METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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「はえ!?」

 

気がつくと地面との境目さえわからないくらい、真っ白な世界に立っていた。

呆然とし、あたりを見回すがそこには自分の存在以外何もない。

閃光の中にいるような感覚。

思わず地面に四つん這いになり、足元の感覚を確認する。

 

感触はある。

滑らかな布地を触っているような感覚。

立っている時は硬い地面のような感触だったが、手で触れると、時々呼吸をするように撓む。

 

「ここ、どこなんだろう」

 

背中に背負っていた鉄甲がない。

武装がないことに一抹の不安を覚える。

 

その時、目の前に突然、今まで存在していなかったものが現れた。

それはさも最初からそこに存在したかのように、自らの数歩先にあった。

 

ガーデンテーブルとチェア、テーブルの上にはクロスの敷かれたティーセット。

二つあるティーカップのうちの片方は伏せられているが、もう片方からは澄んだ琥珀色の液体が注がれ、湯気を出している。

 

頬を一筋の汗が伝う。

 

「まさか…あの世って事はないよね?」

 

「まさかまさか、それは困る」

 

背後から発せられた声に勢いよく振り返る。

しかし、そこには誰もいない。

 

ふたたびガーデンテーブルの方に向き直ると、そこにはグレーのスーツを着込んだ老紳士が、ティーカップを片手にチェアに腰掛けていた。

 

「君も困るだろう、可愛らしいお嬢さん」

 

老紳士はティーカップを軽く掲げながら、目線をこちらに向けてくる。

その視線は柔らかいもので触れられるような不思議な感覚を覚えるもので、張り詰めた緊張感をほぐしていく。

 

「じ、じゃあ…ここは、どこなの?」

 

「それを私もずっと考えているのだが」

 

老紳士はゆっくりと周りを見渡すと、再びこちらに向き直って首を傾げる。

 

「皆目検討がつかんのだよ」

 

「…じゃあ、あの世ってことも、あるわけです…よね?」

 

「いやあ、それはない」

 

老紳士は対面の席に手をやって座るように促す。

 

「私は生きているからね、座らないか?」

 

「…」

 

不思議と疑う気も起きず、席に腰をかける。

 

「紅茶でいいかな」

 

「…う、うん」

 

「今日の気分はティーバッグでね、近所のストアで買ったものなんだが」

 

老紳士はティーバッグをカップに落とし、そこにポットから熱いお茶を注ぐ。

 

「企業努力の賜物なのだろうな、リーフとはまた違う趣があって私は好きだ。

…最近はずっとこれなんだよ」

 

「…」

 

「数分ほど蒸すのがコツだよ、覚えておくといい」

 

紅茶にはあまり縁がなかったが、老紳士の差し出したティーカップから漂う華やかな香に、思わずため息を漏らす。

 

「君のようなお嬢さんがね…ここにくるとは思わなかった。

おまけに可愛らしい耳が生えている。

案外ここは、不思議の国の何処かなのかもしれないな。

ミルクは入れるだろう?」

 

「…え、あ…はい」

 

老紳士はミルクポットを差し出すと、茶葉をむらす数分の間、興味深そうにこちらを眺めている。

 

「あの…何か?」

 

「落ち着いているね、紅茶のおかげかな?

それとも私のおかげかな?」

 

思わず笑みが漏れる。

 

「…おじさんのおかげ、かな」

 

「そうかそうか、スコーンはいるかな」

 

老紳士がそういうと、テーブルの上にスコーンの置かれた皿が現れる。

先程のテーブル、老紳士のそれと同様に、まるで最初からそこにあったかのように。

 

「ちょうど飲み頃のはずだ、これは私の手作りでね。

その茶葉にあうよ」

 

「いただきます」

 

そう言って皿の上に手を伸ばす。

 

「はむ…あの、私…」

 

「安心したまえ、それを飲み終える頃には戻れるよ」

 

老紳士はそう言って笑う。

気づかないうちに、老紳士はメガネをかけて新聞紙を大きく開いている。

 

「そちらは随分と騒がしいようだね」

 

琥珀色に染まったそれにミルクを注ぎ、ティースプーンで軽くかき混ぜてから口に含む。

花や木々を思わせる香りに、ミルクのまろやかさと甘さがここちいい。

 

「彼も相変わらず、変わったことに巻き込まれているようだ。

…全く、いつになったら迎えに来てくれるのやら」

 

「彼?」

 

老紳士は新聞紙を半分に折り曲げ、メガネ越しに視線を向けてくる。

 

「彼も私も、立場の説明が難しくてね。

いや、一方的に押し付けるような形になってしまって申し訳ないとは思っているよ」

 

「…?…おじさん、一体何者なの?」

 

「ん?…ふふ」

 

老紳士の言っていることを何一つとして理解できぬまま、手元の紅茶だけが飲み進んでいく。

暫く紅茶とスコーンの組み合わせに舌鼓を打っていると、老紳士が腕時計を確認してこちらに向き直った。

 

「…そろそろ時間かな」

 

老紳士がそうつぶやいた瞬間、手元にあったはずのティーカップが消え、テーブルの上の物も全てが消え去っている。

 

「…あれ?あれ!?」

 

「君はもう戻らなくては、楽しいティータイムだったよ」

 

老紳士はそう言って微笑む。

 

「目を瞑って」

 

彼に言われるがまま、瞼を閉じる。

途端に暗い闇に閉ざされる世界。

しかし、だんだんとその真ん中から、眩い光が差し込んでくる。

朝ベッドから起き上がるような、半分宙に浮いているかのような感覚。

 

「…これはここに来た者、皆にお願いしているのだがね」

 

老紳士の言葉を最後に、瞼の裏側の世界は再び純白の世界へと帰って行った。

 

「彼を、頼んだよ」

 

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