METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
ジョンは1人、セクター1の廊下を歩く。
赤色灯の回る無機質な廊下、足元を照らす間接灯は床に散らばる書類を照らしている。
口元には葉巻を咥え、フードの影に隠れた顔から、葉巻の燃焼の火だけが覗く。
ジョンは手首に巻かれたリストデバイスを起動すると、葉巻を右手でつまみ、口元をデバイスに近づけた。
「ヘラグ…と言ったかな、そちらの様子はどうだろうか。
予想が正しければ、彼らはセクター間の関節部を狙うはずだが…」
『…ああ、こちらでも確認した、的中だ』
デバイスの向こうからは落ち着いた口調で返答が返ってくる。
「そうか、では手筈通りにな…あなた1人に任せるのは心苦しいが」
デバイスの向こうからは含み笑いとともにヘラグの足音が聞こえてくる。
『…では、指示のままに、ドクター』
「ああ、頼む」
ジョンはヘラグとの通信が切れたのを確認すると、遊撃隊分班の各リーダーに向けて回線を開く。
「諸君、火事場泥棒は見つかった。
空き巣がまだいないか、確認して回るぞ」
ジョンの真横に、ダクトの蓋を蹴破って飛び降りてくる者がいた。
「…おお、ご苦労だったな」
「ん」
飛び降りてきたのは少女、コードネームで「レッド」と呼ばれる少女は、手にしている起爆装置をジョンに渡す。
ジョンは起爆装置を受け取ると、フードの下から睨み上げてくるレッドに向き直る。
「…すごいな、この狭いダクトを潜ってきたのか」
ジョンが頭に手を伸ばすのを、素早い動作で避けるレッド。
「…」
「君はケルシーの直接の部下だったな、いいのか、彼女を守りにいかなくて」
「…ケルシーの命令、お前の護衛…指示には従う」
ジョンはレッドの羽織るコートから覗いたナイフの一本が、赤く血塗れているのをみた。
「…ここは君のような子供が多すぎる」
「レッド、子供、ない」
「子供だよ…全くな」
ジョンは廊下を再び歩き始め、その後ろをレッドが睨みながらついていく。
その廊下から分岐する通路から、大勢のオペレーター達が合流する。
中から3人、ジョンの隣に並ぶ者達がいた。
「ドクター、命令を。
行動予備隊A1、いつでも動けます」
軽装備、青髪を揺らし、その手には手槍を握る少女。
「…行動予備隊A4、合流しました」
腰に長刀を帯び、ワインレッドの髪をなびかせ、伏し目がちにジョンを見る少女。
「たまの実戦がまさかこんな大事になるとはね…行動予備隊A6、集合したわ」
青くグラデーションの入った髪を整え、つば広の帽子をかぶり直す女性。
「君たちはケルシーの指示で私の直属部隊、ということになっている。
…だが、こうも美女揃いか、やりづらい事この上ないな…今更なんだが」
「あら、ご不満かしら」
行動予備隊A6の隊長、オーキッドが意地の悪い笑みを浮かべながらジョンの顔を覗き込む。
「いや、書面上ではあるが、君たちの能力は確認しているからな…やってみるさ」
「私たちの実力、示して見せます!」
A1隊長、フェンが槍を握り締めながらに答える。
「フェン、あまり気負うなよ。訓練通りにやればいい、いつも通りだ」
「了解です!」
ジョンは自信なさそうに歩くメランサに目をやる。
「メランサ」
「…ひゃ、はい!」
ジョンからの声かけに、メランサは肩を跳ねさせて答える。
「よろしく頼む」
ジョンはそういうとメランサの頭に軽く手をのせた。
「…はい!」
メランサは伏せていた目を開くと、長刀の柄を握りしめた。
真っ直ぐにジョンから向けられる視線に答えると、後ろにいるA4隊の面々がその様子を見て微笑む。
ジョンは再び廊下に向き直る。
「では諸君…」
手首のデバイスを
立ち上げ、表示されたマップの数カ所をタップする。
真っ直ぐに続く、廊下の分岐それぞれに、オペレーター達はそれぞれに分かれて行動を始める。
「かくれんぼだ、存分に追い立ててやろう」
…
セクター2技術管理区画ではロドスの戦闘区域が散在していた。
「待て!逃さんぞ!!」
レユニオンの兵士たちが広い廊下の中を駆けていく、追われているのはロドスの資材管理オペレーター達だった。
避難の遅れた彼らは息を切らしてセーフゾーン、もとい戦闘オペレーター達の元へとひた走る。
「はぁ!はぁ!…くそ、しつこいな!」
「そうだねー!もぐもぐ」
「…いつまで追いかけてくるつもりなんだ!」
「こっちが逃げるのをやめるまででしょー!パクパク」
資材管理オペレーター達は先頭を走る黒髪の少女を睨む。
「…あんたいつまで食ってんだよ!」
「んあ?」
黒髪の少女、クロージャはポップコーンの袋を抱え、口の端に欠片をつけながら振り向く。
「食べこぼしが飛んできてるんですけど!?」
「んあー?めんごめんご!」
「元はと言えばクロージャさんがへそくりの菓子を忘れたとか言って、隔壁の封鎖を遅らせたからこんなことになってるんですよ!」
「まーまーそう怒らないでよ、箱のお菓子、後で分けてあげるからさ!」
「あの箱だったらさっき放り投げましたよ!」
「…まじで言ってんの!?」
