METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
「よーし全員乗ったな!出せ出せ!」
先鋒オペレーターの1人が輸送トラックの荷台を叩いて発車を促す。
先鋒オペレーターは動き出した輸送トラックの、幌の骨組みに掴まり足場に足を置いてそのまま現地へと向かう。
「なあ、あいつらはどうしてこんな真似をしたと思う?」
「ああ?…ああ、リスカムさんとこの…なんだよ」
車内にいる前衛オペレーターの1人が目の前に座るオペレーターに話し掛ける。
「よろしくな、なにって…レユニオンの連中だよ」
「まだそうと決まったわけじゃないだろ」
「奴らに決まってる、そうじゃなきゃ、こんな自殺まがいの動きするもんか」
「混ぜてくれよ。
…そうだな、こんな龍門の目と鼻の先で襲ってくるなんてな」
話掛けられたオペレーターの隣に座っていた重装オペレーターが加わる。
「あいつらは狂ってるよ、チェルノボーグの一件といい、本当に」
「ただ狂ってるだけであんなことするかね」
「ああ?どういうことだ?」
「お前ら、ロドスに拾われてなかったらどうなってるかって考えたことあるか」
「…そりゃあ、まあ、いやでもな」
「俺は自信ねえよ、あいつらみたいにゃならねえって」
「チェルノボーグの救出部隊の話聞いたか?」
「ああ、酷かったってな」
「俺のダチが参加してたんだけどよ、今奴ら臨時休暇中だろ、えらく喜んでてな」
「羨ましい限りだな」
「からかってやろうと思って、作戦前にそいつの部屋行ったらよ…そいつ、泣いててよ。
声もかけずに出てきちまった…」
「…」
「隣部屋のやつに聞いたら数日ずっとそんな調子だってよ。
…俺と同期だからな、少なくとも五年は泥に浸かるような生活してた奴がよ…信じられなくてな」
「そりゃあ…しかたねえよ」
「オレぁ…ロドスに拾われてよかったよ…」
「あいつら、どんな気持ちでここに向かってるんだろうな」
オペレータ達の乗るトラックは、前方に迫る砂塵目指して走る。
オペレーター達の言葉は、車輪が砂を蹴る音に紛れてかき消されていった。
…
「全員降車、急げ!」
輸送トラックの中から、続々とオペレーター達が降りてくる。
ジョンとアーミヤはトラックから降りると、前方から迫ってくる集団の巻き起こす砂塵を見やる。
「ジェシカ、お前達の正面のあたりに到着した。
可能ならこちらに合流するんだ」
『了解、ただ今!』
丘の上で、砂色のシートを被ったジェシカ達偵察隊が起き上がり、丘を駆け下りてくる。
ジェシカはそのままの勢いでジョンの元まで息を切らしながら走ってくる。
「た、ただいま合流しました!ドクター!」
「ああ、ご苦労…別に走ってこなくてもよかったんだぞ。
…頭に砂がついてるし」
「へぇ!?…す、すいません」
「それより、あれは先ほどからあんな感じか?」
「は、はい!砂埃を上げながらこちらに」
「…妙だな、随分と動きが鈍い」
ジョンはオペレーターから双眼鏡を受け取ると、巻き起こる砂塵の奥を見る。
「…重装オペレーター、横隊で広がれ。
狙撃オペレーターはジェシカの指示で両翼に散開しろ」
「「「了解」」」
「了解です、狙撃オペレーターの皆さん、物陰を探して隠れてください!」
「レユニオンですか?」
アーミヤが隣に立って問いかける。
「レユニオンには違いない、違いないが」
ジョンはアーミヤに双眼鏡を渡すと、苦い顔を浮かべる。
「…あれは子供だ、子供の集団がこちらに向かってきている」
「子供!?」
アーミヤは双眼鏡を受け取ると覗き込み、砂塵の元にいるそれを見る。
「狙撃オペレーター、武装はしまえ、様子を見る。
ジェシカいいな、決して許可なく攻撃するな」
