METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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キルハウスで会いましょう

ジョン達はドーベルマンに連れられて、ロドスの訓練棟に訪れていた。

大きな運動公園のような広さの屋内訓練場に、あらゆる状況を想定した施設が立ち並ぶ。

遠、中距離の狙撃、射撃訓練場。

CQB(近接戦闘)訓練を行う建物。

格闘訓練のためのゴムマット。

基礎体力を養う運動場に障害物コース。

果ては天候変動を想定したシミュレーション施設まで。

ドーベルマンの説明を受けながら、高い視点から施設内を一望できる通路を歩くジョン達。

 

「これほどの設備はなかなかお目にかかれないな、素晴らしい訓練場だ」

 

「ロドスの自慢の一つなんだ。

一国家が抱える国軍や憲兵団の訓練施設と比較しても、遜色ないものになっている」

 

「任務のない者や連携企業のオペレーター達も、非番の日はここで過ごすことが多いですね」

 

ジョンは運動場で汗を流す屈強な男達を目にする。

 

「彼らは?」

 

「あれはまだ新米のヒヨッコどもだ、まだ実戦に出すには心許ない新兵だよ。

ドクターに紹介したい連中はこの先にいる」

 

ドーベルマンの案内の元、ジョン達は通路を移動する。

その先には市街地を想定した仮想訓練場があり、複数のオペレーター達が訓練に勤しんでいた。

 

「ビーグル、目の前の敵を引きつけて!

行動予備隊、前進!」

 

オペレーター達の前にはホログラム投影された仮想敵が武器を手に迫っている。

 

「行きますよー!それー!」

 

「クルース!ビーグルの隙を埋めて!」

 

「わかってるよ〜…!ここだ〜!」

 

「隊長、私は2階から援護するぞ」

 

「私も行くよー!」

 

「ひっついてくるな」

 

「でも〜」

 

「ちょっと2人とも、喧嘩してないで行くなら早く行く!」

 

「…ちっ」「ほらー、早く行くよ!」

 

ドーベルマンがこめかみを抑えつつその様子を見ている。

 

「彼らは…」

 

「…紹介したかった連中だ。

まったく…」

 

ドーベルマンはリストバンドからホログラムを展開すると、ドクターの目の前に投影する。

そこには名簿と顔写真が表示されていた。

 

「行動予備隊A1。

つい最近、編成された新しい部隊だ。

隊長は、この少女。

あそこの青髪のがそれだ」

 

「…確かにいい動きをしている。

少数精鋭部隊の卵といった感じだな。

だが、まだ子供じゃないか」

 

「年齢層は確かに、だが経験値は高い。

すでに防衛任務から要人警護まで、ある程度のことはこなしてきている」

 

「あの盾を持っている子は、見た顔だな」

 

「彼らはあなたの救出任務に参加していたからな」

 

「.…そうだったのか」

 

『…貴様ら!!

何をチンタラとやっている!よくそんな様で生き延びてこれたものだ!

陰でこそこそ逃げ回ってきたのか!?ああそうか!納得だな!』

 

突如としてドーベルマンが備え付けられたマイクに怒声を向けた。

その声を聞いた行動予備隊A1の面々は飛び上がる。

訓練が中止され、仮想敵が消えていく。

 

『早く上に上がって来い!

お前達に会わせたい人がいる』

 

ドーベルマンが呼びつけると、彼らは息を切らしながらジョン達のいる階へ上がってきた。

青髪の少女が息を整えて落ち着けると、ジョン達に向かって敬礼をした。

 

「行動予備隊A1リーダー、フェン。

ただいま参りました!」

 

「君とは初めてだな。

ジョンだ、よろしく頼む」

 

「ではあなたが…よろしくお願いしますドクター!

お顔は合わせておりませんが、あなたの救助作戦には参加を!