クロージャはバック走に切り替えると、資材管理オペレーター達を睨みつける。
「あー!?…誰1人として持ってきてないじゃんか!!」
「お菓子の為に命をかけられるか!!」「ふざけんな!」「この変人が!」
「お前ら弁償させっかんな!絶対だかんな!」
「んな事言ってる場合ですか!!」
クロージャは頬を膨らませて正面に向き直ると、ポップコーンの袋を抱える手とは別の手に巻かれたデバイスを立ち上げ、マップを表示する。
「…次、右に曲がるから」
「右!?遠まわりになりますよ!」
「助かりたかったらついて来な!この薄情ものども!」
クロージャは後ろを走る資材管理オペレーター達を他所目に、角を右に曲がる。
オペレーター達は汚い言葉を発しながらついていく。
レユニオンの兵士たちが続いて角を曲がると、そこには照明の落ちた部屋に続く廊下があった。
「…探せ!」
レユニオン達が部屋に踏み入ろうとしたその時、暗闇の中に赤い光源が現れる。
それは金切の音と、機械音を鳴らしながら、暗い部屋の中をレユニオン達へと近づいていく。
「なんだ…?」
レユニオン兵士達の間に動揺が走る。
各々が手に持つ武器を構え、接近するそれを睨み付ける。
直後、暗闇の部屋に一つの照明が灯る。
それは中央に置かれたテーブルを照らし、そのテーブルにはクロージャが腕を組んで立っていた。
「ふっふっふ…さあいけ!キャッスル3!君の力を見せてやれ!」
『了解です、マスタークロージャ』
再び照明が灯り、照らされた赤い発光の源、極厚のタイヤで支えられているのは角ばった形状の自立思考兵器。
「Castle-3」と銘打たれたそれは、野太い音と勇ましい男性の声を発しながらレユニオン兵士達に突っ込んでいく。
「…う、うわ!!」
『突撃!!』
「おわあ!?」
レユニオン兵士達が武器を振り下ろすより先にキャッスル3は彼らに肉薄し、搭載されたスタンビームを照射する。
電撃に弾かれ、吹き飛ぶレユニオン兵士達。
キャッスル3はその圧倒的な機動力を発揮し、レユニオン兵士達の攻撃を避ける。
少し殴られたぐらいではその駆体がへこむ程度、機械の体をレユニオン兵士達に叩きつけ、擲弾を撃ち出し、制圧していく。
「ギャア!」
「な、なんだこいつ…!?なんだこいつ!!」
『あなたの罪を数えなさい!!おらぁ!!』
「ぐああ!?」
キャッスル3は確実にレユニオンの兵士達を1人、また1人と行動不能にしていく。
「圧倒的じゃないか、ロドスの科学力は…!」
クロージャは腕を組み、得意げにその様子を眺める。
テーブルの上でその様子を顔を青くしながら眺めていた、照明担当の資材管理オペレーター達。
「あの人…やっぱり頭おかしいよ」
『お怪我はありませんか?』
「うわあ!?」
突然横からかけられた機械的な声に、資材管理オペレーター達は腰を抜かす。
『ああ!驚かせてしまいましたか?申し訳ありません…』
「ランセット2…?」
球体状のボディを駆動輪で動かしながら、それは医療用アームを資材管理オペレーター達に伸ばす。
駆体から発せられるのは女性のものであり、球体のボディと相まって女性的なイメージを持たせる。
『いかにも、私は「Lancet-2」、クロージャお姉様の指示でこちらに参りました、お怪我はございませんか?』
「あ、ああ、大丈夫…ありがとう、助かったよ」
オペレーターがランセット2のアームに握手をすると、彼女(?)は照れ臭そうにボディを揺らした。
「あーはっはっは!怯えろ!逃げ惑え!恐怖するがいい!私のこの頭脳を前に、お前達は手と足も出んのだぁ!」
クロージャはテーブルの上に置かれた観葉植物やペン立てをキャッスル3に蹂躙されているレユニオン達に投げつけている。
『クロージャお姉様…あんなに興奮なさって…』
「…魔王だ」
…
「よし、そこだ!やれ!ミーボ達!!」
セクター2、外部企業研究棟でも戦闘が行われていた。
廊下の上を固い音を鳴らしながら犬型の機械兵器達が駆けていく。
それはレユニオン兵士達の剣撃を掻い潜り、1匹は背面に背負ったパイルドライバーで腕を貫き、もう1匹は足にタックルを仕掛け転倒させる。
転倒したレユニオン兵士の腹の上に、機械兵器相応の重量を持つミーボがボディプレスを見舞う。
兵士は鈍い声を発して動かなくなる。
その様子に後続のレユニオン兵士達は後退り、ミーボを操る主人を睨んだ。
「へっへーん、どーだ!ここは通しませんよ!」
「く、くそ!なんだこいつらは…!」
複数のレユニオン兵士を目の前にしても物怖じしない女性技師。
亜麻色の髪を揺らしながら、女性技師はベルトで腰に固定したコンソールを素早く操作する。
いたずらな笑みを浮かべて、ニヤリと笑うと指をレユニオン達に突き出した。
「ミーボ1号、2号、3号!突撃!!」
女性技師の声を合図にミーボ達はレユニオン達に飛びかかっていく。
「メイヤーさん!逃げ遅れた技術班達の避難が完了しました!我々も後方に下がりましょう!」
女性技師、メイヤーの後ろから重装オペレーターが駆けより、撤退を促す。
「いーや!研究棟を荒らされるわけにはいかない!…特に私のラボ!!
