METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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希望を

スカルシュレッダー、アレックスの腕の中で、ミーシャはさまざまな感情に胸を焼かれながら、自らの目から溢れる涙を抑えることができずにいた。

涙は頬を伝い、やがてアレックスの肩で弾けて小さなシミを作る。

腕の中にある小さな姉の感触に、身を震わせ始めるアレックス。

 

「姉さんは…小さいなあ…」

 

そういって笑うアレックスの瞳からも大粒の涙が溢れ出す。

 

「…もっと…僕より…大きい…かと…」

 

「アレックス…」

 

ミーシャが震える手でアレックスの背中に手を回そうとした時、アレックス我に帰ったかのようにミーシャから数歩の距離をとり、ガスマスクを身につける。

 

「…姉さん、すまない。

もっと色々と話をしたんだけど、今は…ここを離れよう」

 

そういってアレックスはミーシャの手を握る。

 

「一緒に行こう。

行くんだ、姉さん」

 

ミーシャの柔らかく握られていた手に、段々と力が込められていく。

 

「アレックス…でも…」

 

「姉さんはここにいるべき人間じゃない」

 

ガスマスクをつけたアレックス、スカルシュレッダーの表情はもう、ミーシャには読み取れない。

 

「でも、あの人達は…」

 

ミーシャはそういってスカルシュレッダーの背後、タルラを含めるレユニオンの兵士たちを見る。

ミーシャはゆっくりとアレックスの手を振り解き、胸に抱えて距離を取り始める。

 

「彼等は…仲間だよ。

…俺たち感染者にとっての、真の仲間だ」

 

「でも…でも…」

 

「ミーシャ」

 

スカルシュレッダーはミーシャに向かってガスマスク越しに鋭い目線を向ける。

 

「姉さんがここに連れてこられたと聞いて、彼等は何も言わずにこの作戦に協力してくれた。

傷ついた仲間も大勢いる。

それを、裏切るわけにはいかないんだ」

 

「…アレックス、貴方…」

 

ミーシャは後ずさる。

その瞳には困惑と、恐怖が感じ取れる。

 

「レユニオンに…なんで、そんな…」

 

「姉さん」

 

スカルシュレッダーは再び、ミーシャのすぐ目の前まで近づく。

 

「わからない…わからないよ!

アレクセイ!貴方一体ここで何人の人を傷つけて…ッ!?」

 

言い終わるより先に、ミーシャの首筋に金属製の注射器がつき刺さる。

スカルシュレッダーの手によって刺されたそれは、薬液を容赦なくミーシャへと注ぎ込む。

瞳孔が開き、やがて瞼を閉じて倒れこむミーシャを、スカルシュレッダーは抱き抱える。

 

「済んだのか?」

 

そのすぐ後ろにタルラが立ち、問いかける。

その瞳はスカルシュレッダーの腕の中で昏倒しているミーシャに向けられている。

 

「…すぐに理解してくれるとは、思いません。

姉さんは、あまりにも知らなすぎる」

 

「責める気にはならないのか」

 

「…どうして責められますか」

 

スカルシュレッダーはミーシャを抱えながら、タルラの脇を通り過ぎる。

 

「…子供なんです、まだ何も知らない」

 

「子供、か」

 

タルラの鈍色の瞳が、スカルシュレッダーの背中を見つめる。

スカルシュレッダーは無言のまま、シェルターの入り口で待機している仲間達に合流する。

返答がないことを確認したのち、タルラもまた、入り口へと歩き始めた。

 

「…待て!」

 

そんな彼らを呼び止める声。

二人の医療オペレーターに抱えられながら、スカルシュレッダーを睨みつけるワルファリン。

レユニオンの兵士たちは聞く耳を持たずにシェルターを後にしていく。

 

「…その子を、ミーシャをどうするつもりなのだ…!」

 

スカルシュレッダーもまた、少しの視線もくれずに、ただシェルターの外へと歩みを進める。

 

「わかっているのか!?

その子は重度の感染者なのだぞ!

お主は…ミーシャの弟、そうなのであろう!?」

 

その言葉を受けて、初めてスカルシュレッダーの歩みが止まる。

 

「その子は…置いて行くのだ…!

本当にその子のことを思うのならば…連れて行かないでくれ…お願いじゃ…!」

 

額から血を滲ませながら、ワルファリンは叫ぶ。

その様子をシェルターの中に残ったスカルシュレッダーは、ほんの少し振り返り、視界に収める。

 

「姉さんは…ミーシャは家に帰るだけだ、本当のな」

 

そう言って仲間の後を追い、シェルターを後にしようとする

ワルファリンは唇を噛み、苦悶の表情を浮かべて目を閉じた後、意を決したように大きく口を開いた。

 

「…死ぬぞ!!」

 

短く発せられたその言葉は、間違いなくスカルシュレッダーの耳にまで届いていた。

 

「死んでしまう!

その子は…ロドスの医療がなければ一月ともたんぞ!

