「さて、じゃあまずは被害状況と各々の戦力確認としようか」
『
「大まかな話と、そんで下手すると死ぬかもしれねえって伝えた上で『
「……『
そう申し訳なさそうに言うリザさんの言葉も受けて、アルヴァさんは少し考え込んでから口を開く。
「そっちで八十。
アルヴァさんの声は、僅かばかりの苦々しさが滲んでいる。……正直に言えば、僕もそうだった。
──お世辞にも、多いとは言えない。
今や数ヶ月以上も前となる、『厄災』最初の襲来──『魔焉崩神』エンディニグル。その討滅に集められた冒険者の数は、僕が覚えている限りでは三百を優に越していたはず。まあエンディニグルの襲来はあの日と予め予期されていたことであり、今マジリカに集められた戦力よりもずっと多かったのは当然ではあるのだが。
……しかし、だ。あの日あの時、エンディニグルと直接対峙していたからこそ、より強い不安と恐怖に僕は駆られる。
『理遠悠神』アルカディア────かの第四の『厄災』の威容は、エンディニグルを遥かに凌駕している。あのエンディニグルが今や可愛いとさえ思えてくる程だ。
──アルカディアは明らかに……他の『厄災』とは違う。別格、だ。
そしてそれは第二、第三の──『剣戟極神』テンゲンアシュラと『輝闇堕神』フォールンダウンにも言えることなのだろう。何故ならこの二つの『厄災』も、その魔力反応だけならエンディニグルを超えていたのだから。
とはいえ、これはあくまでも僕の憶測にしかならない。エンディニグルとは違い、僕は二つの滅びと直接対峙していない。する前に、二つの滅びは二人の冒険者によって討たれたのだから。
『剣戟極神』は『極剣聖』サクラさんに。『輝闇堕神』は『天魔王』フィーリアさんに。二つの『厄災』は、二人の《SS》冒険者によって見事討たれたのだ。
……だが、今回は違う。二人から一人に。味方から敵に────『天魔王』と呼ばれる少女は、『理遠悠神』となって人類の前に立ちはだかっている。それが今の現状であり、覆しようのない現実だ。
『理遠悠神』アルカディア。現時点では詳しい情報は明らかとなっていないが、それでもわかっていることがある。それは、人間にとってこの上ない、圧倒的脅威ということだ。
──……。
そう間違いなく思う側で、しかしどうしても僕が彷彿とさせてしまう。アルカディアの姿を思い出す度に──フィーリアさんの姿をそこに重ねてしまう。
──討つしか、ないのか?僕たちにはアルカディアを……フィーリアさんを倒す道しか、残されていないのか?
その時、僕は運命というものの理不尽さを痛感させられると同時に、疑問を抱いていた。この
現在残る伝承によれば、『創造主神』は文字通り全てを創造した最高神。それもあってか、予言書に記される五つの『厄災』は、謂わば『創造主神』が人類に与えた試練だと見解されている。もし仮にそうなのだとすれば、何故『創造主神』はこのような試練にしたのだろう。
そもそもの話、何故フィーリアさんには自身が『理遠悠神』アルカディアという自覚も、その意識もなかったのだろうか。
もし最初から自覚していれば、意識があれば────この世界をとっくの昔に、エンディニグルが出現するよりも己らの存在が記された予言書が発見されるよりも前に、滅ぼしていたはずだ。だってその時にはまだサクラさんや以前の先輩たち《SS》冒険者の存在も確認されていなかったのだから。
他の『厄災』など必要もなかった。だというのに、『創造主神』はそうしなかったのか。何故わざわざ
──まさにこれが神のみぞ知る、か……。
コンコン──僕が己の思考に若干投げやりに近い結論を出すのと、不意に執務室の扉がやや遠慮がちに叩かれるのはほぼ同時のことであった。遅れて、アルヴァさんが言う。
「入りな」
彼女の言葉に従うように、執務室の扉はゆっくりと開かれる。やはりというか、そこに立っていたのは先程の受付嬢。ただ違うのはその手にちょっとした荷物を抱えているということだ。
「し、失礼します」
若干震える声で受付嬢は執務室の中にその足を踏み入れ、アルヴァさんの前にまで進むと、お互いの間を遮る執務机の上に荷物──何個かの魔石と数枚の書類──を並べた。
「現在の状況の全てをまとめた資料です」
「説明しな」
やや食い気味にアルヴァさんに言われ、受付嬢はまず魔石にそっと指先を近づけ、触れる。彼女の魔力に当てられた魔石は仄かに輝き出したかと思うと、宙に一枚の写真が浮かび上がる。……だが、その一枚はあまりにも衝撃的なものだった。
──な……?
写真はかなりの高度の上空から撮られており、その被写体は今や魔石そのものと表せる魔石塔と周囲──マジリカ旧市街地。つい数時間前までいたその場所は、もはや見知らぬ場所へと変わり果てていた。
言うなれば────
およそこの世のものとは思えない、神秘的で幻想的な、だが生命の気配がこれでもかと感じられないその街の光景に、僕は気圧され絶句する他ないでいた。
「こちらが今現在の旧市街地の状況です。ほぼ全ての範囲が魔石によって侵蝕されており、その上少しずつ拡大しています。空気中に含まれる
この状況も相まってか、先程とは打って変わって受付嬢は執務室にいる全員に対して、冷静沈着にそう告げる。それから受付嬢はまた別の魔石に触れた。
さっきと同じように、魔石が薄く輝いて宙に写真が浮かぶ────瞬間、執務室全体に戦慄が駆け抜けた。
今度の写真に写っているのは、旧市街地と現市街を隔てる境界線。その境目の向こうに、魔石が突き立っていた。……否、
言うなれば、それは人形だった。人間大の、人間の形を大雑把に模した、表情のない人形。薄青い魔石で作られた、人形である。
その人形が────百体。ざっと軽く見ても、それだけの数はいた。それらが一体何なのか、僕が呆気に取られる中、受付嬢が説明を始める。
「恐らく
──〝殲滅級〟最上位だって……!?
あまりの情報に、僕の意識がほぼ強制的にそっちへ引っ張られる。もしそれが確かならば、とんでもない事態だ。この魔石の魔物一体一体が〝殲滅級〟最上位だというのなら、最悪の一言に尽きる状況だ。
〝殲滅級〟の魔物は街や都市一つを滅ぼせる程の脅威であり、その最上位ともなれば生ける天災──〝絶滅級〟にも迫る。しかもそれが百体だ、もはやその脅威度は〝絶滅級〟とほぼ同じで、大差ないだろう。
そう僕が思う最中、受付嬢が今まで以上に険しい顔つきで、さらに続ける。
「……それと、その。あまり申し難いのですが、写真に写っているのは
……その情報は、あまりにも現実離れした────
「現在確認されているだけで、その数
────もはや最悪の一言では片付けられないものであった。