METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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1ヶ月以上、お待たせして申し訳ありません…!
これから何度もお待たせすることはあると思いますが、今回ほどお待たせすることはないと思います。
浮き沈みの激しい作者ですので、気長にお待ちいただければと思います…!
どうか、よろしくお願いいたします!


再びの、悪夢②

野生のそれに似た感覚が、リベンジャーの脳に迸っていた。

全力を、最初から全てをぶつけなくては、この男には勝てない。

リベンジャーは右手に持った得物を深く懐に抱え込むと、関節を軋ませながら筋肉を絞り始める。

 

「家族って…おいおい」

 

パラコードを巻き付けた長刀の柄を、ゆるい力で握る。

ジョンはナイフを逆手に構えた姿勢のまま動かない。

リーチも、威圧感も、振り下ろした時の威力も1目見ればわかる、圧倒的な武装の差。

それでも、リベンジャーは幾通りも頭で思い浮かべるシュミレーションの中に、余裕というものを感じることができない事に、これまで感じたことのない高揚感を覚えていた。

 

「…ご都合主義っていうの?

あんたもさあ…いるなら最初から出張って来いっつうの…なあ」

 

「…」

 

ジョンは問いかけに一言も返すことなく、小さく頭を傾げて見せた。

 

次の瞬間だった。

リベンジャーはアーツを集中させ、赤く発光する長刀を勢いよく懐から抜き放つ。

この狭い通路で横に切り払う、取り敢えずは牽制だ。

それが最善だと考えた。

避けたらそれはそれでいい、楽しみが長く続けば、それはそれでいい。

赤い残光を纏うそれは、リベンジャーの腰から抜き放たれ、通路の幅全てを通り過ぎる軌道で、ジョンの体を腰から両断する…はずだった。

薄く開けた瞼から覗く視界で、リベンジャーはジョンの体が一瞬消えたのを微かに捉えた。

 

(おいおいおい…!!マジかよ…!)

 

脳を麻薬が、興奮物質が迸るのを感じる。

時間がスローになり、下から影が姿を覗かせる。

次の瞬間、目の前の視界をジョンの顔面が覆い尽くした。

瞬きの瞬間、不可視の体さばき。

振り抜こうとするリベンジャーの腕を、ジョンが割れ物を扱うような丁寧な動きで捉える。

最速の一撃を放つべく、脱力し緩めていた手を、今度は打って変わって猛禽類が獲物を拐うかのような動きで解かれる。

自らの手の内にあった得物がそこから離れていくのを、そしてジョンの握る両刃のナイフが自分の手首を捉え、体全体が引き込まれるのを感じる。

 

そこから先は、まるで早送りのビデオを見ているようだった。

パラコードの擦れる「キュルッ」という音がしたと同時に、目の前のジョンが得物と共に一回転した。

 

本当に軽い衝撃だった。

研ぐことをサボって、あれだけ刃をこぼれさせた刀身が、こんなにもたやすく自分の胸を貫くなんて。

脊髄を刀身が掠めるのを感じた。

痛みはない、ただ熱だけが胸から体全体に広がっていく。

 

ジョンはリベンジャーの胸元に、腕と腰の間から後ろ向きで突き刺したそれを、ゆっくりと手離して距離をとる。

リベンジャーは胸元に突き立ったそれを、信じられないという表情で、歓喜の笑みを浮かべながら眺めている。

ジョンは口を半開きにしたレッドのもとへ歩く途中で立ち止まり、ちらりとリベンジャーを見る。

 

「……最高だ……あんなの見たことねえ…」

 

リベンジャーはゆっくりと後退りながら、バラクラバを引き剥がし、ジョンに歪な笑みを見せた。

 

「………あんた…何者…」

 

そしてぐるりと白目を向くと、後ろに向かって勢いよく倒れた。

背中から突き出た刀身が地面で押され、血液の噴出と共に胸元から勢いよく刀身が飛び出す。

 

ジョンはリベンジャーの痙攣がおさまるのを見届け、起き上がる様子がないのを確認すると、再びレッドのもとへと歩き出した。

 

「…あ…う…」

 

レッドは口を動かしながら、ジョンを指差している。

ジョンはレッドの目の前で跪くと、ナイフの刀身をつまみ、持ち手の方を差し出した。

 

「ありがとう、これは返すぞ」

 

「あ、あれ!」

 

