METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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小言

ケルシーは作戦会議室の円卓で1人、暗闇の中で電子機器の光に身を照らされている。

デスクトップのモニター、監視カメラの映像にはヘリポートから撤退する前衛オペレーター達と、それと入れ違いに廊下を駆けていく重装オペレーター達が映る。

重装オペレーター達の向かう先のヘリポート入り口からは、大挙してレユニオン兵士が押し寄せてきていた。

そして、そのまま両者は勢いよく激突する。

 

「…侵入されたか」

 

ケルシーはモニターの画面をロドスの警備オペレーターに対する全体通信に切り替える。

 

「一次防衛ラインが突破された、警備オペレーターの総員は持ち場を死守しなさい」

 

ケルシーは事務椅子から立ち上がり、椅子に掛けていた白衣を手に取ると会議室の出入り口へ歩き出す。

護衛である2人の重装オペレーターが扉を開くと共に、ケルシーと部屋を後にする。

 

「どちらへ」

 

「私も防衛ラインに参加します」

 

「「…はッ!」」

 

重装オペレーター2人は伸縮式の盾を音を立てて展開する。

ケルシーもまた、白衣をオペレーターに渡し、嵌められた指輪をつけ直す。

 

(…もしもの時は頼むぞ、アーミヤ…ジョン)

 

 

『セクター2ヘリポート!申し訳ありません、突破されました!

ユニット2−15は指定のブロックまで撤退後、展開中の警備ユニットと合流します!』

 

『分が悪いと思ったらすぐに後退しろ!』

 

『ジェットパックだ!あいつらジェットパックでとりついてきている!』

 

『屋外通路に展開中の部隊は後続の侵入を阻止しろ!』

 

『どうやって!?あいつら霧に紛れて…』

 

『あいつら霧の下で何をしてるんだ!!』

 

『あいつらの攻撃で消火ヘリが近寄れない!誰かなんとかしてくれ!』

 

ジョンは耳に入る多くの無線通信の中から状況を把握していく。

リストデバイスにはロドスの3Dマップが展開され、随所随所で赤い発光点を点滅させていた。

ジョンの周囲にはアーミヤの他、リスカム、フランカ、ジェシカにバニラといったBSWの面々、そしてジョン旗下のロドスのオペレーター達、そして。

 

「…おーい!まだ行かねえのかよ!やべーんじゃねーの!?ドクターさんよぉ!」

 

「ズィマー、失礼ですよ」

 

「け、喧嘩はダメだよ…?」

 

チェルノボーグ撤退戦の折、ジョン達の保護した避難民とともに退避したズィマー、イースチナ、グムの3人がいた。

 

「…ちっ!」

 

ズィマー。

2人に宥められ、バツが悪そうに鼻息を荒げて椅子の上で足を組み、ジョンを睨みつけるウルサスの少女。

茶に赤い差し色の入った髪を揺らし、不機嫌そうに貧乏ゆすりをして、得物のハンドアックスを肩で支えている。

 

「全く」

 

イースチナ。

呆れ顔で眼鏡を整え、手元の本を膝に抱えてズィマーの隣の椅子に座る少女。

翠色まじりの白髪を手で整えながらに、ペコリとジョンに頭を下げる。

 

「…ズィマーお姉ちゃん、怒ってるの?」

 

グム。

明るい亜麻色の髪を可愛らしい髪留めやピンで整え、イースチナの横の席から心配そうにズィマーを見る少女。

その手には重そうな盾(重厚な金属扉に簡易的な持ち手とベルトをつけたもの)が握られている。

 

3人の様子を目を瞬かせながら見ていたリスカムがジョンに向き直る。

 

「ドクター、あの子達は…?」

 

ジョンはデバイスの3Dマップを見る目を閉じると、目尻を指でもむ。

 

「…チェルノボーグで救助した子供達だ」

 

「…ああ、ではこの子達が」

 

「悪夢だ。

…ソニア、君がなんでここにいる?」

 

「ケッ!もうその名前で呼ぶな。

今はズィマーで通してんだ」

 

ズィマーはハンドアックスを肩で支えるままに立ち上がる。

そして親指で自らをさし、得意げに言い放つ。

 

「聞かれるまでもねぇ、アタシら…「ウルサス学生自治団」があんた達に、正式に戦闘員として雇われたからに決まってんだろ!」

 

「…ハァ」

 

「さっきからなんだぁその反応はよぉ!!

助けてやろうってんだから、礼があってもいいもんだろーが!!

ため息つかれる謂れはねーぞ!」

 

「ぐ、グム達だってお役に立てるよ!」

 

そう言って立ち上がるグムを見て、ズィマーはニヤリと笑みをジョンに向ける。

 

「…子ウサギに続いて今度は子熊か…」

 

ジョンの言葉にアーミヤがすぐさま駆け寄り、ジョンのフードを取り払って右側から耳元で叫ぶ。

 

「わ、た、し、は!

