METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
憲兵隊の到着はまだですか!」
「もうすぐそこの通りまで奴らが迫っています、学長!」
チェルノボーグに属する某中高一貫校。
ここはまだ、レユニオンによる目立った攻撃を受けずにいた。
「…軍警察の皆さんはまだ?」
「校門周辺を押さえてくれています…ですがレユニオンの数は増える一方で、いずれは…」
「…」
今日職員室で俯いて頭をかかえる教職員達。
「…学校を脱出します」
「学長…」
「憲兵隊は、もう来ないでしょう。
彼らは区画の拠点防衛にほとんどが駆り出されています。
ここに停まればいずれは蹂躙されます、その前に生徒を1人でも避難させましょう」
「ですが生徒の中にはまだ幼い子達も…」
「軍警察にも協力を要請します、彼らもここまでよく守ってくれました。
この学校と共倒れになる必要はない」
「…分かりました、生徒達にも伝えます」
「先生方も備えられるだけの準備を、不審者対策の装備でもないよりはマシでしょう」
…
「逃げろ、早く!」
「先生、先生!」
「子供には手を出すな!」
「…チェルノボーグ人は皆殺しだ!」
「1人も逃すな!」
「学生を探せ!」
…
……
………
「お姉ちゃん…」
「随分とばらけちまったな。
ここももうダメだ。大人達は、もう戻らない」
「急ぎましょう…他の子達が動けるうちに」
「都市の端を目指すんだ。
アンナ、ガキ共の先導を頼む、アタシが先頭に立つ」
「…みんな、大丈夫かな…」
「…さあな。
けどよ…チェルノボーグは、もうおしまいだと思うぜ」
「用意できたか」
ジョンは通路を移動する最中、脇の道から合流した数人のオペレーターに問いかける。
「はい、言われた通り人数分の奴らの外套を手に入れました」
「よし、では全員これを着ろ」
「敵の戦闘服をですか?」
「軽く羽織るだけでいい、遠目で見て見分けがつかなければ十分に偽装効果はある」
「…変な匂いがするな」
「ドクター、これは?」
「市街地戦で目立たないようにするにはまず背景に溶け込むことだ。
幸い、奴らは共通の装備を身につけている。
ある程度の偽装効果は見込めるだろう」
「…ウルサスの憲兵隊に鉢合わせたら面倒なことになるぞ」
「それは今までの服装でも同じことだ」
「ドーベルマン教官、今はドクターの指示に従いましょう」
「…ああ、わかった」
…
ジョン達は破壊された商店や路地を抜け、レユニオンや憲兵隊に見つかることなく移動していた。
そしてある路地を抜けたあたりで立ち止まる。
「…厄介だな」
そこでは軍警察と憲兵隊の混合部隊が庁舎を前にして陣を敷いていた。
その周囲にはレユニオンの兵士たちが罵声を上げながら迫っている。
「近寄るな感染者共!」
「狂った獣どもめ、ここは一歩も通さんぞ!」
「無駄な足掻きを、チェルノボーグ人め!」
「お前らを粉砕してやる!」
レユニオンの兵士たちも、防御陣を敷かれてはうかつに手を出せないのか、遠巻きからの投石にとどまっていた。
「…こんな時にまだ」
「彼らには彼らの責務があるのだろう…」
「大丈夫ですか、アーミヤさん?」
「…はい、でも彼らもいずれは」
「助けることはできない、わかるなアーミヤ」
ドーベルマンがアーミヤの肩に手をおいて語りかける。
「敵はレユニオンだけじゃない、ウルサス当局に私達の存在を知られたら面倒なことになる」
「わかっています、わかっていますが…」
アーミヤは拳を握り、声を震わせる。
その時だった、アーミヤ達の潜む通路の背後から、濁流のように霧が押し寄せてきた。
そしてその霧は瞬く間に周囲を乳白色の海にしてしまう。
「なんだ、これは…いったいどこから」
「ドクター、あれを!」
オペレーターの1人が庁舎の屋上を指差す。
そこには霧に紛れた人影が数人、影をおろしていた。
「あれは…」
…
「なんだこの霧は…奴らの作戦か?」
「隊長、ぼ、暴徒が…レユニオンが消えました!」
「何!?