レッドはナイフを勢いよく受け取ると、ジョンに向かって詰め寄った。

ジョンはその勢いに地面に尻餅をつく。

 

「お、おい…!どうしたんだ?」

 

「あれ!なんだ、どうやった!?」

 

「…なんだと言われても…アイタタ…」

 

ジョンは腰をさすりながら起き上がる。

レッドはジョンのローブの裾を掴みながら起き上がると、そのままジョンに抱きつく形でよじ登っていく。

 

「どこで覚えたんだ!?」

 

そして首の後ろに手を回し、ぶら下がる形になると鼻の先が触れんばかりに顔を近づける。

 

「ちょ…落ち着けレッド!重いし近い…」

 

「教えろ!お前も…!」

 

ジョンはレッドの頭を掴むと、前髪をかき揚げ、その瞳を見つめる。

 

「…レッド、お前どうしたんだ」

 

ジョンのその一言で、レッドは表情をハッとさせると、ジョンの手を振り払い、ジョンの体から飛び降りてフードを深くかぶる。

 

「…ふぅ…それだけ元気なら、怪我も心配なさそうだな」

 

ジョンはそう言ってローブの襟を正して、レッドの頭に手を乗せる。

 

「…」

 

「血相変えてどうしたんだ」

 

レッドはその手を払うことなく俯くと、ポツリと一言こぼした。

 

「…体が痛い」

 

「おいおい、大丈夫か」

 

ジョンは慌ててレッドの肩を掴み、その体を確認する。

 

「…平気だ」

 

レッドは気恥ずかしそうに頬を染めながらも、肩を掴むジョンに身を任せている。

その時、通路の奥から数人のオペレーター達が息を切らせて走ってきた。

 

「ドクター!」

 

最初に声を上げたのはジェシカだった。

手を振りながら向かってくる彼女に、ジョンは片手を上げて答える。

 

「おお、ちょうどいいところにきたな」

 

ジョンがあっけらかんとした表情を向けると、ジェシカの後ろにいたオペレーター達が険しい表情で取り囲む。

 

「ご無事でしたか!」「探しましたよ…!」「足はえぇんだもの…!」「勝手に先行せんでください!」

 

集まったオペレーター達は口々に心配の声をぶつける。

ジョンは「悪かった」と言いながら、詰め寄るオペレーター達を両手で宥める。

 

「ど、ドクター!」

 

オペレーター達に人壁の向こうで、追い越され出遅れたジェシカがジャンプしながら呼びかけている。

 

「わ、私の弾!マガジン!返してくださいよ…ッ!」

 

「あ!」

 

ジョンは慌ててオペレーター達の壁をかき分け、倒れ伏すリベンジャーの傍まで走っていくと、少し傷ついたマガジンを手に取り、再びジェシカたちの前に戻ってくる。

 

「すまんすまん」

 

「急に持ってっちゃうからびっくりしましたよ…それ高いんですから…」

 

「銃を貸してくれれば済んだ話だったんだぞ?」

 

「だって…ドクターの適正とかまだ把握してませんし…。

…まあ、別にいいんですけど…うわあ、ちみどろ…。

…あの、どうしたんですか?」

 

ジェシカは腰のホルスターから銃を抜くと、それをジョンの後ろに倒れるものに向けながら、鋭い視線をジョンに向ける。

 

「すまん、ちゃんと拭いて返す…つい先ほど襲われてな」

 

ジョンはローブの布地でマガジンについた血糊を拭き取り始める。

 

「ああ、ローブで拭かなくても…やっつけたんですか?」

 

「そのはずだ」

 

ジョンは倒れるリベンジャーに振り返り、薄く開かれた目を向けた。

 

「レユニオンにも、ああいうのはいるんだな」

 

その言葉には軽蔑がはっきりと現れていた。

 

「…はわあ…やっぱりドクターさんって強いんですねえ」

 

ジェシカは脱力しきった声でそう呟くとホルスターに銃を戻した。

 

「ってうわあ!レッドさん!…大丈夫ですか…!」

 

ジェシカはジョンの傍に立つ傷だらけのレッドを見て悲鳴を上げる。

そしてあわあわと手を振り回しながら、レッドの体を確認し始める。

 

「ジェシカ、レッドを頼む。

医務室に連れて行ってやってくれ、お前とお前は護衛につけ。

あとの者は私と来い」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

前衛オペレーター、重装オペレーター、先鋒オペレーターで構成された小隊が、ジェシカ達の脇を抜けてジョンの周囲に整列する。

 