作戦記録を見ていくつかお聞きしたいことが…」

 

「あ、ドクター!」

 

メガネをかけた小柄な少女が駆け寄ってくる。

明るい赤髪に赤縁メガネ、年端のいかない体躯に合わない大きな盾と長剣を携え、フェンの隣に立つと眩しいまでの笑顔を見せた。

 

「救助作戦の時にチラッとお顔を拝見しました!」

 

「ああ、君のことは覚えてる。

元気な声が私のところまで届いていたからな」

 

「えへへ、またお会いできて嬉しいです!」

 

「…ドクター、この子はビーグル。私の隊の重装オペレーターです」

 

「ビーグルっていいます!よろしくお願いします!」

 

「よろしく」

 

「そして…ほら皆」

 

フェンが手で前に出るように促すと、3人の少女がジョンの前に立った。

ボウガンを手にしていることから、狙撃オペレーターであることが窺える。

 

「はいはーい!クルースですよぉ。

フェンちゃんとビーグルちゃんとは同期です〜。

よろしくお願いしますねぇ〜」

 

小麦色の髪、ウサギの大きな耳をパタパタと振る少女が前に出る。

 

「よろしく、クルース」

 

「ドクターは背がおっきいですねえ」

 

「そうかな」

 

「そうですよお、頼りになりますう。

ところでこれはいま夢、それとも現実ですかあ?」

 

「…なんだって?」

 

「ちょっとクルース!」

 

慌ててフェンがクルースの頭をはたく。

 

「…いたーい…。

ということは、夢じゃあないのねぇ。

ありがとうー、フェンちゃん」

 

「…こういう子なんです、お許しを」

 

「…いや、気にするな」

 

ジョンが深く頭を下げるフェンに慌てていると、残りの2人が前に出てくる。

 

「…ラヴァ、術師だ。色々と訳があって、ここで働いてる。今はまだ、な」

 

「治療師のハイビスカスです!ハイビスって、呼んでください!

まだ医師見習いという立場ですが、治療から健康管理まで、なんでも任せてくださいね!」

 

見た目のよく似た2人が自己紹介をする。

髪の色は赤味がかった紫で、1人はバツが悪そうに、もう1人はにこやかにしている。

 

「2人は姉妹なのかな?」

 

「双子なんです!私が姉、ラヴァが妹になります!」

 

「…ただ生まれたのが数時間先ってだけの話だろーが…」

 

「それがお姉ちゃんっていうのよ」

 

「…ちっ」

 

ラヴァが不機嫌を隠さずに舌打ちをする。

ハイビスカスがその様子に頬を膨らませていると、フェンが大きく咳払いをした。

 

「…お見苦しいものを、申し訳ありません」

 

「いや、訓練を少しだが見せてもらった。

子供だと思っていたが、基礎はしっかりと積んでいるようだ、大したものだな。

君がよくまとめているのが、私にもよくわかる」

 

「…そ、そう言っていただけると嬉しいです!」

 

フェンが顔を紅潮させてジョンを見つめる。

ジョンは腕組みをしてフェン達を見渡すと。

 

「だが子供は子供だ。

無理はせず、しっかりと励むように…こういう言葉は耳にタコかな?」

 

ジョンがドーベルマンに視線を向けると、クルースが笑い声を吹き出し、フェンに再びはたかれる。

ドーベルマンはその様子にため息を吐く。

 

「自己紹介は終わった、以上だな?

ならさっさと訓練に戻れ!」

 

「「「はい!」」」

 

ドーベルマンの鶴の一声でフェン達は慌ただしく訓練場に戻っていく。

 

「…君は私のメンツを貶めたいのかな?」

 

「いやいや、そんなことはないドーベルマン。

…君はメンツなんぞにこだわる人間じゃないだろう。

訓練の内容がしっかり身についているのは、あの訓練の動きを見ればわかる。

君の教えが身に染みている、いい部下達だな」

 

「…ならいいのだがな」

 

ドーベルマンは満更でもないのか、尻尾を軽く振ると訓練に再び精を出すフェン達を見る。

 

「…あいつらは感染者で構成された部隊だ。

アーツの取り扱いに関しては健常者の比ではない。

フェン、ビーグル、クルースは警備部に配属されていたから技能も高い。

だがまだ若いからな、指揮官は有能なものに願いたいというのは…なんといったらいいのか」

 

「ああ、それは親心だな。

私にもいくらか経験がある」

 

「なら、大事に扱ってやってくれ。

…その時が来たらな」

 

「それは責任重大だな。

もちろんだ、ドーベルマン教官」

 

 

市街戦を想定した訓練場から少し歩くと、休憩中のオペレーター達が集う広場に到着する。

 

「…どこの世界でも、こういった場所の雰囲気は変わらんな。いいものだ」

 

「うん?

