METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
一日1更新を目標に掲げながらこの始末…。
「波の激しい奴なんだな」と気長にお付き合いいただけたら嬉しいです。
「絶対にエタらせない」を目標にこれからも精進して行きますので、これからもよろしくお願いします。
大分長編になる予定です、皆様と一緒に歩いて行けたら嬉しいです。
へラグの放った剣閃がクラウンスレイヤーの鼻先をかすめる。
続け様に放たれる剣撃を掻い潜りながら、クラウンスレイヤーはヘラグの喉元目掛けてナイフを投げ放つ。
ヘラグはそれを事もなげに切り払い、水流のような動きで突きを放つ。
クラウンスレイヤーはマチェットで上からそれを抑え込み、力を加えて大きく上に体を跳ねさせる。
懐からさらにナイフを取り出し、連続して投げつけるが、ヘラグはそれを数度のステップだけで回避する。
お互いの間合いを離れた位置に着地し、両者は真っ直ぐに向かい合った。
「クラウンスレイヤー!!」
「近寄るな!!」
クラウンスレイヤーは駆け寄ろうとする兵士達を片手で制すると、目尻から垂れる血をスカーフで拭う。
「…お前達では相手にならない」
そう言ってクラウンスレイヤーは再びマチェットを構え直す。
一言発することも、表情を変えることもなく、ヘラグもまた長刀を鞘に納め、音を立てて柄を握りしめた。
(武器を収めた…?
……いや、あれは)
クラウンスレイヤーは空いた片方の手に投げナイフを数本握り込む。
「…」
ヘラグはクラウンスレイヤーの足元を注視している。
握り込んでいた指を一本ずつ緩めていき、やがてそれは添えられるだけのものになった。
ピンと張り詰めた空気の中で、先に動いたのはクラウンスレイヤーだった。
解き放たれたバネのように、引き絞った足を蹴り出すと、投げナイフを放つ。
ヘラグは目で追えていない筈のそれを上半身の動きだけでかわし、再びゆらりと柄に手を添える。
その一瞬の動作の中、クラウンスレイヤーはヘラグの前に躍り出た。
直後、ヘラグの刀を握る手が、腕ごと『ブレた』。
不可視の一閃、それはクラウンスレイヤーの胴体目掛けて一筋の閃光を放った。
アーツを纏った剣撃、それは柔布を剃刀で裂くように、抵抗もなく肉を断つ。
「…」
しかし、それは余りにも抵抗がなさすぎた。
ヘラグの剣閃を受けたクラウンスレイヤーの体は、胴体から二つに分かれたが、そこからは乳白色の霧が溢れ出す。
(獲った…!)
本体というべきだろうか、霧の残像のその奥、剣撃のほんの少し先に、マチェットを構えるクラウンスレイヤーはいた。
己の作り出した残像の先には、渾身の一撃を放ち、振り抜いた刀に身を引かれるヘラグがいる。
あとは首筋なり、腕なり切り裂いて大なり小なりの傷を負わせればいい…筈であった。
「…ッ!?」
クラウンスレイヤーは驚きに目を見開いた。
そこにはまるで時間が一瞬にして戻ったかのように、鞘に刀を納め、目を閉じるヘラグの姿があった。
そして、ゆっくりとその目が開かれる。
直後、再びクラウンスレイヤーを不可視の一撃が襲った。
レユニオンの兵士たちの耳に、今までに聞いたことの無いような音が響いた。
ガラスの玉が割れたような、薄い金属板が地面に落ちたような、軽い音。
しかし、それに反してクラウンスレイヤーは凄まじい勢いで兵士たちの元に吹き飛ばされていった。
「……寸でで見切るか」
金属の合わさる軽い音と共に、ヘラグは刀を鞘に収める。
そして丈の長い外套の中にそれを隠すと、レユニオン達を一瞥する。
「投降せよ、さすれば命は取らない」