「途中で別の隊にあったら伝えてくれ、私たちはセクター1のシェルタールームに向かったと」

 

少し朦朧とした表情していたレッドが、その言葉を聞いて慌ててジョンの元へ詰め寄る。

 

「ど、ドクター…!レッドも…!」

 

心配そうにしているジェシカの手を振り払いながら、レッドが足を引きずる。

その肩をジョンは力強く掴む。

レッドが痛みで体を跳ねさせると、今度は柔らかい動作で頭に手を置く。

 

「休むんだ」

 

「…」

 

レッドはその一言で耳を畳むと目を伏せた。

ジョンから向けられた視線に、ジェシカが頷いて答える。

大人しくなったレッドに肩を貸し、ジェシカ達は通路の奥へと向かった。

その様子を見届けたジョンは深く鼻から息を吐くと、赤色灯の回る通路をオペレーター達と進んだ。

 

 

「ではドクター達はシェルターへ?」

 

ニアールは目の前のベンチで医療オペレーターから治療を受けるレッドと、その傍に座るジェシカに問いかける。

ジョンと別れたのち、すぐにジェシカ達は行動中だったニアールの小隊に合流していた。

ジェシカが頷いたのを確認すると、ニアールは後ろに控える重装オペレーター達に向き直った。

 

「我々もすぐに向かう、各員点呼を速やかに完了させたのち、私に報告!」

 

「「「了解!」」」

 

整列し、副官が点呼を行う横で、アーミヤが息を切らしてニアールに近づく。

 

「ニアールさん!」

 

アーミヤは真剣な表情で点呼を見つめるニアールの横に立つ。

 

「ドクター達はシェルタールームへ向かった、我々もすぐに向かおう」

 

ニアールは凛とした表情に汗をにじませながら通路の先を睨む。

 

「わ、わかりました!」

 

その様子を、ズィマーが面白くなさそうに眺めている。

彼女は肩にのせた斧を小刻みに揺らしながら、口を歪ませて貧乏ゆすりをしている。

 

「行儀悪いですよ」

 

「…あのじじい、人に散々偉そうにしておいて独断先行とはいい度胸じゃねえか…やっぱ一発どついときゃ」

 

「だ、ダメだよ!ドクターに乱暴しちゃダメ!おじいちゃんなんだから!」

 

そんなズィマーの両隣に、イースチナとグムはいた。

イースチナといえば膝の上で本を開き、苛立つズィマーの様子を端目でちらりと眺めている。

グムは今にも床に斧を振り下ろしそうなズィマーのすぐ横で、ワタワタと手を忙しなく動かしている。

 

「お腹減ったの?何か作ろうか?保存食あるよ?」

 

グムがズィマーの組まれた足の上に、次々に包装された栄養食を並べ始める。

 

「…いい、腹は減ってねえよ、しまっとけ」

 

「そう…?」

 

グムは肩を落としてもそもそと携行食を鞄にしまい始める。

 

「お前達」

 

ニアールから声が投げかけられたのと同時に、ズィマーは勢いよく立ち上がり、イースチナは本に栞を挟み、グムは大きな鉄塊…盾を抱えた。

 

「出発するぞ、離れるなよ」

 

「…ようやく戦えるってわけだな」

 

ズィマーが片手斧の柄をもう片方の手にパシリと、音を立てて叩きつける。

その様子をニアールは目の端で見つめる。

 

「あんだよ」

 

「いや、やる気のある分には文句はないさ」

 

ニアールは睨みつけるズィマーの視線をなんともないようにいなすと、隊列の先頭を歩き始める。

ズィマーはその後ろを、やはり不機嫌そうについて歩く。

 

「他の小隊との連絡は?」

 

ニアールの問いかけに、副官の重装オペレーターが腕のデバイスを起動させる。

しかし、画面には依然として普段見ることのない砂嵐が音を立てていた。

 

「ダメです、皆さん近くに展開しているはずですが」

 

「最大出力の短距離通信でもそれか、通信妨害要員を連れているのか…アーミヤ、どう思う」

 

「通常の通信ジャマーとは様子が違います。

新型の妨害機器でしょうか…」

 

アーミヤは顎に手を当てて考え込む。

ふと横を見ると、ニアールの表情がひどく強張っているのに気がつく。

 

「…硫黄の臭いが先ほどから強くなっている。

やはり来ているのだな、あいつが」

 

