METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
「バカ親ども、感染したガキを隠してやがるから」
こわいよ
「自業自得だぜ、ちょっと偉いからってなんでも許されると思ってやがる」
はなして
「おいこら、聞いてんのか…おい、これ死んでんじゃねえか?」
ぱぱにひどいことしないで
「お前がしこたま蹴るからだろ、女の方はどうしたんだろうな」
ままはどこいっちゃったの
「おい気をつけろよ、下手に噛みつかれたりしたら伝染っちまうぞ」
おろしてよ
「…確か、もう一人子供がいた気がするんだが」
おねえちゃん
「迎えの車が来ちまうぞ、もういいだろ」
おねえちゃん
「悪く思うなよな」
おねえちゃん
「みんなのためなんだぜ?」
おねえちゃん
おねえちゃん
おねえちゃん
おねえちゃん
…
…
…だれか、たすけて
…おねえちゃん
「スカルシュレッダー。
…おい、大丈夫か?」
針で刺されたような衝撃で、スカルシュレッダーは霞がかった思考の中から戻ってくる。
ガスマスクの中で耳障りに響く自らの呼吸の音に苛立ち、耳の辺りを軽く叩く。
「ぼーっとしてたぜ」
曇り止めの塗られたスモーク加工のガラスの向こうに、仮面をずらしてこちらを覗き込んでいるフェリーン。
仲間である、レユニオンの兵士を見る。
「…すまない、少し考え事をしていた」
「しっかりしろよな…。
ま、無理もねえか。
姉ちゃんがいるかも知れねえんだしな」
「…いや、姉さんはいるんだよ、ここに」
「そうだな」
レユニオンの兵士は仮面を付け直すと、再び通路を歩き出す。
「おあっちぃ!!
…タルラさんも、なんでかわからんけどやる気満々って感じなんだよな…おっかねえ。
そこらじゅう火がついててたまらねえ…鉄の壁のやつとかこれ、どうやって燃えてるんだろうな」
レユニオン兵士は壁で燻っている炎に近寄る。
「危ないぞ」
スカルシュレッダーもまた、通路を兵士を追って歩き出す。
「でも、なんでまた急に見つかったんだろうな。
今まで散々探し回ってたってのに…。
ま、そこら辺はこいつらに感謝だな。
わざわざ保護してくれたってんだろ?」
レユニオン兵士は通路に倒れるロドスのオペレーターを見る。
「勇敢な奴らだぜ、俺ならタルラさんに睨まれただけで逃げ出すね」
倒れ込むオペレーターの前に跪き、人差し指で何回か突く兵士。
その様子をスカルシュレッダーは何も言わずに眺めている。
「この辺りのシェルターはあらかた回ったな、もうそろそろ見つかるんじゃないかね」
「そうだといいんだが…」
兵士はスカルシュレッダーの返答に勢いよく振り返る。
「おいおい、楽しみじゃねえのかよ。
ガキの頃からずっと探してたんだろうがよ。
いつも集まればその話だったじゃねえか」
「…」
スカルシュレッダーは通路に散らばるガラス片に映る、いくつもの自分の姿を見つめる。
兵士は立ち上がり、スカルシュレッダーの肩を叩く。
「大丈夫だって、姉ちゃんだってお前を見ればきっとわかるさ」
「…ああ」
「行こうぜ。
みんなの前じゃ、お前によそよそしくしなきゃいけないのはしんどいなぁ」
「…気にすることか?」
「何いってんだ、お前は俺たちのリーダーだぜ。
それはまあ?確かに?俺は隊の一番の古株だし?言いたいこともわかるけどよ?
お前にも立場ってもんがあるし?
…まー、その辺り察するのがベテランってもんだよなー親友!」
「…付き合いが長いだけだ、馴れ馴れしくするな」
「ここまでがルーティンじゃねえかよぉ」
そういって肩を組んでくるレユニオン兵士に蹴りを入れながら、スカルシュレッダーは通路を進む。
(…姉さん、もうすぐだよ)
…
「なに、これ…」
メイヤーとエフイーターは眼前に広がる通路の光景に目を疑った。
「ねえ、メイヤーちゃん。
…ここ、セーフゾーンで間違い無いんだよね?」
「…」
通路には複数人のオペレーターが倒れ、周囲には炎がちらついている。
メイヤーはロドスの分厚い外壁を貫き、通路まで達している溶解した大穴を見つめる。
顔からは一気に血の気が引いていき、メイヤーは勢いよくエフイーターとその後ろに続くオペレーターたちに向き直る。
「メイヤーちゃ…」
「みんな、通路に倒れている人たちの識別救急、急いで!」
「「「「了解!」」」」
エフイーターの声を遮り、オペレーター達は通路に散らばり、倒れるオペレーター達の救助活動を始める。
「聞こえるか!おい!」
「しっかりしろ!!」
エフイーターは目の前に広がる惨事を前に、ただ口を開け、顔を青くすることしかできなかった。
「エフイーターさん!」
「は、はい!」
「壁に備え付けの緊急医療キットがあるはずです!