こいつらはここで食いとめる!!君たちは早く撤退しなさい!」
「しかし…」
「いいから!」
メイヤーが重装オペレーターに向き直ると、その後ろに1人の女性の姿を見る。
その視線を追った重装オペレーターの前に、銀髪に丸い耳、白と黒を基調にしたジャケット、そして目元を隠したサングラスといった、見るからに旅行者か、身長は低めだが雑誌モデルのようなプロポーション…そんな容姿の女性が立っていた。
「だ、ダメですよ、民間人は早く避難を!」
重装オペレーターが女性の前に立つ。
目元にかかっていたサングラスを銀髪にひっかけ、女性はにこりと笑うと首に下がったネームプレートを見せた。
「この度、正式にロドスの戦闘オペレーターとして配属されました、エフイーターです、よろしくね!」
重装オペレーターはネームプレートを確認すると、敬礼しエフイーターと名乗る女性に道を開けた。
「…あらら!こりゃまたどうしたの!?」
メイヤーは驚きに目を丸くしながらも手元の操作を狂わせる事なく、女性に問いかける。
「あっははー、なんかあたし達にも救援要請?的なものがあってさ、一応ドクターさん?って人の指示で動いてるんだけど、こっちの方が騒がしかったから勝手に来ちゃった。メイヤー、大丈夫ー?」
「こっちはもうバリバリやってるよー!何、助けに来てくれたの?」
「えっへへー、ほんとに偶然なんだけど…まあそういうことにしとくかー」
エフイーターはサングラスをかけ直すと背後に背負っていたバックパックを…。
「よーい…しょっと!」
否、それは巨大な手甲。
金属質な黒い輝きを放つそれは、エフイーターの背面に背負われた機器にコードで繋がれている。
それを手にはめると背面の機械が甲高い音を発し始め、蒸気のようなものを噴出する。
「ふーい…さてと」
エフイーターはおよそ女性の手には余ることこの上なさそうなそれを、軽々と持ち上げると肩を回し、手甲のマニュピレーターを閉じたり開いたり、握ったり波のように動かしたり、まるで本物の手の調子を確かめるように動かし始めた。
ミーボに動きを阻まれていたレユニオン兵士達も、その様子にさらに後退りを始める。
「よーしおっけ…ボッコボコにしてやる」
「そこの重装オペレーターくーん、鬼が金棒持ってやって来たから!もう本当に大丈夫だよ!みんなを誘導してあげて!」
そういうメイヤーもまた、後方に配置されていたコンテナから、さらにミーボを展開する。
コンテナカーゴから解き放たれたミーボ達は犬のように耳をかいたり、身震いをすると、レユニオン兵士達を睨みつけ、研ぎ澄まされたパイルドライバーを駆動させる。
「は、はっ!」
重装オペレーターは慌てて廊下を走り出していく。
まるで「巻き込まれるのはごめんだ」とばかりに。
「あっはー!ロボットと共闘ってのはフィルムでも経験したことないなー!」
「そーぉ?…じゃあかっこ悪いとこは見せらんないなあ…!」
メイヤーは素早くコンソールを操作し、展開したミーボをエフイーターの周りに配置する。
「…うふふ、たまらんねー、それじゃあ…」
エフイーターは手甲を流れるように動かし、空気に固定されたようにビタリと構える。
「いくよー…!…よーい…アクション!!」
エフイーターとミーボ達は突風のような勢いでレユニオン達に突っ込んでいく。
ロドスの船内で繰り広げられる戦闘は、ジョン達遊撃隊の行動開始とともに、予想できない局面へと進みつつあった。