METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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犠牲

「これは…なにがどうなって…」

 

行動予備隊に救助され、その面々とともに脇道から半壊した商店へと辿り着いたドーベルマン。

そこには目を疑うような光景が繰り広げられていた。

 

「あいつは…レユニオンの…!?」

 

「ドーベルマン隊長!?」

 

狙撃オペレーターが驚きに声を上げる。

 

「…止めろ、あいつを止めろ!!」

 

ドーベルマンが叫ぶ。

直後、半壊した商店の中から、建物の屋上から、防御陣の中から。

大量の矢とアーツが飛び出し、タルラに降りかかる。

 

「…ハハ」

 

タルラはそれを片手に爆炎を集約させ、振り払うことで薙いだ。

そのまま速い歩調でジョンの元へと向かっていく。

 

「…タルラが…笑ってる」

 

メフィストが信じられないものを見る目でタルラを見る。

ドーベルマンは商店を飛び出し、隊列に入り込んで指示を飛ばし始める。

 

「もっと矢を、アーツを!あいつに撃ち込め!

あの怪物をこれ以上近づける…」

 

「…うるさいな」

 

タルラは素早い動きで右手を前に差し出すと、一瞬にして爆炎を集束。

まるで大気に燃え落ちる星のように、強烈な熱の光線が、前線で指揮をとり始めたドーベルマンに放たれる。

 

「………!?」

 

ドーベルマンの視界が一気に明るくなった。

光の隅にうっすら映るのは、衝撃に吹き飛ばされるオペレーター達。

光はその間を縫うように、真っ直ぐドーベルマンに向かっていく。

目を瞑る暇もない。

 

「…ぬ、おおお!!!」

 

間に割って入る影があった。

それは両の手で盾を掴み、ドーベルマンと光線の間に入る。

 

「…ニア…!?」

 

直後、アーツとアーツの強力な力の相殺で凄まじい衝撃波が発生する。

浮遊感と硬い感覚。

 

「…う、おおお!!

…だ、大丈夫ですか!?教官!!」

 

前衛オペレーター達に支えられたドーベルマンが腹部の重い鈍痛と重量感に目を覚ます。

 

「……ッあ!?

…あ、ああ!そんな…!おい、おいニアール!」

 

そこにはぐったりとして動かないニアールが、ドーベルマンを庇い倒れていた。

 

「… え………まさか…!

…治療オペレーター!早くきてくれぇッ!!

オペレーター複数名が重傷!!

…に、ニアール隊長が!…ニアールさんが!!」

 

前衛オペレーターが泣き出しそうな声で叫ぶ。

その様子を見て、タルラは足を止めた。

 

「ほう、なかなかどうして…」

 

ジョンに向けられていた瞳をニアールに向け、微笑む。

無線を聞いた治療オペレーターが複数人、隊の後列から救護に向かってくる。

 

「急いで!けが人を中に引き入れて!」

 

「…大丈夫、かすっただけだ…まだやれる…!俺の…俺の盾は…」

 

「ああ、ここに……ッァ!?」

 

盾を拾い上げた前衛オペレーターのグローブが煙を上げる。

 

「…そんな…嘘だろ」

 

重装オペレーターの中に戦慄が走る。

吹き飛んだ重装オペレーターの持っていた盾、それが赤熱し、融解していた。

 

「た、盾が…」

 

「見るな」

 

「ACE隊長…」

 

「俺たちが崩れれば隊の連中は丸裸だ」

 

「ですが…あれは…あれは本当にアーツなんですか…?」

 

「びびるな…俺たちは根性だけが取り柄だろうが、シャキッと前を向いて立て」

 

「……はい…!」

 

「全近接オペレーター!…止まらないようなら次は俺達だ、気合を入れろ」

 

『『『了解!』』』

 

重装オペレーター達は覚悟を決め、盾を持つ手に力を込める。

前衛オペレーター、先鋒オペレーター達は慣れ親しんだ武器を馴染ませるように握り込む。

ACEは胸の内に秘めた覚悟を、反芻する様に何度も心の中で繰り返していた。

 

