水より深く青に飛べ   作:イナバの書き置き

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続きました。


超激烈告白合戦

「……あのさ、1つ良い?」

「……何?」

 

 青髪少女──水波レナの質問を受けた少年の瞳が、スッと持ち上がった。

 蓄積した疲労を滲ませる黒い瞳が、レナの碧眼を真っ直ぐに貫く。

 

 

 

 

 

「──アンタ何でこんなにバカなの?」

「止めてくれないか……」

 

 里見メディカルセンターの一室、ベッドテーブル越しに対面する少年は羞恥から頭を抱えた。

 この少年は別に秀才と言う訳ではない。寧ろ毎日を流されるまま過ごしていたので、精々平均点を少し越える程度の学力しか持たないのである。

 しかも数学。よりにもよって数学である。

 少年は昔から数学が大嫌いだ。

「四則演算出来れば生活は問題ないんだし良いじゃん」とか「因数は分解すんな。そっとしておけ」とか真顔で宣う位に数学が苦手なのだ。

 加えて今回の事故で入院した事により、学校の授業から置いていかれるのは最早不可避と言えよう。

 

「もうちょっと言葉を選んでくれ、頼むから……」

「どれだけ言葉を捻っても現実は変わらないわ。諦めてキリキリ解きなさいよ」

 

 別にそれだけなら構わなかった。

 元からどうしようもない科目が更にどうしようもなくなるだけで、さしたる問題ではない。

 だが少年にとって真に不運だったのは、レナの存在である。このツンツン不器用少女は本人が思うよりずっと面倒見が良いのだ。

 共働きの両親に代わって弟の世話を焼く事が多い彼女はその経験を存分に生かし、ややスパルタに思える程熱心に勉強を教えているのである。

 面倒臭がりな少年にとっては、その善意が拷問に等しい。

 

「アンタね、いくらウチがエスカレーター式だからって油断して良いって話にはならないでしょうが」

「ハイ……本当に仰る通りです……」

 

 正論の槍が少年に突き刺さる。

 神浜市立大附属学校は名前からも分かる通り附属校だ。小学校から大学まで一貫なのだから、1度合格してしまえば後は遊んでいても構わない──そんな弛んだ空気が何処かに存在するのは事実である。

 そしてレナは、弛んだ空気にどっぷりと浸かったふやけ少年を引き摺り出す事に決めているのだ。

 最早少年の救いは机の端で「辻斬り☆プリンセス」を垂れ流すCDプレーヤーだけだった。

 

「アンタが退学でもしたら、素直になれる秘密が聞けないじゃない。もっと頑張りなさい」

「……オカンか」

「──何か言った?」

 

 正論の鞭で打ちのめされた少年は思わず心の内を漏らしてしまった。

 そしてそれを聞き逃すレナではない。

 絶対零度の目線を少年に送るが──

 

「いや、包容力があるなと思って。説明も分かりやすいしなぁ」

「な、なによ急に。気持ち悪い!そんな事を言ってもレナは優しくなんてしないわ!」

「何だよ、褒めちゃいけないのか?それなら撤回するけ──」

「──褒めるな、なんてレナは言ってないじゃない」

 

 チョロい。圧倒的にチョロい。

 昨今のラノベヒロイン等目じゃない位のチョロさである。

 これもレナの自己肯定感の低さ故か、兎に角少しでも褒められるだけで目に見えて機嫌が良くなるのだ。

 少年とてそれが分からない訳ではなかったし、寧ろそう言う所が可愛いとすら思っている。

 そしてこのやり取りが漫才染みているが故に病院名物へと昇華されてしまったのだが──

 

「一応中三なんだから、手を抜くのは止めとくのね──と言うよりレナの目が黒い内は赤点なんて取らせないわよ!」

 

 ──しかしその賛辞が少年の受難を加速させた。

 少年がどれだけ泣こうが喚こうが真っ当な生徒に更正させて見せる、と明後日の方向に不退転の決意を抱きつつ上機嫌なレナは机に広げた問題集へと向き直ってしまったのだ。

 

 

 

