METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
真昼の龍門。
龍門外環部の外れ、巨大なビルをいくつも抱える移動都市に寄生するように、スラム街はある。
移動都市として繋がりを許されてはいるものの、中心部との間には高い壁が反り立ち、物見櫓の上では物々しい装備を見つけた兵士が目を光らせている。
壁の10メートルほど手前には有刺鉄線が備え付けられ、「侵入禁止」のシンプルな立て看板が建てられている。
そしてすぐ隣に、ボウガンの矢が一本突き刺さり、侵入すればどうなるかを暗に示していた。
ジョンはその様子を有刺鉄線すぐそばの車道を走る、輸送車両の窓から眺める。
スラム街の砂をかぶった風景にそぐわない、最新鋭の装甲車両。
当然、視線は集まり、ジョンは流れる風景の中にみすぼらしい姿でこちらを眺める少女を見る。
「…こういう雰囲気もまた、あまり変わらんな」
「ドクター、お茶、飲みます?」
アーミヤが金属容器をジョンに差し出す。
「ありがとう…これはなんだ?」
「ペパーミントティーです、ここはあまり空気が良くありませんから。
喉に優しいですよ」
「…いい香りだ」
ジョンは金属容器の蓋を外してそこにミントティーを注ぐ。
車内に爽やかなミントの香りが広がり、オペレーター達の鼻腔をくすぐる。
「ほれ」
ジョンはすぐ隣の重装オペレーターにそれを回す。
「え、あ…いいんですか?」
「こう言う時は回し呑みだ、かまわんだろう、アーミヤ」
「もちろん、まだありますから」
アーミヤはポシェットの中の金属容器を見せる。
重装オペレーターはマスクをずらしてお茶をすすり、それを別のオペレーターに回す。
車内はさながらティーパーティーの様相をなした。
「…はあ、あとは甘いもんでもあれば気分もマシになるってもんですね」
「私はあまり甘いものは好かんからな…そこの子ウサギが目を光らせてなければ、ウェイ氏にいただいたこの葉巻との逢瀬を楽しむんだが」
ジョンは胸の内に忍ばせている葉巻の箱を叩いた。
「…そんなところに隠してるんですか…ダメですよ、オペレーターの中には鉱石病で肺を病んでいる人もいるんですから!」
「…そう言われると弱い、尻に敷かれっぱなしだ。
全く、デキる上司を持つと君たちも頼もしいだろう」
「ハハ!ええ、まあ」「頼もしいったら」「お世話になりっぱなしで」
「…みんなで褒めたってダメですからね」
太陽の光を反射して煌めくビルに見下ろされるスラム街。
二つの世界の境界線を、ロドスの車両が列をなして進んでいく。
…
車列はやがて、砂を被った路面とは様相の異なる、整備された区画に到着する。
そこには龍門の搭乗口とは様式の異なる、要塞のような雰囲気を醸し出したゲートがあった。
スラムから中心部へと通じる唯一の入り口である、それも当然か。
兵士が詰所から1人、先頭の車両、ジョン達の乗る装甲車に駆け寄ってくる。
運転席の窓を数回ノックすると、開けられた窓に向かって声を張り上げた。
「お疲れ様です!誘導員の指示に従って駐車を!」
運転手は前で赤色灯を振る誘導員の指示に従って、フェンスで囲われたスペースに駐車する。
ジョン達が降車を始めると、そこに先ほどの兵士が近寄ってくる。
「案内人がお待ちです、こちらへ」
兵士の案内に従って詰所に入ると、そこには1人の少女が椅子に腰掛けていた。
少女はジョン達を見ると立ち上がり、ジョンに向かって歩き出すと右手を差し出す。
「あなたがロドスの指揮官かな?貫禄あるねー」
軽い物言いをしつつ、質を見定めるような視線を投げる少女に、ジョンは微笑みを浮かべつつ握手に応える。
「私はエクシア、ボスからあなた達に協力するようにって命令を受けてる、大船に乗ったつもりでいてよ」
短い赤髪を揺らしながら、笑顔でジョンにウィンクをかますエクシアと名乗る少女。
その頭の上には光輪が昼の日光にも負けずに輝いていた。
ラテラーノ人、ジョンが流し見た資料の中で一層異質さを醸し出す人種。
アドナキエルと同じ、くらいの知識しかないジョンは、いまだに彼らの容貌の異質さに慣れずにいた。
(エクシーア…能天使か)
「ジョンだ、こっちはアーミヤ。
君のような可憐な娘に案内を頼むのは心苦しいが、よろしく頼む」
「…普通にお願いできないんですか、ドクター。
よろしくお願いします、エクシアさん」
アーミヤが横から暗い眼差しを向けてくるが、ジョンはそっぽを向く。
「あっはは!可憐だなんて初めて言われたよ!面白い人だなー!」
エクシアは一通り笑い終えると椅子に腰掛け、手でジョン達も座るように促す。
ジョン達が腰掛けると、エクシアは手に持っていたタブレットを机の上に置く。
「さて、早速本題なんだけど。
依頼の方は人探し、それも…感染者の女の子ってことで、間違い無いかな」
「ああ、間違いない」
「スラムは広いからね、結構手間が掛かったけど、久しぶりの大口の依頼だから気合入れちゃったよ。
ウルサス人、感染者、小さい女の子の目撃証言を信用ある情報屋さんから仕入れてー…それを地図に参照したのが…こちら!」
エクシアは机に置かれたタブレット端末からスラムの地図をホログラム投影する。
「こことー…ここ、中心部でよく目撃されてる。
ウルサス人は珍しいからね。目立つんだよ。
結構動き回ってるみたいだから、お住まいは決めてないみたいだね。
まるで逃げ回ってるみたい」
「ふむ」
「すごい、これだけでも大分絞られますね」
「苦労したんだから、こちとら本業は運送屋だっての。
ま、お仕事はお仕事、手は抜いてないから安心してね」
エクシアはそう言うといたずらに笑う。
「これはオプション。
案内が私の仕事だから、それで?何をすればいいのかな?同行する?」
「捜索を3つに分けるつもりだ、君には一つの班を任せたい」
「りょーかい、その物言いだと私は君と別行動ってことでオッケー?」
「ああ、そうなるな」
「…それじゃあまずはお色直しだね、それじゃあ目立ちすぎ」
エクシアはジョンとアーミヤの服装を指差して微笑む。
「きな臭いなんてもんじゃないんだー最近のスラム。
汚れたパレットの上に白絵具を塗りたくってるみたいにさ、ドロドロしてる。
いろんな色が取り込まれてドロドロー…要は、まあ、よそ者はこれ以上いれない!って感じ?」
「もっとカジュアルな色合いがお好みかな?」
ジョンはエクシアに笑いかける。
「そーそー!
…それと人数も少なめにね、お友達は全員は連れて行けない。
君たちと、私の安全のためにもね」