METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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喪失

腹部の圧迫感と、激しく揺れる頭と体に、意識が少しづつ戻っていく。

朦朧とする意識の中で、周囲から声が聞こえた。

 

「…そげ…!」

 

「…くるぞ…」

 

「…物陰に…」

 

視界にはひび割れた石畳が流れていくのが映るだけ。

首を少し横に振ると、汗を垂らして走る治療オペレーターがそこにいた。

 

「…あ…」

 

「…?

…あ!ドーベルマンさん!アーミヤさんが!」

 

「…アーミヤ、起きたのか?」

 

ドーベルマンは歩みを止めることなく、アーミヤに声を投げかける。

 

「…ここ、は…」

 

「もうすぐ西端だ、車両部隊ががそこまで来ているぞ」

 

「…ACE…さんは…」

 

「…あそこに残った」

 

「…」

 

アーミヤは、その言葉の意味を理解できないようだった。

ドーベルマン達の走る大通りの先。

チェルノボーグ西端、半壊した区画管理棟の屋上で数回、フラッシュライトによる点滅信号が光った。

 

「偵察隊の信号だ!」

 

先頭を走る前衛オペレーターが、後列に向けて大声を発する。

 

「頑張れよ!…後もう少しだぞ!」

 

負傷した重装オペレーターに肩を貸し、励ましながら走る先鋒オペレーター。

 

「…隊長は…?」

 

「……帰るぞ、ロドスに…帰るんだ」

 

「……ぁあ……ぁああ…!」

 

「……帰るぞ…一緒に!」

 

重装オペレーターは負傷した自分の太腿を拳で何度も殴りつける。

先鋒オペレーターは肩を震わせながら重装オペレーターを担ぎ直す。

その様子を見た治療オペレーター達が慌てて彼のもとへ走っていく。

 

「…彼は?」

 

「…生き残りです、彼の部隊の」

 

ドーベルマンの問いに医療オペレーターが悲痛な面持ちで答える。

 

「…そうか」

 

「重い…です、後少しでこの地獄から脱出できるのに…体が…とても重い…!」

 

治療オペレータが目に大粒の涙を溜めながら走る。

 

「わたしもだ」

 

ドーベルマンが空いた片方の手で、治療オペレーターの背中を押す。

 

「…皆で…一緒に…」

 

「…そうだな」

 

息を切らして走るオペレーター達は、頻繁に後ろを振り返り、走る。

 

(誰か…)

 

(1人でもいい…)

 

(…追いかけてきてくれ)

 

(追いついてきてくれ…)

 

決して言葉には出さない思いをそれぞれに抱きながら、オペレーター達は噴煙を上げる街並みを振り返りながら走る。

ドーベルマンは目の前でオペレーター2人に担がれている男を見て思う。

 

(あいつは…ACEは、この男に希望を見ていたんだろう。

…わたしもそうだよ、ACE。

この男の指示には何度、窮地を救われたか…でも…)

 

アーミヤは自分の顔に降りかかる温かい水滴の温度を感じた。

 

(この男を蹴り起こして、どうして救ってくれなかった…そう言ったなら君はきっと…怒るだろうな)

 

 

「今攻めれば容易く狩れたものを、理解できないな」

 

「見逃せという命令なのよ、従うしかないわ」

 

撤退するロドスから離れたビルの屋上で、その様子を見ている2人のレユニオンがいた。

 

「W、お前は作戦開始時からここを動くことはなかったな。

あいつらの存在を最初から知っていたのか」

 

クラウンスレイヤーはビルの淵に腰掛け、手で日傘を作って遠くのロドスを眺める少女に問いかける。

Wと呼ばれた少女は屈託のない笑みをクラウンスレイヤーに向ける。

 

「…お前も理解不能だ、タルラはどうしてお前に部隊を任せるのか…」

 

クラウンスレイヤーはWに背を向け歩き出す。

 

「…あーあ、タルラが興味を持っちゃったか…」

 

Wの瞳は爛々と輝きながら脱出するロドスの一行を捉えている。

 

「次は話せるといいな…またね、ロドス」

 

