

「……これが」

 

 天に向かって突き立つ、魔石に覆われたその塔を見上げ、僕は感動のため息を吐く。感無量の極みとは、このことだろう。

 

 魔石塔。話によれば、ここマジリカという街が作られる以前(・・)から、この場所に建てられていたという。またこの塔は未だ多くの謎に包まれており、何故この場所に建てられているのか、どういった目的でここに建てられたのか。その一切が不明なのだ。

 

 今までに多くの遺跡学者やら、魔道士たちがこの塔の謎に挑んだという。そしてその全てがあえなく撃沈したという。この塔に関しての文献や資料があまりにも少ないせいもあるが、一番の原因は──その中に入れない(・・・・)からだ。

 

 この魔石塔の一番の特徴であり、また象徴でもある魔石。この魔石は驚くことに、破壊することができないのだという。いかなる手段を用いても、絶対に砕くことが叶わないのだという。

 

 そんな魔石は塔を着飾るように覆っており、中へ進むための大扉をも覆ってしまっている。だから、この塔の中には入れないでいるのだ。

 

「…………」

 

 無窮の神秘に包まれた塔を、僕はある程度離れた位置から眺める。この塔への接近は『世界冒険者組合』が禁止にしている。

 

 それからこの場の周囲へ、目を配らす。この街一番の観光名所──しかし、その周囲にはなにもなかった。

 

 ……否、正確には人の気配が微塵もない。全く感じられない。何故ならこの場所は、廃墟街(・・・)となってしまっているからだ。

 

 元は人々の活気で満ち溢れていたことを証明する、悉く風化し大半が崩れ落ちている建造物を見やって、僕はなんとも言えない気分になる。

 

 ──『世界冒険者組合』の介入も一因にあるんだろうけど……。

 

 魔石塔は、その神秘性故に多くの人を惹きつける。しかし、その神秘性は時としてこの上ない不気味さに変じることもある。その不気味さが、自然と人々をこの場所から遠ざけたのだろう。

 

 こうしてここへ訪れて、改めて思う────似ている(・・・・)

 

 ──…………もうすぐで、『あの日』だな。

 

 僕がそう思っていた、その時だった。この魔石塔の廃墟街に来てか無言だった先輩が、不意に前へ歩き出した。

 

「あ、先輩待ってください。魔石塔には……」

 

 僕の注意も虚しく先輩はスタスタとその歩みを進めて、魔石塔のすぐ近くにまで行ってしまう。僕も一瞬躊躇ったが、先輩の後に続くようにして魔石塔に近づく。

 

 遠くから眺めるだけでも充分過ぎるほどに美麗な塔であったが、近くで見るとより一層美麗である。塔自体は至って普通の石塔なのだが、その全体を覆う薄青い魔石が夕陽に照らされ、青と赤が複雑に絡んだ光を発しており、実に幻想的な光景が広がっていた。

 

 その光景に思わず僕の視線と意識が囚われてしまう中、先輩は何故か奇異な表情を浮かべ──スッと、その小さな手を伸ばす。そして細い指先が、魔石の表面にそっと触れた。

 

「先輩……?」

 

 その先輩の様子に、思わず僕は訝しんだ声をかける。すると少し遅れて、先輩がようやく口を開いた。

 

「なあ、クラハ」

 

 魔石から僕の方に顔を向けて、先輩は言う。

 

「初めて、だよな?俺らがここに来んのって」

 

「……え?」

 

 その先輩の言葉に、僕は思わず怪訝な声を返してしまう。そう、先輩の言う通り、僕たちがここに来たのはこれで初めてだ。しかし、そんなこと僕に訊かなくても、先輩だってわかっているはずだ。

 

「そう、ですね。そのはずですよ、先輩」

 

 僕の言葉に先輩はすぐには返さず、再び魔石の方へ顔を向けて、少し間を置いてからぽつりと呟いた。

 

懐かしい(・・・・)

 

 そして、触れさせていた指先で魔石をゆっくりと撫でる。僕は、先輩の呟きにただただ困惑させられる他ないでいた。

 

「懐かしい、って……」

 

 先ほど先輩が僕に確認した通り、僕たちがマジリカに訪れるのも、ましてやこの魔石塔の元へ足を運んだのもこれが初めてだ。初めてのはずだ。

 

「…………」

 

 先輩は、なにか考えこむように指先に触れる魔石を見つめている。その横顔には困惑と────慈しむような、複雑な感情が宿っていた。

 

 その先輩の表情に思わず見惚れてしまう中、ふと僕は気づく。

 

 ──ん?この魔石……どこかで、見たことがあるような……?

 

 塔を青に彩る魔石。その質感に遠い既視感を感じ、頭の片隅に押し込まれた記憶が刺激されたのだが、果たしてそれが一体なんだったのか、僕は思い出すことができなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。