ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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こんな事の為に(その二)

「いやあ、楽しみで楽しみで仕方がありゃしねえぜ、全くよ」

 

「おうおうその通りだな。あんな上物にありつける機会(チャンス)なんて、そうそうねえぞ」

 

「惜しむらくはまだ子供(ガキ)ってとこか。けどそれはそれで、唆られるもんがあるなぁ。何にも知らねえ子供に色々と教育すんのも、新鮮で面白そうだ」

 

(ちげ)えねえ違えねえ。ギャッハハハッ!」

 

 などと、言い合いながら。その部屋にいる十数人の男たちは、それぞれの娯楽に興じていた。

 

 飯を食らい。酒を飲み。手札(カード)携え、賭博事(ギャンブル)────その光景は、まさに粗暴で乱暴な、傭兵気取りのチンピラである彼らに相応しい、最低最悪なものであった。

 

 同調性も協調性も、微塵だってありはしない。けれど、この後。そんな彼らでも一致団結し、一心同体となる。

 

 この後に待つ、本日最大のお楽しみ(メインイベント)の為に。

 

「けどよ、元は『炎鬼神』なんだろ?あの嬢ちゃん」

 

「ギャハハッ!んなのデマに決まってんだろ!……それにそうだったとして、今はただの子供(ガキ)の女。それも将来有望な美少女サマだ。だったら……やる事は一つだろうがよ」

 

「まあ、確かに……それもそうだな!ガハハハッ!」

 

「でも、俺としては処女(ヴァージン)散らして、一番最初に味わってみたかったなぁ。あの初めて特有の痛いくらいの締まりが最高(サイコー)だっつーぅのに」

 

「そんなのここにいる全員が思ってるさ。けど、それを楽しめるのは(ヘッド)のライザーさんだけだろ。まあお目溢しが味わえるだけでも喜ぼうぜ」

 

 という、品性の欠片もない、およそ頭を使っているとは思えない性欲剥き出し丸出しの会話が繰り広げられる、その最中。

 

 一人の男がふと、気づいたように言う。

 

「おい、何か……下の階が騒がしくねえか?」

 

 そんな男の指摘に、苛ついた声で別の男が言う。

 

「下っ端のクズ共が不満垂れて愚痴叫びながら暴れてるだけだろどーせ。精鋭隊の癖に()っせえ事を一々(いちいち)気にしてんじゃねえよ。たく、くだらねえ。みっともねえ情けねえ」

 

「お、おう……(わり)ぃ」

 

 ギィ──その時であった。今の今まで、閉ざされていたこの部屋の扉が、軋んだ音を立てながら、ゆっくりと僅かに開かれて。瞬間、部屋にいる全員が全員、扉の方へ目を向けた。

 

 まるで先程までの馬鹿騒ぎが全くの嘘だったかのように、部屋は静まり返っていた。

 

 そんな最中、ついさっき下の階が騒がしいと指摘した男を、それは気の所為だと叱咤した男がぶっきらぼうに言う。

 

「今日は絶対に開けんじゃあねえって……あんだけ言っておいたよなぁ?」

 

 だが、男の言葉に対して即座に謝罪の言葉もなければ、返事すらなく。その事に、男は不愉快そうに舌打ちした。

 

「見てこいロルカ。そんで、連中……ちょっくらシメてこいや」

 

「ああ?面倒だな……わかったよ」

 

 下の階が騒がしいと指摘した男────ロルカはその言葉に従って、ゆっくりと椅子から立ち上がり。

 

 そしてまたゆっくりと、僅かに開かれるだけに留められた扉に近づき、この部屋から出て行った。

 

「ったく、白けさせんなよなあ」

 

「本当だぜ。こんな舐めた真似、二度と出来ないように再教育すっかぁ?」

 

「そうしようそうしよう。とりあえず半殺しは確定だ」

 

「これだから若ぇ衆は駄目だ。目上に対する礼儀ってぇモンがこれっぽっちもわかっちゃいねえ」

 

 という風に会話を広げながら、男たちは先程よりも若干勢いの下がった馬鹿騒ぎを再開させる────その時だった。

 

 

 

 バァンッ──不意に、またしても部屋の扉が。しかし、今度は思い切り開かれて。全開となると同時に、部屋の外から何か大きな物体が投げ込まれた。

 

 

 

 突如として部屋の中に投げ込まれた()()は、宙を舞い。そして部屋の中央へと。今賭博(ギャンブル)が行われ、四人の男たちが囲むテーブルへと落下する。

 

 言うなれば、それは合唱。

 

 木製のテーブルが砕ける音、皿や酒瓶が割れる音。それに混じって微かに聴こえる、肉が切れ骨が折れる、生々しい音。

 

 そんな複数の音が大音量で重なって、部屋に響き渡った。

 

 テーブルの上にあった山札が宙へバラ撒かれ、ヒラヒラと花弁の如く舞い落ち、もはや残骸となったテーブルを下敷きに、すっかり伸びてしまっている()()────先程部屋を出たばかりのロルカの上に積み重なった。

 

 今この部屋にいる、ロルカを除いた十数人の男が。全員、全開となったままの扉の方へ顔を向かせ、睨めつける。

 

 そうして数秒後────スッと、扉の外から足が伸びて。何の躊躇もなく、部屋の床を踏み締めた。

 

「……おいおい。マジかよ。本当に来やがった」

 

「流石はライザーさんだな」

 

「ああ。全くだぜ」

 

 薄暗い通路の影から現れた、その姿と顔を見て。そう口々に男たちが言う。言って、誰しもがその口元を悪意で吊り上がらせた。

 

「丁度賭博には飽き飽きして、気分転換がしたかったとこだ」

 

「やっぱり、若ぇ衆は駄目だ駄目だあ。こうなったら礼儀ってヤツをとことん、死ぬ程その身体に叩き込んでやる」

 

「半殺しにしてやんよお。イヒヒッ」

 

 異口同音────皆言うことは違えど、その言葉に込められているものは、皆同じ。

 

 悪意と暴意と、そして殺意で満ち満ちたこの部屋に、けれど足を踏み入れたその者は──────

 

 

 

 

 

「……先輩を、返してください」

 

 

 

 

 

 ──────一切臆する事なく。ただ淡々と、男たちにそう言った。

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