子ウサギじゃありませんッ!!」

 

その様子を見ていたズィマーが、イースチナの静止を振り切り、不機嫌そうな顔のままジョンの左側に駆け寄って…。

 

「ア、タ、シ、は!……子熊じゃねぇーッ!!」

 

右から左へ、左から右へ突き抜ける衝撃に、ジョンは頭を左右に振る。

耳鳴りを取り去らんと、右耳を掌で叩き、リスカムに向き直る。

 

「…私はケルシーに試されてるんだろうか」

 

「…彼らが正式にロドスの客将として迎えられたのは、事実ですよドクター」

 

リスカムが苦笑いを浮かべながらに答える。

 

「姉ちゃんの言う通りだ、しっかり指揮を執ってくれよ、ドクターさんよ」

 

ズィマーはそう言ってニヤリと笑うと、立ち上がり席に戻ろうとする。

しかし、急にジョンの正面で立ち止まると、チラチラと視線を向けた。

 

「…」

 

「…なんだ」

 

ジョンが目の前に立ったまま、直立して動かないズィマーに問いかけると、ズィマーは少し頬を染めて頭を掻き毟った。

 

「…あれだよ、その…礼だ、言えてなかった」

 

「礼?」

 

「…ありがとうな、ガキどもを助けてくれて」

 

ジョンはその言葉に少しの間、面食らった。

 

 

 

『成り行きだよ、成り行き!

アンナ達を守れりゃそれでよかったんだ!』

 

『あたしはここいらじゃ一番強いんだ、強いから!

…守らなきゃいけなかった、それだけだ!

ああ、くそ…!どうしてこんな…ッ!

は、初めてあたしは…喧嘩じゃなくて…人を…この手で!』

 

『あたし…あたしは…間違ってないんだ…!

…友達が殺されるところだったんだ…間違ってないんだ…!』

 

 

「…なんだ、結構可愛いところもあるじゃないか」

 

「…言っとけくそじじい、言いたいことはそれだけだ」

 

鼻を鳴らして自らの椅子へと向かうズィマー。

 

「ズィマー、私にはお前も、守るべき子供達なんだぞ」

 

ジョンの言葉に、ズィマーは立ち止まる。

 

「…じじい、あたしがあそこで何をしたのか知ってんのか?」

 

ジョンはズィマーの言葉の端に、重いものを感じて目を細めた。

 

「…いいや、わからん」

 

「だったら…!」

 

ズィマーが勢いよく振り返った先には、ジョンがすぐ目の前に立っていた。

 

「わからんが、それが何か私のやる事に関係あるのか?」

 

ジョンの片目から送られる視線を真っ直ぐに見つめるズィマー。

 

「……別にねぇよ、勝手に言ってろ」

 

「ソニア」

 

ジョンは目線を逸らして歩き出そうとするズィマーの肩を掴んで引き止める。

 

「…さわん…!」

 

「無理に吹っ切れようとしてるな、君は」

 

ズィマーの瞳に、明確に敵意の光が宿る。

その時だった。

 

「ドクターさん、そこまでにしてあげてください」

 

イースチナがジョンの隣に立ち、ズィマーの肩を掴むジョンの腕を取る。

 

「お願いします」

 

「…」

 

ジョンがイースチナの目に気を取られているうちに、ズィマーは乱暴にその手を振り解く。

 

「ズィマー!」

 

イースチナの手すら振り解き、ズィマーは椅子に向かい、そっぽを向いて座り込む。

その隣で、グムが心配そうにズィマーの膝に手を乗せる。

 

「…」

 

「すいません、まだ彼女は整理し切れていないんです」

 

「…だろうな」

 

「あなたには感謝しています。

あなた達と出会えなかったら、助けてくれなかったら、私たちは今、生きていないかもしれない。

…でもあなた達に出会うまでは、彼女が私たちをあそこで守ってくれていたんです。

どうか、わかってあげてください」

 

「……少し急いたな、すまなかった」

 

「…私に謝られても困ります」

 

そう言ってイースチナはズィマーをチラリと見た。

そしてジョンに向き直り、身をかがめるよう手振りで示す。

ジョンがそれに従って頭を下げると、イースチナは小声で耳元にささやいた。

 

「…彼女、あなたのことは信頼しかけてるんです。

…あんまりいじめないでください」

 

「…」

 

ジョンはイースチナの肩を叩くと、ズィマーの目の前に立つ。

 

「ズィマー、すまん」

 

ズィマーは片手で宙を払う仕草をする。

しかし、ジョンは続ける。

 

「この老いぼれに守ると言われても、実感は湧かんだろうな。

戦うという君達の意思、決意を否定する権利は、もう私にはない。

指揮を執れというなら、君達の事をしっかりと受け止めるさ」

 

ジョンはそう言ってズィマーの隣に座るグムの肩に手を置き、その目を見つめ、ついでイースチナにも目をやる。

 

「だがなズィマー、放って置けないんだ、心配なんだよ、君がいかに強く覚悟していようとも、まだ若い」

 

ジョンはそう言ってズィマーの目の前から、自らの椅子に向かって歩き出す。

 

「これまで様々なものを見て、感じてきた。

私には…君の中に影が見える。

「覚悟」というものは時に恐ろしいまでの力を与えるが、厄介なものでな。

一度、覚悟で身の内の淀みを埋めてしまうと、それは抱えた時よりも大きな膿となり、君を蝕む」

 

ジョンは自分の胸元に目をやり、瞳を哀愁の色に染める。

 

「少なくとも私はそうだった」

 

そしてズィマーに再び向き直り、グムの肩に置かれた手をズィマーの頭へと移した。

 

「闘いしかない大人にはなって欲しくない。

だから、それだけだ…それだけなんだ」

 

手を頭から離して立ち上がり、遠ざかるジョンの背中を、ズィマーは一度も見ることはなかった。

 

「…私の指揮下に入るなら、小言はいつも耳に入ると思えよ」

 

ただ、その手の中にハンドアックスを握りしめたまま、ズィマーは必死にそれを頬に流すまいと堪えていた。

 

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