ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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ARKADIA────弱過ぎる

「ォウラアアアアアアアッ!!!」

 

 先陣を切ったガラウさんの、獣如き咆哮が広場の大気を震わせる。その手に持つ巨大な戦鎚(ウォーハンマー)を軽々と振るい上げ、そして一息にそれを振り下ろす。

 

 その先にいたのは、一体の魔石の魔物(モンスター)。魔物の方も先頭に立つガラウさんを捉えていたようで、人体はおろかそれを守る防具すらも容易く貫ける程鋭く尖った、腕らしき部位を向けていた。

 

 が、その切先が届くよりも先に──戦鎚が魔物を横合いから叩く。文字通り重く、強烈な戦鎚の一撃をまともに受けた魔物は、一瞬にして、呆気なく粉々に砕けて、大小無数の魔石の破片や欠片となって周囲にばら撒かれた。

 

「ん……?」

 

 早速一体目を撃破したガラウさんだったが、何を思ったのかその顔に訝しげな表情を浮かべ、魔物を屠った己が得物たる戦鎚を見やる。だが、その行為は決して戦場では取ってはならない、格好の隙となってしまった。

 

「ガラウさん!!」

 

 そんな行動をガラウさん程の冒険者(ランカー)──戦士が取る訳がないと思っていた僕は、慌ててそう叫ぶ。何故ならもうすぐそこまでに、三体の魔石の魔物が彼を仕留めんとそれぞれ別方向から、既に攻撃を仕掛けていたのだ。

 

 先程の魔物と同じように、ガラウさんへと腕らしき部位が向けられる。だが明らかに間合いが足りていない──そう思った矢先、その切先がグンと伸びる。

 

 ──不味い!

 

 と、僕が思った直後だった。ガラウさんが足で地面を勢いよく踏みつけた。

 

「【衝撃壊(インパクトブレイク)】ッ!」

 

 瞬間、ガラウさんを中心に、強力な衝撃波が巻き起こる。それは地面を覆っていた魔石やその周囲を次々と破壊し、そして迫っていた三体の魔物すらも呑み込み、その全身を粉砕してしまった。

 

 急いで彼の元までに駆けつけようとした僕は、その光景を目の当たりにして、ただ呆然とする他なかった。

 

 ──す、凄い……。

 

 それしか、心の底から湧き上がらない。ガラウさんは──僕の想像を遥かに超える程の、強者だった。相手は〝殲滅級〟、それも最悪とされる生ける天災──〝絶滅級〟に限りなく近い最上位だというのに、それを瞬く間に四体も倒してしまった。

 

「……」

 

 だが、ガラウさんの顔はやはり何処か不可解そうだった。何か納得がいかないような感じである。

 

「ウチもいるってこと、忘れないでね!」

 

 と、その時後方からそんな明るげな声がした────そう僕が認識するよりも先に(・・)、何かが僕の隣を通り過ぎる。

 

「……え?」

 

 気がつけば、僕の前には『三精剣』の一人──イズさんがいた。彼女の全身は今、魔力に包まれている。

 

「一気に、行くよっ!」

 

 そう言うや否や、僕が捉えていたイズさんの姿が霞んで消え、一条の稲妻が魔石の魔物の群れを駆け抜ける。瞬間、魔物たちに電撃が走り、そしてその多くが亀裂を全身に生み、やはり粉々に砕け散った。

 

「……あれれ?」

 

 色々な意味で衝撃的過ぎる光景を目の当たりにし、呻き声一つすら漏らせない僕のすぐ隣で不思議そうな声が上がる。思わず反射的に顔を向ければ、そこには今さっき群れに突っ込み、そして殲滅したイズさんが立っていた。

 

 バチバチと全身から音を立て、時折真白の閃光を弾けさせている彼女は、両手に持つ短剣を交互に見やっている。そんな中、またしても後方から声が上がった。

 

「【殲滅の灼炎(ジェノサイドフレイム)】ッ!」

 

「【絶撃の激流(アブソリュートウォーター)】ッ!」

 

 その二つの声──気迫に満ちたリザさんとアニャさんの声が響き渡ると同時に、爆発的な魔力が後方から迫る。かと思えばそれらはすぐさま僕らの前を過ぎ去り、そして視界に映り込む。

 

 巨大な火球が魔物の群れへ撃ち込まれ、轟音と共に火柱を突き立たせる。それが収まった時には、そこにはもう炎熱によって焼き焦げ融けた地面しか残されていない。

 

 別の方には極太の水流が地面やら魔石に覆われた廃墟諸共、群がる魔物たちを呑み込み、何重にも破砕音を奏でて、やがて水流が魔力の残滓と化し宙に霧散し消える頃には全てが丸ごと綺麗に消失してしまっていた。

 

「………」

 

 僕にはもう、感想らしい感想すら浮かばない。ただただ、呆気に取られその場に立ち尽くしているだけだ。

 

「やっぱり、な」

 

