METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
「聞かせてもらえませんか?」
アーミヤは病室のベッドに横たわるミーシャに問いかける。
「…私の知っていること?」
「はい」
ミーシャが目覚めたという知らせは、彼女がここに運び込まれて数時間後にアーミヤの耳に届いた。
そこにはケルシー、アーミヤ、ジョンの3人が、簡易椅子に腰掛けていた。
「そうね…約束してくれるなら」
「…なんでしょうか」
「あの子達を…守ってくれる…?」
「スラムの、子供たちですね」
「そう…一緒に逃げてきた子…スラムで一緒になった子…色々な子がいるけれど…みんないい子なの。
…もう、置いて行かないで、1人にしないであげて…」
「もちろんです、ミーシャさん。
あの子たちは、今はロドスの保護下にありますよ。
どこにも…置いて行ったりしませんから」
ミーシャはアーミヤのその言葉に微笑むと、病室の天井を見つめた。
「私ね…スラムに来るまでは…チェルノボーグに住んでいたの。
父は…研究者だった……父の研究については…ほとんど知らないけれど…決して貧しくはない…優しい母に…可愛い弟…それなりの生活…幸せだった」
ジョンはケルシーを見る。
ケルシーはその視線に気づくと、ゆっくりと頷いた。
「…今回の一件、彼女の父親が原因で間違いはないようだ。
ミーシャの父親はチェルノボーグにおいて著名な科学者だった。
政治面でも顔が広かったらしい、ウルサス政府との繋がりも深かった」
ケルシーはミーシャのパーソナルデータを見ながらに続ける。
「その親族であるミーシャをレユニオン、龍門双方が欲した。
…この様子を見るからに、彼女の持つ情報にではなく、欲したのはその血縁と見るべきね」
「血縁…」
「人質…ウルサスとの交渉材料にしては弱い。
理由はわからない、わからないけど…」
「もう…私の家は…私しか生き残ってない…」
ミーシャはジョンたちを見ながらに続ける。
「…チェルノボーグ事変か?」
「…違うわ…」
ミーシャは顔を少し歪める。
「…私の両親は…殺されたの…チェルノボーグの人々に…」
「…何?」
「すでに亡くなっているのは知っていたが…そんな情報は…」
「政府の高官なら、隠蔽された可能性もある」
「…私の弟が…
ミーシャはベッドのシーツを握りしめる。
「両親は隠したわ…でも…長くは続かなかった…。
目の血走った人達に…家のドアが壊されて……泣き叫ぶ弟を抱えて…両親は必死に止めようとした…私を…クローゼットに押し込めて…」
ジョンは立ち上がり、ミーシャのベッドの隣に立つ。
「…わた……私…隠れているだけだった……弟が呼んでたのに……私…パパ……ママ……!」
ミーシャの頬を伝って、滴が一滴、シーツに染みる。
両の手で、必死に耳を塞ぎながら、ミーシャは続けた。
「…聞きたくない…!聞きたくない!…やだ…やだぁ…!」
「ミーシャさん…!」
アーミヤがもう我慢できないとばかりに、その手を握る。
「もういい…許してくれ、ミーシャ…もういいんだ」
「…アレックス……私…わたしの……ぁあぁぁ……ッ!」
ミーシャが差し出されたジョンの手に縋り付く。
「自分を責めるのはもう十分だ、十分に責めてきたんだ。
…ここまで、ずっと…もういいんだ」
「………許して…パパ…ママ…」
「お前は悪くない…悪くないんだよ、ミーシャ」
…
「…わたしの何を欲しているのかは分からない…でも…」
ある程度の時間を要したが、気を落ち着かせたミーシャは、目尻を腫らしながらも話を続けた。
「わたし…あのあとも何年かは…チェルノボーグに住んでいたの…いいえ…住んでいたというよりは…彷徨ってた…スラムの生活と変わらない…人の目を避けて。
…ある時から…暗い路地を…仮面の兵士がうろつき始めて…誰かを探してるみたいだった……今思えば…あれは私を探してたのかも」