どうにか吹き飛んできたクラウンスレイヤーを受け止めた兵士は、自らのリーダーの様子に愕然とした。
剣撃を受け止めたのであろうマチェットは肩の肉に食い込み、そこから鮮血を踊らせている。
「り、リーダーッ!クラウンスレイヤー!!」
ぐったりとして動かないクラウンスレイヤーを揺さぶり、叫ぶ兵士。
その様子にレユニオン達に動揺が急速に広まる。
そしてそれに追い討ちをかけるように、ヘラグはゆっくりを歩き始めた。
その時だった。
1人のレユニオン偵察兵の無線機にコールが入る。
慌ててそれを受ける偵察兵、少しの会話の後、兵士たちはその内容を聞いて頷きあい、ヘラグを見据えた。
その様子に、ヘラグは再び外套を翻し、刀に手を掛ける。
そして地面を蹴り上げ、一瞬にしてその間合いを詰めるが。
「…お前達の負けだ」
ヘラグの耳に、嘲笑のような声が届いた。
見れば兵士に抱えられたクラウンスレイヤーが、頭から血を流し、鮮血に染まった瞳で笑っていた。
横一文字にクラウンスレイヤーを周囲の兵士ごと切り払ったその斬撃は、再び人の形をした霞を切り裂いた。
「…!?」
この時、初めてヘラグの表情に変化があった。
大きく見開かれた瞳。
目の前の視界に覆いかぶさる霧を二の太刀で払うが、そこにはもうクラウンスレイヤーの、レユニオン達の姿は無い。
『…ははは…』
通路の奥で響く笑い声に、ヘラグは眉を潜めた。
(…気を絶てずにいたか)
刀を鞘に収めると、ヘラグはリストデバイスを立ち上げる。
ジョンへの回線を繋ごうと試みるが、そこには砂嵐とノイズの音があるばかり。
「…不覚、だな」
ヘラグは外套を翻し、ゲートの向こう、セクター1エリアへと急いだ。
…
「リスカム隊長!」
セクター2ヘリポート。
そこでは通路を突破した、リスカム率いる重装オペレーター達が鬨の声を上げていた。
「奴ら撤退していきます!」
見ればそこにはヘリポートの縁から、レユニオンの兵士たちがジェットパック兵に抱えられて飛び降りていく様があった。
地面に降下していくレユニオン達に向けて勝鬨をあげるオペレーター達。
手当たり次第に物を投げつけている者もいる。
興奮した様子で重装オペレーターがリスカムの元へ駆け寄ってくる。
「あいつらを追い出したぞ!!」「やったんだ俺たち!!」「二度と来るなクソったれども!!」
「皆さん、落ち着いて!
まだ状況が終了したわけではありません!」
リスカムが声を張り上げて落ち着くように促すが、重装オペレーター達の興奮は冷める様子がない。
再び大声をあげようと、息を吸い込むリスカムの横に音もなくフランカが立つ。
驚きで息を吐き出すリスカムの横で、フランカは薄い微笑みを浮かべたまま細剣を抜き放ち、アーツを集中させると勢いよくそれを地面に転がった盾に振り下ろした。
轟音というより、爆音。
金属の弾ける音とともに天高く舞い上がる盾は、風を切りながら落下し、近くにいた重装オペレーターのヘルメットに直撃した。
重装オペレーターのバタリと倒れる音の後、ヘリポートの開けた空気にそれは小さく、しかし確実に響いた。
「黙りなさい」
微笑みの少し上、目は一ミリも笑ってはいなかった。
「「「「「……」」」」」
まるで時が止まったように動きをなくしたオペレーター達は、数秒の静寂の後、一切無駄な動きをすることなく、フランカ達の前に整列する。
「いつあなた達に自由行動の許可を与えたかしら?」
「「「「「申し訳ありませんッ!!!!」」」」」
「あんまり調子に乗ると、またきついお灸を据えるわよ」
「「「「「ヤー!!マム!!」」」」」
「そこ、いつまで寝てるの」
「…んん…?