探してくれませんか!」
火傷を負い、露出した組織から血液を垂れ流す、素人目には死んでいるとしか思えない負傷者を抱え、装備を血に染めるオペレーター。
「エフイーターさん、早く!」
「…わ、わかった!!」
エフイーターはオロオロと通路の壁面を歩き回り、そして強化ガラスで保護された医療キットのキャビネットを見つける。
額に汗をうかばせながら、エフイーターは鉄甲で強化ガラスを勢いよく叩き割る。
そして中からキットを取り出すと、それを肩にいくつも抱えてオペレーター達の元へ戻る。
「こ、これ!」
「ありがとうございます!
聞こえるか!?助けにきたぞ!聞こえてたら返事をしてくれ!!」
口元のバラクラバを血に染まった手袋でずらし、声をかけ続けるオペレーター。
「フィブラストスプレーを使え!なにもやらないよりましだ!
メイヤーさん!全員重症です!急いで治療室に運ばないと!」
「わかってる!」
メイヤーはオペレーター伝いに回ってきた医療キットを開け、中からハサミを取り出して装備の薄いところから衣服を切り裂き、患部を露出させる。
「みんな!わかってると思うけど無理に脱がしちゃダメだよ!
…ナイロン繊維が接着剤みたいになってる。
こんな医療キットじゃ役に立たないな…!」
「メイヤーさん!」
メイヤーの元に一人のオペレーターが走り寄る。
「イエロー3名!レッド5名!
…ブラック、3名です…ッ!」
「…わかった。
…あー……もう…。
…こういう時、ホント役に立たないんだよね、私」
メイヤーは通路の警戒に当たっているミーボを見て苦虫を噛み潰したような顔をする。
ハサミを握る手を振るわせながら、メイヤーはオペレーター達に向き直る。
「…担架作ろう、全員使えそうなものをかき集めて!」
「「「了解!」」」」
エフイーターは一人、医療キットを腕に抱えたまま立っていた…‘
(…役に立たない、か)
「…カッコ悪いなぁ、あたし」
エフイーターはぽつりと自嘲気味に呟き、自分にも何かできないか、と辺りを見渡す。
そして、通路に点々とした血痕があることに気がついた。
なにも考えることなく駆け出し、血痕の続く廊下の角を曲がる。
「あ…!」
そこには壁に項垂れかかりながら、荒い息を吐くオペレーターがいた。
そして…。
「…ひっ!?」「…お兄ちゃん!」
「…どうして、こんなところに」
二人の小さな子供が、オペレーターの影に隠れるようにエフイーターを見ていた。
「…大丈夫、お姉ちゃんはその人の仲間だよ…!」
エフイーターは鉄甲を後ろ手に隠しながら、ゆっくりと近づいていく。
「…お兄ちゃんのお友達なの?」
小さな女の子がオペレーターの陰から頭を覗かせる。
「…助けが、きたのか?」
オペレーターは荒い息を吐きながら、近寄るエフイーターを見る。
「お兄ちゃんを助けて!」
女の子がエフイーターの元に駆け出し、鉄甲の指を両手で掴んで引っ張る。
「お兄ちゃん、怪我してるの!」
「わ、わかった!」
エフイーターが側に駆け寄ると、オペレーターはその肩を勢いよく掴んだ。
「俺に構うな…!早く!…早くシェルターに……ゲボッ!!」
「無理に喋っちゃダメだよ!」
エフイーターは鉄甲を外し、オペレーターに肩を貸すべく腕を伸ばす。
「…あいつが!…タルラが!…行っちまった、行っちまったんだよ!」
「…ッ …メイヤー!!」
エフイーターは腹のそこから力を入れて叫ぶ。
するとすぐに、服を血で染めたメイヤーが通路の角から姿を表した。
「意識があるの!?」
「うん!!」
「無理に動かしちゃダメ!」
駆け寄ってくるメイヤーに、エフイーターはオペレーターの正面の位置を譲る。
メイヤーは腕や体、足など目視で確認できる負傷位置を確認する。
「…あなた、どこの所属?
ここでなにがあったの?」
メイヤーは医療キットからスプレータイプの抗炎症剤を取り出すと、オペレーターの腕に吹きかける。
オペレーターのすぐ横では、女の子がオペレーターの額から流れる血を小さなハンカチで拭き始める。
もう一人の少年も、心配そうにオペレーターの手を握っている。
「俺は…ユニット1−25の…チームリーダーだ。
この子達を、セーフゾーンに送る途中だった…。
突然だったんだ…あいつら壁を吹き飛ばして…中に入ってきやがった」
「あいつら…あいつらって?」
「…タルラだよ…!」
メイヤーはその名前を聞いて目を見開く。
「…侵入されたって…タルラに!?」
「時間がないんだ…!メイヤー…さん…!