…まあ、訓練の質以上に、こういった娯楽や休憩スペースは重要だからな。

その辺りはロドスの上層部もよくわかっている…おおらかすぎるのも問題だがな」

 

見るとそこには売店、自販機にフードコート。

外部からやってきた商店やフードトラックまで、まるでアミューズメントパークのような賑わいになっていた。

 

「私も休憩中はよく利用しますよ、特に今週来ているあのタコスのトラックは絶品です」

 

「そうか!なら試しに…」

 

「ドクター、ダメですよ。今は職務中です」

 

「…ならその情報は酷と言うものだぞアーミヤ」

 

「後で一緒にきましょうね」

 

「…」

 

ドーベルマンはアーミヤとドクターのやり取りを見て微笑むと、設置されているテーブルの一角に一つの集団を発見する。

 

「どうやら予想通り、あいつらもここにきているようだ。

さあ、いくぞドクター」

 

「…タコス、タコスか」

 

「行きますよ、ほら」

 

「…タコス」

 

 

「お疲れ様です、皆さん」

 

アーミヤが声をかけると、テーブルに腰掛け、飲み物や食べ物を口にしていたオペレーター達が一斉に振り向く。

 

「あ!アーミヤさんだ!」

 

ピンクがかった白髪を踊らせながら、勢いよく立ち上がる少女。

少女の肩を押さえて口についたソースを拭き取る、落ち着いた様子の少女が口を開いた。

 

「こ、こんにちはアーミヤさん」

 

「すいませんメランサさん、お食事中に声をかけて…今は大丈夫ですか?」

 

「はい、問題ありません」

 

「珍しいですね、アーミヤさん。

フードコートでお会いするなんて、いつぶりだろう」

 

頭の上に光輪を浮かべた青年が、手にしていた飲み物を置いて立ち上がる。

 

「あはは、私は皆さんとあまり休憩時間が被りませんからね」

 

「アーミヤさんは休憩時間が短すぎるんです、職務時間に合わせた休憩を取らないと、体に毒ですよ」

 

ウサギ耳を肩まで垂らした中性的なオペレーターがアーミヤのそばに寄ってくる。

 

「体調不良を感じたらすぐに医療部に連絡してくださいね」

 

「だ、大丈夫ですよアンセルさん」

 

「ところでアーミヤさん、その方は?

…僕、どこかでお会いしたような…拝見したような…作戦記録かな…」

 

狐のような尖った耳をはやした青年がジョンを見て問いかける。

 

「ああ、彼…ドクタージョンのことで、君たちに話があってきたんだ」

 

ドーベルマンがジョンの肩に手を置いて答える。

 

「やっぱり!ドクター、あなたの作戦指揮は作戦記録で何度も拝見しました!」

 

狐耳の青年がドクターの元へ寄ってくる。

青味がかった白髪は、日の光を受けた山並みの雪のように光り、藍色の瞳を煌めかせながらジョンを見つめた。

 

「術師のスチュワードです、よろしくお願いしますねドクター」

 

「ああ、よろしくスチュワード…いい尻尾だな」

 

よく見るとスチュワードの後ろにはわさわさと揺れる大きめの尻尾がある。

 

「え、そうかな…確かに僕みたいな尻尾は目にすることは少ないかもですね」

 

「訳あって、耳や尻尾の生えた者には縁がなくてな。

すまない、変なことを言ったならあやま…」

 

「私の尻尾も触ります、ドクター!?」

 

気がつくと、ジョンのすぐ隣に鼻息を荒くして立っている少女がいた。

グラデーションのかかったピンクがかった白髪を揺らしながら、期待の瞳でジョンを見上げる。

生えた尻尾はまるで遊ぶ指示を待つ犬のように揺れていた。

 

「うおぉ…!?

き、君は…?」

 

「重装オペレーターのカーディです!」

 

「そ、そうか…よろしくなカーディ」

 

「それで!?」

 

「それで…?」

 

「触りますか!?尻尾!」

 

「いや、それは…」

 

「落ち着いてカーディ…」

 

ジョンに迫るカーディの首根っこを、音もなく近寄って吊り上げる少女。

 

「ドクターが困ってる…」

 

「…クーン」

 

「君は…」

 

少女はカーディを抱え込み、恥ずかしそうにその後ろに隠れる。

ワインレッドの髪と、猫科のようなしなやかな動き。

赤い目はきょどきょどと、ドクターと目線を合わせないように動き回っていた。

 

「…え、えと…め、メランサ、です。

行動予備隊、A4の、リーダー…ということに…なってます」

 

