ストーリー・フェイト──最強の《SS》冒険者(ランカー)な僕の先輩がただのクソ雑魚美少女になった話── 作:白糖黒鍵
「今のアンタにわからせてやる。理解させてやる……その身体と、そして心に。そうすれば、その瞳だってきっと女になりますよね?」
まるでそれが最善の解決策とでも言わんばかりに、そうすることが絶対で、正しいことかのように。金色の瞳を昏く濁らせ澱ませながら、ライザーはラグナに言い放つ。
しかし、当のラグナはただただ困惑するばかりで。ライザーの言葉はラグナにとってまるで意味不明で、理解できずにいた。
困惑と混乱が入り乱れ、正気ではない狂人と相対している恐怖と怯えからか。無意識にも震える声音で、こちらに馬乗りとなっているライザーにラグナが叫ぶ。
「お、お前それどういう意味だよ?大体瞳は元のままとか、身体と心とか何とか……まるで意味わかんねえぞ。本当に気でも狂ったってのか?」
「…………」
だが、ライザーは何も答えない。彼はただラグナを見下ろすだけ。そんな様子の彼に、痺れを切らしたようにラグナは再度声を上げる。
「おいライザー!黙ってないで、何とか言えよっ!」
しかし、それでもライザーが口を開くことはなく。ラグナは堪らず苛立って舌打ちする。が、その時ふと気づいた。
──?こいつ、俺の顔見てないんじゃ……?
そう、ラグナの気の所為でなければ。ライザーの視線はこちらの顔に注がれていない。そのことに気がつき、当然ラグナはこう思う。
──んじゃこいつ、今どこ見て……。
試しにライザーの視線をなぞるように、ラグナは目で追い。その先には一体何があるのかと探り、ハッと気がついた。
恐らく、ライザーの視線が向いているその場所に。彼の視線の終着点にあったのは、今し方彼のナイフによって綺麗に切り断たれ、服と下着から解放された────
──お、俺の……胸?
────そう、今や外界に曝け出されてしまっている、ラグナの胸であった。
ラグナの身長にしては見合わない、些か大きく育ち豊かに実ったそれは。大多数の男たちからすればこの世に二つとない極上の馳走であり。一部の女たちにとっては羨ましく妬ましい身体部分であり。
そして男女共に共通するのは────思わず手を伸ばし、触れたくなるような。好きに揉み、勝手に弄びたくなるような。危険で甘美な魅力を放つ、まさに天上の楽園より齎された、人の官能を刺激する魔性の果実である。
……まあ最も当人たるラグナにとっては、心はともかく肉体的には自分は女であるという現実を知らしめる、憎たらしく忌々しい部分の一つでしかないのだが。無駄に大きい上に重たいということも、それを助長させている。
そんな、ラグナからすれば己の劣等感を煽るだけの脂肪の塊を、ライザーは見ていた。その金色の瞳で、舐めるように。その鋭い眼差しで、熱心に。
何処か妖しく危しい熱を帯びた視線を注がれ──ふと、ラグナに
──……あ。
そうしてラグナは思い当たった。すぐさま脳裏で蘇る記憶。再生される映像。
それはこの部屋に入る直前のこと。いざ扉を開けようと一歩前に踏み出し、近づいた瞬間。その時に感じた、あの感覚。背筋を駆け抜けた、あの悪寒のような感覚。
同じだ。その感覚と、このライザーの視線は────同質のものだ。
恐らく、いやきっと。この部屋に入ろうとしていた自分を、やっていることに差異はあったが皆一様に騒ぎ立てていた男たちは、背後から見ていたのだろう。この生理的嫌悪感と不快感を催す、まるでこちらのことを品定めしているような視線を皆揃って、背中へと送っていたのだろう。
今、ライザーがそうしているように。そしてこの視線に含まれているのは────雄としての本能。雄として、目先に存在する雌を求める至極野生的で、原始的な性的欲求。
ラグナは男女のそういった、
そういった視線を自分は今、ライザーから送られている。そのことに気づき自覚して。瞬間ラグナの心の中で芽生え、そして急激に膨らむものがあった。
──あ、うぅ……っ!
