METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
翌日
AM10;21
晴天
有視界度17km
龍門、外環部、ゲート前検疫所
ロドスの簡易テント内部
「喫煙は体に悪いです」
椅子の背もたれに身を預け、ビニールの窓の外を眺めながら紫煙をくゆらせるジョンの横でアーミヤが声を上げる。
「昨日のホテルは最高だったな」
「ドクター、聞いてます?
喫煙は体に悪いんです」
「バーは居心地が良かったし、酒もうまかった」
「ど、く、たー!?」
アーミヤが葉巻を奪い取ろうと手を伸ばすのを、華麗に避けるジョン。
「何より…この葉巻だ。
…産地すらわからんが、実にいい。
熟成されたバーボンの樽を思わせる重厚感…ほのかに残る甘み…唇に触れる煙の存在感すら、まるで羽毛で撫でられるように心地いい…後でミスター・ウェイに詳しく聞いてみよう」
「ドクター!
…それを!…よこし!…よこしなさい!」
繰り出されるアーミヤの手を全て絶妙なタイミングで躱わし続けるジョン。
「何をしているんですかドクター」
「おお、リスカム。
悪いがこの子ウサギをどうにかしてくれんか、ずっとこの調子なんだ。
子供にはよくないから近づくなと言っても聞きはしない…」
「だ、れが …!
子ウサギ!ですか!…それ!ふん!」
アーミヤとの攻防を繰り広げながらも、決して葉巻を手放さないジョンを見て、リスカムは肩を竦める。
「申し訳ありませんが、彼女は私の上司に当たりますので。
それは貴方も同じでは?」
「そうです!ふー!…はー…!
じ、上司命令ですよ!ドクター!それを…!…よこし!よこせ!」
「それはいかんなリスカム君。
我々も必要なときには上司に物申す気概を持たなくては。
それに、部下の有意義な休憩時間は上司が保証すべきだぞ」
ジョンはそう言って立ち上がり、葉巻の入った箱を持ち上げつつリスカムの元に歩み寄る。
アーミヤは根元を断つべく、箱を奪い取ろうとするが、いくらローブに縋り付いてもジョンとの身長差は埋まらない。
お菓子を取り上げられた子供のように飛び上がり続けるアーミヤを躱しつつ、ジョンはリスカムの前に立った。
「それで、現状は?」
「如何ともしがたいですね。
部下達は真面目に取り組んでいますが、これがウェイ長官の言う「実力」の示し方なのかと、疑問には思います」
リスカムに連れられてジョンがテントの外に出ると(階段を使って高低差を埋めようとするアーミヤを躱しながら)、そこには検疫所に並ぶ避難民の長蛇の列があった。
ジョンから葉巻を奪うことを諦めたアーミヤが、その隣に続く。
「数日経ってもこの調子か、辛いな」
「ドクターの指示に従い、列の数カ所に休息所と物資支援スペース、炊き出し所を設置しました。
その効果もあってか、避難民の皆さんは好意的に検疫に協力してくれています」
「5日も屋根もなしに野ざらしにされれば誰もが荒む。
日が経つに連れ、鬱憤や不満が募る。
今くらいが一番効果が現れる頃だろう」
「他のゲートでもこの方法に倣って措置を行なっているそうです。
トラブルの件数も減ってきているとか」
「むしろ今までなぜこのような処置を取らずにきたのかがわからんな」
「龍門はチェルノボーグほどではないにしろ、感染者に対しては忌避感が強いですから。
全ての人間に感染の疑いのある状態で、不必要に人員を割くのを躊躇ったのでしょう。
今回の彼らの措置も、効果が見込めるからという確認が取れたからこそのものかと」
「不必要と思ってしまうことに問題がある」
「…それが人々の心に根差した考えです、悲しいですが」
リスカムが行列を眺めながらに呟く。
「…君の助言通り、接触者を非感染者に限ったのは正しいようだ。
だが警備用員はそうはいかんからな、検疫を通るまでは彼ら全てが保護対象だ。
少し、警戒線を狭めよう、人々にはわからないように静かにな。警戒は怠るなよ」
「了解しました」
リスカムはジョンに敬礼すると、列を遠巻きに監視する部隊に向かって走っていく。
『ドクター?』
ジョンの腰に下げられた無線機からフランカの声が上がる。
「フランカか、どうした」
『リスカムと何を話してたんですかー?』
ジョンが西側の丘に目をやると、きらりと光る双眼鏡の反射光が見えた。
「…遊んでないで仕事しろ」
『指示通り、西側の丘に陣取って監視中だけど、なーんにも変化がなくてつまらないですどうぞ』
「つまらないってお前…」
『なんか面白い話とかしてくれてもいいですよー』
「…」
無線機を指差してアーミヤに意見を求めるが、むくれがおの上司はそっぽを向いてしまった。
「あー…生憎と面白い話は持ち合わせがない」
『えー』
「代わりと言ってはなんだが、今度親睦を深めるのを兼ねて隊の皆で飲みにでも行こう。
…私の給料形態がまだはっきりしていないから、奢りとまではいかんが…」
『わお、十分面白い話ですよドクター!
…みんなードクターがみんなと飲みに行きたいってー!』
『まじっすか!?』『おごり!?おごりっすか!?』『ウヒョー!』
『ったりまえでしょー!じゃあドクター!楽しみにしてますからー!』
そう言ってフランカは一方的に無線を切る。
「…」
「お給料の話、今度ゆっくりしましょうね、ドクター」
横でアーミヤが瞳に影を落としながらに呟く。
そのときだった。
『ドクター!』
東側の丘で警戒を行っていたジェシカから連絡が入る。
「どうした」
『ひ、避難民の行列に近づいてくる集団を確認しました!
数は…10…いえもっとかも!砂塵が舞っていて正確な数はわかりません!』
「車両は?」
『へ?』
「車両の姿は見えないか?」
『…え…と。
…あ!見えました!集団から離れる車両部隊を発見!』
「わかった、龍門に確認を取り次第すぐに向かう。
そのまま監視を続けろ」
「レユニオンでしょうか」
「おそらくな。
…チェン隊長、チェン隊長聞こえるか」
ジョンは事前に知らされていた龍門近衛局の周波数に声を投げかける。
『聞こえている、どうした』
「我々の部隊が東から迫る集団を発見した。
龍門にそのような情報は入ってきているか?」
『少し待て……いや、そのような報告は来ていない』
「ではこちらで対処する、いいな」
『ああわかった、任せる』
「アーミヤ、今すぐ車両に乗せられる人員は?」
「1小隊ならすぐにでも」
「よし、私も同行する」
ジョンは無線をロドス全隊に向けて発する。
「全隊聞け。
現在東から正体不明の集団が避難民の列に向けて接近中。
私と1小隊がジェシカと合流して対処する。
リスカム、守備は任せるぞ」
『了解ですドクター』
『ドクター、私たちは?』
「フランカ、君たちはそのまま西側の警戒を続行。
奴らは車両を用いて移動している、小さな砂塵を見落とすな」
『了解』