ストーリー・フェイト   作:白糖黒鍵

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ARKADIA────エピローグ(その一)

「…………」

 

 この世界(オヴィーリス)に存在する四つの大陸の内一つ──ファース大陸。そしてそのファース大陸にある無数の街の一つ──オールティア。

 

 茹だるような残暑が牙剥く日中、僕──クラハ=ウインドアは街道をゆっくりと歩いていた。

 

 今目指す目的地は自分が所属する冒険者組合(ギルド)、『大翼の不死鳥(フェニシオン)』。一ヶ月に及ぶ長期休暇も昨日で終わり、今日からまた『大翼の不死鳥』唯一の《S》冒険者(ランカー)として活動を再開するのだ。

 

 ──……。

 

 気持ちは憂鬱としていた。別に冒険者の活動が嫌だからという訳ではない。理由は、別にある。

 

「おい、クラハ」

 

「……あ、はい。どうしましたか、先輩?」

 

 すぐ隣から声をかけられ、僕は振り向く。今この隣を歩いているのは──言わずもがな、先輩である。先輩は歩きながらも僕の方に顔を向けており、その表情は微かな怒りとこちらの身を案じる優しさが滲み出ていた。

 

「今日からまた依頼(クエスト)受けんだろ。関係ねえことばっか考えてんじゃねえよ」

 

「……はい。すみません」

 

 先輩から叱られ、僕は申し訳なくそう返す。

 

 ──そう言う、先輩だって……。

 

 そう思わず心の中で呟きながら。そして僕は考えてしまう。振り返ってしまう。思い返して、しまう。

 

 一ヶ月前に起きた、世界の存続を懸けた人類と『厄災』による戦い────『理遠悠神(アルカディア)事変』のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィーリアさん──否、『厄災』として覚醒した『理遠悠神』アルカディアが起こした戦いは、後に『理遠悠神(アルカディア)事変』と呼ばれるようになった。結果的に僕たち冒険者はかの『厄災』を打倒し、世界を救うことに成功したが……残された爪痕は決して浅くなく、実に深いものであった。

 

虹の妖精(プリズマ)』が誇る冒険者チーム──『三精剣』。その筆頭(リーダー)を務めていたミルティック三姉妹の長女リザ=ミルティックさんと次女アニャ=ミルティック。この戦いによりアニャさんは冒険者として再起不能までの重傷を負い、そしてリザさんはその精神に深刻で、癒える見込みがつかない心的外傷《トラウマ》を抱え込んでしまい────事態収束から約二週間後、二人の引退が『虹の妖精』から公式に発表された。

 

 リザさんとアニャさんの引退により『三精剣』は事実上の解散となり、またその名も冒険者番付表(ランカーランキング)から除かれた。

 

 だが、その数時間後。とある声明が出されたのだ。

 

 

 

「『虹の妖精』の剣はまだ折れてない!だって、ウチがまだいるから!」

 

 

 

 その声明の主は、ミルティック姉妹三女──リザさんとアニャさんの末の妹、イズ=ミルティックさんだった。彼女もまた戦いで重傷を負ったのだが、多少の後遺症も覚悟されていたのだが……不幸中の幸いとでも言うべきなのか、再起不能のアニャさん程ではなかった。

 

 とはいえ、それでも数ヶ月の間は活動停止。復帰するにもそれ相応のリハビリテーションが待っている────しかし。

 

「リザ姉も、アニャ姉も……二人が引退することになった原因はウチ。ウチの弱さが招いた結果。……だから、ウチは誓う!リザ姉とアニャ姉の全部背負って!ウチはもっともっともっと強くなる!なってみせる!」

 

 イズさんの瞳には、ただひたすらに輝く意志があった。

 

「見てなよ冒険者たち。待ってなよ番付入り冒険者(ランクインランカー)たち!ウチは雷の妖精、イズ=ミルティック。あんたたちなんかさっさと追い越してやるんだからっ!」

 

 拡声の魔力を付与された魔石を掴み、高らかに。その瞳に一等星よりも眩く輝ける絶対の不撓不屈の意志を宿して、イズさんは叫んだのだ。

 

 

 

「ウチが目指すのは────『六険』だッ!!!」

 

 

 

 ちなみに、この発言の直後イズさんが盛大に吐血したことで軽い騒ぎになったことについては、あまり触れないでおこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、僕は無事己の日常へと帰って来れた。……そう、これが僕の日常で、そして日常(いつも)通りなんだ。

 

 この街の街道を、先輩と歩く。そんな何気ないこの瞬間こそが、僕の正しい日常。そこに──────

 

 

 

 

 

『おはようございます、ウインドアさん!』

 

 

 

 

 

 ──────あの人の姿がないことこそが、僕の正しい、本当の日常。

 

「……にしても、一体どこに消えやがったんだかな。サクラの奴は」

 

 考え込む僕の隣で、先輩がそう独り言を漏らす。一ヶ月の前のあの日、フィーリアさんが僕たちの前から去ったのと同じく、何も告げずに姿を消したサクラさんのことについて。

 

 今思えば、僕は夢を見ていたのだろう。長い長い、夢を。そして夢はいつしか覚めるもの。……だから、こうなることも至極当然と言えよう。

 

 ──…………。

 

 そう思って、僕は黙って拳を握り締めた。もう二度とこの目にすることは叶わない────あの日見た悲哀の笑顔を鮮明に思い出しながら。

 

「……」

 

 そんな僕のことを先輩はまた見つめていたが、今度は何も言わなかった。

 

 そして気がつけば──────僕と先輩は『大翼の不死鳥』の前にまで、辿り着いていた。

 

 数秒そこで待って、僕は深呼吸をする。気持ちを切り替える為に。己の未練を断ち切る為に。……まあ、そうしたところで、そう上手くできれば苦労なんてしないのだけれど。

 

 まるで重々しい巨大な鉄扉を押し開くかのように。僕は、一ヶ月と少しぶりに『大翼の不死鳥』の扉を開いた。

 

 

 

 

 

「…………え……?」

 

 

 

 

 

 開いて。中に進んで。その先にあった存在(モノ)を前にして、瞬間僕の頭は真っ白になった。

 

 極度の混乱と困惑の最中に晒され、呆然と突っ立つ他ないでいる僕へ、その存在は────その人は。

 

 

 

 

 

「やっと来ましたね。おはようございます、ウインドアさん!」

 

 

 

 

 

 日常通りの笑顔を見せた。

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