それはラグナにとっては未知のものであった。胸の奥が熱くなり、その熱が全身に隈なく広がっていき。そしてそれは他者にこうして己の身体を、女である今の自分を見られることで、急加速を始めてしまう。
そう、このように──性的な目でまじまじと眺められることが突然、それも猛烈に嫌に──────否、
こんな感覚、初めてだった。男であった前ならば全裸を見られたとしても平気でいられたのに、女である今は裸どころか身体自体を見つめられることに対して、どうしたって堪えようのない羞恥心が込み上げて、溢れて止まらない。
今になって覚えてしまったそれに身悶え翻弄されながら、ラグナは無意識にも腕を動かす────が。
ジャラッ──無情にも、縛る鎖がそれを制する。
「ッ……!」
鎖特有の連なった金属音と肌に直接感じる冷たく硬い感触に、ラグナはハッとする。今、自分は腕を動かし何をしようとしたのか。
それを考えるよりも先に────ライザーがその口を開かせた。
「どうですか?わかりましたか?自分の身体を視姦される感覚……男に目で、犯される感覚というものが」
などと言って。ライザーは今の今まで浮かべていた、何の感情も読み取れない無表情から一転、口元を酷く歪ませた意地の悪い笑みを浮かべる。
こうして言われて、さらにラグナは自覚したばかりの羞恥心を煽られてしまうが。この男の思い通りに状況が進んでいることが癪に障ったのと、この羞恥心をどうにか誤魔化したくて────
「べ、別にどうってことねえな!わからせてやるとか理解させてやるとか偉そうに大口叩いといてこの程度かよ、ライザー?」
────という風に。つい、ラグナは平気を装った不敵な笑みを浮かべ、ライザーを挑発してしまった。
そんなラグナの挑発に対して、数秒の間を置いて。ライザーは至って冷静に、軽く首を傾げ困ったようなわざとらしい声音で呟く。
「……そう言う割には、顔が赤くなっている気がするんですがね。それに鎖に繋がれていることも忘れて、腕を動かそうとした気もしますし……もしかして、その間抜けにも丸出しにしている胸でも、隠そうとしたんですか?」
ライザーにそう訊かれ、ラグナはハッと気づかされた。彼の言う通り、自分は無意識の内に、この羞恥から少しでも逃れたいが為に、彼の目前に無様にも晒し上げているこの胸を、腕で少しでも隠そうとしたのだと。
──そ、それじゃまるで……!
「は、はあ!?んな訳ねえっつうの!お前の気の所為とか目の錯覚とかに決まってんだろっ!」
しかし、ラグナの声音は確実に震えていて。そこから図星を突かれ、動揺していることが見て取れて。そしてそれができない程、ライザーは鈍くはない。
「へえ。そうですか。……じゃあ、別にこんなことされても平気ですよね?」
と、その顔に薄ら笑いを浮かべながら。ライザーは平然とそう言い返し──────目にも留まらない素早い動きで、ラグナの胸に手を伸ばした。
「っ!?お前、何すん────
数秒遅れて、胸にライザーの手が伸ばされるのを視界に捉え。咄嗟にラグナが声を上げる。が、それよりもライザーの手がラグナの胸に到達する方が断然早く。瞬間、彼の手は無神経かつ無遠慮に、そして無造作さにラグナの胸を鷲掴んだ。
────いっ、ぁ……ッ!?」
ライザーに胸を鷲掴まれたラグナが、最後まで言葉を口に出すことは叶わず。その途中で混乱と困惑入り混じる、か細く小さい悲鳴を挟んでしまった。
今、ラグナは堪らず目を白黒させていた。鷲掴みにされた胸から伝わる痛みと────今まで感じたことのない、ピリッとした未知の感覚に。そしてそれは痛みと共に、ラグナの背筋を駆け上り、弱々しくも脳髄を突き刺す。
──い、今の感じ……何だっ?
