METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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セクター1・ゲート前・開戦

リノリウムの床をオペレーター達が駆けている。

最低限の装備で身軽に動き回る先鋒オペレーター達は、味方からの救援要請を受けてセクター2の中央を貫く連絡通路を目指していた。

先鋒オペレーターの1人が周囲の様子を確認しながらリストデバイスのコンソールを開く。

 

「管制、こちらはユニット1−25リーダー、聞こえるか!」

 

『こちら中央管制、どうした1−25リーダー』

 

「セクター2の避難はまだ完了していないのか!?

隔壁を下ろして奴らを分断するべきだ!」

 

先鋒オペレーターは通り過ぎた分岐の道の先に下された重厚な隔壁を思い出していた。

 

『患者の避難はすでに完了しているが、技術者達の避難がまだだ』

 

「我々は要請のあった地点に向かっているが…」

 

『現在、散発している戦闘地域の避難は完了しているとの報告は来ている。

だが万が一、置き去りにされている者がいた場合を考慮して、セクター2での隔壁閉鎖は控えるべきとの命令だ』

 

「くそ…」

 

『センサー系の異常からかはわからないが、艦内のセンサーもまともに作動していない。

不意の接敵に注意するんだ』

 

「…1−25、了解」

 

先鋒オペレーターはデバイスを閉じると、後続の仲間に目を向ける。

 

「お前ら、道中で怪我人や取り残されている技術者がいないか気を付けろよ!」

 

オペレーター達は周囲に気を配りながら要請地点へと向かう。

避難完了報告のあった通路は、書類や医薬品、物資などが散乱し静まり返っていた。

そこにはただオペレーター達の足音がこだまし、どこからかノイズのような音が漏れ聞こえる、普段の様子からは想像もできない光景が広がっている。

 

「要請地点まであと少しだ」

 

隊列の中程にいるオペレーターがそう呟いた時、後列にいたオペレーターの1人が一つの部屋の前で立ち止まった。

 

「どうした…?」

 

1人、隊から離れて立ち止まるオペレーターを見て、それに気づいた別のオペレーターも立ち止まる。

 

「みんなちょっと待ってくれ!…どうかしたのか?」

 

「…声が聞こえたんだ」

 

「…それは本当か?」

 

立ち止まり、部屋の中の様子を伺う2人。

医療オペレーターのオフィスの一つだったのだろうその部屋は、酷く荒れていた。

慌てて逃げ出したのだろう、部屋には患者達のカルテのようなもの散らばり、新品の医療器具も床に投げ出されている。

 

「どうした!?」

 

先頭を走っていた1−25リーダーが引き返して2人の隣に立つ。

 

「隊長、声がしたというんです」

 

「…この部屋でか?」

 

集まってきた隊の全員が部屋の前で耳を澄ます。

 

「…ほら!」

 

部屋の中からはすすり泣きの声が聞こえてくる。

 

「おい!誰かいるのか!」

 

1−25リーダーが部屋の中に足を踏み入れると、倒れたカーゴの後ろから少年と少女、2人の子供が顔を覗かせた。

 

「…子供だ!子供がいるぞ!」

 

1−25リーダーが駆け寄ると、2人はそれに抱きついた。

 

「…逃げ遅れたのか」

 

「ここは避難完了区域のはずだぞ」

 

「確認しろ」

 

部屋の前で周囲を警戒する数人を残して、ユニット1−25の面々はオフィスの中に入り、他に逃げ遅れた者がいないか確認する。

 

「もう大丈夫だ、君たちは…」

 

抱きつく子供の前でしゃがみ、手袋をした手で泣きはらした目元を撫でる。

 

「ネームプレートをつけていないな…いや、君はつけているのか」

 

1−25リーダーは少年の首の後ろに回っているネームプレートを手前に回すと、それが外来患者用のネームプレートであることがわかった。

 

「…外部の」

 

1−25リーダーは少年の手首に鉱石病の中期症状である鉱石片の露出を確認する。

 

