ストーリー・フェイト──巨人も魔獣も悪魔も邪竜も神さえも悉く討ち斃す最強の先輩が、ある日突然女の子になってしまったのですが。一体、後輩の僕はどうすればいいのでしょうか──   作:白糖黒鍵

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洋服店での一幕

「はーい、いらっしゃいませー!こちらアネット……ってクラハじゃない。久しぶり!」

 

「え、ええ。こちらこそお久しぶりです、アネットさん」

 

 逃げるようにして慌てて喫茶店から立ち去り、僕は嫌がる先輩を連れて、半ば強引に顔馴染みである洋服店に急遽訪れていた。

 

 ……それにしても、それにしてもだ。全く、本当に先輩には困ったものだ。まあ元々男で、突然女の子になってしまったので、致し方ない部分もあるにはあるのだが……それでもまさか、僕の予想通りあのローブの下が一糸纏わぬ全裸だとは夢にも思わなかった。道理で僕の席に向かってくる途中、ローブの裾の隙間からチラチラ垣間見える生足の面積が、割と大胆で大変危なかった訳である。

 

 ということはつまり、先輩は喫茶店まで来る道中も全裸だったということで。もうこれに関しては男だとか女だとかそれ以前の…………人間としての常識の問題だ。

 

 というか、何故あんな麻布一枚の心許な過ぎる格好なのに、ああも先輩は平然としていられたのだろうか。僅かばかりの羞恥心すら覚えることはなかったのだろうか。

 

 ほんの些細な、それこそテーブルに引っかけただけで破れてしまうというのに。今回はあの場に僕がいて、僕が外套(コート)を羽織っていたから良かったものの……もしそうでなかったら、今頃先輩は露出狂の赤髪少女という不名誉極まりないレッテルを貼られてしまっていたところだろう。そうならず無事で済んだことに、堪らず僕は心の底から安堵した。

 

 ……しかし。問題はまだあった。それは────先輩の立ち振る舞いである。

 

 いやまあ、このことに関しても元々は男だったので致し方のない部分もあるのだが。それを差し引いても……気にしないというか、あまりにも先輩は無防備過ぎた。

 

 僕が羽織らせた外套はお世辞にも丈が長いとは言えないものだったが、今の先輩の背丈ならばただ突っ立っている分には特に問題なかった。……が、動くとなったら話は別になる。

 

 麻布のローブ姿の時もそうだったが、先輩は今自分の格好を────布一枚隔ててるだけでその下は一糸纏わぬ全裸なのだということをそう深く考えていないらしく、特に気にする様子もなく日常(いつも)通りに、男であった時と同じように平気で歩いていた。その結果どうなるかというと。

 

 外套の裾が揺れる。それはもう揺れに揺れまくる。その度に魅惑の生足や太腿がチラリと垣間見えており、それどころかあと少しで剥き出しの生尻や絶対に見えてはいけない場所が一瞬見えてしまうくらいには捲られてしまうのではないかと危惧する程までに、裾が揺れ動く。

 

 その汚れ一つとない純白の肌が、一体どれだけ魅力的で実に危ないのかを、先輩は理解していない。街道を歩き行く野朗共を刺激し、悪戯に彼らを挑発しているのだと全くわかっていない。だから先輩は平気で衆人環境の真っ只中で生肌を晒してしまうのだ。

 

 それに格好自体も多少──いや、かなり問題があった。何せ背丈の低い女の子が、その背丈に──否、性別に合っていない男性用の外套を羽織っているのだ。その上当の本人は将来有望な絶世の美少女。しかもその身振り素振りが緩く大変無防備ときた。

 

 注目を集めない訳がないのだ。……おかげさまでこの洋服店にまで至る道中、僕の心は多大な精神的負担(ストレス)を抱えることになった。

 

 不服そうな表情を浮かべながらも、渋々同行を決めてくれたのはいいが、僕の後ろを大股で歩く先輩を嗜めたり。街道を行く他の男たちが無遠慮に向ける、下卑たその視線から先輩を庇ったり。そうすることで男たちから鬱陶しそうに睨めつけられたり。

