METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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VIC BOSS
塗りつぶしていく


荒野の闇の中で、燃え盛る炎に照らされる移動都市ロドス。

霧の中でドーム状に影を浮かび上がらせるそれを目指して数十機のヘリコプターが夜空を駆けている。

 

『目標地点まで残り3㎞』

 

『降下準備』

 

座席から立ち上がる屈強な兵士たちは、フルハーネスのベルトに取り付けられている大ぶりのカラビナを握る。

機内の赤ランプに照らされた男たちの表情は、ブラックスモークのバイザーによって覗うことはできないが、無個性かつ統率の取れたその動きは一つの生き物のように機能していた。

パイロットの座席の後方、ヘリボーン指揮官の席には一人の女性が座っている。

その対面には極めて大柄な(少し身を屈めなければ座っていたとしても備品に頭をぶつけてしまいそうな)女性兵士が、まるで主人の傍に控える従者のように。同じように目を瞑って座っている。

腕を組み、瞼を閉じて揺れるヘリの中で微動だにしない彼女たちの姿を兵士たちは見つめる。

やがて輸送ヘリは右舷側を業火にさらされる移動都市の直上に到達する。

 

『前方に注意』

 

ヘッドセットから僚機からの注意喚起が聞こえてくる。

 

「チェン警司、隊長」

 

大柄な女性兵士がヘッドセットのマイク部分をつまんで目の前の指揮官に声を投げかける。

薄目を開き、キャノピー越しにヘリの前方を見るチェンの視界には、赤いヘリコプターが数機、胴体部分に収納されたコンテナから消火剤を振りまいているのが映った。

先頭を行くヘリのキャビンの扉を開け放ち、防火装備の男が無線を片手に叫んでいるのがヘリの中にいてもわかる。

その傍らには大男に比べて、こじんまりとしたザラックの女性消防隊員が神妙な面持ちでロドスを見つめていた。

 

『付近を飛行中の龍門近衛局機。

消火活動優先のため、我々は先んじて降下する、よろしいか』

 

パイロットが前方で既に着陸態勢に入っている消防隊機を見て、チェンに視線を向ける。

パイロットが何か言う前に、チェンはヘッドセットの周波数を操作しコールボタンを押す。

 

『現場の脅威レベルの把握は済んでいる。

貴官らの先行を認める』

 

『感謝する』

 

言うや否や、消防隊機はすさまじい速度でロドスの甲板に急降下し、ホバリングを始めた数機のヘリから数十人の消防隊員がラぺリング降下していく。

 

『・・・応答されたし…上空を飛行中の・・・…龍門機…聞こえるか』

 

続けざまにチェンの耳にノイズ交じりの通信が入ってくる。

 

『ロドスからです』

 

パイロットがヘリの操作モジュールに投影された周波数を見てチェンに告げる。

 

『こちらは龍門近衛局、チェン上級警司だ。

貴官の所属を述べられたし』

 

『…こちらは移動都市ロドス…管制塔…・・・。

救援感謝する…そちらは現在消防隊の受け入れで埋まっている…降下ポイントをマークする…』

 

『感謝する管制官』

 

チェンは通信を切ると立ち上がり、パイロットの背もたれに手をやる。

 

『指定ポイントへ迎え』

 

『了解。

各隊、本機に続け』

 

パイロットは操縦桿を傾け、ヘリは傾き轟音を発しながら指定の甲板へと向かう。

 

 

ロドスの作戦会議室、二人の重装オペレーターを傍に控えさせ、ケルシーはオペレーター達に指示を与えていた。

 

「レユニオンの残存勢力を見落とすな、警備オペレーターは各々の守備エリアでアラートが消えるまで待機。

…第1セクターにもっと人手を、最も被害の多い区画だ。

警備オペレーター以外の手の空いたものを優先的に回せ」

 

手元のタブレットを操作しながら、インカムマイクに向けて指示するケルシーのもとにオペレーターが駆け寄ってくる。

 

「ケルシー先生!」

 

「どうした」

 

「龍門消防隊の皆さんが到着されました!」

 

