METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
移動都市 ロドス
1人、また1人とオペレーターが輸送車両の乗車階段を登る。
周囲には階段を踏む高い金音のみが響きわたる。
一台、また一台と輸送車両が瓦礫の山と化した、西端区画管理区を後にする。
出発する最後の車両、そこにジョンとアーミヤはいた。
俯き、一言も発しないオペレーター達を横に、2人は酷く揺れる車内の中で都市を望む。
赤く、禍々しい色へと変化した空が割れていくのが見え、そこから赤熱を帯びた岩塊が顔を出した。
それは一塊から二つへ、二つから四つへ。
まるで急速に劣化し、朽ちていくように細かく砕けると、チェルノボーグ全域に降り注いだ。
ジョンとアーミヤ、そしてオペレーター達は一言も発さず、ただその光景を目に焼きつけていた。
チェルノボーグ、一つの移動都市の終焉を。
途端に咽び泣く声が車内に響いた。
崩れ落ちるように頭を抱えるオペレーターの背中を、隣の仲間の手がさする。
炎に包まれ、崩れゆく都市に残った彼等を思わぬものはいなかった。
アーミヤは両の目に焼き付けていた。
その目には悲しみと無力感が映る。
乱雑に顔にかかった前髪の向こうに、彼等の顔を思い浮かべながら、かすれて発せられない言葉に口を動かした。
アーミヤはフードを被り、再び都市を目にすることはなかった。
ジョンは左の目に焼き付けていた。
その瞳に悲しみの色はない。
感じるのは奇妙な懐かしさと、ほんの少しの苛立ち。
そして、握りしめた拳の熱さだけ。
長い付き合いでは決してない、だが自分を信じ、共に戦い、死んでいった。
その事実が、ただ血潮を熱くさせ、失った右目の鈍痛を時折鋭いものにした。
やがて車列の舞挙げる砂煙が都市を覆い隠す。
黄色いカーテンの向こうに、赤く燃える都市を思い浮かべながら、ジョンはゆっくりと目を瞑った。
…
荒地を進む車列。
その向かう先に、巨大な建造物が姿を現した。
隣の席にいるオペレーターに説明を受けながら、ジョンはそれを目の当たりにする。
移動都市「ロドス」。
自分を助け、これから共に行動する彼等の
その異様さに言葉を失う。
(天災、あれを避けるために…本当にこの世界では都市が移動するのか)
移動都市の名前を体現するかのようなその巨大さに、ジョンはしばらく目を奪われた。
車列はやがて、ロドスの巨大な入り口から下されたスロープを登り始める。
両脇の監視塔には多くのオペレーターが配置され、それぞれが武器を手にして車列の後方を見やっていた。
やがて車列が検問所で止められると、黄色い防護服を着た者たちが現れる。
「総員降車してください、直ちに
「ケルシー先生は天災のことをご存知なのですね」
「はい。災禍に見舞われる前に脱出したこともわかっておりますが、念のため」
「わかりました」
アーミヤは輸送車両から下ろされた階段をおり、ジョンの方へ向き直る。
「さあドクター、手を」
差し出された手をとり、ジョンは杖をつきながら車を降りる。
その様子を心配しながら、後続のオペレーターたちも続々と降りてくる。
「足の方は大丈夫ですか、ドクター…」
薄汚れた前衛オペレーターがジョンの肩をとって支える。
ジョンは杖を防護服を着た除染用員に渡すと、大丈夫だ、と言葉を返した。
「それではあちらのテントで衣服を脱いで、身体洗浄を行ってください。
女性オペレーターのテントはあちらです、アーミヤさん」
「わかりました、ありがとう」
アーミヤはジョンに軽く会釈をすると、テントへと歩いていく。
「車両の除染を行いますので、離れてください」
ジョンが除染用員の指示に従い、車両から離れると、高圧洗浄機と地雷探知機のようなものを持った者達が一斉に車両の洗浄を開始する。
「あれは…」
「
ああやって細い粒子を洗い流して、大きなものが紛れていないかあの機械で検査します」
「それほどまでに強い毒性を?」
「微量であれば、そこまで悪さはしませんが、危険には違いありませんからね。
長い間触れ続けると血流内で
そして体内のあらゆる内臓活動に影響を及ぼし始めるのです」