 このポンコツ少年が数学から逃れる術など、最早何一つとして残されていなかった。

 

 

 

■■■

 

 

 

 レナはどうしても素直になれない。

 思った言葉を口に出せない。

 楽しい事も、悲しい事も、感謝の1つさえちゃんと伝えられないわ。

 ホントはアンタがLinkSに嵌まってくれたのも叫びたくなる位嬉しいのに、レナの口は思ってもいない罵詈雑言を吐き出しちゃう。

 それもまた、今日で終わらせたい。

 

「ほら、後半分じゃない。やっぱりちゃんとやれば出来るんだから、普段から予習復習位したらいいのに……」

「おー、そうだな……」

 

 レナはただ頭が良ければ強い人間だなんて思っていない。

 人の心の有り様が強さを決める。

 より素直な、より誠実な人が強い──だからそうじゃないレナは弱い。

 この理屈がレナを突き動かす道理なの。

 この因数分解を前にウンウン唸っている冴えないアンタが何故強さを持っているのか。

 何故アンタは「レナを助ける為だけ」に動けたのか。

 

「大丈夫よ。レナが付いてる以上赤点なんて絶対取らせないわ」

「マジで助かるよ……」

 

 知りたい。レナは全てを知りたい。

 アンタの強さを知ればきっと強くなれる。素直になって伝えたい事をちゃんと伝えられるようになる。

 そうすればきっと()()()()()()()()()()から。

 あの日、初めて見舞いに行った時から未だに口に出せていない「ありがとう」の一言を伝える為に、レナは此処にいるの。

 

「あのさ」

「……何よ」

 

 そうしてレナが1人感傷に浸っていると、不意にアンタが口を開いた。

 普段の抜けた表情ではない、真剣そのものな面持ちにドキリとしちゃう。

 

「いや、ホントに普段から助けられてるなって。学校での友達付き合いとかもあるだろうに、毎日来てくれてさ」

「別に、今に始まった事じゃないでしょ」

「いやまあ、それでもさ────」

 

 ぎこちなく切り出したアンタの言葉を直ぐに遮る。

 これはレナの自己満足。償いだとか言い繕っても、結局は自分の欲求のまま動いているだけ。

「強い自分」を持っている人に執着して、「あわよくばレナもそうなれたら」なんて浅ましい事ばっかり考えてるの。

 なのに、なのに────

 

 

「ありがとな、ホント」

「……ッ!」

 

 ズルい。

 ズル過ぎる。

 アンタの言葉はレナの頭をどろどろに蕩かしちゃう。

 たった一言で意識して顔を引き締めていないとニヤケそうになるとか、ホントバカみたい。

 だけど、だけど心地良い。

 

「き、急に感謝されたって何も出ないわよ……!」

「良いだろ別に。色々助けられてるのは事実なんだからさ」

「──っ!」

 

 ホントに、ホントにコイツは! 

 レナがどれだけ願っても、悩んでも出来ない事がなんでアンタには出来ちゃうの? 

 色々と抜けてるし、目立つワケでもないし、それで、それで────

 

「ね、ねぇ……」

「ん、なに?」

 

 レナを救ってくれた人。

 レナに道標を教えてくれる人。

 レナの憧れ。

 そしてレナは恩人から「強さ」を搾り取ろうとする卑怯者。

 正直、レナは自分が嫌になりそうよ。

 

「その、何でレナを助けてくれたの?同級生って言っても、話した事すら無かったじゃない」

「……急にどしたの?」

「いいから、答えて」

 

 いきなりこんな事を聞かれたらそりゃ困惑するでしょうね。

 でも、レナはアンタ程実直になれない。

 なりたい、と思ってるだけで1歩踏み出せない臆病者。

 だから、たった一言「ありがとう」が言えないレナを許して──なんて甘すぎるけど、もうちょっと待って欲しい。

 

「ああ、まあ、うん──────」

 

 耳を澄まして、アンタの答えを待つ。

 

 そう、アンタの「強さ」の本質はレナを突き飛ばしたあの一瞬にある。

 誰にでも出来るワケじゃないその行為を、何故アンタだけが出来たのか。

 だから今、此処で教えて欲しいの。

 それで全て終わらせられる。

 後ろめたさを抱えたまま病室の扉を叩く必要も無くなる。

 心の底から感謝を伝えられる────! 