『り、了解です!』
…
やがてそれらはジョン達の目の前で停止する。
そこには身の丈に合わない武装を抱えた子供達が、仮装のように仮面と装備を身につけて立っていた。
「…ふー…ふーっ…」「はーっ!はーっ!」「…かひゅーっ…」
砂に喉をやられたのか、息を荒く吐きながら、こちらを睨む子供達。
後ろには女の子や、小さい子供までもが背負われて続いていた。
そこにいる全てのオペレーター達に動揺が走る。
「おい…あれ」「まだ子供じゃないか…!」「どうして…」
ジョンはそれらの中間地点まで、歩いて向かう。
狙撃オペレーター達の間に緊張が走るが、ジョンはそちらを見ずに手振りだけてそれを静止する。
そして子供達の数メートル先に立つと、声を投げかけた。
「…おーい、君たちはどこに向かってるんだ!」
後ろに兵士を従えた男が、話しかけてきた。
そんな状況で子供達の中にどよめきが起こるのも無理はなかったが、やがて真ん中にいた背の高い少年が、声をあげた。
「龍門だ!」
「…龍門に何をしに!?」
「…捕まった仲間を助けに行く!」
「…それは困ったな!そうなると私たちは君たちを止めなきゃならん!」
ジョンの言葉に、子供達にさらに動揺が広がる。
子供達の数人の手に握られた、体に比べて大きすぎるボウガンがジョンへと向く。
「まあ待て!そう殺気立つな!」
「そこをどけ!」
「話を聞いてくれ!
私たちは、龍門の兵士ではない!」
「…ならなんだって言うんだ!」
「…なあ!君がリーダーか!」
「…ああ、そうだ!」
「名前は!なんと言う!何歳だ!」
「…答える筋合いはない!」
ジョンは少年の受け答えに頬を緩ませる。
「立派だな!しっかりリーダーをこなしていると言うわけだ!」
「ごちゃごちゃ言うな!そこをどけ!さもないと…!」
「さもないと!?さもないとどうするッ!?」
ジョンは語尾を荒げる。
「その可愛い部下達を連れて「俺」と戦うか!?
それもいいだろう!たとえ、全員皆殺しになっても、君はいいよなあ!
立派に「リーダーをこなせた」んだ!」
ジョンの言葉の迫力に、少年は武器を握る手の力を強める。
「レユニオン!素晴らしい組織じゃないか!感染者を守るか!
誰でもその仮面を被れば兵士か!?
武器を取れば子供でも使うか!?君はそれに納得しているわけだ!
なるほど!素晴らしい「リーダー」だ!俺も見習うか!なあ!」
ジョンは少しづつ少年へと歩みを進める。
「…」
「目的を果たすためならなんでもやるか!?
感染者である君たちには悪いが、それは清らかなように聞こえて酷く醜いぞ!
要は「逃げ」だ!考えることを放棄したわけだ!
…どうやら君たちはそんな大人達の「逃げ」に従うわけだな!レユニオンの少年!」
「逃げてない!!」
少年は大きな声を上げてジョンの言葉に反応した。
「大人達…父さん達は…逃げてない!
誰も助けてくれない世界から、少しでもいい方へ…いい方へと、僕を連れて!
でもそれじゃあ…生きて…」
「だから奪うし!壊すし!人を殺すか!?立派な教えだ!
君のようなリーダーがいるなら、レユニオンの将来も安泰だな!
父君もさぞ誇らしかろうよ!」
「違う!父さんは決して他人からは奪わなかった!…でもみんな頭を下げる父さんを無視して…。
仕方ないじゃないか!そうしないと生きていけなかったんだ!…父さんも…そうしていれば死ななかった!」
「悪いがそれが「逃げ」だ!」
ジョンは少年への歩みを早める。
「綺麗事に聞こえるか!?ああそうだ!これは綺麗事だ!
難しすぎて意味がわからんか!?
だが聞け!そこが「人間として生きる」最低のラインだ!
いいか!理由はいずれにしろ…どんな理由にしてもだ!