シェルターの連中に…知らせないと…!!」
「…無線が通じないのも、きっとそのせいだね」
メイヤーは最も重症な腕周りにスプレーを吹き終えた後、蒸留水を体全体に振りかける。
「メイヤーさん…!!」
「うるさい!言っとくけどあんた重傷なんだよ!!
放っていけって!?馬鹿じゃないの!?」
1−25リーダーは深い呼吸を繰り返しながら、メイヤーを睨みつける。
メイヤーもまた、それを正面から睨み返す。
「追ったところで、ここはシェルターと目と鼻の先…もう、任せるしかないんだよ」
メイヤーの目尻にはじわりと涙が浮かぶ。
「…」
「今はあんた達を助ける、それが私の最も重要な事、わかったら黙って助けられてて」
メイヤーは袖口で目元を拭うと、1−25リーダーの脇に肩を当てて起き上がらせる。
「ここはもう侵入経路の一つになってる、一刻も早く離れないと」
歯を食いしばる音を響かせながら、苦悶の表情で起き上がる1−25リーダー。
メイヤーもまた、眉間に深い皺がより、空いた片方の手の拳は硬く握られている。
その後ろで、エフイーターは外した鉄甲を再び、音を立てて両腕に装着していた。
「ねえお兄さん。
さっきの話だと、もうセーフゾーンは修羅場になってるかもってことだよね」
メイヤーと1−25リーダーは揃ってエフイーターの方を向く。
「あたし、行くよ」
「あんたなにを馬鹿なこと言ってるの」
メイヤーは一呼吸も置かずに、メイヤーの発言を切り捨てる。
「一人で?
…あんた、まだこれが映画の撮影かなんかだと思ってない?」
メイヤーは1−25リーダーを抱えながらエフイーターに詰め寄る。
「そんなこと、絶対に許さないよ」
「でも、行く」
「あんたねぇ!!」
「あたし、行くよ」
エフイーターは両手の鉄甲を勢いよく突き合わせて音を鳴らす。
「ねえ、ホント…やめてよ…それどころじゃないんだってば」
メイヤーの目尻に再び、涙が滲む。
「メイヤーってすごいよね。
誰とでもすぐ仲良くなれちゃうし、あたしにだって本当によくしてくれるし。
あんなロボットだって作れちゃうし、お医者さんみたいなこともできるしさ」
エフイーターはメイヤーの顔を正面から見据えて続ける。
「ロドスのみんな、全員がすごいよ。
あたし、ここに来てまだ全然、日が浅いけど、今日でそれがすっごいわかった。
みんな自分ができることを必死にこなしてさ。
お兄さんなんて、そんなにボロボロなのに、人の心配ばっかして。
ロドスって本当、すごいところだね」
エフイーターの言葉に、メイヤーはいつの間にか横槍を入れることができずにいた。
「あたし怖かったんだ。
あたしには、「これ」しかないから。
全部、この病気に奪われちゃったらどうしよーって」
エフイーターは軽く爪先で地面をノックする。
「でもここにきて思ったよ。
「あ、私、ここでならもっと、もっともっと動ける、諦めなくていいんだ」って。
…嬉しかったよ」
…
『臓器の陰影が不明瞭な上、呼吸器系に結晶化の兆候が見られます』
(いやだよ、困るよ)
『鉱石病の、初期徴候に間違いありません』
(まだ、撮りたいのがいっぱいあるんだって)
『本当に残念です』
(他人事だからって、簡単に……言わないでよ……ッ)
…
『仕方、ないよね』
( あたしの誇りだった)
『病気なんだもん、誰のせいでもない』
(あたしの全てだった)
『…でも』
(もう…終わりなの?)