「ニアールさん…」

 

アーミヤは眉間にシワを寄せるニアールに心配そうな顔を向ける。

 

「心配するな、私は冷静だ。

…ただ意図が読めない」

 

「意図?」

 

「あいつなら…タルラならすでにこの辺りを火の海に変えていてもおかしくはないはずだ。

すでに侵入を許しているならなおさらな。

これほどの好機はないと言うのに、大きな動きがない。

…なぜ動かない、本当に少女1人の奪還のために赴いたというのか」

 

アーミヤは即座に思考を巡らせる。

レユニオン、タルラの襲撃の目的。

ロドスの抱えるもので、変化があったものを目的とすれば、それは間違いなくミーシャだろう。

現に彼らは龍門で強行的にミーシャの確保に乗り出してきた。

それを保護したロドスに矛先が向いたのは理解できる。

ミーシャを求める理由は何か、情報?

だとすればミーシャはロドスに何かを隠している?

アーミヤは即座にその考えを切り捨てる。

ミーシャにそのそぶりは一切なかった。

彼女のレユニオンに対する怯えに嘘偽りはなかった。

何も知らないという証言も、アーミヤには嘘には思えなかった。

おそらくはケルシー 先生も同じような所見を抱いただろう。

 

ならばなぜレユニオンはミーシャをここまでして?

 

「考えていても始まらないな、すまないアーミヤ」

 

ニアールは眉間にシワを寄せるアーミヤに微笑みながらに謝罪する。

アーミヤはその言葉に慌てながらも、歩みを早めるニアールに追従する。

 

「今はただこの場を…ロドスを守らねば」

 

「…そうですね」

 

アーミヤはニアールと同じく通路の先を見やる。

 

 

 

硫黄と硝煙の臭いの立ち込める通路で、1人の狙撃オペレーターが壁に体を擦り付けながら歩いていた。

腕の通信デバイスを起動し、今にも地面に倒れ伏しそうな体を鞭打って、デバイスに声をなげかける。

 

「…誰か、誰かいないか…」

 

その言葉はあまりにもか細く、無線機が機能していても聞き取れるかどうかわからないものだった。

体からは煙が細くたなびき、装備には血が滲んでいる。

 

「…止められなかった……誰か…」

 

立ち止まり、壁に肩を擦り付けながら、狙撃オペレーターは地面に座り込む。

同時に腰の装備が音を立てて地面に散らばる。

そこには金属製のプレートホルダーがあり、裏面を晒しているそれには仲間と撮ったのであろう集合写真が貼られていた。

 

「…みんな」

 

口元に寄せたデバイス、腕が音を立てて地面に落ちた時、その傍に寄る者がいた。

狙撃オペレーターは霞む視界の先に、人影を見る。

 

「……あんたは」

 

人影はオペレーターの腕をとり、何かの薬液を注射する。

 

「誰でもいい…救援を…」

 

「動くな、今痛み止めを打った。

じきに応援が来る」

 

「そうか…」

 

「君は医療棟の警備関係者か?」

 

「…ああ、保護した少女…シェルターの場所がバレてるみたいだ…奴らは真っ直ぐそこに…」

 

「…わかった、もういい、君はじっとしていなさい。

その傷は浅くは……」

 

オペレーターの腕を取っていた男は、オペレーターの体が脱力したのを見ると、その首筋に手を当てる。

 

「…か…さん…ご…めん」

 

目の前のオペレーターから向けられる目を真っ直ぐに受け、そこから徐々に光が失われていくのを、ヘラグはただ見つめた。

その時、男がきた通路の方から、眼帯をつけた男に率いられた集団が慌ただしく駆け寄ってくる。

 

「…あなたは、ヘラグだな」

 

集団の先頭にいた男が、ヘラグの背後に立って問いかける。

 

「…そういう貴君はドクター…ドクタージョンか、こうして直に顔を合わせるのは初めてだな」

 

ヘラグは振り返ることなく、倒れるオペレーターに目線を向けながら答える。

オペレーターの首筋から手を離して立ち上がるヘラグの横にジョンは跪いた。

そして倒れ込んでいるオペレーターに向かい合う。

 

「…彼は?」

 

「意識を失った。

…治療は間に合わないだろう」

 

ヘラグはそう言って注射器を懐に仕舞い込む。

ジョンは傍のネームプレートを拾い上げる。

そして貼られた写真を一瞥し、目を細めるとそれをオペレーターの1人に手渡す。

ジョンは鋭い目線をヘラグの手に向ける。

 

