METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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ロドスの長い日の始まり

『コードイエロー!繰り返す!コードイエロー!』

 

ジョンは非常ブザーと艦内放送の叫び声に飛び起きた。

慌てて窓の側に行き、カーテンを開ける。

窓の外にはそこ彼処で赤い警告灯が点灯するロドスの市街が見える。

 

「…PRTS!」

 

ジョンが声を投げかけても、あれほど口やかましくしていたAIは答えない。

 

「…なにが」

 

起こっている?そう続けようとしたジョンの口を、艦内放送が遮った。

 

『ロドス・アイランド総員に告げる!コードイエロー!繰り返す!コードイエロー!

本艦は正体不明の勢力の攻撃を受けている!

非戦闘員はシェルターに退避、戦闘員は各々の指揮官とともに…!』

 

直後、ジョンの私室…ロドス全隊が衝撃に揺れる。

 

『…訂正する!現状況は「コードレッド」!繰り返す!レッドにハザードクラスを引き上げる!

セクター1で爆発発生!ダメージコントロールの出動を要請する!』

 

ジョンはバスローブから着替えると、部屋の外に飛び出す。

廊下には青い顔をして走る白衣のオペレーター達、そして物ものしい様子で廊下を駆ける前衛オペレーター達がいた。

 

『セクター1、搬入口B2が爆発、炎上中!ダメコン、現着急げ!』

 

けたたましくなる非常ベル。

ジョンに近づく1人の前衛オペレーターがいた。

 

「ドクター!」

 

「その声は…P・M(ポジティブモンキー)か!

襲撃されているとはどういうことだ!?」

 

「指揮系統が混乱しています!

我々にはそれぞれに部隊を編成するようにとの指示が!」

 

「わかる範囲でいい、詳しい状況を」

 

「こちらへ!」

 

P・Mは手でドクターを廊下へ促すと、先導して歩き出す。

 

「数分前、ロドスの中央管制塔で正体不明の動体が確認されました!

続いてセクター2、フロントブリッジでも確認され、現在のその数は増加中!

そしてつい先ほど…」

 

P・Mはリストデバイスから投影された映像をジョンに見せる。

そこには爆発、炎上している搬入口ゲートで、必死に消火作業にあたるオペレーター達と、医療オペレーターに担ぎ出される重装オペレーターが映し出されていた。

 

「…セクター1の搬入口が爆発しました。

当直のものによると、資材搬入の車両に、何者かが攻撃を」

 

「そのゲートは今はどうなっている」

 

「幸い作動機構に損害はなく、閉鎖済みです、消火も直に完了すると思われます。

ケルシー先生が指揮官を召集中です、我々も要請を受けています!」

 

「わかった、すぐに向かおう」

 

ジョンはP・Mに連れられて廊下を進む。

その額には一筋の汗、眉間には皺が寄る。

 

(…くそ、思い出したくもないことを)

 

ジョンは頭に手を当てると、過去の情景を振り払うように前に向き直り歩き出した。

 

…

 

「各セクターは状況を知らせろ!」

 

フロントブリッジ正面の大型モニターに映し出されている、赤い光点が増加し続けるセンサーを睨むチーフ管制官。

 

『セクター2はいまだに増え続けるUnKnownをセンサーが捕捉し続けている!

…一体なんだこれは、すごい数だぞ…!』

 

『こちら中央管制塔!

こちらの赤外線が車両を数台捉えた!

…これは…フロントブリッジ、考えたくはないが…』

 

「…レユニオンの襲撃だ」

 

「チーフ…」

 

冷や汗を流しているチーフの横顔を、センサー担当オペレーターが見つめる。

 

『こちらセクター3、それは確かかフロントブリッジ』

 

「龍門と目と鼻の先で、これほどの襲撃…。

全くもって荒唐無稽な話だが、こんな規模を張れるのは奴らしかいない…。

セントラル!UnKnownの動きから目を離すな!火器管制系をいつでも作動できるようにしておけ!」

 

『中央管制塔、了解』

 

…

 

『ナーイスショット』

 

風が音を鳴らす荒野で、上機嫌な少女の声が無線機から響いた。

ロドスから数キロ離れた小高い丘、そこに切り立つ岩の上に1人の少年がいた。

少年の手には大型のクロスボウが握られ、その発車口からはアーツの残り香が燻っている。

 

「…ゲートは閉じたぞ、どうするつもりだ?」

 

『あれはただの宣戦布告、これから本番だよ。

君にはまだまだ働いてもらうからね?』

 

少年は眉を潜めると立ち上がり、岩の下のもう1人の少年を見下ろす。

 

