ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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ARKADIA────十六年前(その六)

 長く、しかしさほど荒れてはいなく、途中に一度魔物に襲われはしたものの、特に苦労することなく調査をしながら、アルヴァたち調査隊は『創造主神の聖遺物(オリジンズ・アーティファクト)』たる塔の内部を進んだ。進んで、そしてとうとう、アルヴァたちは辿り着いた。

 

 塔の最奥部。最深部──そこで彼らを待ち構えていたのは、予想の遥か斜め上を行く光景だった。

 

 

 

 

 

「……これは、一体……そんな、まさか」

 

 その目で目の当たりにしているはずなのに、しかしそれでもなお信じられないという風に。呆然と、ジョシュアがそう呟く。そしてそれはその場にいる他の誰だろうと同じことだった────ただ一人、アルヴァを除いて。

 

 調査隊の眼前にあったのは、魔石だった。上も下も、右も左も、視界に映る全てが、薄青色の魔石によって覆われていた。

 

 ……だが、その中でも最も気を引き、否が応でも視線を巻き取られる箇所が一つ。そこは恐らくこの場の中央に当たる場所で、そこには見上げてもなおその頂点が見えないほどの、巨大な魔石の柱が突き立っていた。

 

 そして、その柱には────

 

 

 

「……人間(・・)、だ。人間の子供……女の子がいるぞ!?」

 

 

 

 ────一人の少女がいた。まるで眠っているかのように瞳を閉じている、一糸纏わぬ全裸の少女が柱の中にいたのだ。

 

「お、おいおい、おいおいおい!こ、こりゃあ一体どういうこったよ!?何だって人間のガキが!?」

 

「い、生きている……のか?あの少女は生きているのか?」

 

「いや、そもそも本当に人間の子供なのだろうか……?」

 

 己が予想を遥かに容易く超す光景を前に、冒険者たちは慌てふためき、学者たちは恐れ慄く。そういった反応をしてしまうのは、至極当然のことだった。

 

 そんな彼らの中で、あくまでも冷静を保てていたのは二人だけ。言うに及ばず、アルヴァとジョシュアの二人だけだった。

 

「あれは、眠っているのかな……?なあ、アルヴァ」

 

 魔石の中で眠る少女から、目を離せないでいるジョシュアが、そう隣に立つアルヴァに訊く。彼女は彼の問いに答えず、彼と同じように少女を見つめ──突如、その場から歩き出した。

 

「ア、アルヴァ?君、どうするつもり……」

 

 声をかけるジョシュアに目もくれず、背後の調査隊の面々が漏らす切羽詰まった焦りの声に耳を傾けることもなく、独りアルヴァは歩いていく。微塵も臆した様子を見せずに、魔石の柱へと。魔石の柱の中の少女の元に歩いていく。

 

 そうして。遂に──手を伸ばせば簡単に触れられてしまうほどの距離にまで、アルヴァは魔石の柱に近づいた。

 

「……」

 

 そんな至近距離で、彼女はその魔石の柱をゆっくりと見上げる。恐らく柱の中心だと思われる位置に、少女はいた。

 

 その外見と背丈からして、まだ年端もいかない──四歳弱だと思われる。瞳を閉じたその顔は、酷くあどけない。肌もまるで透き通るように白く、首元にまで伸びる髪も、無防備にも晒されているその全身の肌も同様だった。

 

 ──人形……。

 

 パッと、アルヴァはそう思って。ふと何をするでもなく、彼女は魔石に手を伸ばす。彼女自身、この時何故自分が手を伸ばしたのか、わからなかった。無意識、だったのだ。

 

 アルヴァの手と、少女を包む魔石の距離が縮む。ゆっくりと縮んで、そして────彼女の指先が、魔石に触れた。

 

 ピキ──瞬間、少女の顔辺りで、魔石に罅が走った。罅は驚き思わず身構える面々を置いてけぼりに、瞬く間に広がって、そして砕けた。

 

「アルヴァ!」

 

 ジョシュアがそう叫ぶのと同時に、砕けた魔石の欠片が宙を舞う。無数のそれは落下する途中で解けるようにして宙で溶けて、魔力の残滓となってゆっくりと降り注ぐ。その様は、まるで淡い粉雪のようだった。

 

 そしてふわり、と。魔石に閉じ込められていた少女の身体が落ちる。アルヴァの方に向かって、落ちていく。その道中──少女と共に落下していた残りの魔石の欠片が、一緒薄青色に発光したかと思うと、それらは白い布のような物体へと変化し、少女に纏わりついた。

 

 こちらに落下してくる少女の姿が、アルヴァにはやけに遅く見えた。何を考えるでなく、彼女はゆっくりと己の両腕を広げる。そして広げ終わるとほぼ同時に、その中に少女は落ちた。

 

 少女を抱き留め、アルヴァは僅かに後ろに下がる。少女は、比喩なしに羽毛の如く軽かった。

 

「アルヴァ!大丈夫かい?女の子の方は……」

 

 遅れて駆けつけてくるジョシュアや調査隊の面々の声を背後から受けながら、アルヴァは腕の中の少女の顔を眺める。瞳を閉じ、すやすやと眠るその姿は、まるで小さな赤子そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これこそ、今代の大魔道士アルヴァ=レリウ=クロミアと、後に彼女からフィーリアと名付けられる少女との、出会いの瞬間であり────それと同時に、この世界(オヴィーリス)を回す歯車を、少しずつ歪ませる運命の、始まりであった。

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