「強い自分」ってなんだろう。
力が強ければそうなのか。
頭が良ければそうなのか。
中学三年生の頭で思い付く「強い自分」はどこまでも陳腐で、漫画の主人公みたいな人間だった。
つまりは「夢」──人間が生きる目的だ。
どれだけ正しくても、邪でも構わないから目指す目標に向かって、「夢」を燃やして一心不乱に突き進む。
人が強くなるのはきっとそう言う時なんだと思う。
そうやって強くなろうとする人はきっと誰よりも輝いて、人生の醍醐味を味わっているに違いない。
そんでもってこの世界で生きる誰もが輝くチャンスを掴みたがっている。
「夢」を持った人は強いから。
「夢」を持った人は挑む事が出来るから。
でも、皆が皆「夢」を持っているかと言われればそうじゃない。
だって明日の事まで考えて生きられるヤツなんて、そんなに多くないだろうから。
町を行き交うサラリーマンの何割かは単なる惰性で働いてるだろうし、学生の半分位は今日を楽しく生きる事しか考えてない筈だ。
別にそれが悪い事だとは思わない。
だって僕も「夢」が見つからないから。
スポーツをやっても、勉強に励んでも、娯楽に耽っても、何にも得られなかった。
折角入った部活はすぐに止めちゃったし、習い事なんてのも長続きしない、無気力人間としか言いようがない有り様だ。
挙げ句の果てに、今年で受験だってのに志望校すら決まっちゃいない。
まあ、端的に言えば僕は思春期特有の「フクザツな時期」とやらに突入していた。
だけど、僕はどうにかしてその状況から抜け出さなきゃいけない。
だってそうだろ?
ただ飯食って学校行って寝るだけの人間に何の意味があるんだ。
親に心配かけさせて、別に裕福って訳でもないのに金使わせて。
これが、これが僕か。
ただの無能じゃないか。
ホントにこんなんで良いのか。
これが────いや、今は止めておこう。
愚痴った所でどうにかなる話じゃないし、「夢」は自分で見付けなきゃならない。
大体僕の志望校なんて今言いたい事には全く以て無関係なんだし。
さて。
何でこんな回りくどい、しかも面白くない自分語りをしているのかと言えば────
目の前で車に轢かれようとしている同級生を見たときどうすべきなのか、と言う話だよ。
いつも通り、何でもない1日だった。
死ぬほどつまらない数学の授業をどうにか乗り越え、のんびりと気が赴くままに寄り道しながら帰宅しよう。
そんな風に頭を空っぽにしながら横断歩道を渡ろうとした、その時の事だった。
兎に角運が悪かった、の一言に尽きている。
ただソイツ──隣のクラスの女の子は急いでいて、車の運転手は持病でも悪化して意識が無かったのだろう。
だから信号が変わっていの一番に飛び出した
僕はただバカみたいに口を開けたまま、ソイツがぺしゃんこになるのを成す術もなく見ているだけだった。
普通は、そうだよな。
でも、何故か僕は動けた。
他の誰も動けない中で、自分だけが
全く、何も考えていなかったんだ。
ただ荷物も全部放り投げて、ソイツを車の進路から突き飛ばして──そんで代わりにぺしゃんこになっちゃった訳だ。
……恥ずかしいけどさ。
僕は「キミ」に一目惚れしちゃったのかもね。
「キミ」はLinkSのニューアルバムを買いに行こうとしてたから、あんなに急いでたんだろ。
それで誰よりも早く、誰よりも前へ踏み出した「キミ」が何だか眩しかったんだ。
「キミ」以外が踏み出してたらその子に惚れてたのかもしれないけど、あの時踏み出したのは間違いなく「キミ」だ。
だから「キミ」と話してみたい。「キミ」の隣に立ってみたい。「キミ」の好きな音楽を聴いてみたい。そんな思いがぼくの足を勝手に動かしたって事。
自分でも言ってて恥ずかしいけど、これが愛の為せる業ってヤツじゃないかな。
それから両足がへし折れて病院に担ぎ込まれたワケだけど、「キミ」はよく見舞いに来てくれたね。
しかも殆ど毎日、授業のノートだって見せてくれると来たらもう薔薇色の入院生活だったよ、正直。
……まあ、「キミ」が
今なら信じられる。
「キミ」は魔法少女ってヤツなんだろ。
僕に顔向け出来ないとかそんな感じの事を考えてたから、ももこさん──友達に変身してた。違うか?
いや、別に責めようとしてる訳じゃないんだ。
さっき教えてくれたから別に構わないし、実は「キミ」が隣にいてくれたと思えばクソつまらない病室だって天国だ。
まあ兎に角、僕は「キミ」に救われたんだよ。
LinkSに嵌まったのも「キミ」が教えてくれたからだし、多分人生で一番楽しかった。
物理的にはクソ雑魚ナメクジもいい所だけど、多分精神的には「最強」だった。
超強かった。
だから。
だから教えてよ、
「キミはどうして『木漏れ日の小屋』の20食限定プリンを毎日持ってくるんだい?」
「強い自分」って何?