 

 中でも相当心を抉られたのが、僕に対しての女性たちのひそひそと流れた、噂話。

 

 自慢する訳ではないのだが、僕のことはこの街ではそれなりに知られている。そんな僕が、外套を脱いだ上着姿で、すぐ後ろに男性用の外套を羽織った少女を連れて歩いているのだ。

 

 ……これで良からぬ噂が立たない方が、もうおかしい状況だろう。

 

 職業柄、僕はそれなりに五感を鍛えている。その所為で、僕の聴覚はその内容を敏感にも聞き取れてしまっていた。

 

 

 

 

 

「ねえ、もしかしなくてもあの方って、冒険者(ランカー)のクラハ=ウインドアさんよね?」

 

「ええ、『大翼の不死鳥(フェニシオン)』のクラハ=ウインドアさんよ。間違いないわ。でも、後ろにいるあの子は一体誰なのかしら……?」

 

「う、嘘っ!?ウインドア先輩って彼女いたの!?いつの間にっ!?私、狙ってたのにぃ〜……てか誰なのあの子ぉ!」

 

「ちょ、落ち着きなよ。……でも本当に誰なんだろ、あの子。何か、赤髪の感じとか、雰囲気がなんとなく似てる気がするけど……そんなはず、ないよね。だってあの人男だし……ていうか、何で男物の外套なんか着てるの?あれ、ウインドアさんのだよね?やっぱり、そういう関係……?」

 

 

 

 

 

 …………今、こうして思い出すだけでも。胃がキリキリとした鋭い痛みを僕に訴えかけてくる。あのままあの場に留まっていたら、今頃僕は根も葉もない噂を買い物途中の奥様方や、恐らく僕と同じ冒険者組合(ギルド)に所属している後輩の女性冒険者(ランカー)たちに流されていたところだろう。……いや、まあ。こうしている間にも広められつつあるのかもしれないが……。

 

 ──生半に顔が知られているのも、厄介だな……はあ。

 

 とにかく。万が一にも組合に行ったら男性冒険者から殴られることを警戒し、覚悟しておこう。

 

 まあそんなこんなで、僕と先輩は(主に僕が)苦労しながらもようやっとこの目的地────『アネット洋服店』に辿り着いた訳である。そして入店一番、顔を見せお手本のような挨拶をしてくれたこの女性こそ、店主であるアネット=フラリスさんだ。この街にある唯一の洋服店で、僕がこの街での生活を始めたばかりの頃は、服に関して色々とお世話になったものだ。

 

 気の良い笑顔を浮かべながら、アネットさんがこちらに近づいてくる。

 

「この前は大変だったねぇ。私もあの時は流石に終わったかなって思っちゃったよ」

 

 アネットさんが言うあの時とは、十中八九『厄災』────『魔焉崩神』エンディニグル襲来のことだろう。僕は苦笑いを浮かべつつ、アネットさんに言葉を返す。

 

「僕は何の力にもなれませんでしたけどね……先輩がいたから、どうにかなりましたけど」

 

「まあ、ブレイズさんは色々な意味で反則だからね。……ところで、肝心のブレイズさんはあれからこの街に戻って来たの?」

 

 アネットにそう訊ねられて、僕はぐっと言葉を詰まらせてしまう。どう答えたものかと、考えてしまう。

 

 僕の後ろにいるこの女の子がそのブレイズさんです────などと言っても、到底信じてはくれないだろう。それに先輩が女の子になってしまったことを、果たしてGM(ギルドマスター)たるグインさん以外の人に先に教えてしまっていいものだろうか……。

 

「俺ならここにいるぞ?」

 

「え?」

 

 と、僕が悩んでいる真っ最中。僕の後ろに立っていた先輩が突如アネットさんの前に出て、そう言ってしまった。あまりにも一瞬の出来事過ぎて、止めようにも止められなかった。そしてアネットさんが困惑の声を漏らすと同時に僕は大慌てで口を開いた。

