METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
燃え盛る火柱の中に影を落とすロドス。
「♪」
少女はご機嫌に口笛を吹くと、トリガー型の起爆装置を放り投げ、腰の無線機を手に取る。
「お膳立ては終わった、面白いものが見れたわ。
特製源石爆弾、奮発した甲斐があったってものね」
『…わかった』
「ちょっと…ご苦労様の一言くらいないわけ?」
『お前は少し、遊びが過ぎる…もっと手早くやれたはずだ』
無線機の向こうで無機質に言葉を発する司令官を想像し、少女は笑う。
彼方の炎に照らされる丘の上を、少女の影が大きな歩幅で歩く。
「せっかくの大仕事だもの、少しは私の嗜好を混ぜても問題ないでしょ?」
『役割はこなした、それは認めよう』
「ご親切にどーも」
『W…貴様、あの老人を見たか?』
明らかに声色の変化した、司令官の問いかけに、少女は眉を潜める。
「…老人?…あ、あー…」
『見たのだな』
「ちょっとね、チェルノボーグでしょ?」
『どう見た』
「どう見たかって…」
Wは顎の下に指を当てて、しばらく考えるようなそぶりを見せる。
「…おもしろそうな雰囲気だな、とは思ったかな」
『面白そう…面白そうか』
「…どうしたの、タルラ」
Wは茶化すような口ぶりでタルラに問いかける。
『…私の「これ」も、「面白そう」というべきのだろうか』
「…珍しいね、タルラが他人に興味を…それも非感染者を相手になんて」
Wの瞳に怪しい光が灯り、唇の両端は吊り上がる。
『……喋りすぎた』
タルラはそう呟いた後、一方的に無線を切断した。
「…あらー…こりゃまじだわ」
そう言ってWは困ったように笑い、彼方のロドスに向き直る。
「こりゃ早いとこ手をつけとかないと、タルラに取られちゃうなあ」
…
タルラは荒野に立っていた。
その周囲には常時、火の粉が燻り、付近の枯れ草はすでに灰になっている。
鈍く輝く瞳を、炎に照らされるロドスに向けながら、タルラは己の瞼を撫でた。
「…まだ、答えを聞いていない」
そう呟くと、タルラはまぶたに触れた手を、ゆっくりとロドスに向けた。
荒野の風に吹かれるタルラの前髪が、雲の間に現れた月明かりをうつす瞳の前をゆらりと流れる。
「スカルシュレッダー」
タルラの呼びかけに、スカルシュレッダーは音もなく隣に立つと、防護マスクの黒いスモーク加工の施されたグラス部分に、ロドスの影を映した。
「行け、姉を救ってこい」
「…言われるまでもなく」
「道は私が作ってやろう」
タルラはそういうとロドスに向けられた右手を高く天に向かって上げる。
その瞬間、タルラの背後に夥しい数の照明が灯った。
オートバイク、エンジンが唸りを上げ、獣の咆哮のようなそれを荒野に共鳴させる。
一台がスカルシュレッダーの隣に並び、運転手の後ろにスカルシュレッダーが飛び乗る。
「お前はただ進めばいい」
「…わかっています」
タルラは、ゆるりとした動きで右手を下ろす。
オートバイクの運転手達はそれぞれにアクセルを引き絞る。
スカルシュレッダー、そしてタルラの背後から、凄まじい勢いでオートバイクの集団が飛び出していく。
やがて荒野に静寂が戻った頃、タルラは1人、荒野で月を見上げる。
月は陰り、やがて厚い雲に阻まれて荒野に闇が戻ってくる。
「…私の瞳には何が見えた…教えて…教えてくれ…」
タルラの背後から、どこからともなく飛んできた白い花弁が、タルラの放つ熱気で燃え尽きる。
「……ジャック…」
…
ロドス内部
第1セクター 共用通路
赤い赤色灯に照らされた廊下に、多くのオペレーター達が倒れている。
爆発の衝撃で壁に叩きつけられたジョンは、呼びかける声と揺さぶられる感触に目を覚ます。
「…ぐ…ン……」
「…ドクター…!起きて…!起きてください…!」
「…
「…ああ、よかった!」
P・Mは心から安心したように、大きく息を吐き出す。
「…何が…おきた?」
「…わかりません、衝撃で床に叩きつけられて…それほど時間は経っていません…」
P・Mのスカーフで隠された顔、唯一露出する目元に流れる血を、ジョンは見る。
「…お前、怪我をしているぞ」
「…?…ああ、これくらい、なんでもありません」
P・Mは袖で血を拭うと、ジョンの脇の下に腕を通す。
「立てますか?
今はとにかく、集合地点に向かいましょう」
「…ああ、起こしてくれ…!」
ジョンはP・Mの肩を借りて起き上がると、廊下を歩き出す。
照明が割れ、赤色灯に照らされるのみの通路を2人は歩く。
所々で倒れているオペレーター達が、唸りながら起き上がり始める。
「…大丈夫か?」
ジョンは壁に手を突きながら起き上がったオペレーターに問いかける。
「…ドクター?…ご無事でしたか」
「お前は大丈夫か?」
「ええ…頭がガンガンしますが…大丈夫そうです」
オペレーターは2人の隣を歩き始める。
「所属は?」
「フランカさんの隊です」
「では一緒に行こう、彼らも集合地点で待っているはずだ」
「了解」
P・Mはジョンに肩を貸しながら歩き、こぼすように呟いた。
「…皆さん、お怪我がないといいですが」
「…今はまだ、わからん…」
ジョンがそう答えた直後、艦内放送がノイズを伴って流れ出した。
『ロドス…ランドの総員に通達!