 

 

 

 

 

「一目惚れかな」

 

 一目惚れ。

 ひとめぼれ。

 ひとめ、ぼれ────────? 

 

 

 

■■■

 

 

 

「なぁッ!?ひ、ひひひ一目惚れぇッ!?」

「そうだけど、悪いか」

「悪いわよ!」

 

 真顔で一目惚れ宣言をした少年とは対照的に、突然の羞恥に晒されたレナの頬は真っ赤に染まった。

 そして自らの醜態を秘匿すべく両手で顔を覆ったレナを他所に、少年は告白染みた宣言を続行する。

 

「キミはあの日、LinkSのニューアルバムを買うために急いでたんだよな。まあ、端的に言ってしまえばその時のキミに惚れちゃったんだ」

「ね、ねぇちょっと────」

「僕には夢中になれる『何か』が無かったから一心不乱に走るキミがカッコよくて、眩しくて」

「ちょっと待って────」

「それなのにそんなキミを車風情が妨げようってんだからいても立ってもいられなくて、ねぇ?」

「待ってってば────」

 

(な、何よこれぇ……!?)

 

 圧倒的な連撃が、少年の口から次々と繰り出される。

「勉学」から「褒めちぎり」へと土俵が変わった事で、レナの攻勢は敢えなく潰えてしまったのだ。

 だがこの自体を招いたのがレナ自身である以上、この羞恥による熱もまた自分自身で抱えるしかない。

 

(ヤバい……ヤバいヤバいヤバい!このままだと絶対にヤバい!)

 

 レナは不用意に話を切り替えてしまった事を後悔しつつ、しかしその羞恥による火照りの最中反撃を狙ってもいた。

「バカな事言ってないで、目の前の問題に集中なさいよ!」

 とでも割って入れさえすれば、まだ目の前のクサいセリフ製造機を止められる可能性はある。

 そう、切り出したのがレナであるならば、終わらせるタイミングもまたある程度はレナ次第なのだ。

 

「で、ここまでは良いかな」

「ふ、ふぅん。まあレナを助けてくれた理由は分かったわ」

「そっか、良かった……」

 

 少年は息継ぎとばかりに口撃を緩め、一度大きくため息をついた。

 レナはそれを捉えると、何故だかやたらにやける口元を引き締めながらその隙をつく──いや、つこうとしたのだ。

 そのため息が、会心の一撃の予備動作とも知らずに。

 

「それで毎日僕の好きなプリンを『偶々余ったから』とか言って差し入れてくれるのはもうホントに可愛かったよね」

「なぁ────ッ!?」

 

「なんで」「嘘でしょ」そんな疑問と驚愕がレナの脳内で爆発する。

 完璧だった筈だ。

 自然だった筈だ。

 ならばいつから、何故バレた。

 レナがどれだけの自身の記憶を辿っても、不自然な点は見当たらない。

 

「いや、バレバレだから。あんな露骨なのが分からないワケないだろ」

「嘘よぉっ!」

「なんならこの病院の大体の人が知ってると思うぞ、試しにういちゃんにでも聞いてみるか?」

 

 ──と()()()()()思い込んでいたのである。

 献身を大衆に暴露されるとは何とも不憫だが、病院と言う娯楽に乏しい環境に於いて噂や人の恋バナは光より早く駆け巡るモノだ。

 故にレナが毎日見舞いに訪れて、その度に少年が好きなプリンを差し入れている事は既に周知の事実だったのである。

 

「忘れて!今!此処で!記憶を消しなさいよ!消さないと──」

「別に腕を折ったワケでもないのに食べさせてくれたりな。アレ所謂『あーん』ってヤツで良いのかな」

「──────ッ!?」

 

 ここまで来ると、最早レナは言葉にならない悲鳴を上げるしかない。

 確かに、したのだ。

 間違いなくレナはプリンをスプーンで掬い、少年の口に運んだ経験がある。

 だがそれは初めての見舞いで気が動転していたからであり、断じて()()()()意図で行ったのではない────とレナは心の中で必死に言い訳を重ねた。

 そうでもしないと、自分を保てなくなりそうだった。

 

(違うッ!違う違う違うッ!有り得ない、絶対にこんな事は有り得ないの────)

 

「僕はレナが好きだな、LIKEじゃなくてLOVEの方で」

「アンタ正気で言ってんの!?」

 

(レナとアンタが()()()()だなんて!)