 

「す、すみませんアネットさんちょっと待っててください!!」

 

 そして彼女からの返事を待たずに、僕は有無を言わせず先輩を店の隅に押しやった。

 

「んなっ、ちょ……クラハお前何す」

 

「すみません本当にすみません。ですが、今だけは僕の話を聞いてください。お願いです、お願いですから……!」

 

 という、必死も必死な僕の態度に、流石の先輩もそれ以上は何も言わず、ちょっと引き気味にコクコクと頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 それから数分後。僕と先輩は再びアネットさんの元へ戻った。

 

「いや、お待たせしてしまってすみません……はは」

 

 と、彼女に一言謝罪を挟みながら、僕は先輩に目配せする。

 

 ──さっき言った通りに、ちゃんと口裏合わせてくださいよ先輩……!

 

 そんな僕の心からの訴えを理解してくれているのか、いないのか。残念ながら僕にはわかりかねたが、とりあえず先輩は小さく頷いてくれた。

 

 それを確認して、僕は一呼吸してからアネットさんに言う。

 

「その……今まで教えていなかったんですけど。実は僕の従姉妹なんですよ、この子。数年ぶりに僕に会う為に、オールティアへ訪れたんです」

 

 ……まあ、我ながら少し無理がある設定だとは思った。僕に従姉妹はおろか、親族がいるなどという話、周囲には全くしていないのだから。

 

 だがやはり、ここは嘘を吐いてでも誤魔化すべきだと僕は判断した。グインさんに説明せずに、周囲の人たちに先輩が女の子になってしまったなどと、ましてやかつての最強ぶりが今や見る影もなく弱体化しているのだと、僕個人で説明すべきではない。

 

 まずは僕が所属する組合の長────『大翼の不死鳥(フェニシオン)』GM、グイン=アルドナテに説明し、彼が下す判断に後を任せ、委ねよう。

 

 そう僕が思った直後、先輩が口を開いた。

 

「お、おう!俺……じゃなくてわ、わた……私はクラハの先ぱ……でもなくて、従姉妹!……い、従姉妹の……あれ?えっと……あ、そうだラナだ。従姉妹のラナってんだ。よろしくな!」

 

 先輩を信じた僕が馬鹿だった。

 

「……え、あ、うん……よ、よろしく、ね……?」

 

 一体どういった反応が正解なのかわからず、困惑しながらも一応といった風に、人が好いアネットさんは何故かドヤ顔を浮かべる先輩にそう言葉を返す。

 

 僕は頭を抱えたくなるのを必死に堪えて、なけなしの気力を振り絞り、申し訳なさで胸の内を満たしながらアネットさんに情けなく懇願した。

 

「すみませんアネットさん、本当にすみません……厚かましいことこの上ないのは重々承知しています……ですが、ですがどうかお願いします。今は何も訊かずに、この子に服を用意してください。幾らでも、お金は幾らでも支払いますから……土下座もしますから……どうか、どうか……!」

 

「ええっ!?い、いや、うん!うんわかった!わかったから!何かしらの事情があるのはわかったから!だからそこまでしなくても大丈夫よ!?」

 

「ありがとうございます……!本当にありがとうございます……!」

 

 まあ、色々一悶着あったがこれでようやく先輩にまともな格好をさせることが叶う。そのことに心の底から安堵し、僕は胸を撫で下ろす。

 

 そして満を持してアネットさんに先輩を一旦預けようとした────直前だった。

 

 ──ッ!!

 

 僕は忘れていた。今、先輩に必要なのが────何も服だけではないということに。

 

 気を遣ってくれたのか、アネットさんは特に指摘してこなかったが……今、先輩は僕の外套を羽織っている。ただ、()()()()()()()。一体その下がどうなっているのかは、喫茶店で目の当たりにした僕だけが把握している。

 

 

 

 そう、今一度言おう──────先輩に必要なのは、衣服だけではない。

 

 

 

 そのことに気づいてしまい、まるで崖から突き落とされたような気分に陥ると同時に、僕は全身から冷や汗を流す。

 

 ──どうする……?僕は、どう説明すればいいんだ……!?