…被害はない!…ダメージコントロールは正常に……。
ロドスは指揮系統の再構成を…各指揮官は各々の集合地点に……襲撃は続いている!』
艦内放送の断片的な情報をつなぎ合わせながら、ジョンは状況を組み立て始める。
「…俺たちのすぐ真横で爆発が起こったらしいです。
左舷側の通信アレイが数箇所損傷…ガンタレットのほとんどを喪失…ひどいな。
…ですが装甲はほぼ無傷です。
……今のところ死者も出てません…」
P・Mがリストデバイスを見ながらに情報をジョンに伝える。
「あれだけの衝撃、尋常の爆発ではなかった…ほぼ無傷ときたか…都市を牽引するだけあって、丈夫な列車だ」
そう言ってジョンは自らもリストデバイスを開く。
「…ケルシーからの通信?」
ジョンの言葉にP・Mとオペレーターは反応し、画面を覗き込む。
パーソナルデータの欄に、ケルシーからの通信履歴。
そしてそれに添付されたメールの内容をジョン達は確認する。
「……病棟を…守れ…?」
オペレーターが声に発した内容を、ジョンは苦い顔を浮かべて受け止めた。
…
リスカムとフランカは共に部隊を引き連れて廊下を走る。
医療オペレーターに担架で運ばれる負傷者とすれ違いながら、リスカムは焦りに唇を震わせていた。
「…信じられない…ロドスを直接攻撃するなんて…」
「それほど彼らは「彼女」が欲しいってことかしら、モテるのね、あの子」
「フランカ…!」
「許さない…絶対に渡すものですか」
リスカムはフランカの前髪の奥に暗い影を落とす瞳を見て言葉を引っ込める。
「…ドクターはもう着いているでしょうか」
リスカムは通路の先に向き直る。
角をいくつか曲がり、隔壁をいくつか超えた先の集合場所、作戦会議室にリスカムとフランカは扉を開け放ち、飛び込んだ。
そこにはすでに数十名のオペレーターとドーベルマン、アーミヤ、そしてケルシーがおり、待機し各々に指示を送り合っていた。
「アーミヤさん!」
会議室の椅子に腰掛けるアーミヤが、リスカムの声にリストデバイスから顔を上げ、姿を確認して立ち上がり駆け寄る。
「リスカムさん!フランカさん!
お怪我はありませんか!?」
「ええ、私たちなら大丈夫、アーミヤちゃんは平気?」
「私も大丈夫です、ドクターを見かけませんでしたか?」
「まだいらしてないのですか…!?」
「はい…」
アーミヤは会議室を見渡して肩を落とす。
「ドクターとは数時間前に別れたきりで…」
「…そう、ですか」
リスカムは俯きかけた頭を慌てて持ち上げ、リストバンド越しに指示を送るドーベルマンに駆け寄る。
「ああ、ではその通りに動いてくれて構わない…ああ、被害箇所をリストアップして管制へ送れ、頼んだぞ。
…無事か、リスカム」
「はい、爆発のあったエリア付近には居りませんでしたので…ドクターをご存知ありませんか?」
「見ていない…先ほどケルシーが連絡を取ったが…」
会議室の椅子に座り、机に置かれたデバイスを操作するケルシーは、眉間にシワを寄せ、近寄りがたい雰囲気を纏っている。
「どうやらまだ連絡は取れていないようだ」
「…ドクターの私室は左舷側の居住区に…まさか…」
「いや、爆発の前にドクターは部屋を後にしている。
PRTSのログに残っていた、ドクターは無事だ、おそらくな。
それに例え部屋に居たとしても、簡単に破られる防壁ではない」
「…そう、ですよね」
リスカムは胸を撫で下ろし、息を吐く。
横でアーミヤがそんなリスカムの手を握る。
「あの人はそう簡単にやられる人じゃないわよ、約束も守ってもらわなきゃいけないし」
フランカといえばなぜか自慢げにそう言って、リスカムの肩を叩く。
「それでドーベルマン、私たちはどうするの?」
フランカは打って変わって真剣な表情をドーベルマンに向けると、そう問いかける。
「もちろん、反攻に出る。
襲撃は続いている、奴らがこの後、どう動くかはわからないが、これ以上ロドスを傷つけられるわけにはいかん。
…時間がない、始めよう」
そう言ってドーベルマンは会議室の大型モニターを操作する。
モニターにはフロントブリッジのチーフオペレーターが、頭に氷嚢を当てて立つ姿が映し出された。
『…ケルシー先生、申し訳ありません。失態です』
「怪我は大丈夫なの?」
『はい、フロントブリッジ担当オペレーター全員、負傷者はいますが問題ありません』
「それはよかった…それではチーフ、現状の説明を」
『はい、センサー系の損傷箇所が多く、右舷の勢力のほとんどの動向が確認できません。
左舷側で確認されていた勢力はその全てが消失…その殆どが自爆…特攻でした』
