METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
「…多少落ち着いたところで…聞きたいのだが」
「はい、なんでしょうドクター」
「…ここは一体どこなんだ?
君達のいう…ロドスとは…どういう…」
「ここはチェルノボーグ、ウルサス帝国領のブラックゾーンにあたります。
…私達、ロドス・アイランド製薬は「
「…聞いたことが…ないな」
「…えぇ、今はまだ…これからゆっくり思い出していきましょう」
(このアーミヤという少女の言うことに、何一つ思い当たることがない…。
これほどの違和感、記憶の混濁だけが原因だろうか。
私の救出に来たと言っていたが、どこまで信用していい…)
ジョンが思考を巡らしていると、先行していた前衛オペレーターが立ち止まり、静止するよう手を向ける。
「通用口に着きました、敵影はありません」
「わかりました、警戒しつつ外に出ましょう」
前衛オペレーターは頷き、通用口をゆっくりと開け放つ。
瞬間、生暖かい外気が中にいるジョン達に吹きかかる。
「…油の燃える臭いだ」
「え…?」
次に届いたのは人々の悲鳴。
爆発音。
怒声と金属の弾ける音。
「一体何が…!」
「アーミヤさん!
街が、街が燃えてます!」
前衛オペレーターが悲鳴のような声を上げる。
ジョンを含め、オペレーター達全員がそれを目の当たりにする。
「やめて!来ないでぇ!」
「逃げろ!逃げるんだ早く!」
「ギャアァッ!!」
逃げ惑う人々。
それを獣のような動きで追う、仮面の兵士達。
「1人も逃すな!奴らを燃やせ!!」
「建物に火を放って炙りだせ!」
「思い知れチェルノボーグの人でなし共!!」
あるものは火炎瓶を店に投げ込み、あるものはマチェットを振りかざして住人を追いかけ回している。
「…何が起こってるんだ」
「とんでもない数のレユニオンが、ウルサスを襲ってる…」
「これは…ただの暴動じゃないぞ」
オペレーター達が驚きにどよめく中、ジョンは街を赤く染める炎を見つめていた。
(戦火…)
直後、ジョンの頭を再び鈍い痛みが襲う。
声にならないうめきをあげて、ジョンは頭に手を当てる。
「ドクター…?」
(私は…この臭いを…光景を…熱を…知っている。
…私…私は…)
「アーミヤ!」
突然ジョン達の背後から声が上がる。
オペレーターの数人は驚きに身を震わせたが、アーミヤは笑顔を浮かべて声の主人に顔を向ける。
「ドーベルマン教官!」
「無事だったか!」
アーミヤにドーベルマンと呼ばれたその女は、鍛え抜かれたしなやかな動きで、横転した車から飛び降りた。
「襲撃は受けなかったか?」
「戦闘はありましたが、ドクターの指示のおかげで目立たずに脱出できました」
「そうか、我々も襲われてな。
ちょうど今踏み込もうと思っていたところだ。
入れ違いにならなくてよかった。
…その方が?」
「…」
ドーベルマンはジョンに疑いにも似た複雑な視線を向ける。
「ドクター、私のことはご存知ないだろうが、アーミヤから詳しい情報は得ているだろう。
あなたの安全のために同行を…」
「ドーベルマン教官、それについてなんですが…」
…
「記憶がない?」
「ないと言うよりは、混濁していると言う方が正しいかもしれません。
朧げに記憶はあるようですが、脈絡を得なくて…」
「…ケルシー先生と連絡が取れない今、ドクターが頼みの綱だと言うのに…そんな状態で大丈夫なのか?」
「ドクターの指揮能力は問題ありません。
私たちがここに無傷でたどり着けた事が証明してます」
「…」
「…あー、取り込み中なのはわかってるんだが…ちょっといいかな」
「な、なんでしょうドクター…」
「気になっていたんだが…君たちのその…頭の耳飾りは…一体どういう意図があるのかね。
…夢にしては…なんだか…素っ頓狂だ」
「「…」」
「…わ、私はこの目で見たものでなければ判断できん。
アーミヤ、お前を信じる…信じていいんだろうな?」
「は、はい!…多分」
…
「ドクター、私から簡単に状況を説明させてもらう」
「…ああ、お手柔らかに頼む」
ドーベルマンは目の前のくたびれた老人に不信感を抱きながらも、表情を正して説明を始める。
「…ここはチェルノボーグの中枢エリアに位置している。
当初の予定通り、我々は西側の最短ルートを通って脱出するのがいいだろう。
他の部隊もそのように行動するはずだ」
「本当なら西端の集合地点でドーベルマン教官や、他のオペレーターさん達と合流して撤退信号をあげて待機する予定でしたが…」
アーミヤが腕のデバイスから投影されるホログラムマップを見つめる。
「この状況だと悠長に移動してはいられんな。
…全くタイミングの悪い、よりにもよって今日暴動が起こるとは…。
くそ…見ろ、あいつらの熱を…。
なんだか嫌な予感がする」
ドーベルマンは街路の彼方から聞こえる獣の絶叫にも似た、彼らの雄叫びに眉間に皺を寄せる。
「ええ、ですから早く移動を…」
「あ、アーミヤさん!」
医療オペレーターが両手で無線を持ち、会話の間に入ってくる。
「どうしました?」
「無線が入りました!