内心驚かずにはいられず、焦るラグナに。依然その手でラグナの胸を鷲掴んだまま、ライザーがニヤニヤとしながら言う。
「おや?おやおやぁ?どうかしましたか?俺はただ、アンタのだらしなくてみっともないこの胸をほんの少しばかり……乱暴に掴んだだけですよ?」
と、とぼけたような。こちらのことを馬鹿にしているような口調と声音に。ラグナは無理矢理困惑と動揺を頭の隅へ追いやり、気丈になって彼に言い返す。
「ど、どうもしてねえよッ!お前こそ、俺の胸なんか掴んで喜んじまって……俺は男だぞ?わかってんのか?その上でニヤニヤ笑ってんだなぁ?」
口端を吊り上げ、またもラグナはライザーを煽り立てる。しかし先程と同じように効果はない────かのように思えた。
ほんの一瞬だけ、ライザーの顔が不快そうに歪んだ──気がした。それは本当に一瞬のことで、それこそラグナの言った目の錯覚で済まされてしまうだろう。事実、ラグナがそれに気づくことはなかった。
「……まあ、いいか。今はそんなこと、別にどうだっていい」
ライザーはそう言うや否や────ラグナの胸を未だ鷲掴みにしている手に、力を込めた。
「っ!」
ライザーの手に力が込められるのを察知し、恐らくまたも伝わるだろう痛みと、あの表現しようのない謎の感覚に備えて。ラグナは咄嗟に身構える。……が。
──……あ、れ?
ラグナの予想を裏切り、痛みもさっきの感覚も伝わらない。そのことにラグナは呆気に取られ、拍子抜けした────直後。
ずにゅにゅ、と。まるで不意打ちを仕掛けるように。ライザーの五指がラグナの胸に、ゆっくりと沈み込んだ。
「っふ、ぁん……っ!」
瞬間、あの未知の感覚が。しかし先程とは比べようにもない程強烈に。胸を起点として、乾いた布を水で濡らすように、ラグナの全身に広がって。気づいた時には、ラグナ本人でさえも今の今まで、一度だって聞いたことのない、悲鳴にも似た甲高い、切なげな声が出てしまっていた。
「ッ……?!」
遅れて、その声が自分の口から出たものだとラグナは自覚し。かあっと全身の熱が顔に集中し出すのを鋭敏にも感じ取る。それから堪らずラグナは焦燥に駆られ、内心大いに慌てふためいてしまう。
──い、今の声って、俺が?俺が出したのか!?なな、なんつー声出しちまってんだ俺……いやてかさっきのライザーに聞かれて……っ!!
極度の困惑と混乱の最中に陥り、これ以上にない程に動揺しながらも。今先程ばかり漏らしてしまった、他人には絶対の絶対に聞かせてはならない声を、よりにもよってライザーに聞かれてしまったことに鋭く気づき、ラグナは咄嗟に視線を上げる。
ライザーは────意外なことに無表情で。ラグナのあの声について、とやかく言う素振りは見られない。
──……き、聞かれて、ない……のか?
そんなライザーの様子を目の当たりにしたラグナは、なけなしの希望に縋るように、そう思う。思い込む。そうでもしなければ、とてもではないが平気ではいられない。
そうラグナが思い、なんとか平静を装おうとする中で。黙り込んでいたライザーが、不意にその閉ざしていた口を開かせる。
「それにしても、そのちんちくりんな身体には見合わないご立派な胸だ。なのに形は崩れず綺麗に整っていて。しかも……」
と、ラグナにとっては苛立ちを掻き起こすことしかできない、称賛の言葉を一旦止めて。ライザーは開いた口をまたもや閉じると、ラグナの胸に五指を沈ませたまま、今度は手の平を徐々に押しつけ始めた。
むにゅぅ、と。ライザーの手の平によって、何の抵抗もなくラグナの胸が押し潰され、柔軟にその形を歪ませる。その間、またしてもラグナをあの強烈な未知の感覚が襲う。
「っ……!……ッ!!」
その感覚はゾクゾクとした刺激を伴って、ラグナの背筋を駆け抜けていく。その所為で思わず先程と同じような声を上げそうになったラグナだが、既のところで必死に唇を噛み締めて堪え、口から漏らさないようなんとか我慢してみせる。
あんな声、絶対に誰かに聞かれたくない。聞かせる訳にはいかない。よしんば聞かせるとしても百歩、否千歩譲ってもその相手は──────
──って、いやいやいやいやッ!!ねえからッ!聞かせる訳ねえからふざけんなッ!!