チーフオペレーターはそういうと、モニターの向こうでコンソールを操作し、モニターに映像が映し出される。
赤外線センサーによって撮影されたその映像は、機械を取り付けられた獣の群れがロドスの外壁間近で爆発するものだった。
ドーベルマンが耐えられないとばかりに視線を背ける。
「…ドーベルマンさん?」
リスカムは冷や汗を流すドーベルマンを気遣い、椅子に座らせる。
「…狂人どもめ…なんというものを…」
ドーベルマンはモニターの映像を睨みつける。
「…あれは…私の種族に近しいものだ…」
「野犬より数倍は賢い彼らを、あの機械で操作している…チェルノボーグでも目撃されていましたね」
ケルシーがそう言って机の上のデバイスの映像を見る。
そこにはチェルノボーグの民衆に襲い掛かる獣の群れが映っている。
「機動力も高い…あれに爆弾を括り付け、ロドスに突っ込ませ…起爆した」
会議室にいるオペレーターの数人が生唾を飲む。
『もっと早くに対処を行なっていれば…』
チーフオペレーターは眉間に皺を寄せて顔を硬らせる。
「いえ、対処に遅延はなかった。
あれが全てロドスに突撃していれば、こんな被害ではすまなかっただろう」
『…センサー、および通信アレイの一部に被害が、復旧には時間がかかります。
龍門に救難信号を送りましたが、返信を受信できません。
ガンタレットは左舷側のほぼ全てを喪失し、火器管制にも遅延が見られます』
「目視での監視を進言する。
ロドスの武装を制限されている今、右側にいる敵集団は脅威だ。
すでに私の独断で狙撃中隊を右舷側の屋外連絡通路に配置している」
「結構」
ケルシーはドーベルマンの意見具申を聞いて立ち上がる。
「今回の襲撃、かつてない規模のもの。
その目的はハッキリしないが…我々は今、龍門、ロドス両者にとって重要な人物を保護している」
ケルシーがコンソールを操作し、モニターにロドスの医療研究棟を表示する。
「ロドスそのものはもちろんだが、我々は保護している患者をなんとしても守る。
どんな犠牲を払っても、彼らには決して奴らの手を触れさせない」
モニター越しに会議室に影を下ろすケルシーは、鋭い眼光をオペレーター達に向ける。
「混成遊撃部隊を組織する。
医療研究棟を抱えるセクター1を中心とした防衛線、これを最終防衛ラインとします」
「混成…遊撃部隊…」
アーミヤが聴き慣れない言葉に疑問を浮かべる。
「ロドスの協力者、および助力を申し出てくださった方々とともに、本部隊は行動する」
「民間人に協力を求めるのですか…?」
オペレーターから上がった声にケルシーは鋭く答える。
「人員が足らない。
ロドスは龍門とは違う、守ってくれる壁がない。
直接攻撃に耐えうる装甲は持ち合わせているが内部に侵入を許せば不利になる。
…そうなる前に、行動隊の全戦力をもって瀬戸際で防ぐ、これを一次防衛線とし、指揮は…ドーベルマン、頼める?」
「…承った!」
そう言ってドーベルマンは部下たちと共に立ち上がる。
ケルシーはロドスの3D全体像を表示する。
「2次防衛ライン、これはロドス内部に敵が侵入した際の対処にあたる。
民間人や非戦闘員のいるシェルター、および医療設備、動力機関等を防衛する。
構成は警備オペレーターの全兵力、すでに各セクターの指揮官には配置にあたらせている。
そして遊撃隊、これには最終防衛ラインに専念してもらう。
ロドスの肝だ、少数精鋭、協力してもらう民間人も力のあるものを選抜した。指揮官は…」
ケルシーが続けようとしたその瞬間。
ゆっくりと音を立てて会議室の扉が開いた。
「…すまん、待たせたな」
会議室にいたオペレーターの数人が立ち上がり、ジョンに敬礼する。
装備や身なりから、彼らはチェルノボーグで救出任務に参加したオペレーターだと気付いたジョンは、彼らに敬礼を返すとP・Mの肩から離れ、会議の円卓に向けて歩き出す。
「…ドクターッ!」
アーミヤがジョンの元へ駆けていく。
駆け寄ってくるアーミヤの頭に手を乗せると、ジョンはケルシーに向き直る。
「粗方、把握はしているわね?」
「ああ、丁寧な文章で助かった」
「…頼めるかしらドクター、アーミヤ」
「…」
アーミヤはジョンを見つめる。
ジョンはその視線に黙って頷くと、アーミヤとともに並び、ケルシーに再度向き直った。
「…まかせてもらおう」
「…拝命します、ケルシー先生!」
ケルシーは頷くと、会議室のオペレーターたちに向けて檄を飛ばす。
「我々の信条を示すときだ…我々はその手を取り合い、メスと武器を握る…全ての者の明日を守るために!」