 

瓦礫が散乱する開けた場所に、ドーベルマン達はたどり着いた。

チェルノボーグの西端、救出作戦の脱出地点。

治療部隊にアーミヤを預け、ジョンもそこに運び込まれたのを確認してから、ドーベルマンは覚束ない足取りで脱出地点の安全確保を担っていたE4偵察隊の元へと向かう。

瓦礫の山を滑り降りるようにして複数人のオペレーターが区画制御塔から現れる。

 

「E4副隊長のBUGGER1です。ドーベルマン教官、ご無事で何よりです」

 

「脱出地点の安全確保感謝する。

そちらは問題なかったか?」

 

ドーベルマンは先頭に立つオペレーターに状況の説明を求める。

 

「大規模な襲撃はありませんでした。

私たちが来た頃にはすでにこの有り様で…レユニオンは市街地の中枢へ

あと30分ほどで車両部隊が到着する予定です。

避難民の車両隊は数分前に出発しました」

 

「そうか、お前達が無事でよかった」

 

「は!…ニアール隊長はどちらに?

状況報告に伺いたいのですが」

 

「…ニアールは重傷を負った。

今は治療オペレーターの処置を受けている」

 

「本当ですか!…そんな」

 

「命に別状はないそうだ、心配するな」

 

「…よかった」

 

「ドーベルマン教官」

 

ドーベルマンのもとにホログラムをリストバンドから展開したオペレーターが駆け寄ってくる。

 

「失礼します。

ただいまから全部隊の点呼をとりますので、チームリーダーに招集をかけてくださると…」

 

「E4リーダーは現在治療中だ、代わりに俺が」

 

「わかりました、ではE2リーダー、ドーベルマン教官…と。

ああ、E3リーダーはどちらに?」

 

「…彼は…ここにはいない」

 

「…は?」

 

「…」

 

「で、ではどちらに…?」

 

「まさか…」

 

「彼は…あそこに残った」

 

「残った!?

も、もう天災はすぐそこまで迫ってるんですよ!」

 

「…ああ…そんな…ACEさん…」

 

「……行動隊E3は、3名を残して全滅した」

 

偵察オペレーター達に動揺が広まる。

 

「……わかり、ました…」

 

点呼をとるオペレーターは、重い足取りで治療オペレーター達の元へ向かう。

 

「一体…何があったんですか」

 

「…」

 

ドーベルマンはふらふらと歩き、近くの瓦礫に腰掛ける。

 

「ドーベルマン教官…!」

 

「副隊長…」

 

詰め寄ろうとするE4副隊長の肩を偵察オペレーターの1人が掴んで止める。

 

「今は…」

 

「……申し訳ありません、失礼します」

 

E4副隊長達は治療オペレーター達のもとへ走っていく。

 

「…………慣れないな……ぁあ…」

 

ドーベルマンの口から漏れ出した言葉は、広場の喧騒の中に溶けていった。

 

 

煙を上げるチェルノボーグの街並みを一望できる瓦礫の山に、アーミヤはいた。

膝を抱えて座り込み、どす黒い雲に覆われた空が迫る街をただ一心に眺めていた。

 

「アーミヤ」

 

そこに1人の男が声をかける。

男は右目に包帯を巻き、杖をつきながら瓦礫を登る。

 

「こんな、ところに、いたのか」

 

「…」

 

「ふう…ああ、これか…どうやら熱にやられたようでな。

ひどい熱傷で、もう使い物にならんそうだ」

 

ジョンは包帯に覆われた右目をさすりながら、アーミヤの隣に腰掛ける。

 

「まったく…ざまあない」

 

「…」

 

「よっこい、せ…」

 

ジョンはアーミヤの隣に座る。

 

「…」

 

「大体のことは治療オペレーターのお嬢ちゃんから聞いたよ」

 

「…」

 

「すまんな、約束は守れなかった」

 

「…」

 

「全員で帰る…今思えば何と無責任な約束だろう」

 

「…ドクター」

 

アーミヤはチェルノボーグの街並みから目を逸らさずに、呟いた。

 