ロ、ロドスからです!」
「本当ですか!?
まさか、ケルシー先生から…」
『誠に残念ながら、違います』
無線機から発せられたのは人間味のない無機質な声だった。
「PRTS…」
『声紋認証、アーミヤ様。
チェルノボーグで現在展開中の作戦行動にあたり、重大な障害が発生したため、ニューラルコネクタへの緊急接続プロトコルが実行されました。
現在、ロドスは正体不明のサイバー攻撃を受けており、現在利用可能な相互通信域はありません。
よってドクターケルシーとの秘匿回線は情報漏洩を避けるために強制遮断中です』
「ロドスの全回線がオフラインになっていると…?」
『最重要事項である、現状でのアーミヤ様の安全を確認。
現時点での私のミッションは達成されたと判断します』
「こんな時に…そんなことを言うためにわざわざ回線を開けたのか」
『なお本回線は指揮の実行が確認されない場合、自動でシャットダウンが行われます。
「皆様のパーティに水をさした様であればお詫びいたします」』
「…PRTSに必要以上に人間味を持たせるのも考えものだぞケルシー先生」
「まって…指揮の実行を要請します。
ドーベルマンさん、ドクターの今後の指揮にPRTSは必要です」
「…わかった、できる限り急げよ、あまり長居はしたく無い」
アーミヤはジョンに向き直り、無線機から展開されるバーチャルモニターを見せる。
「ドクター、これはPRTS。
私たちの仲間で、作戦の支援や補助をしてくれる…」
「AIか…それなら幾分か理解がある」
「話が早くて助かります。
今後の作戦指揮に役立つはずです。
早速、ドクターにはPRTSの作戦支援ネットワークに接続していただきます。
彼女が今後やるべきことを教えてくれるはずです」
「…」
…
『ナノマシン管制下における個人の無意識の統制を…』
『規範が人を形作る時代に…』
『…ザ・ボス、彼女の望んだ世界に…』
…
「…グ…」
「ドクター…?
頭痛がひどいですか?」
「…いや、断片的にだが記憶が…」
「ドクター、時間がない。
PRTSの支援は今後の作戦行動で優位に立てる。
…体調がすぐれないのなら、今すぐにでもアーミヤに作戦指揮を…」
「…それは」
「いや…大丈夫だ、やらしてくれ。
…私の記憶を呼び覚ますきっかけになるかもしれん」
「ドクター…」
「アーミヤ、どうすればいい」
「は、はい!
PRTSは離れた場所からロドスの管理運営を行うことができるシステムです。
既存の通信網とは独立したネットワークを利用しているため、現在の通信統制下でも問題なく、ロドスの所属オペレーターの指揮が行えます。
うまく使えば、声に出すより効率的に指揮が行えるはずです。
…私はドクターを信じます。
どうか、ご自身の感覚に従って、思うがままに指揮してみてください…PRTS?」
『かしこまりました。
現時点より、PRTSはチェルノボーグで展開中の作戦行動の支援にあたります。
ニューラルコネクタを作戦行動中のオペレーター各員に敷設。
スタンドアローン状態を確立。
防護網を再構成しました。
管理者の指定を、アーミヤ様』
「管理者を…ドクタージョンに指定します」
『管理者がドクタージョンに指定されました。
識別方法として声紋認識、掌紋認識が推奨されます』
「ドクター、何か喋ってみてください」
「…あー…」
『➖・・・。
声紋の識別を確認しました。
お帰りなさい、ドクタージョン、ロドスはあなたを歓迎します』
「…それは、ご丁寧に」