METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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龍の評価

翌日

AM9;31

龍門外環第5区、近衛局分署

 

「合格です」

 

ソファに腰掛けるウェイの後ろで、チェンは両腕を後ろに組み、目の前に腰掛けるロドスの面々を見据える。

 

「レユニオンの急襲、その動きに対する俊敏さ、対処したその実力は、合格と言えるものでしょう」

 

ウェイは煙管から紫煙を立ち上らせ、葉巻を上機嫌に燻らせるジョンを見る。

 

「ふむ…話は聞いていたが、実に素晴らしい対応だった。

避難民を襲おうとしたあれらをああも容易く鎮圧するとは、いい「部下」を持ったものだ」

 

「恐縮です」

 

ケルシーは隣のジョンを睨みながらに答える。

 

「しかしウェイ長官、それらのことを踏まえ。

戦略的、また彼らの身分を考慮しても、私は今回の件、近衛局だけで問題なく対処できると判断します」

 

ウェイは煙を深く吸い込む。

 

「確かに…内部犯罪や外部からの侵攻…今の近衛局であれば容易く対応することはできるだろう。

そのための準備に長い年月を費やしてきたからこその、今の栄華だ」

 

口の端から煙を漏らしながら、ウェイは続ける。

 

「仮にロドスが、その上にさらなる可能性を上乗せできたとしても。

…見合わんよ、君たちの求める「モノ」には」

 

煙管立ての灰受けに、音を立ててタバコを落とす。

 

「認めよう…その実力、この龍門の守備力に勝る所もある。

鉱石病(オリパシー)の力、確かに人知に勝るもの…あれらに充てるにはこれ以上ない。

だがそれでもまだ、届かない。

質は数で追いつける、君らの要求する「モノ」は高すぎるのだ」

 

ウェイとケルシーは視線を交錯させる。

 

「それは君たちにもわかっているだろう」

 

「ミスター、強固な岩の壁も、滲み入る毒の前では無意味です。

あなた達は彼らのことを知らなすぎる」

 

ケルシーは言葉の語尾を強めながら続ける。

 

「滲み入る毒を止めるには、毒の根源を絶たねばなりません。

こちらが積極的に策を講じない限り、レユニオンは数週間もあればこの龍門を攻め落とすでしょう」

 

ケルシーの言葉にチェンが青筋をたてて言葉を返す。

 

「それは脅しのつもりか。

なんの確証があってそんな…」

 

「チェン警司、君はその職についてどれくらい経つ?」

 

ジョンが口元に笑みを浮かべながら問いかける。

 

「…何?」

 

「3年くらいか」

 

「…近衛局には4年」

 

「ほう、4年でその地位か、なるほど優秀な部下をお持ちだ、ミスター・ウェイ」

 

「…」

 

「…以前、自分の歳も分からない子供が人を殺めるところに出会したことがある。

あまりにも鮮やかにそれをこなすものだから、その少年が殺したと気づくまでは皆で噂していた。

「敵には化け物がいる」とね」

 

「…何を」

 

「その子供を「人間」に戻すのに10年かかった。

ナイフから手を離し、人と会話をさせ、読み書きを教え、道徳を学ばせる。

10年だ、「化け物」を「人間」に戻すのに10年、長かった」

 

「一体何の話を…!」

 

「先日、レユニオンとして武器を持った子供達と出会った」

 

「…っ」

 

「なんだ、知らなかったのか?

…当然だな、君たちは敵の構成まではいちいち調べないだろう。

お前達も妙だとは思わんかったのか?

ミスター・ウェイは襲撃があることは最初からわかっていて私たちをあそこに置いたのだよ。

実力を測ると言っておきながら、任されたのは検疫所の警備。

あまりにもチャチな定規だ」

 

ケルシーとアーミヤはウェイを見る。

そこには口の端を緩めたまま、煙管を揺らすウェイの姿がある。

 

「まあ、その辺りはよくある話だ。

今更どうこう口を出すつもりもない。

…それはそれとして、チェルノボーグがいかにして落ちたか。

私の考えを聞いてもらえないか、ミスター・ウェイ」

 

「…ああ、いいだろう」

 

「初めて目の当たりにしたが、あの「天災」と言うものは実に恐ろしいものだ。

都市一つ飲み込む空からの巨石の飛来、しかもその巨石は人の体を蝕むときている」

 

「君たちロドスはその天災から逃げ果せたと聞いている。

敬服に値することだ」

 