「そうか、よろしくなメランサ。

様子を見るに、私のことはもう知っているのかな」

 

「は、はい…作戦記録を見ましたし…あ、あなたの救助作戦にも…参加を」

 

「私も私も!参加しましたよ!ドクター!」

 

メランサに抱えられながら、わさわさと動き回るカーディ。

 

「……はわ…」

 

「うっふ!?…く、苦しいですメランサちゃん…!」

 

顔を真っ赤にしたメランサがカーディの首を抱きしめている。

その後ろから、先ほどアーミヤの体調を気にしていた青年(少女?)が寄ってきた。

 

「あ、あんまり見つめないであげてください。

メランサさんはあまり人慣れしていないので…」

 

「そうだったのか、すまない」

 

「…」

 

メランサはカーディを締め上げたまま頷く。

 

「ドクター、私はアンセルと言います。

行動予備隊A4所属の医療オペレーターです。

よろしくお願いしますね」

 

アンセルはそう言ってドクターに頭を下げる。

色素の薄い髪に垂れた耳、少し高めの声色と、小柄な体型。

すぐ目の前にアンセルが寄ってきても、ジョンはまだ判断が付かずにいた。

 

「ああ、よろしくな…ところで君は」

 

「…男か、それとも女か…ですか?」

 

「…いや…」

 

「…やっぱり髪形かなあ…コータスは耳の関係で、短く髪を切りづらいんです。

こんな見た目ですけど、れっきとした男性ですよ、ドクター」

 

「…気を悪くしたなら謝る、歳を取るとどうもな…」

 

「気にしないで、よく言われるんです」

 

アンセルはそう言って笑った。

その後ろから姿を現したのは、頭に光輪を浮かべた色の薄めな青年だった。

すらりとした体躯に白と黒を基調にした装束。

それらも相まってか、彼はまるでこの世の住人ではないような雰囲気を纏わせていた。

青年は恭しくお辞儀をする。

 

「こんにちはドクター。

面識はないでしょうが、実はオレも初めましてではないんです。

救援として、あなたの救助作戦に参加していました」

 

「…そうか、どうやら君たちにも迷惑をかけていたらしいな」

 

「迷惑だなんてそんな…最良の結果とは言えなかったかもしれませんが。

オレは、あなたとまた会えて嬉しいです、ドクター」

 

そう言ってアドナキエルは右手を差し出す。

ジョンがそれに応えると、カーディがメランサの拘束から逃れて寄ってくる。

 

「いいないいな!ドクター、私も握手したいです!」

 

「いいぞ、減るもんじゃないしな」

 

「わーい!」

 

一通りの挨拶を済ませたと判断したドーベルマンが、ドクターにすがりつくカーディを引き剥がすと、一行は別の訓練施設へと向かった。

 

 

ドーベルマンに案内されたそこは、オペレーター達の詰所の一つのようで、ある程度の生活雑貨と日用品、そしてロドスの各部隊の動向を表示するモニターが設置されていた。

その奥のあたり、様々な機器の設置された机に向かう、1人の女性にドーベルマンは声をかける。

 

「オーキッド、今忙しいか…?」

 

「…見てわからない?ドアにも貼っておいたでしょう、「忙しい」って」

 

「そう言うな、紹介したい人がいる」

 

その言葉を聞いて、画面から目を離した女性は、いかにも仕事に追われるビジネスマンといった風貌だった。

青いグラデーションのかかった髪を手で纏めながら、オーキッドはこちらを見る。

その目は疲れ切っていて、ドーベルマンを見据えるとため息をはいた。

 

「…もう使えない事務員は必要ないわよ、みんな3徹ぐらいでへばっちゃって…だらしないったら」

 

「いや、そうじゃないんだ…だがもっと優秀なやつをよこすようには報告しておく」

 

「なら何よ」

 

「彼を紹介したくてな」

 

「…?」

 

ジョンはドーベルマンの隣に並ぶと、申し訳なさそうに挨拶をした。

 

「すまない、忙しい中時間をとらせてしまって」

 

「…あら、ドクター君じゃない、久しぶり…と言っても、あなたは私と会ったことはないわよね」

 

オーキッドは立ち上がると、右手をジョンに差し出した。

 

「オーキッドよ、行動予備隊A6の隊長…兼事務員ってところね。

よろしく、ドクター君」

 

ジョンは握手に応えると、オーキッドの発言に問いかける。

 

「ああ、よろしく頼む…では君も?」

 