走ってきたオペレーターの後ろには数人の消防隊員、そしてその先頭にザラックの女性消防官が背筋を正し、整列している。

 

「龍門消防署所属第2分遣隊隊長のショウです貴艦の消火活動の助勢を命じられましたよろしくお願いします!」

 

ケルシーはタブレットをわきに抱えて会釈をする。

 

「医療部長のケルシーです。

この度は急な要請にも関わらず、迅速な救援を感謝します。

消火中の区画の責任者に話はつけてあります、そちらで指示を」

 

身を屈めてそう告げたケルシーの視線をまっすぐに受け止めると、ショウは素早い動きで敬礼を返した。

 

「かしこまりました!」

 

ケルシーが目くばせをすると、オペレーターはショウ達消防官を会議室の外へと先導する。

 

「チェン警司はどうした?」

 

付近でタブレットを操作していた女性オペレーターが、メガネの位置を直しながら返答する。

 

「第1セクターのヘリポートに現在降下中です」

 

「…せっかちな奴だ」

 

「いえ、あそこしか空きがありませんでしたので仕方なく…」

 

ケルシーは再び開いたタブレットの画面表示された、赤い光点の表示されたボロボロのセクター1を見つめる。

 

(アーミヤ…私はここを離れられない)

 

ケルシーの目線の先、赤い光点に囲まれた複数のオペレーターマーク、その内の二つにケルシーは鋭い目を向ける。

 

(胸騒ぎがする…杞憂に終わればいいが)

 

 

チェンが搭乗しているヘリは、ロドスの管制塔に誘導されたヘリポートにゆっくりと着陸し始める。

ローターの吹き起こす風に抗いながらも、オペレーターの一人がチェンの搭乗するヘリに向かって駆けて行く。

搭乗口のスライドドアが勢いよく開き、まず初めに大柄な女性兵士が降りてくる。

オペレーターは見上げるようなその巨躯に息をのみ、素早い動作で敬礼する。

 

「お、お待ちしておりました!」

 

「お疲れさまです、龍門近衛局、保安隊所属のホシグマです」

 

女性兵士もまた素早く敬礼を返すと、いまだにいたるところで煙をたなびかせるロドスを見る。

 

「大変な被害を被ったとのこと、救援が遅れ申し訳ありません」

 

「い、いえ…そんな」

 

「無駄口はいい」

 

続いてチェンが搭乗口から降りてくる。

オペレーターが再度敬礼をすると、チェンは冷たい視線を投げかける。

ホシグマは目を伏せ、チェンの前から身をどかす。

 

「あの男の所へ案内してもらおう」

 

 

いまだ戦闘の傷跡が生々しく残る通路。

割れた照明、抉られた壁面、散乱する装備の破片、そこら中に張り付いた血糊。

赤い非常灯が照らす混沌の空間を、歪な円を描いた巨大な穴から月の光が照らす。

月明かりを受け、艦内に一筋の影を落とす一人の男。

融解し冷え固まった足元、男は踏み抜かんばかりに力を入れた両の足で立っていた。

その目はただ冷えた光を反射する月に向けられている。

 

「ドクター…」

 

月明かりが作り出す影に隠れるかのように、アーミヤはジョンの横から声をかける。

その瞳に映る淡い月の光を見つめ、アーミヤは押しつぶされそうな気持ちを抑え、ジョンに声をかけ続ける。

 

「…そこは冷えます」

 

ゆっくりとジョンの視線がアーミヤのほうへと向けられる。

その瞳には月の光と赤い非常灯が混じる。

 

「アーミヤ、すまない…しばらく、一人にしてくれ」

 

心の底から申し訳なさそうな声を、ジョンはアーミヤに返す。

 

「…はい」

 

アーミヤは服の裾を握りながら、ゆっくりとジョンの傍を離れていく。

再び、ジョンはまっすぐ月へと向き直る。

 

 

頭の中に、ベッドで儚げな微笑みを浮かべる少女が浮かぶ。

またしても、守ることはかなわなかった。

そんな思いが泥のように胸の中を渦巻く。

ミーシャをこの場所に連れてきたのは、まぎれもない、自分の判断である。

 