──────無意識にも脳裏に浮かべてしまったその姿を、すぐさま振り払い取り消して。一体誰に対して怒っているのか、ラグナは心の中でそう怒声を張り上げさせる。……最も、現実のラグナは呻き声一つすら漏らさぬように、その小さな口を固く固く閉じている訳なのだが。
それはひとまずさて置くとして。ラグナの胸を依然徐々に押し潰しながら、実に楽しそうに、心底愉しそうにライザーが言う。
「その感触も良いときた。いや本当に凄えよ。大した力を入れなくても飲み込まれるように指先が沈んだり、手の平で簡単に押し潰せるくらいの柔軟性。それでいて少しでも気を抜くと途端に弾かれそうになる、この弾力性……これぞ最高足り得る理想的な胸ってか?ハハハッ」
言いながら、五指も手の平も。その全てを用いて、ライザーはラグナの胸を弄ぶ。弄びながら、彼は悦に入った声音で、何の躊躇いもなくラグナに言う。
「なあ、
先程まで申し訳程度に取り繕っていた敬語ももはや使わずに、ライザーはそう提案する。だが、それはラグナの存在と尊厳を根底から徹底的に否定するもので。思ったとしても相当な度胸を持っているか、または人を人と思わない最低のろくでなしでもなければ、口には出せない程の発言で。
──こ、こいつ……ッ!!
それをこうして堂々と面向かって言われたラグナは、当然激昂し声を上げる────ことはできなかった。ライザーに胸を弄ばれている今、少しでも口を開いてしまえばあの声が、到底人には聞かせられないとんでもない声が真っ先に出てしまう。
幸いライザーにはまだ聞かれていないのだから、ラグナとしては聞かれていないまま、どうにか我慢し切ってこの場をやり過ごしたかった。となると自然、選択肢は一つ────こうして口を閉じたままでいるしかない。
言い返したくても言い返せず、心を燻らせるラグナに。依然愉悦に満ちた声音でライザーが続ける。
「顔も良い身体も良い。背はちょっとばかし足りないが……いや、こういうのが
人としての心を持ち合わせているとは到底思えない言葉を、ライザーは平気な顔で連ねて並べてみせる。少しの迷いもなく、ラグナを言葉の刃で切り刻む。
だが、ラグナは何も言い返せない。それを絶好の
「そこで溜めるもん溜め込んだ男共に媚び売って身体売って、そんで黙って素直に犯されてりゃあ、楽に金を荒稼げるだろうよ」
──好き勝手、言いやがってこのクソ野郎……!
本当ならば今すぐにでもこの男を罵倒したい。もっと言うのならその顔面を殴り飛ばしてやりたい。けれど、今の自分ではその両方もまともに実行できやしない。
できることといえば────ライザーの顔を睨みつけることくらいだ。
そんな、ささやかな抵抗しかできない自分がどうしようもないくらいに情けなくて、そして惨めで。この辛辣で残酷な現実の前にラグナは打ち拉がれる──その間すらも与えられない。
「ん……ッ!ぁ……!」
ライザーの手が、ラグナの胸を揉み込み、捏ね繰り回す。彼の手によって簡単に潰れては歪み、ラグナの胸は幾度もその形を変える。
その様はさながら、子供が粘土遊びをしているよう。……しかしその実態は、そんな微笑ましいものなどではなく。子供は大の男で、粘土は脂肪と水分が詰まった乳袋である。
だが、広義に捉えるのであればこれも遊びの一種とも言えるだろう────男女の前戯、ということで。
そしてそれは、唐突に次の段階へと
「……おっと」
突如、わざとらしくそう声を上げて。散々ラグナの胸を揉み拉き、捏ね繰り、弄り回していたその手を、ライザーが止める。それまで絶えず、強弱をつけながら迫っていたあの感覚が止まり、ラグナは堪らず安堵の息を吐いてしまう。
謂わばこれは、ようやっとラグナに訪れた休憩の時間────けれど、それはすぐさま奪われることになる。
「これは、これは……一体、どうしたってんだ?これ」
「……何、が……」
何処か
その先にあるものをラグナは視界に捉え────瞬間、思考が止まった。
「おいおい、流石にこればっかりは俺の気の所為とか、目の錯覚とかじゃあ……済ませねえよな?」
瀕死にまで追い詰め、絶体絶命の状況に追い込んだ獲物を目の前にした獣のように。絶対の自信と余裕に満ち溢れた表情を浮かべながら、とびきりの悪意を伴わせてライザーはそう言った。