 

 特に何も考えず、アネットさんに服だけでなく、下着も用意してくれとお願いしたとしよう。彼女に対してこちらの事情についてろくな説明もしていないこの現状、もしそうしてしまったなら────僕は変に関係を偽ろうとしていた女の子を全裸に剥き、それから自分の外套だけを羽織らせ、大勢の人々が行き交う日中の街道を共に歩かせ、わざわざこの店にまでやって来た男ということになるだろう。

 

 ──最低最悪の超絶変態屑野郎じゃないか、僕は……!!

 

 そう認識されたならば最後、僕の社会的地位は音を立てて崩壊し地に落ちて、今の今まで慎重に、大切に築き上げてきた印象も信頼も、何かもを全て失う羽目になるだろう。いや、なる。確実に。

 

 だが、だがそれでもだ。後輩として尊敬するラグナ先輩が下着未着用(ノーブラノーパン)というのは到底無視できない、絶対に捨て置けない問題である。

 

 ……しかし、先輩のことだ。衣服だけでもあれ程嫌がったというのに、女物の下着となれば何が何でも、是が非でも身に付けるのを断固拒否してくるだろう。

 

 ──しかし、それでも……それでも、僕は…………ッ!

 

 己の評判と先輩の尊厳。その二つを天秤に掛け、僅か数秒。僕は消え入りそうな声を、喉の奥から吐き出した。

 

「……あの、アネットさん。その……非常に、申し上げ難いんですけど。もう一つ、お願いしていいですか……?」

 

「ど、どうしたのそんな急に改まって。何?何なの?さっきから一体どうしたっていうのよ?」

 

 尋常ではない程に深刻な僕の様子に、アネットさんは完全に引いてしまっている。だが、その態度は僕にとってはまだ救いだ。何せ、次の僕の言葉によって、きっと彼女は僕のことを心底軽蔑するだろうから。

 

 すぐさま目の当たりにするであろう未来を、まるで遠い他人事のように思い描きながら。意を決し、先程からずっと痛みを発し続けている胃の訴えを無視して、僕はアネットさんに言った。言ってしまった。

 

 

 

「…………下着、の類も……用意、してください……」

 

 

 

 嗚呼、人の破滅というのは意外な形で訪れる。今日、それを僕は嫌という程思い知らされた。

 

 ……一体、僕が何したっていうんだ……?

 

「……は?」

 

 案の定、アネットさんが意味不明というような反応をする。それがさらに僕の精神を抉り、心を揺さぶってくる。それでも、僕は何とか己を保って、再度口を開く────直前。

 

「お、おい待てクラハっ!服は百歩いや千歩譲って着てやるけどっ、女のパン「先輩」

 

 堪らずというように非難の声を先輩が上げたが、その途中で僕は肩にそっと手を置き、それを遮った。もうこの際、礼儀だとか、そんな些細なものは気にしない。一切合切気にしない。

 

「お願いです。後生の頼みです。こんなどうしようもない後輩の懇願を、どうか聞き入れてください。ここは僕の為を思って、下着を身に付けてください……僕という一人の犠牲を無駄に、しないでください……」

 

 先輩の肩に手を置いたまま、目頭を熱くさせて僕は先輩にそう言う。

 

 そんな僕の、今にでも死んでしまいそうな勢いの僕の様子に流石の先輩も気圧されたようで。やや面食らい引いた、けれどばつが悪そうな声音で僕に言葉を返してくれる。

 

「わ、わぁったよ……べ、別に何も、そんな泣くことねえじゃねえか……」

 

 そうして、僕は改めてもう一度アネットさんの方を見やる。彼女といえば、この状況に全くと言っていい程追いつけていないようで、完全に戸惑っていたが、僕に顔を向けられたことでハッと、けれど依然困惑の表情のままに口を開く。

 