「ええ、あなたの救助に参加したわ。

久しぶりの実戦だったから、気合を入れていたけど…まさかレユニオンの指導者とかち合うなんてね。

ロクに活躍もできずに撤退して…今は事務屋の仕事に逆戻りって訳よ」

 

「…それはなんとも、耳が痛いな」

 

「あ、勘違いしないで、嫌味を言ったつもりはないの。

…嫌味を言いたいのはロドスの経理部によ、給料もらってるから下手なことは言えないけどね。また会えて嬉しいわ」

 

「こちらこそ、これからよろしく頼む」

 

「もうしばらくすれば、彼らも帰ってくるはずだけど…。

私に差し入れをするって言ってしばらく戻ってきてないのよね、何してるんだか」

 

 

オーキッドがそう言って椅子に座り、肩肘をつくと。

 

「たーだいまぁ!」

 

詰所のドアが大きい音を立てて開け放たれた。

 

「…ちょうどきたみたい」

 

「あれぇ!なんすかなんすか?

いっぱい人がいるー!」

 

馬の耳を生やした茶髪の少女が、元気いっぱいに大きな身振りで部屋を見回す。

露出の多い服装にジャケット、腰に下げられたグレネードの発射機のようなものから、狙撃オペレーターだろうか。

 

「うわ!ドーベルマン教官!…こ、こんちわ」

 

「…元気そうで何よりだな、カタパルト」

 

ドーベルマンは血管を軽く浮かせながら少女を睨みつける。

 

「く、くるなら言ってくれればいいのにぃ…へへ。

あ、アーミヤさんも、こんにちは!」

 

「くると言っていたらお前はここに来ないだろう…紹介したい人がいる、他のものは?」

 

「へ?…あれ、みんな一緒に来てたはずっすけど…」

 

そう言ってカタパルトは後ろのドアを見る。

すると、そこからひょっこり、頭を出す形でハイエナの顔が現れた。

 

「カタパルト…お前…ドアを押さえといてくれって…言ったじゃねえか」

 

そういて足を器用に使って扉を開けると、ハイエナ頭の青年は大量の漫画本を抱えて部屋に入ってきた。

 

「あ、ごめーん」

 

「ごめんじゃ、ねえ…!」

 

漫画を近くの机に下ろすと、青年はジョン達に向き直る。

パンクな服装にパーカー、顔の至る所にピアスを入れた青年。

そして何より、ハイエナが立って歩き、言葉を話していると言う事実に、ジョンは驚きに胸を躍らせた。

 

「あ、客か…ってドーベルマン教官、どうしたんすか?」

 

「スポット、邪魔しているぞ」

 

「それはいいんすけど…なんすか、ミッドナイトがまた何か?

それともカタパルトがやらかしたんで?」

 

「ちょ…何その言い方!まだバレてませんよーだ!…あ」

 

「…ほう、その発言には興味がある、話が終わった後も時間をもらえるかな、オーキッド」

 

「どうぞー」

 

「ね、ねえさん〜そりゃないよぉ…スポットぉ…」

 

「オレぁしーらね」

 

「何なに〜今日は賑やかだねえ!パーティーかな!!」

 

そう言って扉の向こうからスタイルの良い青年が現れる。

赤いワンポイントの入った、腰まで伸びる長い髪。

整った風貌と胸元の大きくはだけた服装、緩く流れるようなその目線から、「たらし」の雰囲気をジョンは感じとる。

 

「あ、ドーベルマン教官にアーミヤさん、俺に会いに来てくれたの?」

 

「こんにちはミッドナイトさん」

 

「それ以上寄るなよ、私たちに寄ったらフレイルを股間に打ち込む」

 

「…そう言う気分じゃないみたいだね」

 

「そう言う気分の時などないからな」

 

「寂しい夜に人恋しくなるときがその時さ…そのときは遠慮なく俺を呼…」

 

「ミッドナイト、客人よ、お行儀良くしなさい」

 

オーキッドが鋭い言葉を男に投げかける。

 

「お客人?

…あ!これはこれは、ドクターじゃないか!」

 

ミッドナイトはジョンに駆け寄ると、その前で恭しくお辞儀をする。

 

「ご機嫌ようドクター…あなたにとっては初めましてかな?