お前は弟なのだろう!!」

 

立ち止まったスカルシュレッダーの背中を見つめ、ワルファリンは絞り出すように続けた。

 

「連れて行かんでくれ…お願いじゃ……」

 

スカルシュレッダーは答えない、それどころか、身じろぎの一つも起こさない。

時間にして数秒、その短い時間が永遠のように感じられる中で、先に口を開いたのはスカルシュレッダーだった。

 

「帰るんだ、俺達は」

 

その一言を聞いて、ワルファリンは瞳を絶望の色に染める。

脱力した彼女を二人のオペレーターが支える。

シェルターの内部の人間はただ、その場を後にするスカルシュレッダーを見つめるのみだった。

 

 

セクター1のシェルターは近く、その距離は確実に埋まっている、しかし彼等にはそれがとてつもなく遠く感じられた。

加えて数分前に感じられたあの震動が、彼等の焦りをさらに煽る。

 

「あと少しです!!」

 

息を切らし、汗を迸らせながら、ようやくの思いでたどり着いたシェルターの入り口。

 

「…ああ、そんな」

 

そこにはチロチロと空気を舐める残り火が、内側に吹き飛ばされたシェルターの扉周辺に撒き散らされている。

身を焼く熱もお構いなしに、オペレーター達はシェルターの中に飛び込んでいく。

ジョンも彼等に続き、シェルターの入り口に立つ。

 

「ああ…よかった…!!」

 

P・M(ポジティブ・モンキー)が安堵の声をあげている。

そこには若干の傷を負いながららも、医療オペレーター達に治療を受けている戦闘オペレーター達と、患者達がいた。

 

「みんな、無事だったのか…!」

 

前衛オペレーターの一人が壁際に項垂れている重装オペレーターに近づいていく。

 

「何があった!?」

 

「…き、来てくれたのか!?」

 

重装オペレーターは跳ね上がるように起き上がると前衛オペレーターの肩を掴んだ。

 

「少女が…ミーシャって子が連れて行かれた!!」

 

「…はぁ!?」

 

「あいつら…俺達や他の患者には目もくれずに…あの子一人だけを連れて行った!!」

 

「お、お前らは一体何をしてたんだよ!!」

 

前衛オペレーターの言葉を受け、重装オペレーターは震えながら地面に崩れ落ちた。

 

「……そうだよな…俺は…俺…くそ…どうしようもねえじゃねえかよ…あんなの…どうにもなんねえよ」

 

頭を抱えて地面に蹲る重装オペレーターを前にして、前衛オペレーターは言葉を失う。

ジョンは入り口に近い所に配置された医療ベッドに腰掛け、俯く一人の医療オペレーターらしき女性に近づいて行く。

 

「君は…確か龍門の作戦で」

 

ジョンがそう言葉を投げかけると、医療オペレーター…ワルファリンはゆっくりと頭を上げる。

ジョンは身をかがめてワルファリンと同じ目線に立つと、肩にゆっくり手を置いた。

 

「ワルファリン…だったか。

何があった、ミーシャはどこへ…」

 

「…ドクター…ドクター!!

ミーシャ…ミーシャが…!!」

 

「…落ち着け!

ワルファリン、でいいんだな?

落ち着くんだ、何があった、話してくれ」

 

「なんで…なんでもっと早く…!

あの子は…あの子は連れて行かれた…タルラが入り口を焼き切って…我らは大した抵抗もできなんだ…!

それで…あの子は」

 

ジョンの表情に暗い影が降りる。

ジョンが立ち上がり、シェルターの入り口に向かおうとすると、ワルファリンがローブの裾を掴んだ。

 

「…なんだワルファリン、今ならまだ…」

 

「レユニオンの幹部に…ミーシャの…身内がいた…!」

 

ジョンはその言葉に目を見開く。

 

「それは本当か?」

 

「このシェルターのもの全員が証人じゃ…!

ミーシャの様子を見るに…間違いはない…!」

 

 

『…私の両親は…殺されたの…チェルノボーグの人々に…』

  

『…私の弟が…鉱石病オリパシーに感染したの…まだ小さい頃…まだ私の後ろを…追いかけてくるくらいの…小さい頃』

 

『両親は隠したわ…でも…長くは続かなかった…。

目の血走った人達に…家のドアが壊されて……泣き叫ぶ弟を抱えて…両親は必死に止めようとした…私を…クローゼットに押し込めて…』

 

『…わた……私…隠れているだけだった……弟が呼んでたのに……私…パパ……ママ……!』

 

『…アレックス……私…わたしの…』

 

 

「……まさか」

 

「ドクター…!」

 

ワルファリンは力強くローブの裾を引き寄せる。

 

「あの子を、連れ戻してくれ…このままじゃあの子は…唯一の肉親である弟の手で…死ぬことになってしまう…!」

 

「…詳しく話せ」

 

 

通路に怒号と轟音が響き渡る。

 

「セイヤァ!!」

 