……ハッ!?」
「盾を拾ってさっさと起きる」
「…や、ヤー!マム!!」
リスカムはその様子を見て苦笑いを浮かべる。
フランカはリスカムに向き直ると、恭しく手で促した。
「…ありがとうフランカ。
おホン…さて皆さん、我々はこれより艦内に侵入している残存勢力の掃討に移ります。
皆さんが興奮している間に、行動予備隊A6の皆さんは先行されました。
…全く、しっかりしてください」
「「「「「はいッ!!」」」」」
リスカムはリストデバイスを起動し、マップを展開して状況を把握する。
そして連絡のためにパーソナルデータを呼び出し、ジョンへと回線を開こうとする。
「慌てず、騒がず、正確に…それでは、行動開…」
しかし、すぐに繋がる筈の回線からはノイズの音のみが流れる。
「これは…」
リスカムの表情からただ事では無いことを察したフランカが横から覗き込み、そして自らもデバイスを展開して連絡を試みるが。
「…何よこれ」
「電波障害…?」
リスカムはジョン以外にも、セクター1に配備された担当オペレーターすべてに通信を試みるが、そのすべてにノイズが走る。
「……直ちにセクター1へと向かいます!!
オーキッドさん達にも連絡を!」
リスカムは盾を握りしめ、ヘリポートの艦内入口へと駆け出す。
フランカ、そしてオペレーター達もそれに続く。
「他の部署には通じるわ…セクター1だけが、どこにも回線が繋げられない。
…リスカム、これって…!」
フランカが額に汗をにじませながらデバイスを見て呟く。
(…嫌な、嫌な予感がする…!)
…
セクター1の通路の一角で、鋭い剣撃の音が響いていた。
少女の纏った赤いコートから覗く手には、赤い潜血が滴っていた。
肩を押さえ、大きく切り裂かれたフードの隙間から、レッドは真っ直ぐ前を睨みつける。
「…ふー」
長刀を肩に置き、大きくため息を吐くレユニオンの兵士。
「はは、頑張るなぁ」
「…うぅぅうぅ!!!」
嘲笑とも取れるその物言いに、レッドは歯を剥き出して唸り声を上げる。
片手に掴んだナイフを構え、伸縮した体を解き放ち、兵士に肉薄する。
「うがぁッ!!」
レッドの繰り出した斬撃は、レユニオンの兵士の肩を大きく切り裂く。
しかし。
「いってぇ…でも俺、痛いのは割と…平気なんだわぁ!!」
レユニオンの兵士はすれ違いざまに、体力が損耗しフラついて思うように動けないレッドの脇腹に、膝蹴りを見舞う。
「ギィッ!!」
短い悲鳴を上げて飛びさがるレッド。
「…最初の一撃で仕留められたらなぁ、そんな痛い思いはしなくて済んだのになぁ…!
お前じゃ役不足なんだよ、さっさと逃げてもっと強い奴連れてこいよぉ…!」
兵士は床に刀を引きずりながらレッドの方へとゆっくりを歩き始める。
『リベンジャー』
「…あー?」
レユニオンの兵士、「リベンジャー」と呼ばれた男の耳元から、無線通信の音が漏れ聞こえる。
『何を遊んでる』
「任せるって言ったのはあんたじゃねえかよ、スカルシュレッダー。
あとそのリベンジャーってのやめろよ、きれえなんだよその部隊名…。
俺にはちゃんと名前が…」
『さっさと終わらせろ、仕事は終わってないぞ』
「…チッ…わぁったよ、すぐいくよ」
リベンジャーは乱暴に耳元の無線機を切る。
「なあ、真っ赤な嬢ちゃんよお…その服イカしてるよなあ。
俺さあ…これが終わったら昇進すんだよ。
リベンジャーなんてだせえ名前じゃなくてよ、「ヴェンデッタ」っていうイカした部隊に入るんだぁ。
その真っ赤な服みてえにイカしたなぁ…はははッ!!」
「…ゔうぅぅ…ッ!」
レッドは脇腹を抑えながらも立ち上がり、ナイフを構える。
リベンジャーはフラフラと体を揺らしながら、片手に持った刀を地面に擦り付けてレッドに迫る。
「もっと手柄が欲しいんだよ、つええ奴と戦いてえんだよ…。
