「やあ、久しぶりだねアルヴァ。調子はどうだい?」
多種多様の魔導士たちが居を構える『魔法都市』──マジリカ。そしてこの街のみならず、フォディナ大陸を代表する
「……まあ、ぼちぼちだね」
対し、ジョシュアと向かい合って座る人物──『輝牙の獅子』
「ぼちぼち、ね」
そうして二人の会話は止まり、部屋に静寂が訪れる。その状態が数分続いた頃、またジョシュアが口を開こうとした、その時だった。
ガチャ──不意に、部屋の扉が押し開かれた。
「おかあさんおかあさん!」
扉を押し開くとほぼ同時に、そんな可愛らしい声が部屋に響き渡る。アルヴァとジョシュアが咄嗟に視線を向けると────そこには、一人の小さな少女が立っていた。
「……て、ジョシュアおじさんもいるの?こんにちは!」
「やあこんにちは、フィーリア。元気そうで何よりだ」
少女──フィーリアはジョシュアにペコリと頭を下げ、無垢な笑顔と共に挨拶を送って、すぐにアルヴァの元に駆け寄る。そして彼女の腕にギュッと抱きついた。
「おかあさん!」
「はいはい、あんたのお母さんだよ。で、どうしたんだいフィーリア。下で遊んでろって、
言いながら、己の腕に抱きつくフィーリアに訊ねるアルヴァ。その声音は柔く穏やかで、浮かべている表情も優しさに満ちていた。
「わたしおかあさんといっしょにいたい!だめ?」
そう言いながら、腕に抱きついたままフィーリアはアルヴァの顔を見上げる。そんな愛らしいおねだりを受けて、アルヴァは少し困ったように、だが何処か嬉しそうに、仕方ないという風に嘆息した。
「しょうがない子だね。ちょいとだけだよ」
そう言って、アルヴァはフィーリアの頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫でやる。途端にフィーリアの顔が綻び、さらに強くアルヴァの腕に抱きついた。
「……なんとも微笑ましい光景だ。しかも信じられない。この光景の中に君がいるってことが、さ。『紅蓮』のアルヴァも随分と丸くなったんだなあ」
「それ以上何か吐いたらブチ殺すよ」
にまにまと口元を薄く少し吊り上げ、生暖かい眼差しを送るジョシュアに、隣にフィーリアがいることも気にせず殺意を込めて、そうアルヴァは吐き捨てる。その紫紺の瞳は昏く輝いており、それが冗談の類などではないのだと、否が応にもジョシュアに理解させた。
彼は軽く頬に一筋の汗を伝わせながら、しかし冷静に続ける。
「じょ、冗談……と言いたいんだけど、冗談じゃあないんだよ、ね」
スッと、アルヴァの瞳が静かに、だが恐ろしいまでの疾さで細まる。もはやその様は獲物に狙いを定めた、猛禽類のそれである。
猛禽類の眼差しに射抜かれながらも、竦む己を必死に奮い立たせジョシュアが言う。
「四年前に出会った君は、何処か余裕がないというか……切羽詰まっていた。肉体はともかく、精神が酷く脆く、不安定に思えた。だからこそ君の専属医たる僕は僕なりに、この四年間君の
要は何が言いたい──今すぐにでもそう口に出したそうな仏頂面のアルヴァの、その隣に立つフィーリアの方にジョシュアは顔を向けて、続けた。
「君は変わった。一ヶ月前のあの日、その少女に──フィーリアに出会って、見違えるほどに立ち直った。フィーリアと接する際に浮かべる、君の表情が何よりの証拠さ」
その言葉を最後に、ようやくジョシュアは己が口を閉ざす。そんな彼に対して、アルヴァは依然として仏頂面のまま、紫紺の双眸を細めたままだったが──数秒後、堪えられなくなったようにそっぽを向く。心なしか、その頬に僅かばかりの朱が差していた──ように思えた。
そんな二人を交互に見つめて、フィーリアは不思議そうに小首を傾げた。
『
当初は一向に目を覚ます気配を見せなかった少女だったが、入院から三日ほどが経った後、突如として固く閉ざしていた瞳を開かせたのだ。
このことは急遽アルヴァに伝えられ、彼女も急いで病院に向かい、そして三日ぶりに少女と顔を合わせた。
最初こそ少女は言葉が話せず、自身が置かれている状況や環境に対して酷く怯えていたが、それもアルヴァが来た瞬間、パッと吹き飛んだかのように笑顔を見せ、そして驚くことに彼女に向かって走り出し、抱きついたのだ。
流石のアルヴァも驚きと困惑を隠せないでいたが、普段の様子からでは絶対に想像し得ない、まるで本当の母のような温かい表情を浮かべ、己の胸元に飛び込み抱きついてきた少女を受け入れ、優しく抱き締めたのである。
しばらくそうしていると、少女はアルヴァに抱き締められたまま、再び眠ってしまった。それを彼女は確認すると、起こさぬように慎重に抱きかかえ、少女を
そして『
塔の最深部にて発見された少女──綿密な検査の結果、一応は我々と同じく人間であることはわかったのだが、まだ解明できない不明な部分もあり、多くの謎が残った。
中でも一番不可解なのは、何故この少女があんなにもアルヴァに懐いているのか、という一点。これに関しては彼女本人も知らないと通しており、また少女もその点に関しては何故か答えることはなかった。
コンコン──部屋の空気がいくらか和み始めた時、不意にやや遠慮気味に扉が叩かれた。
「GM。お取り込み中、申し訳ありません」
ノックの次に聞こえたのは、この『輝牙の獅子』の受付嬢の声。しかし何故かその声は少し怯えているように思える。
「……扉、開けても構わないよ」
アルヴァがそう言い、遅れて静かに部屋の扉が開かれる。当然その向こうに立っていたのは受付嬢で、固い表情を浮かべる彼女が口を開く。
「実は先ほど、GMに面会したいという方が、その……訪ねてきまして」
気不味そうにする受付嬢に対して、アルヴァは僅かばかり表情を険しくさせながら、低い声で言う。
「私に会いたいって奴は、その後ろの奴かい?」
「え……?」
アルヴァに言われて、反射的に受付嬢が己の背後を振り返る。彼女の後ろには────一人の人間が立っていた。