METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
ジョンとアーミヤはチェンに連れられ、龍門外環第5区の近衛局分署へと辿り着いた。
龍門の渡航ゲートに程近いそこは、外部からの訪問者…外交的な会談を行う場所でもあるようで、中華風の高級感ある意匠が通路に施されている。
複数人で構成された兵士が忙しく動き回っており、兵士たちの勤務地であることを示すが、それを差し引いてもそこは高級ホテルのような印象を受ける豪奢さだった。
「こっちだ」
あたりをキョロキョロと見回しながら歩くアーミヤを急かすように、チェンは道の先へと急ぐ。
そのあとをついて歩き続けると、やがて重厚な扉の前にたどり着く。
チェンは扉の前で一息つくと、数回ノックする。
「失礼します、ロドスの代表2名をお連れしました」
「おおそうか、入れ」
重々しい男性の声が響いたのと同時に、スーツ姿の男が両開きの扉を大きく開ける。
その部屋では石造りのテーブルを境に、ソファに腰掛けた2人が向かい合っていた。
「ケルシー先生」
アーミヤがソファに腰掛けるケルシーのそばに駆け寄る。
「アーミヤ…ジョン、君も来たのか」
ジョンは肩を竦めると部屋の中に足を進める。
「ちょうど良いところに来た、まあ掛けるといい」
ケルシーの対面にいる男は炎のように派手な髪色と又の別れたツノが特徴的な、龍のような鋭い目と顔をした男だった。
龍のような目と顔というのは、比喩でもなんでもなく、男は紛れもない、絵画の龍のような頭をしていた。
椅子に腰掛けるその迫力から、相当な体躯の持ち主であることが想像できる。
「その前に自己紹介をせんといかんな。
私はウェイ、龍門の執政官であり、近衛局の取りまとめなんてのもやっている。
簡単に言えば君たちを案内した、そこのチェンの上司ってところだ」
ウェイが席から腰を上げ手を差し出すと、ジョンはその手を取って握手する。
アーミヤが続き、挨拶を終えたところで2人はケルシーと並ぶ形でソファに腰掛ける。
「さて、ではケルシー君、解説の続きを聞こうじゃないか」
ウェイは煙管立てから煙管を取り出し、火皿に歯を詰めると火をつける。
そして深く吸った紫煙を口の端から漏らしながらに話を進める。
「では、続けます」
ケルシーは足の上で組まれた手を緩めるとウェイの目を正面から見つめる。
「現状についてはミスター・ウェイもよくご存知だと思います。
龍門は独自の情報網をお持ちだ。レユニオンに関する情報は日々、山のように集まる。
であればこそ、今回のチェルノボーグの一件も座視はできないはずです」
「当然だな」
「ですが、それらの情報は表面だけをさらっているだけに過ぎません。
現にあなた方は避難民の対応に追われ、より根本的な解決には至れずにいる。
簡易的な検査、ただ感染者かそうでないかを区別するのみの検疫所に、一体どれほどの効果があるか」
閉じられた扉の隣に立つチェンの視線が、ケルシーに注がれる。
「行動を起こそうとするレユニオンが、大人しく龍門の対応に従うでしょうか。
協力なぞはもちろん、対応どおりに彼らが行動するとは限りません。
我々ロドスの協力なしに、龍門が現状の対応策を維持し続けるようであれば、これから起きるであろうレユニオンの攻撃により、龍門は甚大な被害を被ることになると、我々は考えます」
「龍門は」
ケルシーの言葉を遮り、チェンが声を上げる。
「失礼…龍門はこと防衛に関しては、どの移動都市よりも理解があると自負している。
ロドス、君たちの何倍もの理解をな。
想定されるレユニオンの攻撃も、それに対抗する策も、すでに我々は準備を終えている」
ウェイはチェンの行動を咎めずに、笑みの混じった表情で紫煙をくゆらせる。
「ただ、その計画は部外秘のもの。
君たちロドスと共有する義理も義務もない。
ケルシーさん、貴方の心配は無用のものだ」
「かまわん、続けてくれ」
ウェイは口を開くとケルシーに続けるよう手で促す。
「龍門の防衛力に関しては周知の事実。
我々も、その点においては疑問はありません。
ですが、龍門の兵士は集団、しかも暴徒と化した感染者と対峙したことはあるでしょうか。
集団という言葉には様々な解釈があります。
数人、数十人…その程度の暴徒であれば訳もない、ですがそれが数百、数千、いえ数万なら?」