ミッドナイト、あなたの剣になる男だ…気軽に名前を呼んでくれても構わないからね」

 

「これはこれは…君の声は聞いた覚えがあるな」

 

「…本当かい?」

 

「ああ、無線でだ。

よく通る良い声だった」

 

「ああ!それは嬉しいな!昔からこの声は褒められててね!」

 

「じゃあ、やはり…君もあの場にいたのか」

 

「ああ……みんなが笑顔になれる結末ではなかったけど、あなたを守れた。

…ああいう結果には慣れていないが…色々とあなたには話を聞きたいし、今度一杯やらないか?奢らせてくれよ」

 

「…ああ、もちろんだミッドナイト」

 

ジョンはミッドナイトと硬く握手を交わす。

 

「へえぇ!じゃああんたがドクターっすか?

じゃあじゃあ!あたしも見てたりします?」

 

そう言って馬の耳をした茶髪の少女が、ミッドナイトの隣から顔を出す。

 

「…いや、君は」

 

「見てないっすか!?

…まあ、屋上にいたし、仕方ないか。

アタシはカタパルトでーす!

よろしくね、渋いドクターさん!」

 

そう言ってカタパルトはジョンの手を取って握手をする。

 

「ミッドナイトとパーティーするなら、アタシも呼んでくださいねっ!」

 

「それは良い、よろしくカタパルト」

 

「はーい!やったやった!」

 

「スポット、君も挨拶をしたらどうだい?」

 

ミッドナイトが声をかけると、ソファに腰掛けていたスポットが、読んでいたコミックをずらして顔を出す。

 

「…どうも、行動予備隊A6の重装担当、スポットっす。

…まあ、よろしく…って、おわ!?」

 

やる気なさそうにしているスポットを見かねて、カタパルトが腕を掴んでジョンの前まで連れてくる。

 

「ほぉーら、しゃきっとするっ!へへ!」

 

「お、お前…仕返しか…?

…え、ええ…あ〜…よろしく、お願いします…ドクター」

 

「あ、ああ。

…失礼だが、君は…」

 

「…あ、レプロバ人は初めてっすか?」

 

「レプロバ?」

 

「俺みたいな見た目の連中っすよ。

まあ、どんな顔をしてるかでなんとなく、わかるもんっすからね、慣れてますし」

 

「じゃあ…特殊メイクでも…ないんだな」

 

ジョンはそう言ってスポットの顔を撫でくりまわす。

 

「…ふが」

 

「うへ、へへへ!」

 

カタパルトがその様子を見て笑い出す。

 

「…そんなにモフッたら…ダマになっちまうよ、ドクター」

 

「お、おお!すまん!…ついな」

 

「…まあ、気にしないで良いっすよ…慣れてますんで」

 

その様子を見ていたオーキッドが声を上げる。

 

「そういえばポプカルは?」

 

「え、部屋に残ってるんじゃ?」

 

ミッドナイトがそう言ってあたりを見回す。

すると、部屋の一角のソファにちょこんと座る少女の姿がジョンの目に入る。

 

「あのお嬢ちゃんがそうかな」

 

ジョンの言葉に全員の視線がそちらに向く。

少女がビクリと肩を震わせると、ミッドナイトがその側に近寄る。

 

「あー…今日はお客人が多いからびっくりしてたんだね。

大丈夫?ちゃんと挨拶できるかな」

 

「…」

 

少女はゆっくりと頷くと、ジョンに向かってトコトコと歩き出した。

透き通ったダークグレーの髪色に赤い目、右目を覆った眼帯に小動物のような仕草。

 

「こ、こんにちは…」

 

「ああ、こんにちはお嬢ちゃん。びっくりさせてすまないね」

 

「ううん、もう平気…。

ポプカル…っていいます…よろしくお願いします」

 

「よろしく、ポプカル、ジョンと呼んでくれ」

 

ジョンが差し出した右手に、おずおずと答えるポプカル。

 

「…お揃いだな」

 

ジョンがそう言って右目の眼帯を指し示す。

 

「…えへへ」

 

ポプカルは恥ずかしそうに笑った。

 

「これで、全員と面通しは済んだかしら」

 

オーキッドがドーベルマンに問いかける。

 

「ああ、そのようだ、邪魔をしたなオーキッド」

 

「いいえ、良い休憩になったわ、改めて、今後ともよろしくねドクターくん」

 

「よろしく」「よろしくっす!」「…よろしく」

 

「ああ」

 

ション達はA6の詰所を後にした。

帰り際、ドアの前で1人、こちらに手を振るポプカルに見守られながら。

 

