METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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子熊のミーシャ

スラム街に立ち並ぶ露店を、ジョンとアーミヤは2人で巡る。

露店に並ぶものは、龍門の中心街の物に比べれば取るに足りないものばかりであったが、それでもジョンはそこにある物全てに興味を示す。

アーミヤはその様子が楽しいようで、やれここだ、あそこだとジョンを連れ回していた。

 

「ああ、親子みたいだな」

 

オペレーターの1人が壁にもたれかかりながら呟く。

そのすぐ隣に酒を持った別のオペレーターが立つ。

 

「お前、それ …」

 

「飲んじゃいないよ、飾りだよ飾り」

 

「…なら良いんだが」

 

オペレーター達は周囲に意識を向ける。

服装と「飾り」も相まってか、周囲の住人は彼らオペレーターに対してさして興味を示さない。

 

「この中から女の子を1人見つけろってんだからな」

 

「名前もわからないんだろ、どうしろってんだ」

 

オペレーター達がそう言ってグダっていると、ジョンがおもむろに手を上に上げて、ハンドシグナルを示した。

 

「…おい」

 

「何かあったらしい、いくぞ」

 

オペレーター達がジョンへとゆっくり足を進め、やがて2人は別れる。

1人は別の露店へ、もう1人はジョン達のいる露店へ向かう。

オペレーターがジョンの隣に立つと、自然な動作でリストバンドデバイスをジョンのデバイスに接触させる。

通信を使わないのはジョンの指示で、傍受を避けるため、そのための接触回線である。

過剰ともいえるが、ジョンはこのスラムに置いてその程度の対応は必然と考えていた。

オペレーターのサングラス型の投影機に、文面が流れる。

 

(尾けられている)

 

「おじちゃん、これ見せてもらっても?」

 

オペレーターはそれを感じさせない自然な動きで、店主に話しかける。

 

(素人だ、1人、ワンブロック後ろの路地、手を出すな)

 

「…へえ、これ良いね、一個もらうよ」

 

オペレーターは金を払うと、茶葉を片手に露店を離れる。

ジョンは棚から顔を上げると、やりとりを終えた年老いた店主に声をかける。

 

「店主、チラッとあそこを見て欲しい」

 

ジョンはそう言って首の動きで路地の入り口を指す。

店主は少し、その言葉を訝しんだが、やがて背を伸ばす振りをしながら、薄目で路地に目をやる。

 

「あれはいくらだ?」

 

「…500でいいよ」

 

「…アーミヤ」

 

棚のものを見ていたアーミヤは、すっとジョンに龍門の紙幣を渡す。

 

「…財布はお嬢ちゃんが握ってるのかい」

 

「お嬢様は倹約家なんだ、それで?」

 

ジョンは茶葉の代金に重ねて紙幣を渡す。

 

「ゴロツキさね、最近は集まって何やってるんだか、ロクでもないよ。

…最近は私刑行為が流行ってる、気をつけな…特にそこのお嬢ちゃん」

 

「そうか、ありがとう。

…察しが良くて助かるよ、また頼む」

 

「ここで長生きするにはこれくらい。

あんたみたいな上客は珍しいがね」

 

店主はそう言って商品の袋とは別に、少し茶葉の入った紙袋をジョンに渡す。

 

「ありがとう」

 

「なあに、ちょっと貰いすぎた、おまけだよ。

またいつか来ておくれ」

 

店主はそう言って煙管から紫煙を吹かす。

その手首には、鉱石病(オリパシー)の病症の一つである、黒い鉱石が光っていた。

 

 

薄暗い路地に向かって、少女が歩みを進める。

ピコピコと耳を動かしながら、不安そうに周囲を見回す。

路地から差し込む光に影を落とす1人の男が現れる。

 

「お嬢ちゃん、道に迷ったのかな?」

 

少女はその言葉に身を震わせる。

 