…霧に紛れて奇襲するつもりか」
…
「…チェルノボーグ人共に鉄槌を」
庁舎の屋上に、レユニオンの仮面兵士たちとは異なる装備を纏った一団がいた。
各々がまるで霧と同調しているかのように存在が希薄。
そしてその先頭に立つ者はさらに自らを霧の海に溶け込ませていた。
「いけ、奴らを殲滅しろ」
その言葉を皮切りに、一団は次々に屋上から身を投じ始める。
それぞれが獲物を抜き放ちながら、眼下の哀れな獲物達に向かって。
フードを深く被ったリーダー格らしき者はその様をただ見つめていた。
…
…ギャアアァッ!?
奴ら上から…グアアァ!!
隊長、もうダメです隊長!
「…ああ…」
アーミヤは身を震わせながら、それを見つめる。
震える拳をジョンは静かに手にとった。
「見なくていい、君が受け止めなくてもいいことだ」
「ドクター…」
「ドクター、憲兵隊達には悪いが、これは好機だ。
今なら目立たず、向こう側へ渡れる。
…アーミヤ、動けるか?」
「…はい、大丈夫です」
「無理はするな、いざとなったら私が担いでやる」
「そんなこと、させられません…。
私たちは、前に進まないと…」
「…そうだな。
小隊、前進するぞ…離れるなよ」
…
「クラウンスレイヤー、奴らの殲滅が完了しました」
「ああ」
「もうほぼ全域が手中に、勝利が近い」
クラウンスレイヤーと呼ばれたリーダー格のレユニオンの兵士は、もう動かない憲兵隊の姿を見つめた。
「次の要請地点に移動する」
「了解」
兵士がクラウンスレイヤーから離れたその時だった。
クラウンスレイヤーの視界に、霧にまぎれて移動する一団が映る。
その一団は霧に紛れて素早く動き、一瞬にして路地の奥へと消えていった。
「奴らを尾けろ」
「…」
兵士の1人が隣の建物の屋上へと飛び移り、霧の向こうへ消えていく。
…
「目標地点まであと少しです」
前衛オペレーターの1人がジョンのそばまで来て耳打ちする。
「わかった、警戒は怠るな。
もう霧の隠れ蓑は無くなった」
「了解」
「ドクター、もう大丈夫なんですか、歩かれても」
「ああ、もう随分体が軽くなった。
全快とは言えないが、もう君の肩を借りなくても大丈夫だアーミヤ、ありがとう」
「良かった…」
「止まれ!」
先頭に立っていたドーベルマンが手を向けて静止を促す。
「目標地点の広場は目の前だ」
「…人影がない」
「待ち伏せは?」
「いや…」
その時、広場の中央、瓦礫の山から1人の男が現れる。
「ACE!」
ドーベルマンを皮切りに、ジョン達も男のもとへ駆け寄る。
「ドーベルマン、無事なようだな。
思っていたより早い到着だ。
…奴らの服装を装うとは、いい考えじゃないか」
「ああ、これは色々とな。
どうにか合流できた」
「追撃は?」
「今はない、ドクターの指示のおかげだ」
「…ドクタージョン、さすがの手腕です。
あの混乱から1人もメンバーをかけさせずに脱出するとは。
だが、まだ道のりは長い、前と同じように指示をお願いする」
「…ああ」
「…ドクター?」
ACEはジョンの反応を見て怪訝な顔を浮かべる。
「あ、ACEさん、ドクターはその…」
「ドクターは今、記憶が不安定な状態なんだ」
「…負傷が原因か?」
「おそらくは…」
「そうだったのか…そんな状態で指揮を?」
「はい、でも指揮能力は問題ありません、今までのドクターです」
「…それなら、問題はない。
今まで通り、あなたの指揮に従おう。
俺のことは覚えているか?」