 

ドーベルマンに連れられ、ジョン達が通路を進む。

しばらく歩いていると、CQB訓練施設を俯瞰できる足場に着く。

 

「キルハウスか」

 

「その通りだドクター、見ていてくれ」

 

けたたましいブザーの音とともに、訓練施設の扉が破られる。

そこから盾とハンドガンを手にしたオペレーターが飛び出す。

素早い動きでクリアリングを行い、後から剣を持った前衛、ハルバードを持ったオペレーター、後衛にハンドガンを持ったオペレーターが続く。

 

「彼らは銃を所持しているのか」

 

「ああ、彼女達は少し特殊でな。

銃器の取り扱いに慣れているラテラーノ人と違って、訓練で使い方を叩き込んだ連中だ。

しかし、そういう訓練はロドスでは行われていない。

つまり、彼女達はロドスの所属オペレーターというわけではないんだ」

 

「話に出ていた外部企業の者、というわけだ」

 

「ああ、そうだ」

 

物陰からホログラムの仮想敵が飛び出す。

それに全く動じることなく、先頭の重装オペレーターは的確に急所に弾丸を打ち込んでいく。

その後ろを取る形で現れた仮想敵を、今度は剣を持ったオペレーターが斬り伏せ、ハルバードを持ったオペレーターが部屋の中にいた敵を掃討、後ろから迫る敵を後衛のオペレーターがハンドガンで撃ち倒していった。

 

「見事な連携だな、彼等は民間の警備会社だと言っていたが。動きはまるで精鋭部隊の軍人のそれだ」

 

「場数も多く踏んでいる、特に先頭の2名はベテランと言っても過言ではない。

ロドスの重装オペレーターの教導隊にも選ばれている」

 

「なるほどな、納得の動きだ」

 

 

訓練終了後、汗を拭き休憩を取るオペレーター達のもとへ、ジョン達は赴く。

 

「見学者はあなた達でしたか、ドーベルマンさん」

 

色素の薄い、グレーの髪に青くグラデーションの入った角を生やしたオペレーターがこちらに向かってくる。

 

「お疲れ様リスカム、素晴らしい動きだった」

 

「恐縮です、そちらの方は?」

 

ジョンはドーベルマンの隣に並び、リスカムと呼ばれたオペレーターと握手を交わす。

 

「初めまして、ジョンと呼んでくれ。

先頭の重装オペレーターは君だな。

クリアリングといい、射撃技術といい、良いセンスだ」

 

「ありがとうございます。

ではあなたが…初めましてドクター、お話は伺っておりました。

BSW所属、重装オペレーターのリスカムです、現在はロドスで教導官として活動しています」

 

そういうとリスカムはジョンに向かって敬礼し、微笑んだ。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

リスカムの後ろからこちらの様子を伺うオペレーターがいた。

 

「彼女は?」

 

ジョンがリスカムに問いかけると、彼女は複雑そうな顔をして答えた。

 

「同僚のフランカです…どうやらあなたに興味が、フランカ…ちょっと」

 

リスカムが呼びかけると、しなやかな動きでこちらにフランカはやってきた。

そしてジョンの前に立つと、微笑みながら右手を差し出す。

 

「どうも、生体防護オペレーターのフランカです

所属がこの子と同じBSW、ロドスには治療半分、仕事半分で来てるの、よろしくね」

 

「ああ、覗き見る形だったが訓練を見せてもらった、いい剣技だったな」

 

ジョンが握手に答えると、フランカはリスカムに耳打ちする。

 

「…なかなかかっこいいドクターさんじゃない?」

 

「…少し黙って、失礼ですよ」

 

「そんなことないですよね?」

 

フランカがジョンに問いかける。

 

「仲良くしてもらえるなら、お嬢さんなら大歓迎だ」

 

「あら、経験豊富って感じかしら、頼りになりそ」

 

「フランカ!」

 

リスカムがフランカの頭をはたく。

フランカが耳を畳んでリスカムを睨み付けていると。

 

「ドクター…」

 

ジョンの後ろにいつの間に忍び寄ったのか、アーミヤが裾を掴んで立っていた。

 

「あー…後ろにいる彼女達にも、挨拶をしたいのだが、良いかな」

 

「ええ、もちろん」

 

リスカムが2人に向かって頷くと、遠くでこちらを伺っていた2人が駆け寄ってくる。

 

「こんにちは!」「…こんにちは」

 

「ああ、2人とも初めましてだな」

 

「では私から…BSW所属のバニラと申します。

ロドスには訓練生としてお世話になっています、よろしくお願いします」

 

「ジョンだ、よろしく頼む。

良い動きだったな、長物を扱うには女性には厳しいだろうに。

それを補ってあまりある、良い槍捌きだった」

 

「ほ、本当ですか?