「声が聞こえた気がしたんです、ついさっき」

 

アーミヤは続ける。

 

「燃えるあの街の広場で、まだ誰かが戦っているきがするんです」

 

2人は今、同じ場所を見ている。

 

「私は守れない、だって私はここにいる。

彼等とは、一緒に、いない…」

 

震えるアーミヤ、その双眸にチェルノボーグの炎が映る。

 

「……守れなかった……」

 

「そうだな、守れなかった。

…また、守られてしまった」

 

ジョンは続ける。

 

「守るため、銃と仲間の手を取り、戦っていた。

だが…気づけば私の後ろには己と、仲間の血の道ができている。

仲間は私が作ったその道を、最善だと信じてついてくる。

私はいつもその先頭に立っているんだ」

 

ジョンの瞳にもまた、チェルノボーグの炎が映る。

 

「私が倒れ、下を向いた時。

起き上がり前を向くと、そこにまた新たな血の道ができている。

仲間の血で作られた道が、そしてまた歩き始めるんだ。

…外れることはできない、歩き続けるしかなかった」

 

「ドクター…?」

 

「アーミヤ、聞いてくれ」

 

「なん、ですか…?」

 

「私は、お前達の信じるドクター、その人ではない。

こことは違うどこかで生きていた、ロクでもない老人だ。

思い出したよ、アーミヤ。

私は、お前達の命を預かる資格などなかったんだ。

お前達のドクターに寄生した、ただの赤の他人だったのだよ」

 

アーミヤは気づけばジョンの横顔に見入っていた。

そこには、確かに先ほどまで自分たちの指揮を取っていた人間とは、まったく別の表情をした人間がいた。

 

「私が、全て壊してしまった」

 

 

気づけば声を発していた。

 

「…ふざけないで」

 

「ふざけないでください!

彼等は…私たちは、あなたをドクターと信じて戦った!

その全てを、壊してしまったの一言で台無しにするんですか!」

 

「そんなこと…そんなことは絶対に許さない!」

 

「あの時、あの場所で、私たちと共に戦ったあなたは…確かに「私たちのドクター」だった!」

 

「「守れなかった」?…調子に乗らないで!

あなたがここと違うどこかで何をしていたかなんて知らない!

誰もあなたに守ってもらおうなんて期待していなかった!」

 

「…ドクターは…ドクターはただ、私たちに道を作ってくれました…」

 

「それは確かに、誰かの血で作られた道だったかもしれない!

でも、それは私たちロドスの道なんです!闇を照らす光だった!」

 

「私の…光の道だったんです」

 

 

ジョンはアーミヤの言葉を黙って聞いていた。

 

「逃げないで…」

 

アーミヤはジョンの襟首を掴みながらに続ける。

 

「私たちから、逃げないで…置いていかないで……」

 

「アーミヤ…」

 

「血で作られた道でもいい…私たちを導いて…」

 

そのままアーミヤはジョンの胸元にすがりつく。

 

「…ここにいて…「ドクター」…」

 

 

血で引かれたその道は、ひとつとは限らない。

流れた血の数だけ、道はある。

どれを選ぶかは、あなた次第だ、ジョン。

 

 

「私の道は…すでに途切れた。

私を殺した誰かが、業を背負い、新たに道を歩んでいるだろう。

…だが、どういうわけか、私にはまだ歩くだけの余地が残されていた、というわけだ」

 

「……え…?」

 

「ならば…ACE達の作った道を、私は進もう。道を歩もう。

いつか、その時が訪れるまで」

 

「…ありがとう、ございます」

 

アーミヤはジョンから離れ、2人は真っ直ぐに見つめ合う。

 

「…ですが、勘違いをしないでください。

あなたはただ歩むだけじゃない。

これは契約です。

あなたは私たちを指揮して、ACEさん達の血の道を作った。

投げ出し、逃げることは許しません、当然死ぬこともです。

全てを成し遂げるまで、あなたにはこれからもロドスの道を、共に歩んでもらいます」

 

 

「…私たちの「ドクター」として」

 

 

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