「だが彼等は逃げなかった。

逃げられなかったのではない、「逃げなかった」。

頭上に迫る明確な死を前にしても、彼等は家に、人に、火を放ち続けていた。

どうしてそんなことができたのか、考えたことは?」

 

「…さてね」

 

「考えた所で行き着くのは単純、彼等の場合は「そうしたい」からだ。

実に単純明快、人の存在原理にもかなっている。

「欲求」だ、つまるところは…だが問題はその欲求の根幹にある」

 

「まるでナゾナゾを問いかけられているようだ、面白い。続けてくれ」

 

ウェイは煙管に煙草を詰めながらに促す。

 

「「怒り」だ。

人間は一度これに囚われると芋づる式に様々なものに駆られる。

「絶望」「喪失」「悔恨」「憎悪」「自己肯定」そして…「復讐」。

これが厄介だ、復讐は…報復は残った感情の全てを麻痺させる」

 

ジョンは葉巻から上がる紫煙を目で追いながらに続ける。

 

「彼等のそれをうまくコントロールする者がいる。

なんと言ったか…」

 

「…タルラ、です。ドクター」

 

「!?」

 

チェンがその名前に目を見開く。

 

「タルラ、あの龍女か」

 

ウェイが目を細める。

 

「…ああそうだ…タルラ。

レユニオンの首謀者」

 

ジョンは葉巻を一口、頬に含む。

 

「思想でも、ましてや忠義でもない。

「怒り」を管理し、実にうまくあそこで事を運んでいたよ」

 

「チェン、君は?」

 

ウェイはチェンに目線を向ける。

 

「…はい、存じております」

 

チェンは俯きがちに答える。

 

「…ミス、傷つき、全てを失った子供に武器を持たせる方法は実に単純なのだ」

 

ジョンはチェンを真っ直ぐに見て呟く。

 

「親が殺された、兄弟姉妹が殺された、友達が殺された。

…あとは「敵」を示してやるだけ、武器を手渡してこう言ってやるだけだ。

「見ろ、あいつらがお前の大切な人を傷つけた」とな。

…これは「怒り」にとらわれた大人にも効果がある。

実に効率的で、えげつない方法だが、こと戦時下ではよく使われる手法だ。

それが実際は誰の手によって行われたものか定かでないとしても…それが例え「病」によるものだったとしても、そこに何かしらのきっかけがあれば、あとはもう引き戻すか、地獄に落とすかは「早い者勝ち」なのだよ」

 

チェンはジョンの瞳から目が離せずにいた。

ジョンは一息を吐いて、思い出すかのように紫煙を目で追いかける。

 

「それをあの女はよく理解している。

その上で、鉱石病(オリパシー)と言う共通の旗印を掲げているのだから、尚更だ。

忌み嫌われ、迫害され、虐げられ…境遇は別にしても、よほどの聖人でない限り、心の奥底に根付くのは「怒り」だ。

それを絶妙な角度で突かれたら…どうなるか」

 

「…」

 

「そうなるともう事は感染者だけで済まなくなる。

感染者の男、女。

父、母、子供、友人を失った非感染者の家族、友人、戦友、知人。

それら全てに「怒り」の種が植え付けられ、芽吹き、開花する…その可能性が今、この龍門に迫っている。

さあ、この時点で検疫所は役に立たない。

時限爆弾のような怒りの種が壁の中にまかれ、外からは永遠にここを尾け狙う覚悟を決めたレユニオンの兵士たちがいる」

 

ウェイは大きく煙を吐く。

ジョンとの間に、カーテンのように煙が舞う。

 

「その上、チェルノボーグの主国であるウルサス帝国にいまだに動きがない。

…本当は猫の手でも借りたいはずだろう。

高々、防衛網の一端と、龍門の生命線、天秤で遊ぶ時間はもうないはずだ。

…それとも、この状況で、まだ我々の実力を測る余裕があると?…ミスター・ウェイ」

 

ウェイは煙の間から注がれる、ジョンの鋭い目を見据える。

 

「…諫言耳が痛い。

いや、その通りだ、ロドスのドクター」

 

ウェイは灰受けにまだ燻っている煙草を落とすと、ジョンに向き直る。

 

「ケルシー君、実力を測ると言いながら、我々はどこかで迷っていた。

…優秀な指揮官をお持ちのようだ」

 

「…」

 

ケルシーは黙ってウェイに会釈を返す。

 

「いいだろう。

指摘の通り、現状の緊迫した局面、龍門の兵力には割ける人員も場所も限りがある。

…それを踏まえて、以前の臨時契約を基に、再び龍門は君たちに襟を開こう。

君たちの具体的なプランを聞かせてくれ」

 

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