METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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怪物

ニアールはジョンの肩を借りつつ、形の歪んだ盾を手に立ち上がった。

 

「…実を言うとな、本当にもうあれでネタ切れだったんだ。

…君が来てくれて助かった」

 

ジョンが二アールの耳に口を近づけ、小さな声で呟く。

 

「…それはいいことを聞いた。

走ってきた甲斐があったと言うものだ」

 

二アールはそう言うと額に汗の珠を作りながら笑った。

 

 

「…写真を一緒にお願いできませんか?」

 

 

「…マザーベースが…マザーベースが燃…」

 

『…彼は…彼は医者…』

 

『…達が……ボスだ…』

 

「…ボス…アウターヘブンが…」

 

 

突如として、鮮明な映像とともに強烈な頭痛がジョンを襲う。

 

「…ッグ!…アアぁ…!」

 

「ドクター!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

二アールの肩を支えたまま、ぐらりとよろめくジョンの体をアーミヤとオペレーター達が支える。

 

「…問題ない…少し、頭痛がしただけだ…」

 

「…ドクター…少し無理をしすぎでは…」

 

「いや、平気だ…」

 

そういってジョンは体をどうにか両足で支え、呆然とした様子で爆煙を上げ、崩壊するビルを見ていたメフィストを見る。

 

「…終わりだな」

 

「…ダメだ…そんな…ファウスト…ああ…」

 

「…お前は、殺しすぎた…兵士も…市民も…」

 

「…ッ!!殺さなきゃッ!守れないんだよッ!!自分を!友達もッ!!」

 

「そうしてしまったなら、どういう結末になるか、わかっていただろう」

 

「うるさい!黙れ!…認めるものか、こんな…こんな終わり方…こんな場所で…!」

 

髪をかきむしりながら禍々しい瞳を歪め、睨むメフィスト。

凄まじい勢いで腕を振り上げると、その周囲にいた兵士達が得物を構えて唸り出す。

 

「…お前だけは…お前だけは…殺させてくれよ…」

 

メフィスト達の動きを察知したロドスのオペレーター達がジョンの周りに集結し、守りを固める。

周囲の建物の屋上に配置されている狙撃、術師オペレーターのそれぞれが得物を構え、レユニオンの兵士たちに照準を、狙いを定める。

 

「…全隊…目標を」

 

ジョンが小さく、だがよく通る声音で命令を発しようとしたその時。

 

周囲は炎に包まれた。

 

それは広場の中央に降り立った。

ただ無造作に、ちょっとした段差を飛び越えたかのような動きでそこに立つ。

ロドスの兵士たちは重装オペレーターの盾に、半壊した建物の壁に、屋上の縁に身を隠しながらも、眼球を蒸発させるような熱に思わず身を屈めた。

それはまさに、炎そのものの具現化だった。

 

「…」

 

やがて、その熱が収まっても、ロドスは誰も声を上げることはなかった。

ただ、そこにいる者に目を奪われていた。

全ての人間が驚愕と恐怖の視線をその者に向ける中、1人だけ、慈悲を乞うように羨望の眼差しを向けるものがいた。

 

「…タルラ…」

 

漏れ出すようにメフィストの口から発せられた言葉に反応するように、女はメフィストに向かって歩き出した。

 

「遊びすぎだ、メフィスト」

 

子供のいたずらを叱る教師のような口調。

女はメフィストの腕を無造作に取ると、乱暴に起き上がらせる。

 

「…フ…ファウストが…」

 

「奴なら大事ない、すでに後方に退去させている…失態だな、なんだその様は」

 

「…ご、ゴメン…なさい…」

 

先ほどまでの狂乱ぶりが嘘のように縮こまったメフィスト。

その様子を見て女は流れるような動き踵を返すとジョン達に向きなおる。

 

「ロドス、大したものだ。

メフィストをここまで追い込んだのはお前達が初めて…少し興味が湧いたな」

 

女は悠然と、散歩でもするかのように一歩、一歩とジョン達に向かって歩みを進める。

 

「タルラ…タルラと言いましたか…?」

 

アーミヤが青ざめた顔で女を見て呟く。

 

「…そんな…ありえない」

 

「ど、クター!」

 

二アールがジョンの肩から離れると女、タルラを睨みつける。

 

「…あれは…あれはまずい…あれを近づけるな…!」

 

「…」

 

ジョンはタルラの視線から目が離せずにいた。

淀みのそこに、澄んだ水が溜まったような鈍色の瞳。

それはただ真っ直ぐにジョンの目を射抜いていた。

 

「鉄と硫黄の燃える匂い…これはあれから発せられているのか…」

 

二アールは盾を握る手の汗に不快感を覚える。

 

「タルラ…レユニオンの暴君…」

 

アーミヤが漏れ出したかのように女の名前を口にする。

 

「あれがレユニオンの最高指揮官だと…!?