エフイーターの操る鉄甲が勢いよく振るわれ、マチェットでそれを受け止めた兵士を壁に向かって叩きつける。

次いで後ろから襲いかかる兵士を、鉄甲を地面に突き立て軸として回転し、生身の足で顎を正確に蹴り抜く。

しなやかな動きで地面に着地したエフイーターは、周囲で荒く息をするレユニオン兵士たちを見据えて細い息を吐き出す。

 

「スーッ…」

 

「さっすがあ、スーパースターは動きが違うね!」

 

そのすぐ近くで、数人の前衛オペレーターに守られながらミーボの操作を行うメイヤーが声をかける。

彼女によってまるで生きているかのように動く犬型の戦闘ロボット、ミーボはそれぞれがまるで訓練された軍用犬のように動き回り、レユニオン兵士たちを翻弄している。

そしてそれらの隙をメイヤー自身が放つアーツ攻撃によって補完し、それでも補いきれない穴をエフイーターが埋めることで、少ない人数の彼等は大勢のレユニオン兵士達と渡り合っていた。

 

「メイヤー、こいつら様子が変だよ!」

 

「そうだね、隙があればここをすり抜けようって感じ!

もう用事は済んだのかなぁ!?」

 

メイヤーはミーボの守備の穴を抜けて突っ込んでくるレユニオン兵士にアーツ攻撃を浴びせる。

 

「ぐあッ!?」

 

「用事が済んだらさようならって…虫がよすぎだよ!」

 

メイヤーの腰部の固定パーツから展開される複数のアームパーツが複雑に動き、それぞれがレユニオンの兵士を捉える。

 

「くッ!」

 

「怯むな!隊長達が戻る前に脱出地点を確保するんだ!」

 

レユニオンの兵士たちも、統率の取れた動きで通路上に展開し、距離をとってエフイーター達に対峙する。

 

「…レユニオンの正規兵ってところかな、流石によく動くねえ」

 

メイヤーの頬に一筋の汗が伝う。

 

「ここは、通さない!」

 

エフイーターは飛び下がりながらメイヤーの隣に立ち、鉄甲を打ち鳴らし、両の足で地面に円を描きながら、流れるような動きで構えをとる。

 

「メイヤー!ここで踏みとどまればきっと応援がきてくれる!

みんな!こいつらをここから逃しちゃダメだ!」

 

「わかってる!

ミーボ、フル展開!

お兄さん達!即興コンビネーションで行こう!」

 

「「「応ッ!」」」

 

メイヤーがガジェットボックスからさらにミーボを1体展開させ、その穴を埋める形で3人の前衛オペレーター達が配置につく。

レユニオンの兵士たちは歯軋りを上げながらジリジリと距離を詰め始める。

 

(本隊が戻って来たら…長くはもたない、誰か…早く来て!)

 

エフイーターは額から垂れてきた血を舐めとる。

その時だった。

レユニオンの兵士たちの背後から、風切り音を上げて飛翔してくる物体が4つ。

点にしか見えないはずのそれを、メイヤーの目は捉えていた。

 

(…擲弾…!?)

 

即座に指を動かす、ミーボ三体を同時に操作し、宙に飛び上がらせる。

メイヤー達とレユニオンの兵士たちのちょうど中間地点で、擲弾の一つを一体のミーボが捉え、接触したのと同時にそれは爆ぜた。

爆散するミーボの破片を受けながら、さらにもう2体のミーボが擲弾に接触する。

続け様に起こる炸裂。

 

(お願い!!)

 

4発の擲弾、3つは対応した。

しかし、残りの一発は運だのみだった。

炸裂の衝撃で誘爆を起こすことを期待していた。

だが。

 

「…あ…!」

 

爆炎の中を掻き分けて突き進んできた弾頭。

メイヤー達の集団の中央に目掛けて確実に突き刺さる軌道に狭い通路。

最悪のイメージが頭によぎる。

 

「…みんな!ふせ…!!」

 

メイヤーが声を上げるのと同時に、真横から飛び出す影があった。

 

「待っ…!?」

 

前衛オペレーターの一人が声を上げて手を伸ばすが、それを抜け、エフイーターは鉄甲を構えながら飛び出す。

メイヤーは声にならない叫び声を上げた。

前衛オペレーターの二人が悲痛な表情でメイヤーを地面に押し倒す。

残った一人は、飛び出していったエフイーターを全力で追った。

エフイーターは鉄甲を交差し、擲弾目掛けて飛びかかる。

 

(…あはは、またカッコつけちゃった)

 

交差した鉄甲の隙間から、まっすぐに擲弾を捉える。

 

(うう、絶対怒られる…)

 

恐怖を感じたのは、擲弾が仲間に迫っていると感じた時だけだった。

いざ前に足を踏み出せば、その恐怖はもうない。

なぜならば、仲間を脅かす元凶は、今自分の腕の届く所にある。

 

(…でも、こういう展開)

 

自らの鉄甲で守れるものがある。

 

(王道で大好きなんだから、困っちゃうよねえ!)

 

「うあああああぁぁぁッ!!」

 

鉄甲の先に感じた僅かな感触。

次の瞬間、エフイーターの視界は真っ白に塗りつぶされた。

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