「…この子達は」

 

「今日、患者になった子だろうな」

 

「…例の孤児達か」

 

「君たち、どうしてここに?」

 

少女はしゃくり上げながらに答える。

 

「…ひっ…ひ……わ、私…喉が…乾いて…」

 

「…病室を抜け出して、水を飲みに行く途中だったんだ」

 

少年が目元を擦りながらに続ける。

 

「…僕が言い出したんだ…そしたら地面が揺れて…慌てて2人で病室に戻ろうとしたけど。

人がいっぱいで、訳が分からなくなって…隠れてたら、誰もいなくなっちゃった…」

 

「…お、お兄ちゃんを…怒らないで…」

 

1−25リーダーは少女の頭に手を乗せると、優しく髪を撫でてゴミを払った。

 

「怒るもんか。

さあ、ここは危ないから、俺たちと一緒にみんなのところに戻ろう。

きっと心配してるから」

 

そう言って少女を抱き上げる、それに続いて隣にいるオペレーターも少年の手を握った。

 

「管制、こちらユニット1−25リーダー」

 

『どうした、1−25、要請地点にはまだ到着できそうにないか?』

 

「逃げ遅れた子供を2人見つけた、この子達の保護を優先したい」

 

『それは本当か1−25!

失態だな、警備部の連中め…。

…わかった、要請地点には別の部隊を向かわせる、君たちはその子供達をセーフゾーンまで保護してくれ』

 

「1−25、了解」

 

1−25リーダーは少女を抱え直し、部隊の面々に向き直る。

 

「状況変更だ、俺たちはこの子達をセーフゾーンまで連れて行く」

 

「「「了解」」」

 

「隊長、ここからだとセクター2のセーフゾーンは少し遠いですね…ホットゾーンも散在しています」

 

「10ブロックは少しとは言わんだろう…そうだな、ではセクター1へ向かおう」

 

「3次防衛ラインへですか?セーフゾーン指定はされていませんが…」

 

「あそこは今艦内のどこよりも安全だよ、それに…ドクターは受け入れてくれるさ」

 

「ドクター・ジョン…隊長は救助作戦に参加されてましたね」

 

「すごい人だよ、彼は」

 

1−25リーダーはそう言って胸元の汚れた隊証を撫でた。

エンブレムには小さく「E3」の刻印が輝いている。

 

「ACE隊長が見込んだ人だからな」

 

1−25リーダーのその言葉に、ユニット1−25オペレーター達も胸元のエンブレムを撫でた。

抱き抱えられた少女が、1−25リーダーのエンブレムを興味深そうに眺めている。

 

「一緒に行動していたあなたが言うんだから、間違い無いですね」

 

「…さあぐずぐずはしていられない…いくぞ皆」

 

 

セクター2を貫く通路の端、セクター1に通じるゲート。

下りた隔壁の前で蠢く影がある。

彼らは軽装備に身を包み、スカーフやバラクラバで口元を隠している。

影から影へ素早く動き、後続に続く部隊を誘導している。

後方から顔を覗かせたのは、様々な機器を背負った兵士だった。

ゲートの横にある連絡通路の扉、彼らはその制御板の外装をバールで引き剥がすと、背負った電子機器から端子を数本取り出し、剥き出しになった回路へと繋ぐ。

ものの数秒の間に扉は音を立てて開き、屋外連絡通路までの全ての扉が開かれた。

霧の立ち込める外から、ロドスの艦内へと最初に足を踏み入れたのは。

 

「…ご苦労」

 

レユニオン幹部、クラウンスレイヤーだった。

 

「発見は?」

 

「されていません、奴らあの爆発でセンサー系に異常をきたしているようです」

 

答えたのは扉をハッキングした技術偵察兵だった。

 

「でなければこうも簡単にハッキングはできませんでした」

 

「…Wは仕事をやり遂げた、我々も役目をこなすぞ」

 