自分の考えは、またしても浅く、そして大勢の人間を巻き込んだ。

自らの世界の常識にすら翻弄され続けた。

そんな自分の判断を、過信していた。

あまりにも浅はかだった。

 

「…私はまた奪ってしまったのだろうか」

 

そう言って胸を撫でるジョンの脳裏にPRTSが表示した「KIA」リストが蘇る。

 

「ACEたちも含めれば…決して少ない人数ではない」

 

さする手を心臓のあたりで止めたジョンの腕に力がこもる。

 

「…あなたなら、救えた命だったのかもしれない。

もう私は、あなたの顔を思い出すことすらもできはしないが」

 

鏡に映る知る由もない男の、「ドクター」の顔つきは日に日に自らのそれに近くなっていく。

ジョンが覚醒し、初めに見た自らの顔は、まったくの別人のものであった「はず」だった。

自分という存在が、赤の他人の世界を塗り潰していく。

 

「ただ奪っているだけだ。

あなたが築いたものを、作り上げていく筈だったものを…大事にしてきたものを。

恐ろしい、他人が築き上げてきたものを、たやすく壊してしまえるこの状況が」

 

己と同じ名前の知らない誰かに、ジョンは語り続ける。

唐突にジョンの脳裏にアーミヤの笑顔が鮮明に思い起こされる。

 

「…アーミヤ」

 

栗の色の髪、屈託のない笑顔で自らの手を引く少女の姿。

偽物と分かっていながらも、ジョンという存在を認めてくれた、ただの一人で受け止めた。

 

「…私は…戦うことでしか自分を貫けなかった男だ」

 

それを皮切りに、ロドスで過ごした情景の一つ一つがジョンの頭の中を駆け巡る。

その中には、覚えのない光景も入り混じる。

ジョンはそれが「ドクター」の記憶の一部だと理解した。

 

「すべてを壊してしまうかもしれない」

 

すぐ横で血を流して戦うオペレーター達。

庇い、倒れ、繋いでくれと懇願する瞳。

畏れ、恐怖の瞳を向けるオペレーター達。

…それでもなお、少女とその仲間たちから注がれる、憧れと、信頼。

 

「そうだ…そうやって繋いできたもののすべてを、私は壊すかもしれない。

それでも守れというのか…この私に」

 

ただ「ドクター」というだけで、無条件に注がれる信頼や、笑顔、そして期待。

目を抑えるジョンの脳裏に、見たこともない光景が投影される。

 

光り輝く壮大な世界、広大で色鮮やかな自然を前に、少し大きくなった少女が髪を揺らして立っている。

こちらの視線に気づいた少女は、目を細めて笑い、やがて手を取って仲間たちのもとへと引いていく。

こちらに振り向いた少女の、その双眸に映るのは…。

 

「やめろ!!」

 

ジョンは思わず声を荒げる。

 

「…やめてくれ、私には…無理だ」

 

 

『あなたでなければだめなんだ』

 

 

「!?」

 

突然響いた声にジョンは目を見開き、周囲を見渡す。

 

 

『あなたなら、彼らを導ける』

 

 

「な…!?誰だ!?」

 

 

『俺は、俺には無理だった』

 

 

「…お前は」

 

ジョンは頭に手をやりながら声を震わせる。

額からは冷たい汗が垂れる。

 

「待て!答えろ!

「俺」は一体、なんなんだ!!どうしてこの世界に…!!」

 

 

『…あまり、時間がない』

 

 

「待てッ!!どういうことだ!!

お前は知っているのか!?待ってくれ!!」

 

 

『あんたは、あんただ…俺じゃない、いいんだ…あなたがしたいようにすればいい』

 

 

「だが俺は…!!」

 

 

『どうか、頼む』

 

『その世界を、あの子を取り巻くすべてを、変えてやってくれ』

 

『俺を…かつて俺たちを救ってくれたように』

 

『…VIC BOSS(勝利のボス)…』

 

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