METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
心電図の電子音のみが響き渡る廊下で、アーミヤは1人、ベンチに腰掛けていた。
硬い廊下を叩く靴の音が、奥の方から響いてくるのを聞いて、アーミヤはそちらへ顔を向ける。
そこには数人の医療オペレーターを引き連れた、ケルシーが立っていた。
「少し休め、アーミヤ」
ケルシーは白衣のポケットから手を取り出すと、アーミヤの肩に手を乗せる。
「…ケルシー先生」
「容体は安定している、じきに意識も戻るだろう」
そう言ってケルシーは医務室のベッドに横たわる少女を見る。
「龍門の重要参考人…全く面倒な事をしてくれた物だ、あの男は」
「…ケルシー先生…」
「ああ、違う、勘違いするな。
ジョンの対処には私も賛同する。
我々は医者だ、危険な命を前にしてそれを更なる危険に晒すような真似は、言語道断だ」
「…」
「しかし、この場合はもう少し考慮すべきだった、一言私に連絡をくれれば良い物を。
ロドスは今龍門近くに停泊している。
スラムで大規模作戦を展開するまでに、あの子を欲しがる奴らが、こちらに目をつける可能性を考えなかったのか…という話だ」
「それは…」
「すでに龍門の内部で活動している分子については、ロドスもある程度は確認している。
…わからないのは龍門の対応だ。チェン氏の対応はともかくとして、あまりにも油断がすぎる。
あの聡明なウェイ氏が、そのような愚行を犯すようには思えないが…どうにも大きな裏工作があるような気がしてならない、あまりにも露骨だ」
ケルシーはタブレットデバイスを操作しながらに続ける。
「ロドスには現在、戒厳令を部分的に敷いている」
その画面にはロドスの3Dマップの各所に、オペレーター部隊が配置される様子が表示されていた。
「それで構わないな?」
「はい…ケルシー先生、龍門は…」
「まだ憶測の段階だ…私も少し語りすぎた、今は契約締結国として、彼等との関係を壊すわけにはいかない…今回の一件に関しても、ウェイ氏は寛大な姿勢を見せている。
あの男がどういう手を使ったのかはわからないが、少なくとも仲良くはやれてるようだな」
ケルシーはコートを翻すと、廊下を歩いて行ってしまう。
ついて来ていた医療オペレーター達は、各員が防護服に着替え終わり、ミーシャのいる病室に入室していく。
「今はロドスの総力を上げて、その子を守る、今は夢でも見させてあげよう」
…
「クロージャ、ロドスは移動できないのか?」
ジョンは購買部の前で、紙容器に入ったコーヒーをストローで飲みながらに問いかける。
「ジョン君、考えてもみなよ、この図体だよ?
体を起こすだけでどれだけの源石燃料が必要だと思う?」
少女の名前はクロージャ。
黒髪のロングヘアーに二つのおさげ、ブラッドブルードの特徴にある紅眼と尖った犬歯。
ロドスの重要エンジニアの1人。奇人、変人。彼女の呼び名は多岐にわたる。
主にその奇行を揶揄する形で。
「…そうか」
「やってやれないことはないけどさ、ケルシー先生の許可は絶望的だね」
「数キロ離れるだけでも、多少のリスクは減るんだが…。
あの都市の周りはごちゃごちゃしすぎだ、警戒の濃度が落ちる。
…ここが海の上ならなあ」
「海の上って…まってそれ面白いね」
「コーヒーのおかわりをくれ」
「…流動的な基盤を推進する上でのエネルギー効率を…」
「クロージャ、おかわり」
「もー!勝手に取ってよ!」
「勝手に取ったら値段が3倍になると聞いたぞ」
「ちっ!」
クロージャは舌打ちをしながらも、後ろの保冷機からコーヒーの容器を取り出し、カウンターに置く。
「そういえばクロージャ」
「何ー?」
「ロドスではその…あれを見かけないな」
「あれ?どれ?」
「…段ボールだ」
「ダンボ?」
「段ボールだ、君は購買部担当でもあるんだから、梱包で余っているのはないか?」
「はー!?
…そんなの、そこらに転がってるじゃん」
「あれでは小さいんだ」
「小さいって…何?何か悪いことに使うの?」
クロージャはカウンターに身を乗り出していたずらに笑う。
「は…!まさか…この可愛いクロージャちゃんをしまっちゃうつもり!?
だ、だめだよ…独り占めしたい気持ちもわかるけど…」
「んなわけないだろう、馬鹿か」
ジョンはカウンター越しに身を抱えて悶えるクロージャを冷たい目で見ながらに答える。
「馬鹿と言ったな、代償を払ってもらうぞ」
「今のは口が滑った」
「考えてはいたということだな」
「否定はしない。段ボールだが、もっと高尚なことに使うんだ」
「…何よ、クロージャお姉様をしまうこと以外に高尚なことがあるとでも?」
「自分と向き合い、安らぎを得るために」
「…はあ?」
「…最近は混乱続きでな、自分と向き合う時間が欲しいんだ、あれに勝る物を私は知らない。
ここまで言えばわかるだろう、なあ、あるんだろ段ボール、出来る限り大きいのがいい…いや!
大きすぎてもだめだ、こう、体にフィットするのがいい、そうでなければ至極の安らぎは…」
「…怖い、怖い怖い!」
「怖い?何を馬鹿な事を、お前も試せばわかる、一緒にやろう」
ジョンはゆっくりとクロージャに手を伸ばす。
「い、いやだ!あんた目が深淵の色をしてる!!何をするかはわからないけど!
…わ、私は忙しいの!変なことに巻き込まないで!」
クロージャはそういうと、勢いよく購買部のシャッターを下ろした。
「…?」