 

「大丈夫です…気を失っているだけです。

連続で強力なアーツを使ったので、体に限界が来たんでしょう。

…ですが、早く医療設備に入れないと…このままでは」

 

治療オペレーターがエコーのような機械をニアールの体に当てて診療する。

 

「……よかった…馬鹿め…無理をして」

 

ドーベルマンは心底安心したように息を吐く。

その時、全体無線でその声が鳴り響いた。

 

『こちらACE、全オペレーターに向けて通信を行なっている。全員聞いてくれ』

 

「…ACE?」

 

冷や汗を流して倒れているジョン、そのそばにいたアーミヤが耳をそばだてる。

 

「…ACEさん?」

 

『アーミヤ、ドクター達を連れて脱出しろ、俺たちが時間を稼ぐ』

 

「…は?」

 

アーミヤの目が大きく見開かれる。

 

「な、なにを…」

 

『アーミヤ、聞け』

 

「聞けません!…なにを、なにを言ってるのかわかってるんですか!!」

 

『いいか、このままじゃ俺たちはあいつに全員焼き殺される』

 

「私は…私はロドスを見捨てません!誰かを犠牲になんてしたくありません!!」

 

『聞くんだッ!!

…いいか、全員死ぬんだ。このままじゃな。

当初の目標を思い出せ、ドクターを助けるんだろう』

 

「いやです…いや…まだ、全員で戦えば…」

 

『これ以上無駄な犠牲は出せないだろう。

なあ、アーミヤ…俺達はお前達が離脱するまで、ここで踏ん張る。

頼む、行ってくれ…!』

 

「いやです!!」

 

『…アーミヤ』

 

アーミヤの目から、大粒の涙が溢れる。

 

「みんなでロドスに一緒に帰るんです!帰りましょうACEさん!」

 

『…帰るさ、帰るとも。

お前達が脱出できそうだと判断したら俺たちも逃げる…だから』

 

「そんなの嘘だもん!!」

 

『アーミヤ…!』

 

ACEは苛立ちとも困ったようにも聞こえるこえでアーミヤの名前を呼ぶ。

 

「アーミヤさん…」

 

治療オペレーターが苦しそうに声を出しながらアーミヤの肩に手を置く。

アーミヤはその手を振り解き無線機に声を投げかける。

 

「天災…天災だってすぐそこに迫ってるんです!

…ACEさん達を残したら…きっと…」

 

『そうだな、時間がない。

…時間がないんだ、わかるだろう…アーミヤ』

 

「…いやです…私…」

 

 

「作戦会議は終わったか?」

 

剣を抜き払ったタルラが、心の底からつまらなそうに声を投げかける。

剣には先ほどとは比べものにならないほどに、爆炎が圧縮されていき、剣にまとわりついていく。

 

「…お前達のその毅然な態度に敬意を評して、しばらくの間待ったが…。

どうやら、それは時間の無駄だったようだな…。

私はその男に用がある…道を開けてもらおうか」

 

「それはできないな」

 

ACE達重装オペレーターが音をたてて盾を地面に突き立てる。

 

「…お前を、ドクターには近寄らせない」

 

「そうか…ならばお前達にはその勇気を称えて一つ、結末を用意してやろう…。

その男が目覚めた時、どのような目をするか興味がある…」

 

タルラは剣を大きく真上に上げた。

 

「アーミヤ、逃げろ!」

 

ACEが声を大にして叫ぶ。

 

「…しまった!!