ケルシーは組まれた手に入れる力を強めながら続ける。
「どこからともなく現れる、数万の暴徒の手によって投げられた火炎瓶が、どれほどの被害をもたらすか、想定できますか。
チェルノボーグにも、鍛えられ優れた装備を身につけた防衛力はありました。
ですが結果はご存知の通りです。状況は既にこれ以上ないまでに差し迫っているのです」
ウェイは煙管の煙草を音を立てて灰受けに落とす。
「我々ロドスの経験から言えるのは一つ。
…感染者に最も効率よく対応できるのは、感染者のみです」
「ほう、ではロドスはレユニオンとの対峙を経て、有効な対抗策を得られるまでの経験を手にしたと?」
「まだ具体的な有効策を提示できる段階ではありません。
ですが「経験をした」というアドバンテージが、我々にはあります」
「アドバンテージ、か。
ロドスがチェルノボークの事件に巻き込まれた際、数多くのレユニオンの情報を得たと漏れ聞こえてきたが」
「ミスター・ウェイがどこでそれをお耳に入れたのかは存じませんが。
それらを持ってしても、我々は龍門に有効策は供与できません。
我々がこうして会談をもたせて頂いたのは、経験則からの助言を行うためです」
「このままでは龍門はチェルノボーグの二の舞になると?」
イェンの言葉にチェンの耳が反応する。
「君たちロドスの、その助言とやらが有益かどうかを決めるのは我々龍門だ。
ただ「このままではまずい」という言葉のみでは、どうにも、君たちの実力を認めるわけにはいかんな」
「ミスター・ウェイ、これは誤解を避けるために申し上げておきますが。
我々ロドスが身をもって知り得た経験と情報は、我々の実力によるものだということをご理解いただきたい」
「そもそもの話だが」
チェンが再び声を上げる。
「感染者には感染者を持って相対せよ、という考えには些か疑問がある。
龍門にとってそれが味方になるにせよ、敵にせよ。
総じてそれらが感染者であることに変わりはない、信用せよというのが無理な話だ」
「ミス・チェン、貴方が龍門の安寧よりも、感染者への盲目的な処罰を優先すべきだとお考えなら。
感染者である私は黙ってあなた方の法令に従い、捕縛されましょう」
ケルシーはチェンを見据えて続ける。
「そして牢獄の窓から、レユニオンの手によって放たれた炎に焼き尽くされる街の様を見て、悲しみに暮れることといたします」
「龍門は不遜な態度を理由にその善意を拒む都市ではない、ないが…。
無意味な助言を無条件に聞き入れるほど、愚かでもない」
「…チェン」
「ウェイ長官、このような外部の組織、それも感染者を都市に引き入れ、機密性の高い任務を共にするのは不適切かと思われます」
「チェン」
ウェイの語尾の鋭い呼びかけに、チェンは頭を下げて一歩身を下げる。
「冷静になれ、彼らはあくまで客人だ、この私のな。
…愚弄は許さん」
「…」
チェンは落とした目線をあげ、ケルシー達に向き直る。
「了解しました、自重いたします…彼らがこの龍門の法に触れない限りは」
「…」
ウェイは新しい煙草を詰めながらに息を吐く。
「客人方、すまないな…これは少々生真面目すぎるところがある。
…こういう言葉があってな」
ウェイは口から龍を飛び立たせるように、紫煙を吐く。
「朋友となるべき者を選ぶとき、重んじるのはただ一点のみ
…そは我と並び立つ実力なり。
聞いたところ、君は相当な指揮能力を持つそうだな」
ウェイはジョンを見つめる。
「その実力、是非見てみたい。
…君たちに我々の検疫所の一角を任せよう」
「長官…!」
「己に如かざる者を友とするなかれ…詰まる話はその後でも構わんだろう?」
ウェイはケルシーに問いかける。
「…時間はあまりありませんが」
「なあに、1日だ。
一日、検疫所の業務を滞りなくこなせばそれでいい…話はまたそれからにしよう」
「ミスター・ウェイ!」
「ケルシー君、今言った通りだ。
御大層な助言や結果、推測を伝えられても今の私はそれに実感を持てん。
まずはこの話を進めるだけの実力を、私に示してもらおうか」
「…」
「何か必要なものがあれば言ってくれ、できる限りのものは用意させよう」
ウェイはそう言ってソファから立ち上がり、開け放たれたドアの外に出ようとする。
「ああ、では一つ」
その足を、ジョンの一言がとめた。
「何かな?」
ジョンはソファから立ち上がり、ウェイの目を見つめた。
「…葉巻を何本か、いただけるかな?」