「何を打ったんだ?」

 

「鎮痛剤だ。

重度の熱傷、数カ所の切創に出血…痛覚ももう麻痺していただろうが、これ以上の苦しみを与えるわけにはいかない」

 

そう言ってヘラグは懐にしまった金属製シリンジをジョンに手渡す。

 

「オピオイド鎮痛薬…モルヒネ、か」

 

オペレーターの前にジョンに続いてきた数人のオペレーター達が集まり、それぞれが悲痛な表情を浮かべる。

 

「彼はなんと?」

 

「最後までシェルターにいるもの達のことを気にかけていた、彼らはそこまで迫っている。

守らねば、彼のためにも」

 

ヘラグはローブを翻し、通路の先へと歩き始める。

ジョンはその背中を見つめ、口を開いた。

 

「なるほどな、貴方は医者ではない」

 

ヘラグは立ち止まり、体を半分ジョンの方へ向けて視線を送る。

ジョンはその視線を真正面から受け止める。

鋭い視線をジョンに向けるへラグは重々しく口を開いた。

 

「かつてこの目で多くの死を見届けた。

戦場で医者に見せるか見せないかの判断を問われたことも、少なくはない。

同胞から、決断を迫られたことも、一度や二度では」

 

「…」

 

「…そうだ、医者ではない。

私は奪い、奪われる側の人間だ」

 

「貴方は戦士か」

 

「貴君は自分をなんとしている?」

 

ヘラグの問いかけに、ジョンはオペレーターの薄く開かれた瞼を優しく閉じる。

 

「私も君と同じだ」

 

立ち上がり、ヘラグの元へと歩みを進める。

 

「天国の外の、住人だよ」

 

ヘラグはその言葉に眉をひそめる。

 

「天国の、外…」

 

数秒間の視線の交錯、やがてヘラグを追い越し、その後ろをオペレーター達が続いていく。

ヘラグもまた、その背中を目で追いながら歩き出す。

 

「ドクター…貴君もまた医者ではないと、そう言うことか?」

 

「答えるには、私の今の状況はひどく混迷していてな。

まだなんとも言えん」

 

「…そうか」

 

「だが、私の今の立ち位置に関しては理解している。

…もう犠牲を出すわけにはいかない」

 

そう呟いたジョンの背中を、ヘラグは黙って見つめる。

 

「手伝ってくれるか、ヘラグ」

 

「もとよりそのつもりで動いていた。

チェルノボーグでの一件、ロドスには恩がある」

 

オペレーター達は自然に道をあけ、ヘラグはジョンの隣に立つ。

纏う雰囲気の似た2人を、それに従うオペレーター達は不思議な感覚を抱きながら追従した。

 

 

セクター1と2の境目にある連絡通路で、オーキッド率いる行動予備隊A6は続々と通路の奥から溢れてくる、怪我人の群れに揉まれていた。

 

「ポプカル!しっかりついてきている!?」

 

「だ、だいじょうぶ!」

 

「カタパルトとスポットは!?」

 

「わ、わかんない!」

 

オーキッドの後ろで、人の波をかき分けてもらいながら必死にその後についていくポプカル。

少し離れたところで長身の男性オペレーター、ミッドナイトが転倒したオペレータを支え、肩を預かる。

オペレーターが負傷し、息も荒いことを確認したミッドナイトは、彼を支えたまま、壁の方へと人をかき分けつつ進む。

 

「姉さん!これは、一体…どういうこと!?何が起こってるんだよ!」

 

「わ、わからない!ミッドナイト、誰か事情を知っている人を捕まえて!」

 

「そうは言ってもさあ!!」

 

ミッドナイトは周りを見渡すが、通路の奥から向かってくる人々は誰もが鬼気迫る表情で必死に向かってくる。

 

「とても立ち止まってくれる感じじゃないんだよねえ!」

 

オーキッドは腰に捕まるポプカルを身を挺して守りながら、人をかき分け進み続ける。

 

「どいて!私たちはこの先に進まなきゃいけないのよ!」

 

オーキッドの様子を見て、ミッドナイトは額に汗をうかばせながら、負傷したオペレーターを壁際のベンチに座らせる。

 

「待ってて、今誰か呼び止めるから」

 

「あ、あんたたちはこの先に進むつもりなのか…?」

 

「それが今の任務だからね」

 