全オペレーター!アーミヤとドクターを守れ!」

 

ドーベルマンがアーミヤ達の方へと走る。

半壊した商店の影から、岩場の影から、オぺレーター達がアーミヤ達、その一か所に集結する。

 

「…!!」

 

治療オペレーターが震える足を無理やり動かしてアーミヤ達の前に立つ。

 

「…やらせるか!」

 

先鋒オペレーターの男は武器を放り出して両の手を広げる。

 

「くそぉッ!」「くるならこい!」「止めてやる!」

 

控えの重装部隊は盾を幾重にも重ねて。

 

「オーキッド、今ならまだ!一斉放火じゃ!」「狙撃、術師小隊!あの女に一斉攻撃を…!」「…こうなりゃとことん、やるっきゃないじゃんねえ!」「…くそ、なんて日だ」「…よーく狙って〜…」

 

「…やるのよカーディ!」「フェン隊長…び、ビーグルも!」「…こんなことならお気に入りのマスクをしてくるんだったぜ」「俺も、まだ読んでない漫画あるんだよな…!」

 

「明日の笑顔のために…美しく散るか!」「…止めろ、縁起でもない」「ビーグルも頑張ってるのよ…!」

 

行動隊、行動予備隊の面々も、それぞれが覚悟を決めた面持ちでタルラの前に立つ。

 

「…滅べ」

 

タルラが脱力した動きで剣を振り下ろす。

次の瞬間、周りに浮かんだ塵が音をたてて燃え出した。

轟音を上げて迫りくる熱波を前に、オペレーター全員はすべての終わりを予想した。

目を閉じ、迫る激痛に備える。

 

しかし、いつまで経ってもそれは訪れなかった。

 

「…んんんん〜!

……?……っ!?」

 

涙を浮かべて目を瞑る治療オペレーターの前に、アーミヤの姿があった。

 

「…アーミヤ、さん?」

 

「わたしは、あなたを許さない」

 

アーミヤの手からは密度の高い白と黒の粒子が入り乱れた帯のようなものがいくつも放たれていた。

それはタルラの放った熱波をオペレーター達の目の前、ギリギリで食い止め、押し留めていた。

 

「…ほう…これは」

 

タルラはゆるい微笑みを浮かべる。

 

「絶対に、許しません!」

 

アーミヤは粒子をより勢いよく放射し始める。

熱波はジリジリと押され、オペレーター達から離れていく。

 

ジョンを守るオペレーター達と、そばでそれを見ていたドーベルマンが驚きの顔を浮かべて立つ。

 

「アーミヤ…1人であれを押し返して」

 

「無茶です!あんな質量のものをあの勢いで…!体が持ちません!アーミヤさん!!」

 

治療オペレーターの叫びが響く。

 

「…とても、長くは持ちません!」

 

治療オペレーターがアーミヤに駆け寄ろうとするのをドーベルマンが止める。

 

「ケルシー博士から、使っちゃダメだって言われてるんです!アーミヤさんッ!だめぇ!!」

 

「危険だ、近寄るな!…アーミヤ!!」

 

「…わたしは…大丈夫…です」

 

目も開けていられないような閃光の中で、手をかざし続けるアーミヤ。

 

「わたしは…わたしはみんなを守りたい!」

 

アーツの勢いで生まれた風が、アーミヤの瞳から出た涙を飛ばしていく。

 

「…面白い、これはどうだ…?」

 

タルラは剣をもう一薙ぎし、熱波に再び圧を加える。

 

「……つぅ!?」

 

アーミヤの両の手に衝撃が走る。

 

「…ああ、そんな…アーミヤさんが張った障壁が…燃えて…!」

 

熱波に喉を焼かれないように手で口を押さえた前衛オペレーターが声を漏らす。

 

「アーミヤ!止めろ!それ以上は…もう…指輪が…!!」

 

ドーベルマンが叫びながら、アーツの激突による衝撃に抗い、一歩、また一歩とアーミヤのもとに歩みを進める。

 

「たとえ…それでも…」

 

アーミヤは冷や汗を浮かべ、うなされるジョンを見る。

 

「ドクター…ごめんなさい…たとえわたしが…世界に害をなす存在になっても…あなたは…あなたを…わたしは……守りたい…」

 

そう言って微笑み、再び目の前の熱波に向き直る。

 

「終演だ」

 