(まるで…放射能汚染のようだ)
ジョンは前衛オペレーターの肩をかりながらテントへと向かう。
テントに入ると、中で待機していた除染用員に服を脱ぐように指示され、介助されながら服を脱ぐ。
シャワーを当てられ、ブロワーを当てられて乾燥されたのち、車を検査していた機械を当てられて服を渡される。
それは大きめのローブのような服で、胸元にネームプレートを入れるホルダーが付けられていた。
「…まるでオズの魔法使いだな」
「似合ってますよ、ドクター」
外にはアーミヤが待っていた。
洗浄を終え、来ている服は新品のように綺麗に。
髪も綺麗に整えていた。
「ケルシー先生が呼んでます、行きましょう」
ケルシー。
アーミヤ達がケルシー先生、ケルシー博士と呼ぶ人物。
ジョンの救出作戦の指導者であることからしても、立場のある人物であることは確かだ、とジョンは考えていた。
「ああわかった、行こうアーミヤ」
…
アーミヤに連れられ、ロドスの内部施設へと入るジョン。
全てが無機物的で機械的なエレベータホール。
そこはチェルノボーグの街並みとは違い、居住施設というより…。
「まるで研究施設だな」
「間違いではありません、移動都市と銘打っていますが、実際には
…こちらです」
アーミヤはジョンをエレベーターの中へと促し、階数ボタンを押す。
エレベーターが小さい音を立てて上昇する。
やがて背面のガラス窓の向こうに、移動都市の内部構造である街並みが現れる。
「…本当に都市を内部に囲って移動するのだな。大したものだ」
「今は人工太陽ですが、天気が良い時には天井を開いて自然光を取り入れます。
…慣れれば良いものですよ、ここでの暮らしも」
アーミヤはそう言って窓の外を見るジョンに微笑む。
『A14フロア、第3研究区画階です。
ドアが開きます、ご注意ください』
アナウンスが鳴り、エレベーターの扉が開く。
その向こうにはガラスの個室が多く立てられ、所狭しと機械が並べられ、白衣を着た研究員がそれぞれ忙しそうに作業を行なっていた。
「…あ!お帰りなさい、アーミヤさん」
女性研究員の1人がアーミヤに気がついて声をかけてくる。
「お疲れ様でした…その、お話はケルシー先生から聞きました…ざんねんです」
「私は大丈夫ですよ、心配しないでください」
アーミヤは女性研究員に微笑みかける。
女性研究員は複雑そうな顔を浮かべると、後ろにいるジョンに気がついた。
「…アーミヤさん、この方が?」
「ああ、その件でケルシー先生にお話があるのですが、今どちらに?」
「あ、はい。今は総検診を終えて執務室の方にいらっしゃると思います」
「ありがとうございます」
アーミヤはそういうと通路を歩き出す。
ジョンは研究員に会釈をすると、アーミヤを追って歩き出した。
2人はやがて両開きの扉の前に立ち止まる。
アーミヤがドアに向けてノックをすると、中から「どうぞ」という声が上がった。
ゆっくりとドアを開け、2人が部屋の中に入ると、そこには書類を片手にシャウカステンに貼られた写真を見つめる者の姿があった。
「ケルシー先生、ただいま戻りました」
アーミヤの言葉に、ケルシーと呼ばれた若い女研究員は椅子を音を立てて回転させ、こちらを向く。
「ああ、おかえりアーミヤ。待ってたよ」
シャウカステンの光に、薄緑がかった白髪が煌めく。
翠色の瞳で見つめられたジョンは、不可解な感覚を抱く。
芯の底を見定められるような感覚、見た目だけでなく、深層まで暴かんとばかりの強い視線
「…ああ…私は、はじめまして…と言ったほうが良いかな。
それとも、おかえり…かな」
ケルシーの放つ怪しい雰囲気、己を見つめるその瞳にジョンは長く、細く息を吐いて真っ正面から答えた。
「…初めまして、と言わせてもらおう」
「…ああ、初めまして、ドクタージョン。
私はケルシー、ロドスの医療部門の責任者だ。
…そうか、はじめましてか…それは、なんとも…やっかいだな」
「…」
アーミヤはジョンの隣でケルシーの様子を伺っていた。
頭から生えた耳は垂れ、瞳は不安そうに、遠慮がちに開いている。
「…では聞かせてもらおうか、チェルノボーグに…そしてジョン、君に何があったのか、全てを」