「メフィスト」

 

声を投げかけられた少年は金属質な杖をコツリと鳴らし、彼方のロドスを睨む。

 

「わかってるよ、ファウスト」

 

少年は腰の無線機から受話器を取り外す。

 

「始めるよ」

 

『はいはい』

 

「…」

 

メフィストは受話器を静かに戻すと、杖を大きく音を立てて岩場についた。

 

『さあ、計画は第2段階へ移行だよ…よろしくね、指揮者さん』

 

腰の無線機から耳に入る指示に、メフィストは歯噛みする。

 

「…ああ、全く腹立たしいね。

あの老いぼれを殺れると思っていたのに、こんな端役とはね」

 

その周りには夥しい数のレユニオン兵が、夜の闇に身に纏う白を溶け込ませて待機していた。

 

「やるせない、本当に。

…でもまあ、仕事は仕事だ。

気に食わないけど、まあ…精一杯、お仕事をこなすとしますか」

 

少年は高く手を掲げる。

 

「さあ、獣を放て…その歪む顔を見られないのが残念だよ、ロドス」

 

メフィストの影の落ちた瞳に、ドロリとした光が映る。

 

…

 

 

「チーフ!動体センサーに感あり!こ、今度は左舷側です!

これは、や、野犬?…すごい数だ!」

 

赤い光点が蠢く電子機器を前に、センサー担当オペレーターは叫ぶように報告をする。

 

「…野犬なんてチープなものじゃない。

セントラル!左舷側の火器管制は使えるだろうな!」

 

『問題ないぞ!』

 

チーフ管制官はインカムを口元に寄せると、電子機器を操作し、PRTSを呼び出す。

 

「PRTS!左舷側のUnKnownが射程に入り次第、攻撃を開始しろ!

使用弾種、近接信管焼夷榴弾!」

 

『ーーー・・・コピー』

 

PRTSが応答すると同時に、ロドスの左舷側に配されているガンタレットが動き始める。

 

『ーーー・・・源石弾頭 チャージ』

 

ガンタレットに接続されている給弾ベルトの中を、重々しい弾頭が流れていく。

 

『ーーー・・・ターゲット ロック』

 

ガンタレットから放たれる赤い可視光線が、荒野を駆けてくるそれらに、ピタリと合わさる。

 

『ーーレディ』

 

「UnKnown!射程圏内です!」

 

センサー担当オペレータが叫ぶ。

モニターに表示されたPRTSのコンソール画面が赤く染まる。

 

『ーーーオープン・ファイア』

 

直後、ロドスの左舷側に配されるガンタレットの全てが火を吹いた。

 

…

 

草木の疎な荒野を獣達が駆けていく。

ただ真っ直ぐに、指示された通りに、プログラムされた通りに。

背中に背負った電子機器が、脳に命じるままに、獣達はロドスの横腹目掛けて猛進する。

一頭が空気を裂く音を聞いた、それは即座に全体に伝播する。

だが、止まらない。

恐怖という感情は、すでに切り落とされている。

 

直後、源石を弾頭とする死の雨が、獣達の頭上で爆発した。

 

近接信管、着弾せずに空中で起爆するタイマーヒューズを内蔵した砲弾が、荒野を火の海に変える。

 

…

 

ロドスの右舷側、丘の上でその様子を伺う1人の少女がいた。

 

「さすがは天下のロドスアイランド 、備えは万全ってわけか」

 

手でひさしを作り、ロドスを挟んだ向こう側の閃光を眺める少女。

 

「…でも、ちょっと弾幕薄くない?

いいのかな?」

 

…

 

肉片が飛び散り、それが焼ける臭いが立ち込める荒野。

摂氏1000度以上の猛火が支配する世界、すでに生けるものがいられる場所ではない。

しかし、仲間の骸を飛び越え、自らも火に侵されながらも、獣達はその足を止めることはない。

一頭、また一頭。

力尽き、足が折れ、倒れ伏す仲間に目もくれず…いや仲間と認識すらしていない。

ただ、前へ。

機械的とも、狂気とも取れるその行動は、ロドスのすぐ足元まで迫っていた。

 

…

 

「敵集団!火線を抜けてくる!!」

 

「PRTS、再度攻撃を…!」

 

チーフオペレーターはインカムに叫ぶ。

その横で、センサーオペレーターは青い顔をして呟く。

 

「…ダメだ、間に合わない」

 

『ーネガティブ・目標が本艦に近すぎます』

 

「…速すぎる」

 

チーフオペレーターの額を、冷や汗が珠となって落ちる。

 