「だ、だめだ…!」

 

ミッドナイトの肩を掴み、オペレーターが焦った様子で口を開いた。

 

「俺たちは、逃げてきたんだ、シェルターの方から…!」

 

「…どういうことだい?」

 

ミッドナイトがオペレーターに聞き返す。

 

「…とてもじゃないが、止められなかった…。

あんなの…あんなものは人間の力じゃない…」

 

ミッドナイトはオペレーターの口調から、最悪の事態を予感する。

 

「あいつは、もうシェルターにたどり着いているのか!?」

 

「…俺たちが交戦をしているときは、まだ正確な場所は把握はできていない様子だったが…。

あの子が…保護対象がシェルターのどれかにいることは…わかっていたようだ」

 

「じゃあ、この人たちは…」

 

「ああ、逃げてきた連中だ…あいつらにとってはハズレのシェルターからな…。

かくいう俺もその一人…すまない」

 

「仕方ないよ、あれは…とてもじゃないがまともに戦える奴じゃない」

 

ミッドナイトは負傷したオペレーターを落ち着かせると、走りながら誘導を行なっていたオペレーターの一人に声をかける。

 

「すまない!この人は歩けないようなんだ!医療部に連れて行ってやってくれないか!」

 

ミッドナイトの声に振り返ったオペレーターは周囲にいたもう一人に声をかけ、人の波をかき分けながらミッドナイトの位置へと向かってきた。

 

「あんた、いくつもりなのか!

だ、だめだ!死ににいくようなもんだぞ!」

 

ミッドナイトは微笑みながら、オペレーターの肩に手を乗せる。

 

「大丈夫だよ、俺たちだけじゃない。

頼りになる人たちがそこに向かってるはずなんだ、それに…」

 

ミッドナイトは負傷したオペレーターが二人に抱えられるのを確認した後、オーキッドたちを追って歩き出す。

 

「もう逃げるのは…ごめんなんだよね」

 

 

「怪我人をもっと奥の方へ!急いで!」

 

「抗炎症薬が足りないぞ!もうここのは使い果たした!」

 

「だったらさっさと別のセクターに取りに行くんだよ!

ここは医療研究都市だぞ!」

 

「待合室のトリアージ間に合いません!もっと人手をよこしてください!!」

 

「終わったぞ!次の患者をここへ!」

 

「輸液パック!生食液をもっと集めるんだよ!」

 

「手の空いているオペレーターは集まれ!俺たちでも役に立つことはあるはずだ!」

 

セクター2、非常事態用の避難シェルターの一角、そこは主戦線であったロドス艦内の負傷者が集められる臨時治療所となっていた。

 

「ミルラさん!隣の処置室からもっと輸液持ってきて!」

 

ピンク髪の少女が包帯の巻き上がった腕を負傷者の胸の上に置き、ずり下がったメガネを整え、呼びかけられた声に振り向く。

 

「はい!今行ってきます!」

 

治療ベッドの列の間を縫うように走り出す少女とすれ違いざまに怒声をあげる、緑髪の女性オペレーター。

 

「だーかーら!あんたはもう動けないんだよ!わかる!?」

 

「お、俺はまだ動ける!みんなのところに戻らないと!だからガヴィルさん、痛み止めを…」

 

ガヴィルと呼ばれた緑髪のオペレーターは目の間のベッドに横たわる重装オペレーターの足を叩く。

 

「あ痛っ!?」

 

「ヒビ入ってんだよ!今度こそポッキリいっちまうぞ!

むしろ動いたらここで折るぞ、コラ。

ほら、当て木当てるから動くなや」

 

「ひ、ひい」

 

「はーい、ガヴィルさん怪我人を脅さないで」

 

その奥のベッドで中性的な医療オペレーターが点滴の取り替えを行なっている。

 

「こういうバカはここまでやらねえとわからねえんだ、殴って気絶させないだけマシだと思って欲しいぜ、ほーれ」

 

「あいだだだ!!ガヴィルさんきつい!包帯がきつい!」

 

「はあ…」

 

アンセルは輸液パックをスタンドにぶら下げると、腰に手を当てて呆れ顔でガヴィルを見る。

 

「クッソ、アタシも前線に行きてえが、こうもひっきりなしじゃなあ」

 

「またそんなことを言って」

 

「ち、ちげえって…あたしは戦場医だから前線が本業っていうか」

 

「どうだか」

 

