METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
初めのうちは頭の中は混乱でいっぱいだった。
目の前の光景が信じられなかった。
だってそうだろう、杖をつきそうなほどに老いぼれて見える老人が。
自分達ですら捌けなかった奴らの動きを、いとも簡単にのしてしまったのだから。
そして、混乱は表現のしようのない高揚感に変わった。
(この人と)
(この人と一緒なら)
(やれるかもしれない)
(この底なしの泥沼の中から)
(全員、生きて帰れるかもしれない!)
そこにいたオペレーターの全員が、今すぐにでも叫びたい衝動を必死に押さえ込んだ。
「…平気だ、起こしてくれ…!」
「応…!」
普段なら悶える痛みが、今はなんとも感じない。
「止血剤にはゆとりがあります!
皆さん無理はしないで!」
あんなにも怖かった戦場で、安心するなんて考えもしなかった。
「急げ、隊列を組み直すんだ!」
「広がれ、間隔にゆとりを持たせるぞ」
自分たちの経験が、知識が、こんなにもするすると頭に湧いてくるなんて。
「…しっかりしなさいアーミヤ…ダメなのは、私…もっと…」
(この人に、頼ってもらうために…!)
この人のためなら、自分を変えることも怖くない。
「やるぞ…」
「…おう」
「やってやる…」
((もう…この人には、誰も近づけさせない!!))
「…さて…と、仕切り直しだ」
ジョンは襟の乱れを正してメフィストに向きなおる。
もう後ろを振り返るものはいない。
全てのオペレーターがジョンの指示を聞き逃さまいと、インカムに全神経を集中させていた。
「では諸君…全力で」
全員が固唾を飲んでその指示に耳を傾ける。
「逃げるぞ!」
…
「「「…え?」」」
「…はあ?」
メフィストは心の底から驚愕の声を出した。
それはロドスのオペレーター達も同じだった。
そうこうしている間に、ジョンは1人で大通りを駆けて行ってしまう。
「「「なんで!?」」」
「なんでもクソもあるか、逃げるんだよ!ほれ走れ!
重装隊はしっかりケツを守るんだ!」
「ど、ドクター!?」
「アーミヤ、君も急げ!ほら!」
アルファ部隊は混乱しながらもジョンの指示に従い、大通りを猛ダッシュで駆けていく。
土煙の舞う中、メフィストはただ1人そこに残され、しばらくの間、アングリと口を開けて立ちすくんでいた。
そのうち、物陰から1人のレユニオンがおずおずと現れ、メフィストに近づいていく。
「メフィスト様…奴らを追わなくてよろしいのですか」
「…ハハ」
「…メフィスト様?」
「ハハ、ハハハハハッ!!」
メフィストは腹を抱えて笑い出す。
「ハハハハハ!!…あ、あれがロドスか!資料の情報なんてやっぱりあてにならないなあ!!
すごい、すごい興味深いな!なあ!
試験管と睨めっこしてるだけの奴らにはできない芸当だ!そうだ!なあ!?アハハハハ!」
「…」
「ハハハハッ………僕の失態だな…」
だんだんとメフィストの周囲にレユニオンの兵士たちが集まっていく。
それは大通りを埋め尽くし、メフィストの後ろには数百人のレユニオン兵士達が集結した。
「…あの老いぼれの正体が気になっていたけど、もうやめだ。
…ああ、やめだ…遊んでやるのはここまでだ」
メフィストは髪をかき上げ、まだあどけなさの残る瞳を、獣のそれに変えた。
「勝ち逃げは許さないぞぉ…ロドスッ…!」
…
「ドクター!ドクター!」
「アーミヤ、今は走れ!
今はただ西端を目指す勢いで走れ!」
「な…いや…説明を…説明をしてくだしゃい!」
「走りながら喋るな!舌を噛むぞ!」
「ドクター!奴ら…奴ら追ってきません!」
「いやダメだ!いいから走り続けろ!
重装オペレーターは!?」
『まだなんとか…ついて…行ってます…はひィ…!』
「男が情けない声を出すな!」
『す、ずみません!』
「ACE、しっかり引っ張ってくるんだ、1人も置いていくなよ!」
『…全く、手厳しいな。さあシャキッと走れお前ら!』
「…もう少しだな」
ジョンはそう言って、フレアガンを手に持つ。
「…はあ…ふう…!