嬉しいです!…でもまだまだ…」

 

「いや、君の武器では屋内戦闘は合わない、だがよくそれを理解し、ポジションを考え、行動していた。

訓練生と言っていたな、これからもその判断力を大事にすると良い」

 

「は、はい!…ありがとうございます、ドクタージョン!」

 

瞳を煌めかせて喜ぶバニラの後ろで、拳銃をホルスターにかけた少女がおずおずと前に出てきた。

 

「…BSW所属、狙撃オペレーターのジェシカです…よ、よろしくお願いします」

 

「ああ、あの見事な射撃を見せていた子だな。

よろしく、ジョンと呼んでくれ」

 

「…は、はい…よろしく、です…」

 

「…ちょっとその、君の相棒を見せてくれるか?」

 

「え…?あ、はい…!」

 

ジェシカは素早く銃を抜くと、グリップの方をジョンに差し出した。

 

「ありがとう」

 

「…」

 

「ベレッタか…ああ、やはり」

 

「…ふえ…?」

 

「見ていた時から気になっていたんだが、君の指の長さにトリガーの位置があってない。これじゃあ撃ちづらいだろう。

手を見せてご覧」

 

「へ…あ…へ…?」

 

ジョンはおずおずと差し出されたジェシカの手をとり、よく観察する。

 

「女の子の指だからな、細くて弱く、衝撃にブレやすい。

よくこの調整であの早撃ちをこなしていたものだ。

ベレッタは元から早撃ちに向く低反動の銃ではあるが…。

…どうやら初期調整のままだな、器具は持っているか?」

 

「へぁ!?…は、はい!」

 

ジェシカは背負ったバックパックから銃の調整器具を取り出す。

 

「少しいじっても良いかな?」

 

「は、はい」

 

「…自分にあった調整をしないとな。

間違った慣れ方をすると、手に馴染むのに時間がかかる」

 

「…それが一番しっくり来ていたので、ついそのままに…」

 

「まあ、これで撃ち辛かったら元に戻すから、一回これで撃ってみなさい。

近接戦闘で使うとき、拳銃は何にも代えがたい相棒になる。

トリガープルの重さも考慮すると、まるで別人のような動きを見せてくれるぞ…ほら」

 

ジョンは素早く銃の調整を終え、ジェシカに手渡す。

 

「どうかな」

 

「…ゆ、指がかけやすいです」

 

「撃ってごらん…良いかなリスカム」

 

「え、ええ、大丈夫です」

 

ジョンはリスカムの確認をとり、通路にある人型の標的を指差す。

ジェシカは素早く狙いを定めると、一発でその標的の頭に銃弾を命中させた。

 

「…すごい」

 

「25ヤード、その銃の弾丸が正確に命中すると保証された距離だ。

だが自分にあった調整を重ねれば、それを撃ち出す銃はもっと君に力を与えてくれる。

良い銃だ、その気になればこの距離ならワンホールも狙えるだろう」

 

「すごいです!…まるで別の銃みたい…!」

 

喜ぶジェシカを前に、リスカムは自分の腰に収まったハンドガンを見つめる。

 

「…」

 

「…あなたも見てもらいたいの?」

 

フランカがいじわるそうな顔で呟く。

 

「…い、いえ…」

 

「頼めば良いのにぃ」

 

「…うるさいですよ、フランカ」

 

ジェシカは拳銃をホルスターに収めると、ジョンに感謝を伝える。

耳や尻尾を大きく動かして、ジョンの手をぶんぶんと振りながら。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!

あの!あのあの!私、この子以外にもいくつか銃を持ってるんですが!今度お話を聞きに伺っても良いですか!?」

 

「あ…ああ、それは良いが…」

 

「ジェシカ、落ち着いて」

 

リスカムがジェシカの肩に手を乗せて、落ち着かせる。

 

「…え、あ…す、すいません…取り乱しました」

 

「ふふ…ああ気にするな、時間があればいつでもくると良い。

…私も、それに関しては少々知識があるからな」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

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