頭が良い人とか運動神経が良い人とかは一杯いるけど、多分それだけじゃない。
それで足りるんだったら、皆もっと強い筈。
足りない何かを探しているからホントは弱いの。
レナだってその1人。
すぐイライラする自分が嫌い。
感情を上手く表現出来ない自分が嫌い。
感謝をちゃんと伝えられない自分が大嫌い。
それを全部分かっていながら、変えられない自分が1番嫌い。
どこまでもひねくれたまま、無為に今日を生きているのがやるせないってワケ。
レナは弱いって、ずっと前から分かってる。
レナを傷付けるモノなんて思ってるよりずっと少なくて、人の温かさが外にはあると知ってるのに自分の殻に閉じ籠って、意味も無く隙間から外を窺っているだけの意気地無し。
思ったままを伝える事すら出来ないのがレナの「弱さ」。
だからそう。
多分、「素直な人」が強い人。
自分を偽らずに、思うがままに生きられる人がホントの強さを持ってる。
レナがどれだけ手を伸ばしても、絶対に届かない強さを、皆は探している。
皆、途中で足を止めてしまったレナとは違うの。
……別に、キュゥべえと契約した事に後悔なんてしていない。
実際、他人に
言いたい事を言うべき時に言える。
誰かを傷つけずに会話出来る。
魔法ってホント最高!
ゲーセンの機械に当たるよりずっと健全で、普段抱えているもどかしさを吐き出すにもピッタリだった。
そしてだからこそ、レナ自身の浅ましさが際立つの。
誰かの心の余裕に触れる度に、その器の大きさを妬んだ。
誰かの優しさに触れる度に、それを持てない自分を恨んだ。
そんなレナが益々嫌になって、消えてしまいたくなっちゃう。
……何よ、文句あんの?
無いならもう少し黙って聞いてて。
正直、レナはアンタがとっても羨ましかった。
レナを突き飛ばしたのも咄嗟の行動って言ってたけど、それって余計な打算とかが一切無かったって事でしょ?
知りたかったの、何でアンタがそんなに強いのか。
知りたかったの、何で素直にいられるのか。
それで、それで────
それだけ。
結局レナは「レナとして」会いに行く事すら怖がった意気地無し。
態々助けてくれたアンタがレナを傷付けるなんて有り得ないのに、その「もしも」が頭の中を過っちゃった。
アンタの見舞いに態々ももこの姿を借りて行ったのもそれが理由──我ながら、人としてどうかしてるわ。
けど、それもここまで。
弱いレナは今日で終わりにしてみせる。
自分が嫌いなレナに
だから、教えなさいよ。
「アンタなんで毎日LinkSのCD爆音で流しながら待ち受けてんの?」
「キ、キミなぁ……!このプリンすっごい並ぶヤツだろっ!そんな事しなくたって何でも答えるから止めてくれよぉっ!」
「はあ……!?な、何よ!要らないって訳!?折角2時間も並んだのにぃ!」
「要らないなんて言ってないだろ!腐らせると良くないから冷蔵庫に詰めとくよ!ありがとなぁ!」
「そう、そうよ!感謝して有り難く食べれば──って違う!今日こそ強さの秘訣、聞かせてもらうから!」
「だから知らないって!」
神浜市は新西区、総合病院里見メディカルセンターの一室で、
この極めて品性に欠ける口喧嘩は、ここ1ヶ月ほぼ毎日の事である。
「だっ……大体此処病院なのよ!?こんなバカみたいな音量でCD流すとか信じらんない!」
「隣室の人の許可は取ってますぅー!キミこそ頭固すぎるんじゃないのか!もっとバカになれよバカに!」
しかしながら行き交う患者も、医療関係者もそれに気を留める事はない。
病院生活が無機質で退屈が故に、誰もが刺激を求めているのだ。
故に野次馬こそあれど止めようとする者は誰1人としていない。
最早少年少女の喧嘩は病院名物と化していた。
「バカって何よバカって!言い方って物があるでしょうがこのバカ!」
「はぁ!?バカって言ったのはキミが先だろこの中途半端バカ!それに美人なんだからその無駄な自己嫌悪止めろってずぅぅぅぅっと言ってんだろバーカ!」
「────ッ!この能天気バカ!お人好しバカ!バカバカバーカっ!」
仮にも中学3年生がこの物言いである。
しかしこのルール無用、論理無用の時間無制限デスマッチを誰もが止めようとしない理由がもう1つあった。
「バカって言った方がバカなんだからもっとバカになれよ!ほら!もっと!」
「バカになったら素直になれるって言いたいのこのバカ!レナはアンタ程単純じゃないもん!」
「あーそうだな!お前他人思いだけど上手く伝えらんないだけの引っ込み思案バカだもんなぁ!もっと素直バカになれば可愛いのになぁ!」
「は、はぁ!?アンタに可愛いとか言われても嬉しくないんだけど!」
「だぁから素直になればって言ってんだろうがこのバカ!」
「だからその方法を教えなさいっつってんでしょうがこのバカ!」
このように貶すように見せて互いを褒めちぎっている辺り、もう誰もが
だから止めない。ただ見守るだけなのだ。それは今この瞬間を逃したら2度と戻ってこない、そして誰もが知っている「答え」だから。
「ハイそこまでぇ!この場はアタシが預かった!」
「も、ももこ!?」
「ももこさん!?」
スパァン、と勢い良く扉を開けた金髪少女──十咎ももこすらその「答え」を知る1人である。
そう、それは明日の命も分からない患者にとって、今日の命を痛感させる活力だった。
それはただ流れる日々に退屈を持て余す患者にぶちこまれた劇薬だった。
それは夢見る明日を失った人に、僅かな希望をお裾分けする騒音だった。
即ち──────
「ホントお前ら青春してるなぁ!」
──学生の特権、青春である。
続きます。
普段は重苦しいのばっかり書いているのでたまには明るい作風に挑戦してみようと思い投稿させて頂きました。
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