クラウンスレイヤーはそう言って口元を隠すスカーフを整える。

そして腰から赤く発光する電子機器を取り出す。

それはロドスを襲った獣達に装着されていたものと同じ。

 

「セットしろ」

 

源石爆弾。

ガラス容器の中には液体に浮かぶ源石が赤い光を帯びている。

技術偵察兵の1人が、セクター1へと通じる扉にそれをセットする。

そしてレユニオンの兵士達が物陰へと移動し、角からゲートを伺う兵士が、その手にトリガー式の起爆装置を握る。

クラウンスレイヤーへと向き直り、彼女が頷いたのを確認すると、兵士は再びゲートへと視線を向ける。

 

「…なにしてる…?」

 

兵士の思考は一瞬白紙となった。

ゲートへと向けられるはずだった視線は、赤いもので覆い尽くされる。

よく見るとそれは鮮やかに朱に染められた外套。

それを纏う主人は、ただ偵察兵を頭上から見下ろす形で立っていた。

それは少女だった。

 

「…!」

 

言葉を発するよりも先に、反応でトリガーにかける指に力が籠る。

 

コツン、という軽い音が響いた。

 

スローな偵察兵の視界、赤い外套と自らの目線の間に、見慣れた自らの一部が浮かんでいる。

宙にはねあげられた「手首」と起爆装置を素早く手に取る赤い外套の少女。

 

「…なんだ…これ…?」

 

手首の関節をきれいに捉え、ナイフで切り飛ばした少女は手首付きの起爆装置をマジマジと見つめる。

 

「ギャアアアァッ!!」

 

クラウンスレイヤーは素早かった。

手首を押さえて叫ぶ偵察兵を突き飛ばし、逆手に構えたマチェットを少女に斬りつける。

だが、少女はもっと素早かった。

というより、「消えた」に近い。

 

「…!」

 

クラウンスレイヤーは周囲を見渡す。

 

「…くそ…!」

 

吐き捨てるようにそう呟くと、レユニオン兵士達の頭上からダクトを通って声が響いた。

 

『レッドの仕事…偵察…勝手な行動…怒られる』

 

レユニオン兵士達は自然とより固まり、周囲を警戒する。

手首を切断された兵士が、悶えながら治療を受けていると、ゲートから少し離れた通風口から、それが音を立てて落ちてきた。

 

『……返す』

 

その一言の後、ダクトが軋みを少しあげたのを最後に、物音一つしない空間が戻ってくる。

 

「…な、なんだ…なんなんだあれは…!?」

 

レユニオン兵士の1人が呻くように呟く。

 

「…!!」

 

クラウンスレイヤーは、えも言われぬ悪寒を感じてゲートへと向き直る。

その瞬間、ゲートは重々しい音を立てて開き始めた。

それは足から始まり、やがて腰、そして刀に添えられた手。

 

「…ああ、こちらでも確認した…的中だ」

 

完全に上がりきったゲート、姿を現したリーベリの初老の男。

セクター1側から照らされる通路の照明を受け、影を落としながら男はクラウンスレイヤー達に歩みを進める。

 

「…では、指示のままに、ドクター」

 

クラウンスレイヤーは熱を帯び始めた自らの呼吸に蒸れるスカーフをずらしながら、マチェットを構える。

男は無線機を流れるような動作で腰にしまうと、刀に添えられていた手を顎髭に伸ばす。

 

「…子供達の家、再び脅かすか…」

 

一歩、また一歩と男は歩みを進める。

 

「…安住の地を求めるのは同じ…その為に戦を求めるのであれば、私も全力を持って、それに応えよう」

 

そして刀の柄を握りしめ、鞘から鈍く輝くはばきを覗かせる。

 

「…求るならば来るがいい、されどここから先、一歩も進むことはできぬと心得よ」

 

クラウンスレイヤーはマチェットを握る力を強める。

そしてバネを解き放つように男に向かって飛び込んでいく。

 

「…刀を鞭となし…その肉体、打ち据える…!!」

 

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