…

 

獣達は己が走ることで、身を侵す炎が勢いを増すことなぞお構いなしに駆け続ける。

背中に背負った電子機器、常時赤い発光信号を飛ばすその機械の下…正確には獣達の腹の下にはもう一つ、異質な輝きを放つものがあった。

 

源石結晶。

 

それが透明な容器に収められ、幾つものコードに繋がれてそこにある。

赤い発光信号とは別に、赤い光を放つそれは、その時を待っていた。

 

少女は腰に下げられていた、トリガー型のスイッチを引き抜く。

そして数回、お手玉をするように弄ぶと、トリガーに指がかかる形で、それを掴み取る。

目を細め、唇は釣り上がり、頭の中で何回も行ったシュミレーションの中で、最も心躍った場面を想像する。

そして、トリガーにかかる指を、一切のためらいなく、引き絞った。

 

「…BOOM!」

 

…

 

ロドスから数キロ離れた上空。

任務のために龍門へ向かう部隊を移送中だった哨戒ヘリ、ハープーンシューターは、コードレッドの発令を受けて、急遽帰還の途についていた。

 

ヘリの内部で、一際背の低いオペレーターが窓の外を見て叫ぶ。

 

「…ヤトウ…ヤトウ!…見て!ロドスが…!!」

 

「どうした!何が見える!」

 

その横に仮面で目元を隠した女性オペレーター、ヤトウが並ぶ。

 

「…なんて、ことだ…」

 

「…なんで…そんな…ロドスが…ロドスが燃えてるよ!」

 

「なんだって!?」

 

その声にもう1人の仮面を被った重装オペレーターが窓に飛びつく。

そこには炎と煙に包まれるロドスの…彼らの家の姿があった。

 

「…ふざけんな、なんだよこれ…なんだってんだよクソがぁ!!」

 

重装オペレーターはヘリの壁を思い切り殴りつける。

 

「よさんかノイルホーン!!

…皆、落ち着け、見ろ…炎は荒野から上がっておる。

あれはロドスの砲撃によるものじゃ…窓から離れろ、危ないぞドゥリン」

 

ドゥリンは頷きながらも、窓の外の光景に目を離せずにいる。

ノイルホーンの肩を蜥蜴頭の弓兵が掴み、同じように窓の外を見る。

そしてヘリのパイロットの方に向き直ると、コックピットへと歩み寄った。

 

「パイロット、ロドスと連絡はつかんのか」

 

「…ダメだ、レンジャー。

何度も呼びかけているんだが反応がない…相当混乱しているようだ…!」

 

「呼びかけを続けてくれ」

 

「わかっている…『管制塔…管制!誰か応答してくれ!こちらは哨戒ヘリ、ハープーンシューター!

そちらの状況を知らせてくれ!管制塔、指示を!』」

 

「…まるで戦じゃな」

 

レンジャーはコックピットのキャノピー越しにロドスを見て呟く。

 

その瞬間だった。

キャノピーから、窓から見えるロドスが、一瞬にして閃光の中に消えた。

 

「…きゃッ!?」

 

「…ッ!」

 

ドゥリンの目を、とっさにヤトウが手で塞ぐ。

 

「…目を焼かれるぞ!」

 

ヤトウもまた、バイザーで庇いきれない閃光を腕で防ぐ。

レンジャーや、同じように仮面をしているノイルホーンも、思わず目を腕で覆った。

 

「なんだ…!?」

 

やがて閃光がおさまり、明滅する視界の中にそれは現れた。

 

「…なんだよ…あれは…」

 

ノイルホーンは窓にうなだれながら、絞り出すように呟いた。

そこには、轟々と燃え盛る火柱…そして巻き上げられる火球と粉塵が、ロドスを覆う光景が広がっていた。

 

「…まずいッ!!」

 

パイロットが叫び、操縦桿に体重をかける。

直後、遅れて到達した衝撃波と轟音がヘリを襲った。

上下左右に揺さぶられるヘリの中を、オペレーター達は取手に、手すりを掴みながら、床に叩きつけられないように踏ん張る。

 

凄まじい衝撃波が過ぎ去り、物資やオペレーター達の武装が散乱したヘリの中で、彼らは一言も発さずに窓の外を眺めていた。

 

「『…管制塔!管制塔!聞こえるか!

…ああ、くそ!!くそぉッ!!

聞こえてたら応答してくれ!管制!…ブリッジ!!

…誰か…誰か答えてくれ…!!応答してくれ!誰か!!』」

 

ヘリの中にはただ、呼びかけを続けるパイロットの声だけが響いていた。

 

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