『…やっぱり…悔しいよ』
…
エフイーターの鉄甲が音を立てて軋む。
「もう…一つだって、奪わせるもんか…。
まだ…クラッパーボードだって鳴ってないんだ。
だから、あたしは行くよ。
あたしにできることを、やってくる。
この先でここみたいな事が起こってるなんて、絶対に許せない」
「…あんた」
メイヤーは真正面から浴びたエフイーターの言葉に、続く言葉を失った。
ガチガチと震える鉄甲が、恐れからくるものではないとはっきり分かるほどには、エフイーターの言葉には熱がこもっていた。
メイヤーは一度細く息を吐き出すと、呼吸を一度ぴたりととめた。
「…この人手が欲しい時に、あんたは一人で突っ走ろうっていうんだ」
「…う…」
「…ホント、勝手なやつだなー君は」
「…うぅ」
エフイーターは痛いところを突かれたとばかりに、後ずさりを始める。
「…ずるいなぁ」
「…ふぇ?」
「みんなー!こんなこといってますけどー!?」
メイヤーの突然の叫びに、思わずエフイーターは身を飛び上がらせる。
そして、背後に大勢の存在感を感じ、振り返るとそこには。
「ホント、ずるいっす」
「めちゃくちゃだよ、あんた」
「このデカブツを運びたくないだけ、じゃないでしょーね?」
「…ゲホゲホ…そんなに重いか?」
担架に、自らの背中に、肩に、負傷者をのせて立つオペレーター達の姿があった。
「ロドスの皆さん的には、どーなの、これは?」
「「「カッコよかったっす」」」
オペレーター達、そして意識の戻った負傷者もまた、微笑みがら口を揃えた。
「だってさ」
「……な、なんだよ、いきなりぃ!!」
「でもだめだーよ」
「え!?」
「一人じゃ絶対に行かせない」
「…い、今のは映画だとカッコよく見送ってくれる流れなんだけどなー…」
「現実問題、そんなことあり得るわけないでしょ」
メイヤーは1−25リーダーを担ぎ直しながら、再びエフイーターに詰め寄る。
「行くなら私も当然行く、もちろんみんなもー?」
「「「もちのろんです」」」
「…リーダーのお兄さんもー?」
「…行ってくれ、なんて言える雰囲気か…?」
「ほい、多数決でけってーい!
…だから、一人だなんて絶対にだめ。
行くなら、みんなで怪我人を送り届けてから」
「で、でもそれじゃ間に合わないよーッ!!」
その時だった。
『おーい!そこに誰かいるのか!?』
通路の奥から、大勢の足音とともに呼びかける声が響いてくる。
「この声は…」
「…応援だ!!」
オペレーター達が慌てて通路の方へと戻り、声を響き渡らせている集団に駆け寄る。
その集団は武器を携えたオペレーター達に囲まれて複数人の術者が行動をともにしているようだった。
「おわあ!?
き、君たちはな、なんだ!?どうしたんだ!?」
「お前ら!医療オペレーターは随伴してるか!!」
怪我人を抱えたオペレーター達は、先頭の男に勢いよく詰め寄っていく。
「あ、ああ!
俺たちはこれからセーフゾーンに怪我人を連れていくところで…何があったんだ!?
その怪我人はどうした!?」
「セーフゾーンはすでに敵に侵入されている!
これ以上進むのは危険だ!この人たちを頼めるか!」
「もちろんだ!」
「よし!みんな!彼らに負傷者を引き渡せ!」
「重傷なんだ、気をつけてくれよ!」
オペレーター達は担架や背負った負傷者を後送部隊に引き渡し始める。
その様子を後ろから眺めていたエフイーターは、ヘタリと地面に座り込む。
「…よ、よかったぁ」
力の抜けた顔から、一筋涙が流れたのを見て、メイヤーはニヤリと笑ってエフイーターの頭を叩く。
「あいたぁ!!」
「ほれみたことか!
あんた一人でいってたら無駄死にしてたかもしれないよ!
これに懲りたらもうわがままいうんじゃないぞぉ…?」
「…あい」
「カッコよかったけどさ、そういうのは映画の中だけのことだよ。
衝動に任せて突っ走ったらだめなの、わかった?」
「…あいぃ」
「泣いとる場合かぁ!
…いくんでしょ?」
エフイーターは鼻をすすり、目元を肩の布地で拭うと、真っ直ぐに立ち上がった。
その様子を、負傷者を渡し終えたオペレーター達も見守る。
メイヤーもまた、ミーボ2匹を脇に抱えて鼻息を荒げる。
「…うん!」
そしてエフイーターは再び、勢いよく鉄甲を打ち合わせ、先ほどよりも大きく、よく通る音を響かせた。
「おい!あんた達はこの先に進むのか!
この先は危険なんだろ!?」
後送部隊のリーダーが移動し始めた自らの部隊を背中にして声をかける。
その声にメイヤー、エフイーター、オペレーター達は振り返る。
「うん!ちょっくら、悪党どもをぶちのめしにいくのさ!」
エフイーターはそういって鉄甲の親指を高く上げた。
後送部隊の列の中から、1−25リーダーが肩を貸されながら出てくる。
「…頼んだぞ」
一言だけ、絞り出すように口に出した言葉は、エフイーターだけでなく、オペレーター達全員の耳に届いた。
「だってさ、アクションスターさん?」
メイヤーが意地悪そうな笑顔で言う。
「任せてよ。
…本物のカンフーの腕があってこその、ムービースターだってこと、あいつらに思い知らせてやるから!」