ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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ARKADIA────十六年前(その五)

「アルヴァはあの戦いの後遺症で……魔法が使えない身体になってしまったんだよ」

 

 そう、何処か苦い表情を浮かばせて。アルヴァを除くその場にいる誰もが衝撃を受けずにはいられないことを、ジョシュアは言った。

 

「な、何だと……いや、しかし先ほど、アルヴァ様は……」

 

 それでも、納得はできないように、ジョシュアの言葉を受けた冒険者の男が呟く。だがそれはジョシュアにとっては予想通りのもので、彼は小さく嘆息しながらも続けてこう言った。

 

「まあ、まだ使えるには使えるさ……多少の無理(・・)さえすれば、ね」

 

「無理、だと?」

 

 意味がわからないといった風の男に、またもジョシュアは続ける。

 

「人間が魔法を発動する時、身体のある部分が活発になる。全身に通う神経とはまた別の神経──それを僕ら医者は魔力回路と呼んでいるんだけど、アルヴァはかの魔人との戦いで、そこをやられてしまった。……完治の見込みはない」

 

 ジョシュアの言葉が、通路内で静かに響き渡る。

 

「以来、小さな火を起こす程度ならともかく、アルヴァは魔法を発動するのに……筆舌に尽くし難い激痛を伴うようになった。それこそ二度三度味わえば、最悪の場合そのショックで死にかねないような、常人ならば到底耐えられないような激痛をね」

 

 聞くだけであれば、そのジョシュアの言葉はわざとらしいほどに淡々としていた。……だが、その裏に、沸々とした怒りがあった。

 

 通路内が静寂に包まれる。もう、誰も口を開けないでいた。三人の冒険者たちは、もう何も言えないでいた。

 

 少し経って、前に出ていた男がぽつりと呟く。

 

「『六険』を……冒険者(ランカー)を引退したのは、やはり人材発掘や後進育成に尽力する為ではなかったという訳か……」

 

 

 

 

 

 当時、現役である冒険者も、既に引退していた冒険者も、そして冒険者を志していた者も、その全てがおよそその人生の中で、最大級の衝撃と驚愕をその身に叩き込まれたことだろう。

 

 一時は世界(オヴィーリス)を絶望の谷底へと突き落とした魔人事件──しかし辛うじて当時の『六険』であり、その中でも『三強』と謳われた三人の冒険者によって魔人は討たれ、世界は救われた。

 

 しかし事件から一週間が過ぎた後、とある報道が発表されたのだ。

 

『三強』引退──あまりにも、突然の報道であった。魔人との戦いの後、『三強』は一旦活動を休止するという一報を最後に、何の音沙汰もなかったので、尚更のことだった。

 

 理由としては今後より良い優秀な人材発掘の為、後進育成に尽力する為だと『世界冒険者組合(ギルド)』から説明はされたが、それ以上の詳しい情報はなく、また『三強』による会見も開かれることはなかった。

 

 当然激しく追求はされたのだが、頑なに『世界冒険者組合』はあれ以上の説明はせず──結局、何もわからず終いで、最終的に『三強』は各々が所属していた組合のGM(ギルドマスター)となり、正真正銘現役からその身を引いたのだ。

 

 

 

 

 

「…………(アタシ)は、まだマシな方さ」

 

 不意に、今まで黙っていたアルヴァが口を開いた。その声には深い悔恨と苦渋の色が滲んでいた。

 

「あの戦いで、カゼンは右目と左腕、右足を持ってかれた。顔にも派手な傷が残っちまった。それに馬鹿……グィンの奴に至っては……」

 

 しかし、何故かそこで彼女は再び押し黙ってしまい、それからゆっくりとジョシュアから離れ、立ち上がった。

 

「古臭い話はここまでだ。とっとと先に進むよ」

 

 そう言うや否や、歩き出すアルヴァ。しかし最初と比べても、明らかにぎこちなく覇気がなくなっていた。そんな彼女の背中越しに、慌ててジョシュアが声をかける。

 

「ま、待てアルヴァ!もう少し休んでからの方が……痛み止めも」

 

「いらない。必要ない」

 

 ジョシュアにそう返してから、アルヴァは振り返って、はっきりと彼らに告げた。

 

「言っただろ。私はね、こんなくだらない依頼(クエスト)なんかさっさと終わらせて、さっさと帰りたいんだ。三度は言わせるなよわかったか?」

 

 そして返事も待たずに彼女はまた歩き出した。彼女の言葉に男性陣は堪らず呆気に取られ呆然としていたが、ハッと我に返ると慌てて彼らもその場から動き出した。

 

 アルヴァら調査隊は先に進む。再びあの魔石の魔物と同じような存在に出会すこともなく、積み重ねられた年月と月日に対して異様なほどに綺麗で、整えられた塔内部の通路を順調に進む。

 

 そうして、調査隊は辿り着いたのだ。遂に──神秘に包まれた『創造主神の聖遺物(オリジンズ・アーティファクト)』の一つであるこの塔の、最奥に。最深部に。

 

 そこで調査隊を待ち受けていたのは、想像の遥か斜め上の光景だった。

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