 

 これは都合の良い夢か、或いは悪質なドッキリか。

 だがレナにとってはこのどちらかであって欲しい──寧ろそうでないと自分を見失いそうだった。

 だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……急にごめん。でも、ちゃんと伝えておきたかった」

 

(レナは──)

 

 レナが「あの日」飛び出さなければ少年が轢かれる事は無かったし、こうして入院する事も無かったのだ。

 レナがいなければ。

 レナ以外だったら。

 そんな負い目がひたすらにレナを戒める。

 

「どのみち退院したら話す事は無くなると思うから、自分に嘘は吐きたくない」

 

(レナは────!)

 

 やはり少年は素直だった。

 自分の心を隠しもしない。

 そしてだからこそ絶対に頷けない。

 例えこれ程急な告白でなくても、どれだけ少年が好きでも、水波レナは頷く訳にはいかないのだ。

 

(────無理、よね)

 

 この恋心は此処まで。そして憧れは憧れのままで良い。

 いつものように自分に嘘を吐いて、それで帰って泣けば良いのだ。

 そんな己の意思を確認したレナは、明確な拒絶を突きつける為に口を開き────

 

「僕は……僕はレナが好きだ。例え出会いが交通事故でも、勉強にうるさくても、キミが大好きだ」

「はあッ────!?」

 

 確かめるように、噛み締めるように吐き出された告白に今度こそ自分を見失った。

 この少年と恋に落ちる事だけは絶対に有り得ない。

 友情までは進めても、その先は存在しない。

 その前提が根底から覆される。

 

「嘘、嘘よ。有り得ない」

「有り得なくない。何回轢かれたって僕はキミを好きになる」

「そんなの、所詮は言葉でしょ……?」

 

 水波レナは信じている。

 自分はどうしようもない弱者で、今相対している少年こそ真の強者だと。

 意気地無しの臆病者が、報われて良い筈は無いと。

 

「キミは……キミ自身が言うには『弱い人間』らしいけど、僕はそうは思わない。あの日見たキミの強さは本物だって、今でも信じてる」

「そんな事──ない」

 

 少年も信じている。

 自分こそ停滞したままの弱者で、今相対している少女こそ真の強者だと。

 夢に向かって走れるキミが、報われない筈は無いと。

 

「キミが自分を肯定出来ないなら、弱い僕が肯定したい。オンリーワンでナンバーワンの水波レナだって、誰に憚る事なく言ってやりたい。以上──」

 

 言うべき事は全て言ったと吐き捨てる少年の瞳は、やはりいつになく真剣だった。

 レナだけを見詰めていた。

 レナだけを想っていた。

 

「レナは──」

 

 レナも少年から視線を逸らさない。

 全部終わらせるなら今、この場所しかない。

 そうだ、素直になったらどうなんだ。

 建前を全て取っ払った先に残った本音は何なんだ。

 

「レナは────」

 

 口に出さずに、心の中で確かめる。

 水波レナは己を知らない。

 自分の価値にだって気付きすらしない。

 だけど考えれば──いや、考えずとも最初から答えは出ていた。

 それなら、後は声に出せ。

 思ったように、望んだままにぶつけてしまえ。

 さあ。

 さあ────

 

「レナは──────!」

 

 

 

■■■

 

 

「いやーこれでめでたしめでたし、かな?」

 

 病室の扉に背を預ながら十咎ももこは何処か嬉しそうに呟いた。

 万事上手く行った。

 ももこの想定通り、何もかもがハッピーエンドだ。

 

