METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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鬼ごっこ

「追えっ!逃すな!」

 

レユニオンの兵士たちが目の前を走る集団を追って、路地を駆ける。

すれ違う市民や浮浪者を突き飛ばしながら、野犬のように。

 

「くそ!あいつらなんなんだ!速すぎる!」

 

「崩れた瓦礫、崩落した壁…こっちの情報にないスラムの地理を把握してる…!

龍門の兵士じゃないのか…!」

 

「黙って追え!見失うぞ!」

 

路地の角を曲がるたびに見失いそうになる集団の影を、レユニオン兵は必死になって追い続ける。

 

「…スカルシュレッダーさん、いやに苛ついてたな…!」

 

「目標の少女、何か関わりがあるのか?」

 

レユニオンの小隊、最後尾の2人が、無線でのリーダー…スカルシュレッダーの様子を気にかける。

 

「わからん…上は目標の、あの少女をどうするつもりなんだろう…!」

 

「下っ端にはそんなことは知らされないさ!

…いやに焦ってたからな、リーダーが変なことに巻き込まれてなければいいが…!」

 

入り組んだ路地、レユニオン達は必死に集団に追いすがる。

 

「…おい!この先は袋小路だぞ!」

 

「チャンスだ!」

 

先頭の男の発言にレユニオン達は走る速度を早める。

小集団は路地を左に曲がり、レユニオン達は袋小路の入り口を塞いだ。

 

「…手間取らせやがって」

 

先頭の男が腰の武器を抜き放つ。

集団は袋小路の壁を背に、中央に深くフードをかぶった小柄な少女を囲んでいる。

 

「道の選択を誤ったな。

さあ、追いかけっこはここまでだ、その少女を渡してもらおうか」

 

「…」

 

レユニオンの真正面に立つ、スカーフを口元に巻き付けた兵士が一歩、前に進んだ。

 

「…あら、捕まっちゃった」

 

そしてスカーフを大きくずらすと、悪戯な笑みを浮かべた。

 

「そして残念…こっちは」

 

中央で兵士に囲まれていた少女が勢いよくフードをめくる。

 

「ハズレだよーだ!!」

 

そこにいるのはミーシャではない。

フェリーンの少女は目蓋を指で引っ張って舌を出す。

 

「…な!?」

 

フランカは腰から細剣を抜き放つと、切っ先をレユニオン達に向ける。

 

「じゃあ、今度はコッチが鬼…ね?」

 

「ぐ…!くそ、お前ら!こいつらを…!」

 

先頭の男が言葉を続けるより先に、フランカの細剣がその胸を貫く。

 

「1人…つーかまえた」

 

「ひ…!?」

 

フランカの醸し出す殺気に、レユニオン達は後ずさる。

フランカの後ろに控える前衛オペレーター2人が武器を抜き放ち、その横に立つ。

 

「び、ビビるな!たった3人だ!全員でかかれば…!」

 

「あら、3人?どうかしら…」

 

直後、レユニオン達の背後に現地人の姿に扮装したオペレーター達が飛び降りてくる。

 

「な…っ!?」

 

「まさか…卑怯だなんて言わないわよね?」

 

 

リスカム率いる別働隊は、長い路地の途中ですでにレユニオンとの戦闘を行なっていた。

 

「ふっ!!」

 

リスカムは振り下ろされるマチェットを避け、盾で弾き、フラッシュを焚きながらハンドガンで的確に敵の急所を撃ち抜く。

その横でバニラがリスカムの盾の隙を埋める形でハルバードを構える。

 

「させませんよ!」

 

矛先で迫りくるレユニオンの足を薙ぎ、石打ちで勢いよくレユニオンの頭を叩き払うバニラ。

レユニオン達はその勢いに思わずたじろぐ。

 

「な、何者だてめえら!!」「押せ!押せ!」「人数はこちらの方が上なんだぞ!」

 

「あなた達、こんなことをしていていいのですか?」

 

リスカムは盾を構えながらレユニオン達に問いかける。

 

「…何?」

 

「何を勘違いしているのかはわかりませんが、こちらは…」

 

「ハズレ、です!」

 

リスカムとバニラの言葉を合図に、扮装したオペレーターに守られている複数人の小柄な少女達が一斉にフードを外す。

そこにはミーシャの姿はなく、全員が悪戯な笑みを浮かべてレユニオンを睨んでいた。

 

「な!?…く、くそ!!」

 

「早く本物を探した方がいいのでは?」

 

 

『なんだ、なにが起こってる!?おい!そっちはどうなってる!?』

 

「どうした!?」

 