「…いや、すまない」
「いや、私に謝る必要はない。
いずれ失ったものは元に戻るだろう。
今は問題の解決を優先しなくては、こちらへ」
「ACE、君の小隊は今どこに?」
ドーベルマンが周囲を見渡してACEに問いかける。
ACEが手を上げると周囲を取り囲む建物からフラッシュライトの短い点滅が見えた。
「ここで君たちを待つ狙撃隊と、先行して安全確保する部隊に分けている。
すでに敵部隊を何隊か通過させたが、君たちが来てくれて良かった。
西端部はすでに安全とは言い難い、避難民が集まりつつある」
「脱出地点にはもう使えないか?」
「それはまだわからない、西部方面が他地区よりはまだマシだという状況は変わらないからな。
今狙撃隊に招集をかける、安全確保に回っている部隊に合流しよう。
ドクター、行動隊E3の指揮権をあなたに委ねます」
「…わかった、では君の分けた隊と合流したのち、付近に展開中の部隊と合流しよう」
「付近の部隊?」
「PRTSに反応があった。
敵集団が大規模な戦闘地帯から離れた場所に集結を始めている。
憲兵隊の戦闘域としては場違いだ。
行動隊E4、おそらく彼らが戦闘中だ」
「PRTSの情報だけでわかるのか?
接触回線を開かなければ、正確なオペレータの位置はわからないだろう」
「当初の展開位置はわかっている。
西端を最終到達地点とするなら、行動隊E4はそこへの経路の安全確保を担っていた、そうだなPRTS」
『はい、当初の作戦内容はそうでした』
「アーミヤ、行動隊E4の隊長はどんな人物だ」
「ニアールさんは誠実で騎士道を重んじる方です」
「なるほど、そんな人物が展開中の地域に避難民が押し寄せればどうなる?
どうやら学校も近い。逃げ出した子供の多くがそこを目指しているだろう」
「…彼女なら保護のために闘います」
「ありえない話じゃないな、彼女はレユニオンに襲われる市民を見逃さない、子供ならなおさらだ」
「…」
アーミヤは下を見て俯く。
唇を固く結びながら。
「お嬢さん…アーミヤ、これは私を救うための作戦だ。
そうだな?」
ジョンはアーミヤの頭にフードの上から手を乗せる。
「は、はい」
「なら、道中見てきた犠牲は、すべて私が背負うべきものだ。
君が背負うべきものじゃない」
「そ、そんな…ドクター!」
「私はどうやら、背負うことに慣れていたようだ、記憶すら定かでない老人の戯言だと笑ってもいい。
だが、どうやら私はこういう状況に慣れていたことは間違い無い。
そんなものを背負うには君はまだ若すぎる、どうしてこんな作戦に従事しているのか、時間があれば小一時間説教してもいい、だが、それまでは…背負うな、私のせいにしていい」
「…ど、クター」
「どうやら私はろくでもない老人だったようだ。
戦火をみても、人の燃える匂いを嗅いでも、心が揺らがない。
だから、私を盾にしてくれ、アーミヤ。
君はまだ若いんだ、若者がそんな顔をするもんじゃない」
ジョンはその場にいる、オペレーター達に目を配る。
「指揮を任せられた以上、権利も責任も私にある。
要望も叱責もすべて私が背負う、ボケた老人だと不安に思うだろう、だがこれだけは約束する。
諸君らの命を預かった以上、誰1人欠くことなく、この地獄から脱出する」
ジョンはアーミヤのフードの端を引っ張り深く被らせる。
「…ではいくか、諸君」
オペレーター達は皆、声を必死に押し殺しながら拳を固く握って頷いた。