(レナには助けられてきたんだし、これ位は、ね)

 

 後1週間程度で少年は退院するだろう、とももこは目星を付けていたが、それまでに両者が「告白する勇気」を出すとはとても思えなかった。

 没個性と独りぼっち。

 そんな感じで妙に自己評価が低い2人はきっとなあなあで日常生活に戻って、「自分じゃ相応しくないから」なんて下らない事を考えて身を引くに決まっている。

 そんな確信めいた予感をももこは抱いていた。

 

「やっぱり、未練かもね……」

 

 自分らしくない、弱々しい本音だとももこ自身も認めていた。

 だがももこは魔法少女になってまで望んだ「告白する勇気」を、それでいて想い人に対して何の行動も起こせなかったあの悲しみをレナには感じて欲しくなかったのだ。

 勇気を出せなかったせいで。

 タイミングを逃したせいで。

 そんな事で()()()()()()大切な友人が報われないなんて、認めたくはなかった。

 

「余計なお世話だったかもしれないけど、『ちょっと応援』した甲斐はあったなぁ」

 

 握り拳の中に収まった、朱色の宝玉に視線を落とす。

 業を煮やしたももこの取った手段は「激励」の固有魔法で恋心を燻らせていた少年に発破を掛ける事だった。

 そして「告白する勇気」を得た少年は、勢いのまま即座に行動を起こしたのである。

 何もかもがももこの思惑通りに進んだ上に、「激励」が戦闘以外でも役に立つ事があると知ったももこは相当に上機嫌だった。

 

(たまには、恋のキューピットなんても悪くないかも……)

 

 そう、大分強引だった上に()()()()()しまったのか、展開はドラマチックに過ぎたが何はともあれ事は成ったのだ。

 やはり恋愛の終着点はハッピーエンドに限る。

 これで良し。万事良いのだ。

 そう1人で結論付けたももこは扉から背を離し、ゆっくりと歩きだした。

 が────

 

『──好きよ、好き。愛してる』

「ブッフォッッッ!?」

 

 突如扉を貫通した愛の囁きに、光の速さで踵を返していた。

 ただ一言でももこの予想は天井までぶち抜かれた。

 そもそもからしてももこの知る水波レナは、情熱的に愛を囁く人間ではない。

 確かに「成った」のだから、好意を表現する機会だってあるだろうが、いつも通り遠回しで屈折したモノになるだろうとももこは予想していたのだ。

 なのにこの状況はなんだ。

 甘い、甘過ぎる。

 砂糖をたっぷりまぶしたとしても、蜂蜜にどっぷり浸したとしても「こう」はなるまい。

 

『な、何か……凄い素直になるんだな』

『多分、今日だけ……明日になったら元に戻るわ。だから今言いたいの。感謝も、愛情も、全部全部伝えたい。ね、いいでしょ?』

 

(え、えぇ──っ!?レナってタガが外れるとこんな風になるのか……!)

 

 とてもレナの声帯から出た発言とは思えない直球ド真ん中の発言に、流石のももこもたじろいだ。

 あまりの甘さに如何わしい雑誌を拾ってしまったかのような、何か良からぬモノでも聞いているような気分になってしまう。

 だが「良からぬモノ」に得体の知れない魅力を感じてしまうのも、青春時代を生きる少年少女の特権である。

 

(こ、これは──AとかBとか全部すっ飛ばして最後まで行っちゃうんじゃ──!?)

 

 故にももこのお節介──いや、ピーピング・トムの血が騒いでしまうのも当然の事だ。

 こうなってしまえば居ても立っても居られない。

 

(ごめんレナ! でも、でも────)

 

 先程まで背中を預けていた扉にぴったりと耳を付けたももこは、衝動のままに盗み聞きを再開した。

 誰も咎める者などいない。

 寧ろももこ自身が咎めるべきなのだが、本来ストッパーになる筈の少女がこのザマなのだから──

 

 

 

(気になるよ──!)

 

 何とも締まらない空気が里見メディカルセンターの一角に流れていた。




続きます。
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