別の小集団を追いかけていた兵士の元に、仲間から無線が飛んでくる。

 

『し、正体不明の集団と交戦中!!こいつら龍門の兵士じゃないぞ!!』

 

「何…?」

 

『突然襲いかかってきやがった!!あいつら、少人数で…くそ!くそ!!恐ろしく強い!』

 

「スカルシュレッダー」

 

レユニオンの兵士は横で走る、ガスマスクを被った兵士に声をかける。

 

「…ロドス」

 

「ロドス?あいつらが関わっているのですか?」

 

「龍門の警備部に協力をしているのは事前情報にあったが…まさかこんなに早く…」

 

『スカルシュレッダー!!こっちの集団は違う、目標じゃない!!その上増援が…くそ!あいつら市民に化けてやがる!』

 

『こっちもだ!くそ!嵌められた!』

 

スカルシュレッダーの元に先ほどとは別の部隊からの連絡が入る。

 

「…」

 

「どうしますか?」

 

「…各部隊にはそのまま追跡を続行させる、戦闘中の部隊は即時戦闘を中止、追跡中の部隊に合流させろ。

…残りの集団は後1つ、逃すな」

 

「了解、全部隊聞け…」

 

スカルシュレッダーは手に持つリボルビングランチャーの弾を確認する。

 

(…資料とは戦闘の傾向が異なる…ロドス、ここで何をしている…なぜ彼女を…)

 

 

「ドクター、フランカさんとリスカムさんの隊から連絡が。

付近に散開していた部隊と合流、レユニオンの部隊は遁走したようです」

 

「そのまま先行してゲートに向かうように伝えろ」

 

「わかりました」

 

ジョン達の周囲にはすでに、民間人に扮装していたオペレーター達が数人合流していた。

 

「思えば私の指揮は逃げるばかりだ、君たちには刺激が少ないかな?」

 

「ご冗談を」

 

横を走る前衛オペレーターが苦笑混じりに答える。

 

「まるで昔に戻ったようです、ドクター」

 

「君はここに勤めて長いのか?コードネームは?」

 

「ポジティブモンキー、前の戦役からロドスにはお世話になっています」

 

「「楽観的な猿か」…いいセンスだ」

 

「…ドクター?」

 

「いや何、「猿」には縁があってな。

君はどこの部隊だ?」

 

「先日配属を、あなたの部隊ですよ、ドクター」

 

「おお、そうか、それはすまん」

 

「いえ、俺たちはみんな似たような格好をしてますからね、それに…」

 

前衛オペレーターは顔を隠したスカーフを下にずり下げる。

 

「俺みたいに顔に鉱石が露出した奴も珍しくない、まともに顔を見れないんじゃ、仕方ありません」

 

「…そうか、だがもう君は覚えた」

 

ジョンはそう言って前衛オペレーターの頭に手を乗せる。

 

「…!」

 

「思っていたより若いな、よろしく頼む、ポジティブモンキー」

 

「…ヤー、ボス!」

 

前衛オペレーターはスカーフを戻すと先頭に向かって走す速度を早めた。

 

「人たらしですね、ドクター」

 

横で走るアーミヤがニコニコしながらジョンに話しかける。

 

「反省だな、そういえば私はここの連中を殆ど把握していない」

 

「みんなあまり他人と接点を持とうとはしませんから、感染者なら特に…あなたは違いますが」

 

「ん?」

 

「あなたは非感染者です、みんな遠慮してます」

 

「…ああ、そういうことか」

 

「あれはきっと嬉しい…嬉しいですよ、ドクター」

 

アーミヤはそう言って前方を走る前衛オペレーターを見やる。

ポジティブモンキーは何かを仲間に自慢したようで、周囲の仲間達に小突かれて回っていた。

 

「ここには若い連中が多すぎるな」

 

「仕方がないんです、鉱石病(オリパシー)…そういう病ですから」

 

「なおさら気を使われるか…」

 

ジョンは自らの手を見る。

 

「「私」は…まだ若く見えるが、苦労性だったのかな、随分と皺が深い」

 

そして焼き潰れた右目を覆う眼帯を撫でる。

 

「これ以上傷つけるわけにはいかんな」

 

「…あまり「彼」は気にしないかと、そういう人でしたから」

 

「…なら少し私に似てる、かもな」

 

ジョンはそう言ってアーミヤに笑いかける。

 

「ドクター!もうすぐ合流地点です!」

 

先頭を走るオペレーターがジョンに向けて叫んだ。

 

「さて、大詰めだな」

 

ジョンはそう言ってリストデバイスを起動、ホログラムマップを展開する

 

「タッチダウンまで、後少しだ」


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