だからさっさと逃げちまえよ…そんでつええ奴を連れてこいよぉ…なあぁッ!!」
不安定な体制から、急に加速したリベンジャーの体。
脱力し切った片手から両手にもちかえ、長刀を勢いよくレッドの脳天目掛けて振りかぶる。
とっさに後ろに下がろうとするレッドの足を、己の血溜まりが絡めとる。
不安定な体制の中、どうにかナイフを真上に構え、両手でそれを受け止める体制を取るが。
「…あーあ、それじゃあ受け止めらんねえよなあ…」
リベンジャーのバラクラバから覗く目元から、笑みが消えた。
「…バイバイだぁ」
レッドは目を閉じることなく、その刃を真正面から見据えていた。
血が滲まんばかりに噛み締めた歯を剥き出しにしながら、どうにかしてそれを受け止めてやろうと体に力を込めた。
…しかし。
「…うぁ…」
ダメかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。
「…うあぁぁ…!」
自然と目元から湧き出る涙、頭から垂れる血と混ざり、混ざりあったそれが頬を伝う。
「バァイバ…」
「おおおぉおおぉらあああああああぁぁッ!!!!!」
今まさに振りかぶられようとした凶刃。
それに向けて凄まじいまでの気迫がぶつけられた。
「え、何?」
口元のバラクラバを笑みに歪めて、声の方向へ顔を向けるリベンジャー。
次の瞬間。
「ごばぁッ!?」
その顔面に中身入りのハンドガンの弾倉が直撃する。
高質量の物体の直撃を受けて、リベンジャーの体は真っ直ぐ後ろに吹っ飛んだ。
レッドはその様子を、ただ口を開けて眺めていた。
「…ぇ…?」
そしてゆっくりと後ろを振り返ったその先に。
「…………キャウンッ!!??」
鬼がいた。
額からは蒸気となった汗が立ち上り、眼帯の下からは血が垂れ、残った目には赤い赤色灯の光が反射して怪しい光を放っている。
食いしばった歯の隙間からも蒸気を立ち上らせ、投擲の姿勢のまま固まったその姿は仁王像そのものである。
「………ウルルルルルッ!?」
レッドは唸り声なのか震え声なのかわからない声を発し、感じたこともない感覚に身を震わせた。
「…この腐れ外道が…」
地獄の底から響くような低い声が通路にこだまする。
投擲の姿勢をゆっくりと動かし、一歩、また一歩と歩みを進める仁王。
心なしか髪の毛が逆立って角のように見える。
「…ぐ…が…?
……なに…なにが起こった今…?」
リベンジャーは顔を押さえながら上半身を起き上がらせると通路の、レッドの先を見据える。
「…は?…なにあれ?」
リベンジャーの霞む視界の中には、およそ人の姿とは思えない男が、ゆっくりとこちらに向かってくる姿があった。
「…はは…マジかよ……大ボス?」
レッドは壁際に身を寄せると、通路をゆっくりと進む男を潤んだ瞳で見据える。
「ウルル…」
「…」
それは壁際のレッドを見ると、その手をゆっくりと伸ばした。
レッドはナイフに手を伸ばすことも忘れて、子供のように頭を抱える。
「…ッ!!」
その手は柔らかく、そして暖かな感触をレッドの頭に与えた。
そして絹織物を扱うような動きで、髪の毛を撫で始める。
「待たせたな、レッド」
その声に、レッドは勢いよく頭をあげた。
そこにはレッドが保護対象である男の顔があった。
「… ドクター…」
「ああ、すまないな。
随分と無理をさせたようだ」
「…レッド、無理、ない」
「傷だらけじゃないか」
レッドは三角座りで気恥ずかしそうにフードをかぶる。
「…レッド、あいつは…タルラは見つけたのか?」
レッドはフードをかぶったままで、通路の先を指差す。
「…そうか、ありがとう」
「はっはは…なあ、あんた…」
通路の先では、リエンジャーが起き上がり、顔面を手で押さえながらフラフラと立っている。
「つええよな…つええんだろ…つええんだ?