「ダメだよ、君みたいな小さい子が…ましてや感染者の子供が、こんな所をうろついてちゃあ」

 

「…」

 

少女は後ずさる。

 

「悪く思うなよ、化け物になる前に、間引いとかなくちゃあなあ」

 

男はそう言って懐から、ナイフを取り出す。

その瞬間、少女の目に暗い影が落ちる。

後ろ手に回された掌からアーツの光が灯り始めたその時。

 

「…がっ!?…イッテぇ!!」

 

男の顔面に拳大の石が直撃する。

少女は慌てて後ろを振り返る。

そこには、色素の薄い、子熊のような小さな耳をはやした少女が荒く息を吐いて立っていた。

 

「…!!」

 

「なんだあ!てめえは!?

こいつの仲間か!?…お、お前!お前は確か…!!」

 

「逃げて!」

 

色素の薄い少女は少女に近づき、手を引こうと手を伸ばす。

 

「くそが!てめえらまとめて…!!」

 

「おおっと、オイタはそこまでだ」

 

ナイフが握られた男の手を、ジョンが掴んで捻る。

一瞬でナイフは地面に落とされ、男は膝をついて崩れ落ちた。

 

「いででででっ!!

いでえ!な、なんだてめえ!!」

 

「ただのおじいちゃんだよ」

 

ジョンはそう言って男の体を腕を捻り上げて地面に押し倒す。

背中に膝を食い込ませ、肺を圧迫する。

 

「があ…!?」

 

「いくつか聞きたいことがある、いいかな。」

 

男の背中に音を立てて膝が沈み込んでいく。

 

「が、ば…あ…!!」

 

「アーミヤ、ナイフを」

 

少女はナイフを手に取って、路地の入り口に自然に立っていたオペレーターに手渡す。

 

「あなた…あなたは…?」

 

色素の薄い少女はアーミヤを見て問いかける。

 

「助けてくれてありがとう、巻き込んでごめんなさい…」

 

「…」

 

少女は警戒心を隠さずに後ずさる。

 

「怖がらないで…私たちは」

 

「…ミーシャお姉ちゃん?」

 

色素の薄い少女の後ろに、少女より幼い子供達が顔を出す。

 

「出てきちゃダメ!!」

 

「…お姉ちゃん、この人たちは?」

 

首筋に黒い鉱石を露出させた少女が、ミーシャと呼ばれた少女の影に隠れながら顔を出す。

 

「…いくよ」

 

ミーシャはそう言って少女の手を取って路地を歩き始める。

 

「まって!…あなたは、ウルサスの…」

 

「あなたは守ってくれる人たちがいるのね、よかった」

 

ミーシャはアーミヤを見ながらに続ける。

 

「気にしないで、勝手に体が動いただけ」

 

「…」

 

「この子達は、私が守らなくちゃ」

 

ミーシャはそう言って路地の暗闇に消えていった。

ジョン達は黙ってその背中を見送る。

 

「ストリートチルドレンか」

 

「…スラムはああ言った子供達が溢れています。

ああやって集まって、自分たちの身を守っているんです。

…子供達だけで」

 

アーミヤはそう言って、ジョンの押さえつける男に近づいて腰を落とす。

 

「いくつか聞きたいことがあります」

 

「…へっ…誰が感染者なんかに…」

 

アーミヤは男の目の前で、袖を引いて、鉱石の露出した手のひらにアーツを集中させる。

 

「ひっ!…こ、こりゃあ…!」

 

「アーツです…見たことは…ありますよね?」

 

「ひっ…ひっ…や、止めろ」

 

「この光に当たり続けると、どうなるか、分かりますよね?」

 

「止めろ!話す!話すから!」

 

「…どんな気持ちか、あなた自身の体で…味わって…」

 

「アーミヤ」

 

ジョンがアーミヤの腕に手を乗せる。

アーミヤはゆっくりと目を閉じて、腕を引き、袖の中に戻す。

 