そういってアンセルはガヴィルの隣に立ち、処置の補助を行い始める。

 

「おい!誰か手を貸してくれ!」

 

そのとき、治療所の入り口から数人のオペレーターたちの声が上がる。

そこには一人の仮面を被った兵士が二人のオペレーターたちに抱えられて立っていた。

 

「おい、あれ…」「レユニオンのやつじゃないか」「どうして…!」

 

ベッドで治療されていた外部の患者たちの間でどよめきが起こる。

 

「おいあんたら」

 

治療を受けていた年配の患者が目の前を通り過ぎる医療オペレーターに声をかける。

 

「あいつらも助けるつもりなのか?」

 

医療オペレーターは視線を入り口のレユニオンの兵士に向ける。

 

「…なんとも思わねえのか?」

 

医療オペレーターはにこりと微笑むと、腰から下げた医療用のパックを抱えて入り口の方へと走る。

そしてオペレーター達からレユニオンの兵士を預かる。

 

「容態は?」

 

「道に倒れてたんだが、出血がひどい、意識も朦朧としててうわ言ばっか言ってやがる」

 

「わかりました、誰か手を貸してください!」

 

「はい!」

 

アンセルがガヴィルに目くばせし、レユニオン兵士のもとへ走っていく。

それを見てガヴィルが声をあげる。

 

「はいはい!みなさん落ち着いてー…ってもう驚きすぎて落ち着いてるか。

こーいうことはよくあるんで、皆さん混乱せずに治療を受けてくださいねー!」

 

「あいつらも助けるのかよ!」「ここを襲った張本人だぜ!」「ほっとけよ !」

 

ガヴィルは一般の患者から上がる怒声を受けてニヤリと笑う。

 

「あんたらもわかってるだろーけど、ここはロドスなので」

 

そう言ってガヴィルは壁に掛けてある自分のロッドアーツの元へ向かう。

 

「まあ、病院なんだよな、ここは。

だからさ、怪我人なら関係ないんだわ、文句なら後でいくらでも聞くからよ。

あいつがあいつ用の部屋に運ばれるまで、ちょっと我慢しててくんねえかな」

 

「暴れたらどうすんだよ!!」「そうよ!」「この部屋に入れるな!!」

 

ガヴィルはアーツロッドの石突を地面に音を立てて突き立てる。

甲高い金属の音に、所内は一気に静まり返った。

 

「ガタガタ抜かすな、ここは病院なんだよ。

傷負って血を流して意識がなくて、そこまで行ったら入場料には十分だろうが。

それによ」

 

ガヴィルはそう言って周囲を見渡す。

 

「忘れちまったのかよ、あんたらの周りにいるのは一騎当千のオペレーターだぜ。

あいつがこの後に及んで何かしようってんなら、引っ叩いて夢の世界に叩き戻してやるからよ。

安心してベッドに寝転がってな」

 

ガヴィルの力強い言葉に、一般患者たちは言葉を失い、周囲を見渡す。

そこには自分たちの家である場所を破壊して回っていた敵を目の前にしても、表情ひとつ変えずに必死に治療にあたるオペレーター達がいる。

その光景を前にして、再び抗議の声をあげようとするものはいなかった。

 

「おっし、わかってくれたようなので謝らせてもらうわ。

ごめんな、うるさくして、病院ではお静かにってな」

 

ガヴィルはそう言って笑い、近くのベッドに横たわる怪我人に声をかけて回る。

その光景をレユニオンの傷を治療しながら、アンセルは微笑み混じりに眺めていた。

 

「こういう時は頼りになるんですよね」

 

「は、何か言いました?」

 

アンセルの前で、マスクを処置中に浴びた血に染めながら問いかける医療オペレーター。

 

「ん、なんでもないですよ…輸液追加で、見た目よりもこの人は軽症ですね、感染の度合いも軽度です。

通常の治療で問題ないでしょう、応急処置をしたら別室に移動しましょう、準備しておいてください」

 

「わかりました!では準備を…」

 

「ああ待って…はい」

 

アンセルは元気に返事をした若いオペレーターに新品のマスクを渡す。

 

「あ…ああ!ありがとうございます!」

 

本人は必死になっていて気づかなかったのか、慌ててマスクを交換する。

 

「手指の消毒は忘れずに。

…本当、頼りになりますよ」

 

その言葉に呆気に取られるオペレーターの元を離れ、アンセルは別の負傷者の元へ向かう。

 




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