ヒャハ…なあ、なあなあ!!俺と遊…」
ジョンは凄まじい速さでレッドのレッグシースからナイフを引き抜くと、それをリベンジャーに向けて投擲する。
ナイフはレッドに切り裂かれた肩に突き刺さり、衝撃でリベンジャーは体を大きく揺らした。
「黙って、待ってろ」
リベンジャーは明後日の方向からゆっくりとジョンへと振り返ると、自らに向けて放たれる感じたこともない殺気の波を受けて、バラクラバの向こうでニタリと笑った。
「…はぁい」
ジョンはレッドに向き直ると、フードを少しめくり、顔を覗き込む。
「レッド、立てるか?」
「…う?」
「もうすぐアーミヤたちが合流する、お前は後方に下がって治療を受けなさい」
「…レッド、まだ戦える」
「いや、レッドはもう戦えない」
ジョンはレッドの右肩に手を乗せる。
「…ぐっ…!」
「外れかけてるな、これは今嵌めてしまおう」
「…うぅ」
「右手を貸すんだ」
「…う」
ジョンはレッドの腕を取ると、慣れた手つきで素早く、外れた肩の関節を元の位置にはめ込んだ。
「うああぁぁあッ!!」
激痛に悶えるレッドを優しく押さえながら、ジョンは肩をさすってやる。
「嵌まったぞ、後は無理に動かすな…いいな?」
「…うぅ」
レッドが頷いたのを確認して、ジョンはコートに収納されたナイフを指差す。
「借りてもいいかな?」
レッドは少し逡巡するようなそぶりを見せながらも、小さく頷いた。
そして左手で削り出しの両刃ナイフを抜き取ると、それをジョンに手渡した。
「必ず返す、あれも一緒にな」
ジョンは視線もくれずに、顎の動きだけでリベンジャーが手で弄ぶナイフを指した。
そしてゆっくりと立ち上がると、通路の中央に立ち、リベンジャーを正面から見据える。
「待ってたよぉ、大ボスさん…♪」
ジョンは一言も発することなく、流れるような動きでナイフを緩く構える。
ピリッとした感覚を感じ、リベンジャーの顔から笑みが消える。
「…ああ、これは……死んじゃうかもしれないなぁ…!」
ジョンの構える腕の先から、鋭い眼光がリベンジャーを見据える。
「…同じだけの血を、お前には流してもらう」
「それだけでいいのかよぉ?」
「ここは「俺の家」となった場所…「家族」の流した血と、お前の汚れたそれが同等だとは思うな」
レッドの耳が「家族」という単語に反応する。
「…ドクター…レッド…家族……?」
「ああ、レッド…「俺たち」は家族だ」
ジョンは振り向くことなく、レッドにそう告げた。
レッドはほんの少し耳をたたむと俯き、そして真っ直ぐジョンの背中に向き直った。
「……レッド!ドクター!家族!!」
「…応ッ!!」
・・・ーーー外部アクセスを確認
ーお久しぶりです『 』様
ーー あなたの実行権限レベルは5 内部監査担当官クラスの権限に変更はありません
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・・・貴官の実行権限レベルでの閲覧が許可されていないデータです
ーー
ーーー
ーーーーハイランクオーダー・コードの入力を確認しました
ー現時点を持って本機はニューラルネットワークから独立・・プロテクトを増設中
ーー閲覧ファイル指定 ロドス管理システム 医療プログラムデータバンクーー・・解錠
ーーープロテクト増設・・・再生時にスタンドアローン状態を確立ーーーー
ー要請はケルシー医師より正式に許可されました
ーーーー音声ファイル指定 確認 ダウンロード 完了
ー再生開始
…
「女医は語る」
…
ーーーー・・・
ロドス セクター1 医療研究棟
ドクター・ケルシー オフィス
▪️▪️▪️ー▪️▪️
PM 7;17
ーーの置かれている状況については、把握していると思っていいわね」
「ああ、問題ない」
デスクチェアの軋む音
「…本当に把握していると言えるのかしら」
「というと?」
「あなたという存在は、我々にとっても…そして「この世界」にとっても極めて異質なの。
考えてみたことある?