 その時、納得したようにガラウさんが呟いて────

 

 

 

弱過ぎる(・・・・)。まるで手応えがねえ」

 

 

 

 ────と、続けてこちらの耳を疑ってしまうようなことを言うのだった。

 

「……え。えっ……?」

 

 ガラウさんのまさかの発言に、みっともなく思い切り狼狽えた声を漏らす僕とは対照的に、僕の隣に立つイズさんがうんうんと同意するよう頷きながら口を開く。

 

「だよねだよね。正直、肩透かしっていうか何ていうか」

 

 そう言いながら、得物である短剣をプラプラと揺らすイズさん。そんな彼女を僕が目を丸くしながら見つめていると、少し後ろから声がする。

 

「ご無事ですか御三方……いえ、あの程度なら聞くまでもなかったですね。……しかし、これは妙です」

 

「ああ。ゴルミッド殿と姉さんの言う通り、かの魔石の魔物は少々弱いように思える。だがそれでいて、内在させている魔力自体はやはり強大無比だ」

 

 言うまでもなく、声の主は先程凄まじい魔法を見せたリザさんとアニャさんである。前にいる僕らと合流した二人は言いながら、前方に犇く魔石の魔物たちを見据える。

 

「……何かの前触れじゃなければいいのだけど」

 

 声に僅かながらの不安を帯させて呟くリザさんとは反対に、誰よりも魔物の前に立つガラウさんが戦鎚を大きく、そして軽々と豪快に振り上げて高らかに叫ぶ。

 

「まあ弱いことに越したことねえだろ!こりゃ案外何とかなりそうじゃねえか。よぉし、ウインドア!俺ぁちょっくらあん中突っ込んでひと暴れしてくっから、お前さんは一先ずここで待機して後ろの連中に指示を出してくれやぁ!」

 

 瞬間、僕の返事も待たず単身魔物たちの群れに突っ込むガラウさん。最初不覚にも呆気に取られてしまった僕であったが、慌てて口を開こうとすると同時に、隣でバチンと音が響く。

 

 何かと見れば、先程までそこに立っていたはずのイズさんの姿が消えていた。

 

「ウチも良いとこ見せなきゃね!」

 

 その声に釣られ前を見れば、全身から閃光を迸らせ輝くイズさんが駆けていた。

 

「ウインドア様!ゴルミッド様が申していた通り、後方の冒険者(ランカー)たちと合流次第、彼らに指示をお願い致します!私たちはほんの少しでも貴方方の負担を減らせるよう、二人に続いて魔物たちを討ちに向かいます!」

 

「頼んだぞ、ウインドア殿!」

 

 そう言い終えるとほぼ同時に、左右からリザさんとアニャさんが僕の背中を追い越し、瞬く間に僕の視界から遠ざかっていく。……僕は返事も碌にできず、ただその背中を見送るしかできなかった。

 

 ──……自信が、凄い勢いで崩れそうだ。

 

 上には上がいる────そんな言葉が僕の頭の中に浮かび上がってくる。そしてそれを嫌でも実感させられるやり取りだった。

 

 と、その時。

 

 ドンッ──廃墟の屋根から、何かの影が僕の目の前に落下してくる。言わずもがな、その正体は全身が鋭利に尖った、一体の魔石の魔物だった。

 

「ッ!」

 

 その姿を捉え、僕は反射的に剣の柄を握る手に力を込める。それとほぼ同時に、僕の前に降り立った魔物が動いた。

 

 ヒュッ──尖る魔物の身体の一部が、まるで槍のように伸びて僕に襲いかかる。風切り音と共にその鋭利な切先が迫るが、僕の目には確かに見えていた。

 

 ──躱せる。

 

 そう心の中で思うと同時に、僕は少し身体をずらす。僕の身体を貫かんとした切先は、空を突くだけに終わる。

 

 その隙を見逃さず、すぐさま僕は間合いを詰め、咄嗟に腕を【強化(ブースト)】し、そして余剰分の魔力を長剣(ロングソード)に巡らせる。

 

 息を短く吐き、がら空きとなった魔物の脇に狙いを定め、剣を振り上げた。

 

「【強化斬撃】ッ!」

 

 魔力によって保護、強化された剣身が魔物を捉え、刃が食い込む。そして僅かな手応えを得るとほぼ同時に、剣身は魔物の身体を通り抜けた(・・・・・)

 

 ──えっ……。

 

 少し遅れて、魔石の魔物の身体が上下にずれ、そのまま地面に崩れ落ちる。それから全身が細やかに罅割れたかと思えば、魔石が砕ける時と同様の、あの妙に甲高い音を響かせ粒子と化し、その場で霧散し溶けるように消えてしまった。

 

 その一部始終を見届けて、僕は己の得物を見やる。

 

 

 

『弱過ぎる。まるで手応えがねえ』

 

 

 

「………」

 

 ガラウさんのあの発言を、僕は今になって理解し、それを実感した。

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