「これで、私からの話は以上です。ちょっと長くなっちゃってすみませんね」
「……え、ええ。いや別にそれは大丈夫なんですけど……」
そう申し訳なさそうに、けれど笑顔を浮かべて言うフィーリアさんに、僕は未だ困惑しながらもなんとかそう返す。
『
……とはいえ、それでも僕はいまいちこの状況を飲み込めないでいるのだが。ちなみに先輩はというと────
「お前……クラハにあんな風に言っておいて、お前……」
────そんな感じで、力が抜けるというか、呆れたようにしていた。……まあその気持ちは理解できるが。
「ゆ、許してくださいよぉ。私だって、覚悟決めてたんですよ?でも、まさかあんなことになるなんて……流石の私でも予想外だったというか、なんというか」
と、浮かべていた笑顔を苦笑いに変えて、呆れる先輩に言葉をかけるフィーリアさん。確かに彼女の言い分は正しい。
まさか『世界
「……そういえば、そのサクラさんは今どこに?」
僕がそう訊ねると、何故かフィーリアさんまでも疑問げに、だがしかし答えてくれる。
「それが私にもわからないんですよねえ。一応この街には一緒に来たんですけど、気がついたら消えてたんです」
「……はあ。そう、ですか」
それを聞き、僕は思った。
──サクラさん、自由人過ぎないですか……?あと、貴女はそれでいいんですかフィーリアさん……。
「まあ、アルドナテさんとはもう話をつけたので、ここに来ないなら来ないで、別に問題はないんですけどね」
本人を前に、決して口には出せない呟きを心の中で僕が呟いていると、フィーリアさんがそう言う。その内容は聞き流せるものではなく、その話について訊こうとした────瞬間だった。
バンッ──と、勢いよく『大翼の不死鳥』の扉が不意に開かれて。
「ここへ訪れるのも、随分久しぶりだな」
という聞き覚えのある、一ヶ月ぶりに耳にする声音と共に、サドヴァ大陸
その人は今ここにいる他の
「おや、私以外はもう集まっていたのか。すまない、待たせたな。そして久しぶりだ、ウインドア。ラグナ嬢」
そう言って、その女性は────サクラさんは爽やかな微笑を浮かべた。そんな彼女に対して座っていたフィーリアさんが立ち上がり、文句をぶつける。
「もう、遅いですよサクラさん。私と一緒に来たのに……一体何してたんですか」
「いやあ、
「だと思いました。……全く、貴女という人は……」
申し訳なさそうに、だが微笑は崩さず答えるサクラさん。そんな返事をされ、呆れてため息を吐くフィーリアさん。そんな二人のやり取りを眺めて、僕はいつの間にか安心感に包まれていた。
──久しぶりだ。本当に、久しぶりに感じる……。
一ヶ月前には、ほんの数時間前までは二度と、決して訪れることはないだろうと思っていた日常が、非日常の連続だったはずなのに気がつけば当たり前になっていた日常が目の前にある。
そのことが一体どれだけ嬉しかったことか。そしてそれは先輩も同じだったようで、少し気恥ずかしそうに、けど歓喜の声で先輩が二人に言う。
「ま、まあ別に!お前らがどうなっても俺はどうも思わなかったけどさ!……でも、これでまた四人でいられるってことだよな?また色々できるってことなんだよな!」
自分の感情に素直になれない先輩の言葉。だがそれに対してフィーリアさんとサクラさんは顔を見合わせて、それからまた僕と先輩の方に顔を戻し、フィーリアさんが気まずそうに口を開かせた。
「その、すみません。このことも順を追って説明するつもりだったんですけど」
そう言って、フィーリアさんは少し悲しそうな、寂しそうな表情で続けた。
「私たち、今日でこの街から去ることにしました」
本来の時間から数時間遅れて、『世界
『厄災』第五の滅び、『理遠悠神』アルカディアがマジリカにて降臨。かの滅びは
──────という訳であり、予めフィーリアさんから聞かされていた内容と概ね合致していた。
「行っちまったな、あいつら」
「……はい。行ってしまいましたね」
フィーリアさんとサクラさんの二人を見送り、その背中が遠く小さく、そして僕たちの視界から完全に消えた後、先輩がほんの少しだけ寂しそうに言って、僕もまた先輩と同じ気持ちでそう言葉を返す。
「たく、あいつら本当に勝手で突然だよな。いきなりこの街に来やがったと思いきや、いきなり出て行くんだからさぁ」
「ええ、本当に、そうですね」
先輩の文句に同意しながら、僕は思い返す。フィーリアさんからの言葉を。
曰く、GDMからの命令であり、今回の件に関して目を瞑る代わり、二人にはそれぞれが所属する冒険者組合に戻れとのことらしい。
そもそも、フィーリアさんとサクラさんの二人がこの街に訪れたのは、弱体化してしまった先輩の穴埋めと、三度もこの街に厄災が襲来したからに他ならない。厄災に関しての詳細はその多くが不明であり、一体どこに襲来するのかは全く検討がつかず、そんな状況の中で三度にも渡ってこの街が狙われたのだから、《SS》冒険者の二人をこの街に遣わせたのだ。
だが今回の件のような例が発生した以上、もはやそうも言っていられなくなってしまった。残る最後の厄災────『真世偽神』ニューが一体どの大陸の、どこに襲来するかの予想ができない以上、二人を別々の大陸に留まらせ、もしサドヴァ大陸にもフォディナ大陸にも降臨しなかった場合、フィーリアさんは自身の【転移】で、サクラさんは『世界冒険者組合』による
──僕は今まで夢を見ていたんだ。そのことに、違いはない。
そして今、その夢は終わった。僕は夢から覚めたのだ。長い、とても長い夢だった。
ある日突然この街、オールティアに訪れた二人。その人たちはかつての先輩と同じ世界最強と謳われる《SS》
それからは非日常の連続で、驚くばかりの日々だった。そしてその経験は、僕にとってかけがえのないものとなった。
それを僕は忘れない。絶対に、忘れない。そして心の底から思う。先程までは、今朝までは決して考えられなかったことを。
そして、それは恐らく先輩も同じだ。
「先輩」
「ん?何だクラハ?」
「寂しくは、ないですか?」
「はあ?べっつにー。全然寂しくなんかねえな」
「……僕も同じです」
そう言葉を交わして、僕と先輩は顔を見合わせて、互いに笑顔を浮かべた。そう、もう寂しいとは思わない。
だって、サクラさんとも────フィーリアさんとも、またすぐに、また会えるだろうから。僕も先輩も、そう確信しているから。
「あ」
「?どうしました、先輩?」
二人を見送り、『
「いや、フィーリアに訊きたいことがあったんだけどさ。忘れてた」
「フィーリアさんに訊きたいこと、ですか?」
おう、と頷いて。そして先輩が続けた。
「あいつ、自分はアルカディアだとかほざいてた時……何で俺のこと、