「何か、もう……よくわかんないけど、とにかくわかったわ。うん。とりあえず、私に任せて頂戴」

 

 そしてグッと、傷心の僕を元気づける為か。アネットさんは親指を立てて、快く先輩のことを引き受けてくれた。

 

 心底嫌そうな表情をする先輩を連れ、アネットさんが店の奥へと消える。その二人の背中を、僕はただ放心したように見送ることしかできなかった。

 

 ──明日から、僕はどんな顔してアネットさんに会えばいいんだろうな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………その、えぇっと……お、お待たせ。こんな感じに、この子の要望に合わせて……コーディネイトしてみたんだけど。大丈夫、よね?これで……?」

 

 時間にして数十分。奥に消えた二人が再び僕の前に現れる。待っている間、僕はこれからの人生について深く考え込んでいたのだが、アネットさんのセンスと手によってその装いを変えられた先輩を見て、瞬く間に、そして跡形もなく吹き飛ばされた。

 

 僕から少し顔を逸らし、気恥ずかしいのかもじもじとしながら立つ先輩。先程の全裸外套(コート)から一変した今の格好は、単的に言えば明るく活発で、天真爛漫とした女の子がするような、あくまでも動き易さを重視した服装である。

 

 露出を全く気にせず、何の遠慮なしに肌を外気に晒している。ショートパンツの裾からスラッと伸びる生足は実に健康的な魅力を発しており、むちむちとした存外肉付きの良い太腿には思わず視界を奪われてしまう。

 

 今目の前に立つ女の子がラグナ先輩であることも忘れ、見惚れてしまっている僕を、アネットさんの声が現実へと引き戻す。

 

「それと、これ返すわね。……この外套、あなたのでしょ?」

 

「え?あ……はい」

 

 言われて、僕は彼女から外套と────そして何故か紙袋を渡された。

 

「わざわざありがとうございます。……あの、アネットさん。この紙袋は一体……?」

 

 紙袋はやたら軽かった。けれど中身はちゃんと入っているようで、揺らすと擦れるような音がする。僕が訊ねると何故かアネットさんは躊躇って、それから僕に紙袋を開けるよう仕草だけで促した。

 

 奇妙に思いながらも、僕はゆっくりと紙袋を開け、中を覗き込む。

 

 紙袋の中に入っていたのは──────下着だった。……女性用の。

 

「…………」

 

 真っ白になった頭の中に、ただ目の前の視覚情報だけが流れ込んでくる。

 

 上と下の二枚組。それが数セット。こう言っては悪いが飾り気もなければ色気もない、無地の白色。

 

 果たしてこれはどういうことなのか────そんな思いと共に、紙袋を開けたまま呆然とする他ないでいる僕に、依然気まずそうにアネットさんが言う。

 

「できるだけ女らしくない下着がいいって、言われたから……そういうタイプを用意したの。あ、ちなみに支払いは必要ないから」

 

 その言葉によって、この現実から逃避しかけていた僕の意識が急に引き戻される。

 

「え、いや、それは……」

 

「それとまた後日、あの子用に服も何着か渡すわ。これもお金は取らないから安心して。余ってる在庫からだし。……その代わりに、ね?一つだけ……私から一つだけ、言わせてもらえないかしら」

 

「え……?」

 

 アネットさんの態度とその言葉に、僕は困惑の声を漏らすしかない。そんな僕に、彼女が言う。

 

「あなたたちはまだ若いわ。きっと色々あるし、色々したいっていうその気持ちもわかる。理解できる。……でも、ね。どう言えばいいのかな……若さ故の過ちとでも言えばいいのかな」

 

 こちらを糾弾する訳でもなく、そして叱咤する訳でもなく。あくまでも冷静に、落ち着いた様子で。アネットさんは僕に優しげな眼差しを送りながら、だがはっきりと嗜める声音で言った。

 

 

 

「こんな真っ昼間から、野外全裸外套プレイっていうのは流石にどうかと思う」

 

 

 

 死にたい。死のう────今この日、この瞬間程。それを切に思ったことはない。


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