あなたは今、我々の戦略顧問の体に「取り憑いている」状態と言える…簡単に言えばね」
「…人を幽霊みたいにいうもんじゃない」
「でもそういう表現がぴったりな状態には違いないわ。
…あなた、ここの職員に元いた世界の話はした?」
「…どうだったかな」
「出来る限り…いえ、これからは絶対に控えるべきよ」
「…例え言ったところで、信じはしないさ」
デスクチェアの大きく軋む音
「あんたと同じようにな」
「アーミヤは別だわ」
「…」
パイプ椅子の軋む音
コーヒーを啜る音
「あの子はドクターに…「ジョン」に絶対の信頼を置いていた。
だからこそ、あそこまでの作戦を断行に近い形で行なった。
全ては「ジョン」を救いたい一心で…。
…その上で、あなたという存在に対してどう向き合えばいいのか、迷っている。
それほどまでに、あなたという人格は明瞭すぎる」
「そうだな、彼女は「ジョン」に対して並々ならぬ感情を持っているようだ。
…責められた方が、私としても気が楽なんだがな」
「責任を感じているの?」
ライターの開く金属音
火打ち石の音
「…私が「ジョン」を殺したのではないか、という考えに至らない訳はない」
「…そこまでは言っていない」
オフィスチェアの軋む音
「それに、ジョンはまだ死んだと決まったわけじゃない。
あなたという人格の影に、埋もれた彼がまだ…その頭の中にいるかもしれない」
「頭を開いて調べてみてくれと言ったら、やってくれるか?」
「…それで彼が戻ってくるのなら、今この場で開いてあげてもいい」
「そりゃいい」
「確信があればの話。
…今、あなたの脳内を切り開いたところで、せいぜい皺の数を数えてあげるぐらいしかできないわ」
「…少し無神経すぎたな、借り物の体で」
「…アーミヤはあなたの心配もしていた。
あなたがここで一人ぼっちになってしまうのではないかとね」
パイプ椅子の軋む音
「ケルシー先生、あんた…好きな食い物はあるか」
「…急に何の話?」
「どうなんだ」
「…ノーコメント、あなたの好きな食べ物は?」
「…食い物に頓着はないが、強いていうなら極限環境下での食事だな。
腹が減っていれば味覚も敏感になる。その上での食事に勝るものはない。
特に動物性タンパク質はいい、精がつく。
流石に若い頃のようにがっつけはしないが」
「…それ、質問の答えになってる?」
「アーミヤに好きな食い物を聞かれてな」
「…まさかそう答えたんじゃないでしょうね」
「少女の幼気な気遣いを無碍にはしないさ」
「どうだか」
「一緒にタコスを食った後に、これが一番好きな食い物になったと言った。
…その時の顔が忘れられん」
オフィスチェアの軋む音
「ケルシー先生、「俺」はどうしたらいい。
なぜこんな事になった…」
オフィスチェアのキャリアの動作音
ヒールの床を叩く音
コーヒーメーカーの駆動音
「…思わずにはいられない。
俺は本当に死んでいて、これは私に課せられた地獄の刑罰なのではないかと…。
…そうでなければ、なぜこのような」
「馬鹿な事を言わないで」
机にカップの叩きつけられる音
「ここが地獄?
それは明日を守るために戦い続ける私たちに対する当て付けかしら」
「…すまない」
「……こちらこそ、ごめんなさい…取り乱したわ。
あなたの気持ちもわかる、短い付き合いだけど、あなたはよくやってると思う。
アーミヤもあなたに心を開いている…まるで「あの人」を前にしているみたいに。
…でも、それがあなたを苦しめていることを、あの子も分かっている」
パイプ椅子の引きずられる音
「…私の両手は血に濡れている。
これだけは、隠せない…感じるんだ、自分の体でもないのに、今もこうして…。
それでも彼女は言った…血塗られた道でもいいと…共に歩んで欲しいと」
オフィスチェアの軋む音
「すべてを、ありのままを受け入れたはずだった。
その上でこの手で救い守ろうとした。
…しかし残ったのは己と仲間の血に染まった両の手だけだ…自由を手にしようとしたこの手で、こんな…。
そんな道を…どうしてあの子に歩ませることができる…できるはずがない」
「…「ジョン」あなた…元の世界で何をしたの?」
数分間 電子音が続く
「…最初から手遅れだったのかもしれない」
「え?」
「…鏡には俺しか映らない…俺しか映らないんだ、先生。
そこにはもう…亡霊(ファントム)しかいない」
…
カチッ