METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
『ドクタージョンのプロファイル参照。
あなたの実行権限レベルは8、戦闘行動における作戦指揮を許可します』
「…これは」
ジョンの視界の端にロードマップとそこに点在する光点が現れる。
『チェルノボーグ近郊のマップと所属オペレーターの所在マーキングを視覚に投影しました。
より詳細な情報はリストデバイスから接続を行ってください』
「ドクター、これを」
アーミヤが金属製のリストバンドをジョンに手渡す。
「起動するとPRTSの作戦指揮コンソールが立ち上がります」
ジョンがそれを手にはめると、リストバンドからホログラムが展開される。
「これが作戦行動中のオペレーターのリストです。
そしてこれがより詳細なチェルノボーグの地図になります」
「…区分分けされてるのは兵種によるものか?」
「はい、現在私たちと行動しているドーベルマン教官の行動隊E2はここ…ドクターの所在と重なっていますね。
…他の行動隊の所在は、情報の混乱からかはっきりとはわかりませんが、合流すればはっきりするはずです」
「前衛、重装、狙撃…術師?」
「ドクター、移動しながら確認できないか?
…奴らの熱気が最高潮だ、じきここにもいられなくなる」
「そうですね、ドクター移動しながら説明します。
目立たず、西端を目指しましょう」
「…ああ、わかった」
…
「…これは、想像以上に深刻だな」
ドーベルマンは至る所で悲鳴と爆炎のあがる街並みを見て苦い顔を浮かべる。
「…この街は人と空気はともかくとしても、綺麗な街だったのに…それがこんな…信じられません」
ドーベルマンの横に立つ前衛オペレーターが、悲痛な面持ちで街路を眺め、声を震わせる。
ジョンは街の電化製品を取り扱っていたのであろう商店の店先、そこに置かれたモニターに気がつく。
そこからは緊急事態速報という文字が流れる、国営放送が映されていた。
『…時多発テロに関する速報です。
現在も各地で多発しているレユニオンムーブメントによる凶行ですが、憲兵団の迅速な行動により事態は終息へと向かっています。
北部エリアはほぼ鎮圧され、順次避難民の受け入れが始まっています。
現在ウルサス憲兵隊はワスク大道の集団を包囲しており、この無謀な暴動も直、終焉を迎えることでしょう。
市民の皆様は屋内避難に努め、憲兵隊の鎮圧が完了するのをお待ちください。
繰り返します、政府は現在屋内待機命令を発令中です…』
突然、モニターの音声を遮る形で爆発が起こる。
ドーベルマンが声も発することなく、隊にハンドシグナルで指示を飛ばし、彼らは路地の中に身を潜める。
ゆっくりと周囲を警戒しつつ頭を覗かせた先鋒オペレーター。
見ると、路地の正面に面した大通りを、統一された武装の兵士たちが、盾を構えつつ後退していた。
「憲兵隊が圧されてる…」
その様子を路地の影から見ていた先鋒オペレーターが呟く。
憲兵隊の最前列の一団には絶え間なく、投石やボウガンの矢が浴びせられ、統制された動きにも乱れが生じている。
「引くな!押し返せ!」
「か、数が多すぎる!」
「決して通すな!ここを突破されたら区画制御塔に踏み込まれる!」
「ぐああッ!!」
「負傷者を後列へ運べ!」
憲兵隊の正面には夥しい数の仮面兵士たちが獣の様な慟哭をあげながら迫っていた。
「奴らの盾を崩せ!」
「踏み潰してやるぞ、チェルノボーグ人共!」
仮面兵士の一団が憲兵隊の最前列に向けて火炎瓶を投げ込み始める。
「ギャアアァッ!!」
「熱い!あづい!」
「く、くそ!下がれ、下がれぇ!」
憲兵隊はレユニオンの仮面兵士に比べてすぐれた装備をしていたが、鋭い武装も銃器も、仮面兵士たちの圧倒的な数には焼け石に水だった。
「崩れたぞ!突き破れぇ!!」
「「「おおおおおおぉっ!!」」」
火炎瓶によってばらけた正面の隊列の隙間に仮面兵士達が食い込んでいく。
「本部!本部!
もうもたない!増援を、早く増援を!」
「う、後ろからも来たぞお!!」
「…いつの間に回り込まれたんだ!」
…
「放っておいていいんですか…彼らはあのままじゃ…」
先鋒オペレーターが拳を固く握りながら呟く。
「…じっとしていろ、見つかるわけにはいかん」
ドーベルマンは先鋒オペレーターの肩に手を置く。
先鋒オペレーターはゆっくりと頷くと、再び路地の奥に身を潜めた。
ジョンは側についているアーミヤから離れ、近くの室外機に腰掛ける。
「…どうやら報道とはずいぶん状況が違うようだ」
「はい…ウルサス憲兵団が、レユニオンに圧倒されてるなんて…」
アーミヤもまた、路地のその先で繰り広げられる暴力の渦に声を震わせる。
「チェルノボーグ当局は、この状況でまだこんな…馬鹿共が」
ドーベルマンはモニター画面を睨み付けて吐き捨てる様に言う。
ジョンは画面の中に表示される、レユニオン兵士の暴動を見つめる。
「レユニオン…彼らは何者なんだ」
「…レユニオンムーブメントは、感染者…オリパシー感染者で構成された彼らの権利を主張する組織です。
感染者に対しては寛大な対応をとりますが、非感染者には極端に排他的な対応をとり、感染者はその特異な力を用いて自己の権利を誇示することをよしとしています」
「特異な力…?」
言葉に食いついたジョンの前に、ドーベルマンがゴミ箱をひっくり返して腰掛ける。
「…詳しく説明はしていられないが、鉱石病に感染すると「アーツ」の制御が飛躍的に向上するのは…理解しているか?
彼らはその力を用いて、自分たちの権利を取り戻そうとしているんだ」
「…今はまだ、説明を受けても混乱の方が大きいでしょう。
脱出したのち、詳しい説明をさせていただきます。
今はただ、彼らを敵勢力として認識していただいて構いません」
「…ああ、わかった。その方がいいようだ」
「ドクター、指示を」
ドーベルマンの視線を真正面から受け止めるジョンは、顎の無精髭を撫で、再び画面に向き直る。
「…あれほどの規模の暴動が偶発的に起こっているなら少人数で移動したいところだが、この人数なら許容範囲だろう。
別行動中の部隊との合流はどうなっている、どういう行動予定だった?」
「他の小隊とは脱出地点で合流予定でした」
「諸々の段階を踏んで合流したい、彼らの所在は随時移動を?」
「無線通信を行いつつ並行移動する予定だったからな…付近に展開中だとは思うが」
「移動ルートで重なる予定だったところは?」
「…ここ、この広場で行動隊E3と重なります」
アーミヤがホログラムマップの真ん中、比較的開けた街の広場を指さす。
「彼らが先行して待機している可能性は?」
「十分にあります、彼らが脱出経路の安全確保を行う予定でした。
それに、彼らの待機場所も近いので」
「…よし、まずはそこに向かう。
出来る限り屋内を通って移動する…このルートが最短経路だな、共有してくれ」
「大通りを避けるのは賛成だが、少し遠回りにならないか?」
ドーベルマンは立ち上がり、通路の先を見やる。
「大規模な戦闘で奴らの人員が割かれているうちに距離を稼ぎたい。
それに、これが戦争行為でなく暴動なら、商店街や大きな街道ではすでに掠奪が始まっているだろう。
そういった奴らは少人数で行動することが多い、はみ出しは集団行動から外れる」
「…ふむ、なるほど」
「それと、用意してもらいたいものがある」