タルラが熱波にもう一度圧を加えようと、剣を振りかぶる。

熱波は倍近い大きさになり、アーミヤのアーツはそれにズブズブと飲まれ始める。

 

「…ッ!クぅッ!!」

 

アーミヤの掌に真紅の裂傷が走る。

迸った鮮血が、後ろに近づくドーベルマンの顔に降りかかる。

 

「…ッ!?アーミヤぁ!!!」

 

「あああああああ!!!!」

 

アーミヤは目に涙を溜めながら、力を振り絞り、アーツを体の底から引き出そうと力を入れる。

 

その時だった。

 

「よし、もういいぞ…アーミヤ」

 

右の手首に温かい、人の熱を感じた。

 

「………?…?…!?」

 

「お前はもう、十分に立派だよ」

 

そこには、盾を手にしたACEが立っていた。

空いた手はアーミヤの腕におかれ、それが優しい温もりをアーミヤに与えていた。

 

「だからもう、背伸びはするな。

お前の重荷を、俺たちにも少し分けろ」

 

「ACE…さん…」

 

「救助隊、行動隊、行動予備隊、総員撤退せよ。

…アーミヤとドクターを忘れるなよ」

 

「…なにを」

 

ACEは盾を高く振り上げる。

 

「…!

今だ!重装オペレーター!総員アーツを展開せよ!」

 

重装オペレーター達が盾にアーツを集中させ、光を纏わせる。

 

「盾にアーツを集中させる時間は十分に稼いでもらった。

もう十分だ、アーミヤ」

 

「ACEさ……ッ!」

 

ACEはアーミヤを二の腕に引っ掛け、ドーベルマンの方へと放り投げる。

 

「…あ…!」

 

直後、熱波の球は重装部隊の盾のアーツに容赦なく食い込んでいく。

 

「「「おおおおおおお!!!!」」」

 

「耐えろ!耐えるん…だ!」

 

「術師オペレーター!ありったけのアーツをぶつけるぞ!」

 

オペレーター達の声が、アーミヤの耳にまで届く。

 

「アーミヤ、撤退は俺達が成功させる。

ドーベルマン!…頼んだぞ」

 

「…ああ」

 

「…ACEさ…ACE…さ…」

 

「アーミヤ、お前の道のりの無事を祈っている」

 

「…ACE……さ…」

 

ドーベルマンは昏倒したアーミヤを抱え直すと、振り返ることなく、ジョンや怪我人を担いで撤退するオペレーター達に続いて瓦礫を登り始める。

ただ一度、立ち止まり、ACEに声をかけた。

 

「ACE、ありがとう」

 

「…いけ、早く」

 

 

ACEは盾にアーツを集中させると、熱波を必死に抑える重装隊に合流する。

 

「またせたな」

 

「……へ、へへ…本当、待ってましたよ…たいちょ…がぁっ!?」

 

「…はは…ぐ…!…ああ、やっと休暇が取れるな…」

 

「…本当、ひどい会社だった…ぎ…!」

 

「…ああ…まじで…同感…だ」

 

(俺は神は、信じないからな。

今はあんたに、あんたに祈るとするよ…ジョン)

 

盾を熱波に向かって構えた途端、触れている腕が容赦なく赤熱に侵されていく。

 

(あんたとアーミヤはこれから、ここ以上に過酷な大地に、道を阻まれることになるだろう)

 

1人、また、1人と重装オペレーターが熱に侵され、蒸発していく。

その穴を埋めるように後続のオペレーター達が前に出る。

 

(その時は…頼む…守ってやってくれ)

 

術師オペレーター達が必死に放っているアーツは全てが熱に溶けていく。

 

(…気休めでも、あなた達の道筋に障害がないことを、祈ろう)

 

 

大通りをかけるドーベルマン達の背後で、巨大な爆発が起こった。

ドーベルマンは、初めてそこで振り返る。

 

「…」

 

そしてACEとそのオペレーター達に敬礼を送ると、先をゆくオペレーター達の後を追った。

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