「さて、それじゃあやさしいこのおじいちゃんが、君にチャンスをやろう」

 

ジョンは男の指の関節を一本、音を立ててはずす。

 

「ぎああっ!!…い、痛い!」

 

「おっと、今のは手が滑った」

 

「話す!話すから!」

 

「話す?当たり前だろう、それは当たり前だ。

…さあ、後9本、手を滑らせたくなければ、それ以上の価値ある内容を提供してもらわねばな。

ではまず、この子を狙った理由は?」

 

「…そいつが」

 

「そいつが?」

 

ジョンは音を立ててもう一本、指の関節を外す。

 

「があっ!?」

 

「レディにはそれ相応の呼び方があるだろう」

 

「そ、その子が…!…その子が?」

 

男はジョンに確認を取るように上を向く。

ジョンが表情を変えないのを確認すると、男は続けた。

 

「そ、袖の下に、鉱石が、見えて…それで」

 

「それで殺そうと?」

 

「い、いや…」

 

「ほう、それではあのナイフは?

まさかあれで果物でも剥いてやろうとしたのか?」

 

「…う…ぐ……くそが!なんなんだよあんたらは!俺は感染者から街を守ろうとしただけで…!」

 

「それで、殺そうとしたのか?」

 

「…そうだよ!チェルノボーグ事変以来、バカみてえに流れ込んできやがって!

スラムには医療設備なんてないに等しいんだ!いったんかかっちまったらもうお終いなんだよ!!」

 

「…」

 

アーミヤは黙って男の言葉を聞いている。

 

「あ、あんた感染者じゃないんだろ!

なんでこいつらの味方なんてするんだよ!?」

 

「それはお前には関係ない話だ。

では次の質問に移ろうか、少女を探してる。

ウルサス人、歳は…先ほどの少女くらいの、感染者だ、知らないか?」

 

「…そんなガキ、今のスラムにはウヨウヨいる」

 

「ガキ?」

 

ジョンは間髪入れずに指の関節を外す。

 

「…グウウっ!?」

 

「汚い言葉は嫌いだな」

 

「…し、知らねえ!もっと、もっと情報はねえのかよ、その「こども」のよお!?」

 

その時、後ろの路地の入り口に立っていた、オペレーターの無線がなる。

通信制限下での無線、重要な無線に違いないと、オペレーターは即座にその無線に答える。

 

「こちらCROW1…はい…はい…ジョンさん、あなたに」

 

オペレーターはジョンの耳に無線機を当てる。

 

「ああ、私だ。

…ああ、わかった、情報感謝する、チェン警司」

 

「チェンさんからですか?」

 

「ああ…失礼したな、君にもう用はない」

 

ジョンが立ち上がると、男はその足の間から這い出てヨタヨタと壁をついた。

 

「…く、くそ!なんだってんだよお前ら!」

 

「失せろ」

 

ジョンが鋭い目線を男に投げる。

男は言葉を詰まらせ、赤くはれた手を抱きながら、オペレーター達をかき分けて走っていった。

 

「…クソ野郎が」

 

オペレーターの1人が吐き捨てるように呟く。

 

「こら、汚い言葉は使うなと言ったぞ」

 

ジョンは葉巻に火をつけながら、オペレーターの肩に手を置く。

 

「す、すいません」

 

「気持ちはわかるがな」

 

ジョンは紫煙を吐くと、路地の向こうに目をやる。

 

「諸君、状況は大きく変更された。

チェン警司から連絡があった、捜索対象の新たな情報が更新…少女の名前は「ミーシャ」」

 

「!?」

 

アーミヤが目を見開いて、ジョンの前に立つ。

 

「…あの子、ドクター!」

 

「全オペレーターに招集をかける、対象と思しき少女と接触した、ポイントは…スラム中心部。

繰り返す、「子熊」に接触した、全員、スラム中心部の廃ビルに集合…全く、運がいいのか悪いのか」

 

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