パキンッ──魔石が砕けるような、あの甲高く妙に澄んでいる音が通路に響き渡る。アルヴァの背後にいた面々がその音が響いたという事実を
「……お、おおっ……」
一人の
……だが、もう既にそこには
「鈍いんだよ、木偶の坊」
その場にいる全員が驚愕に固まっている中、誰の目にも捉えられることなく、魔石の魔物の背後で自らが作り出した炎の短剣を振るった体勢のまま、アルヴァが鋭く吐き捨てるように叱咤する。数秒遅れて──地面を突いていた魔石が真っ二つに折れる。どちらもその断面は、まるで融解でもしたかのように熔けていた。
そして、魔石の魔物自体にも異変は訪れ──妙に甲高く澄んだ音を喧しい程に鳴らしたかと思うと、その身体が斜めに分かれて、そのまま砕けて無数の破片と欠片になって地面に散らばり、ばら撒かれた。
「ま、全く見えなかった……何という、早業……」
「これが『紅蓮』のアルヴァ……引退してもなお、この強さなのか」
「……桁違いだ。俺たちとは実力の桁が違い過ぎる……!」
今し方目の前で繰り広げられた光景が、到底受け入れ難く信じられないという風に、口々に呻くようにそう呟く冒険者たちと、未だ呆気に取られて呻き声すら出せないでいる学者たちを他所に、ただ一人ジョシュアはその場から駆け出して、慌てた様子でアルヴァに寄り添う。
「アルヴァ!?大丈夫かい!?」
普通であれば、そんな風に、まるで彼女の身を案じるかのように声をかけるなど、誰もすることはないし、しなかっただろう。
何故ならアルヴァには目立った負傷もなく、また先程の光景を目にしたばかりなのだ。彼女を心配する要素など何一つ見当たらないし、むしろ完璧過ぎる程の勝利を収めた彼女に対して、そんなものは無礼の極みでしかない──そう誰でも思うように、冒険者たちも思って、ジョシュアに対して彼らは非難の声をぶつける────その直前だった。
グラリ、と。至って平然と立っていたアルヴァが、突如よろめいた。
「え……?」
冒険者の一人が困惑の声を漏らすのと同時に、よろめいた彼女を、すぐ傍のジョシュアが優しく、慎重に。まるで割れ物を扱うようにして、できるだけ彼女に負担がかからぬように抱き留めた。
「ほら、見たことか。一応は医者である僕の目の前で、あんな無茶は止してくれ」
「……
無傷であるはずのアルヴァは、ジョシュアに寄りかかりながら、苦しそうに何度も荒い呼吸を繰り返していた。息絶え絶えにしながらもそう返された彼女の言葉に対して、ジョシュアは表情を曇らせながらも、窘めるように言う。
「それでも、だ。前と違って君はもう──
……それは、この場にいる誰もが、衝撃を受け耳を疑ってしまうような、そんな発言であった。アルヴァを抱き留めるジュシュアの元に、冒険者たちが堪らずといった様子で駆け寄り、そして各々好き勝手に口々に、非難紛いの質問をぶつけていく。
「おいおいおいお医者さんよ!アルヴァさんが魔法が使えないって?お前の目は節穴かい?さっきの見てたろ!?」
「そ、そうだ。先程アルヴァ様は魔法を使っていたじゃないか」
「ああ、この二人の言う通りだ。……とてもじゃないが、魔法が使えないなどと、私は思えないのだが」
明らかに喧嘩腰な彼らを、しかしジョシュアは一切臆する様子もなく一瞥し、僅かながらの怒りを口元に滲ませ開く────
「ちょっと、黙ってろ
────よりも先に、アルヴァが辛そうにしながらも、ドスの利いた声を絞り出した。
彼女の辛辣な言葉に、自分たちなりに擁護したつもりであった冒険者たちは、堪らず衝撃を受け絶句する他なく、口を閉ざした彼らにジョシュアが訊く。
「……君たちは覚えているのかな。中央国襲来事件──あの『魔人』のことを」
そのジョシュアの質問に対して、まだアルヴァにぶつけられた言葉の衝撃が抜け切っていないのか、冒険者たちはすぐには答えられなかったが、遅れて三人とも頷き、その中の一人が口を再び開く。
「確か四年前だろう?ああ、覚えているとも当然だ。忘れようにも忘れられない事件だった。……もしあの時あの場に、『三強』──グィン様とアルヴァ様とカゼン様がいなければ、かの『魔人』によって中央国は為す術もなく、滅ぼされていただろうな」
そう語る冒険者の顔は薄らと青ざめていた。そんな彼に対してジョシュアはアルヴァの様子を気にし、若干躊躇うようにしながらも、彼はこう言った
「それが原因なんだ。アルヴァはあの戦いの後遺症で……魔法が使えない身体になってしまったんだよ」