「チェルノボーグ事変の時に、街を抜け出したのか?」
「そう…一緒にいた子を連れて…運が良かった…たまたま街の外周にいたから.…危険は少なかった…」
ミーシャは病室の窓の外を見る。
そこには様々な機械の光が灯る、ロドスの街並みがある。
「……龍門のスラムにたどり着いた時に気がついた…私も感染してたの……スラムには優しい人たちもいた…感染者同士で…助け合ってた…皮肉よね…」
ミーシャはそう言って笑う。
「…しばらく経った後…スラムにもチラホラとあいつらが現れ始めて……数日の間にどんどん増えてるみたいだった…そのあとも子供たちと隠れて暮らして…それで…」
「今に至る、というわけか…?」
ジョンはミーシャの片手を握りながらに問いかける。
「…そう…あなたたちには感謝してる…こんなに安らかな気持ちは…久しぶりなの…」
「…ミーシャ、君が望むなら、ここにずっといても構わないんだぞ」
ケルシーがそう発言し、ジョンとアーミヤは思わずケルシーに向き直る。
「…嬉しい……でも…私…龍門の人たちにちゃんというわ…私は何も知りませんって…その上で…彼らが許したら…私…きっとここに戻ってくる…」
「…そうか」
ケルシーは複雑な微笑みをミーシャに向ける。
「…ありがとう、ミーシャ。
今日はこれで終わりにしよう、もうお休み」
「…うん…ありがとう…ケルシー先生…」
ケルシーはベッドに軽く手を乗せた後、病室を後にする。
ジョンとアーミヤもまた、それに続こうとすると、ジョンの裾をミーシャが軽くつまんでいるのに気がついた。
「ドクターさん」
「…ん?どうしたミーシャ」
「…お名前…まだちゃんと聞いてなかったわ」
「おお…そうだったな、私としたことが…私の名前はジョンだ…ジャックと呼んでくれても構わない」
「ジョン…先生…」
「これから何度も顔を合わせることになるぞ、いやでもな?」
「…ふふ…嫌だなんて…とんでもないわ……色々とありがとう…アーミヤさんも…ごめんなさい…あの時はわがままばかり言っちゃったわ」
「…いいんですよあれくらい…私の方がお姉さんですから」
「…そうなの?…ふふ…年下だと思ってた…」
「そうなのか、アーミヤ?」
「ど、ドクターまで!…いいんです、ここにいる以上は私がお姉さんですからね!」
「…わかったわ…お姉ちゃん……ありがとう」
「…おやすみなさい、ミーシャさん」
「お休み、ミーシャ」
「…おやすみなさい」
…
ジョンは再び、購買所の前のテーブル席で、コーヒーを飲んでいた。
いまだに購買所はシャッターが下りたままだったので、コーヒーは自販機で買った物だった。
その正面の席にはアーミヤが腰掛け、同じように紙コップに注がれたココアを啜っている。
「龍門は…ウェイ氏はなんと?」
「…ロドスには、彼女を生かすように最善を尽くしてほしい、とのことです」
「一応の理解は示した、ということか…」
「彼らにとって我々は同盟者、手の内にあるには違いありませんからね。
…明日には龍門政府の監査官がロドスに派遣されてきます」
「意識があるうちに、情報は得ておきたいだろうからな」
「…それはわかります、わかりますが…」
「ミーシャは責任を感じている、少しでも肩の荷を下させるには、そうした方がいい」
「…」
ジョンはコーヒーを口に含む。
「しかしさらに分からなくなった、レユニオンは彼女がウルサスの研究の情報を握っていると考えているのか…?
…あの年端もいかない少女が?
そんなこと、考えるまでもないだろうに…ならなぜ、あそこまで執拗に狙う」
「わかりません…龍門は再び口を閉ざしました」
「…聴取の場所がロドスの施設内に指定されたのは、幸いかもしれんな…考えたくはない話だが」
「ドクター…?」
「悪いくせだ、聞かなかったことにしてくれ」
ジョンはそういうとコーヒーを片手に立ち上がる。
「私はもう部屋に戻る。
もう夜も遅い、アーミヤ、君も部屋で休みなさい」
「…はい、ドクター」