たった1人で何を…」

 

慌ててACEが盾を構え直し、額に冷や汗を流す。

 

「止まれ!それ以上近づけば攻撃する!」

 

ACEが腕を振り上げ、半壊した商店に潜む狙撃オペレーター達の指に緊張が走る。

 

「蛮勇だな、やってみるといい」

 

ACEはタルラの余裕の表情に悪寒を覚える。

 

「狙撃隊、こうげ…!」

 

「全隊、攻撃開始!」

 

ACEの命令の続きを待たずに、アーミヤが叫んだ。

 

直後、周囲を取り囲む建物から、一斉にタルラに狙撃とアーツが降りかかる。

しかし。

 

「いや、さすがにこれは鬱陶しいな…」

 

タルラの腕の亀裂が怪しく発光し、その周囲に赤い爆発が円状に放たれる。

その爆炎は降りかかるアーツの束を軽く粉砕し、矢を燃やし尽くした。

衝撃は周囲の建物を揺らし、壁の一部を粉砕し、屋上に居たオペレーター数人を宙に舞い上げた。

 

「…この程度か?」

 

タルラは何事もなかったように歩みを続ける。

その間もジョンへの視線は外さぬままに。

しかし、その間に1人の少女が間に入った。

両の手を大きく開いて。

 

「…させません!」

 

「…」

 

タルラは眉を潜めると、右手を真っ直ぐにアーミヤに対してかざした。

再びタルラの周囲に爆炎が発生し、それは圧縮されるようにタルラの右手に集束する。

前列の重装オペレーター達に緊張が走る。

 

「アーミヤ、やめるんだ」

 

ジョンはアーミヤの肩に手を置き、諭すように語りかける。

 

「ダメです!ドクターには、ドクターには手は出させません!」

 

「彼女はどうやら私に用があるらしい」

 

「だからこそです!」

 

「…アーミヤ」

 

「…」

 

アーミヤの瞳に涙がにじむ。

大きく広げられた手をゆっくりと下すと、アーミヤはジョンの隣に立った。

タルラはその様子を見て右手を下ろす、と同時に集束していた熱が周囲に消えていった。

 

「…私をみると大抵のものは瞳に恐怖をにじませる。

お前はそうではないようだな」

 

「炎には縁があるものでな、用件を聞こう」

 

「…この大きな流れの中に、小枝が一本突き立っていたので様子を見にくれば…なるほど、これは…。

…いかにも刺々しい…」

 

「詩的だな、あいにく実用書にしか興味はない、趣味は合わなそうだ」

 

「…無謀な勇気だけでは嵐を止めることはできない。

お前達には同胞殺しの報いを受けてもらう…そう思っていた、ロドス」

 

「…というと?」

 

「お前…そう、お前だ…お前に興味が湧いた…非感染者の老いぼれ」

 

「…!?」

 

再び間に入ろうとするアーミヤを、ジョンは肩を押さえて静止する。

 

「ほう、この老いらくに何を?」

 

「…その目だ…その目で…幾つの死を見届けた?」

 

「長く生きていれば人の死を見送ることもある」

 

「…そうじゃない…そうじゃない。

…その目は…死を命じる者の目だ…」

 

ジョンの眉間に深いシワが寄る。

 

「生かすも殺すも…己の一存で決めてきた者の目だ…。

敵も…味方も…その目で見送ってきた…違うか?」

 

「…」

 

「一体何人死地に追いやった…?

私の抱える指揮官達にも…お前程の目を持ったものはいない…。

なあ…私の目はお前にはどううつる?」

 

「…」

 

ジョンはタルラの見開かれた目に己の姿を移す。

そこには。

 

 

「指示を与えてくれ、ビッグボス」

 

「さすが勝利のボス!」

 

「ボス、危ない!」

 

「…ボスを…まもれ…ッ!」

 

「ボス…あなたのもとで…私は」

 

「…ボス…」

 

「あなたは…生きて…」

 

 

「…蛇は…1人でいい」

 

 

今までの頭痛には比べ物にならない痛みがジョンを襲う。

 

「…ッが!…あ、ああ…!が…あ!?」

 

「ドクター!?」

 

アーミヤが我を失ったように身をくねらせるジョンの体を支える。

 

「…目の奥に見たのは…なんだ…教えてくれ…」

 

タルラはゆるい笑みを浮かべながらその歩調を早める。

花を愛でるようにゆるりと開かれた右手を、ジョンに差し出しながら。

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