…手にした「それ」を人に向けたその時から!
お前は地獄に落ちる!いいか!必ずだ!」
ジョンは少年の前に立つ。
涙の溜まったその目を、真っ直ぐにジョンは見つめる。
「…人を傷つけ、殺める事を生きるための手段にするな。
お前もリーダーなら、仲間を、家族を、友を地獄に落とさないための最大限の努力をしろ。
それを行わずに済む道を、決して見逃すな」
少年の武器を持つ手が震える。
「武器を人に向けるのは初めてか?」
「…」
「安心しろ、俺にそれを向けたところで、お前は地獄には落ちん。
すでにこの体は天国の外に置いている」
少年の手からずるずると、武器が落ちていく。
「父君の意志を無駄にするな、彼は君に地獄を見せまいとしたんだ。
立派な事だ、それを君も引き継ぐんだ…いいな?」
少年の手から武器が落ちるのを合図に、子供達の手から次々に武器が手放されていく。
「…アーミヤ、終わった。
この子達を保護しろ」
『はい、ドクター…。
あの、お伝えすることが』
「なんだ」
『龍門のゲート前で襲撃が…ですが』
…
龍門の避難民のゲートから離れた荒野に、争いの煙が上がっていた。
リスカムとフランカが見渡す先に、レユニオンの兵士達が数十人、地面に倒れ伏している。
『…襲撃は鎮圧されました。繰り返します、警備担当者の手によって、レユニオンによる襲撃は鎮圧されました。避難民の皆様におかれましては、慌てず混乱することなく列にお並びくださいますよう…』
龍門のゲートの方から、スピーカーの放送が聞こえてくる。
戦場跡を前に立つ2人のすぐ横に、ジョン達の乗る輸送車両が到着する。
「2人とも無事か」
ジョンが2人に声をかけると、リスカムは複雑そうな顔をジョンに向けた。
「ええ、被害はありません。
避難民にも、我々にも、ですが…」
「レユニオンの連中、まるでこうなることをわかっていたかのような動きを」
フランカが振り返らずに言葉を続ける。
「死にに来たような動きでした」
「…そうか」
ジョンはフランカの肩に手を乗せる。
そして1人、戦場跡へと歩みを進める。
アーミヤもそのあとへと続く。
「あの車両…」
炎上するトラックを見てジョンは呟く。
「子供達をあそこに置いていった連中のようだ」
「…そうですね」
その時、ジョンは岩に背を預けるレユニオンの兵士が、少し動いたのを見た。
ジョンがそこに向かって走っていくのを、アーミヤが慌てて追いかける。
そこには爆発によって突き刺さったのか、金属の破片によって胸を貫かれたレユニオン兵士がいた。
ジョンはその隣にしゃがみ、肌に鉱石の露出した腕をとる。
「ドクター…接触は…」
「…なあ、お前、聞こえるか?」
「…」
アーミヤはジョンの背中を前にして黙り込む。
「…ヒュー…ヒュー…」
肺まで傷が達しているのか、男は仮面の下からダラダラと、血と苦しげな息を吐き続けるのみだった。
「……なあ…聞こえるか…子供達は保護したぞ、今は私たちと共にいる…」
「…ヒュー…ゼヒュー…」
レユニオンの兵士がゆっくりと、その顔をジョンの方へ向けた。
そして血溜まりの中から引き抜くように、片方の手を持ち上げると、それをジョンの手の上においた。
そして残り少ないであろう力の全てを、ジョンの手を握る力に込めた。
「…ああ、大丈夫だ…」
「…ヒュー…ヒュー…………ヒューーッ…………」
その手は、再び油の浮いた血溜まりの中へ、音を立てて落ちた、
「…」
「…ドクター、この人たちは…」
「わからん、子供達は彼らにとって、戦力を分散させるための囮だったのかもしれん。
…だが」
ジョンは手にとっていた腕を、そっとレユニオンの兵士の膝の上に乗せる。
「彼らに地獄を見せたくない者は…ここにもいたようだ…そう思いたい」