…ドクター、それは…」
「曲がるぞ、全体右の通りへ!!」
ジョンは大通りから外れ、右の通りへ入り込む。
「おわわ!?」
「ドクター!そっちは作戦とはちが…!」
「小隊…この先の広場で防御陣形を作るぞ、準備しておけ」
「…は?
は、はい!了解です!」
全員が曲がり切った直後、砲撃のような衝撃が大通りに走る。
「な、なんだ!?」
「アーツ!?…いえ、違う…あれは…」
「構うな、今立ち止まればあれを背中に喰らうことになるぞ」
ACEが負傷した重装オペレーターを担ぎながら通路へオペレーターを誘導する。
「り、了解!みんな急げ!」
オペレーター達は後ろを振り返ることなく、ただ一心に道を走り続けた。
その終着、一行は建物が崩落して袋小路になった広場にたどり着く。
「い、行き止まり!?」
「そんな…道が…」
「ドクター!」
「…陣形をくめ、重装オペレーターを先頭に、前衛は両翼を固めるんだ。
狙撃小隊は半壊した建物の中に潜んでいろ。
あとの者は中央の術師隊を守るんだ」
ジョンはただ、自分たちが走ってきた道の先を見つめる。
「…!」
オペレーター達は迅速に指示通りの配置につく。
その心に一抹の不安を抱きながらも、今はただ信じるしかないとそれを切り捨てながら。
…広場に、少年の声が響き渡る。
「…あっはあ……おいおい、なんだか拍子抜けだなあ…。
ここが君たちの終着点なのかい?」
通路の向こうから、先ほどとは違うオーラを纏った少年が現れる。
「せっかく遊ばず、真面目に仕事をしようと思ったのに…これかい?
ああ、つまらない…つまらないよ、これじゃあ」
メフィストが高く手をあげる。
その後ろから大勢の異形混じりのレユニオン兵士が続々と現れる。
「すぐに終幕だ…僕を煽るだけ煽っておいてこれはないんじゃないかな…ロドス」
「おいおい、それは早合点もいいところだぞメフィスト…悪魔がそう簡単に楽しみを逃していいのか?」
「…あは…やっぱりお前、面白いよ…これ以上何を用意してくれるっていうんだい?
僕はもう、ナイフとフォークを手に持って、あとは晩餐を平らげるだけ、だよ」
「…それは残念だったな、そのナイフとフォークはちゃんと使えるやつか?」
「…何?」
直後、ジョンの手から青い光弾が上空に放たれる。
「…なんだ、それは?」
「ちょっとした花火だ、楽しんでくれ」
…
「…!ベルトはしたな!合図だ、いけ!」
大通りに一台の大型輸送車両が止まっている。
荷台のドーベルマンが運転席の屋根を叩き、オペレーターに発進を促す。
猛スピードで走っていく車両の前に、今まさにジョン達を襲うべく通路に向かおうとしているレユニオンの一団が現れる。
「うわ!ドーベルマンさん!前方に敵集団!」
「構うな突っ込め!」
轟音をあげながら突っ込んでくる輸送車両を前に混乱するレユニオン兵士たち。
車両はそんなことはお構いなしに通路へと突っ込んでいく。
「ハンドルを…回せえッ!」
ドーベルマンはどうにか荷台にしがみつきながら指示を出す。
「ウギギギ!!」
オペレーターはハンドルを猛回転させ、ハンドブレーキを切る。
遠心力で荷台をまるで振り子のように振り回し、叩きつけるように通路の入り口を塞ぐ。
土煙を上げ、通路は半分崩壊し、うず高い瓦礫の山は壁となって通路を封鎖した。
メフィストの兵士のほとんどを大通りに取り残す形で。
…
通路入り口の轟音は広場まで響いていた。
地面の振動に身を震わせながら、メフィストは禍々しい微笑みをジョンに向ける。
「…最高だよ、まだ前菜は終わってないってわけだ」
「…楽しんでくれたなら、幸いだ」