METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
月光の下で、「それ」に触れることのできない両の手が空を彷徨う。
途端に疼きだす、鈍い頭の痛みと胸の傷。
「『
心臓が高鳴り、動揺した意識下できこえたのは…たしかに一つの称号。
…本当に聞こえたのか、「あれ」はそう言ったのだろうか。
身が震え、寒気を覚えるほどに聞きなれた呼び名。
そして、この状況において決して聞こえることのない呼び名。
「…」
脳裏を濁流のように駆け巡る記憶。
…
『ビッグボス…俺は…この3年間の悪夢を払いに来た』
おぞましい研究の産物…紛い物に過ぎない筈の何か…。
私の分裂体であるあいつは、しかして私とは異なる意思を持ち、正面から抗った。
「あいつ」は私とは違った。
ザンジバーランド…あそこで、我々の唯一の居場所である戦場を、作り替えていく紛い物の規範に抗う我々に、身一つで立ち向かった。
ただ、己の忠を尽くすために。
戦うことでしか意思を示せないと思っていた。
私も、そんな私から作り出された…「あいつ」も。
『俺は…俺は自由を手に入れるために、お前を…』
自由…思えば私はその言葉にどれだけ縛られてきただろう。
どれだけとらわれてきたのだろう。
どちらが勝っても戦いは、闘争は終わらない。
敗者は戦場から解放される。
しかし、勝者はその時が訪れるまでは、戦場にとらわれ続ける。
それが自分の自由意思によるものだと、惑わし続ける。
そして…。
…
「勝者は…死ぬまで戦士としての生を全うする…」
思わず口に出た。
相手の意思を挫くために放った、苦し紛れの自らの意思。
…
『例外もある…俺は、俺の人生を愛している』
…
「スネーク…」
ジョンの脳裏に、ただ真正面から相対する好敵手の顔が浮かぶ。
何に忠を尽くすか。
あの時、その問いの一つの解を見た。
『
受け止め、自らに戒めた、呪いのようなその称号は、いつしか大きな重圧となって圧し掛かってきた。
祖国でもない、時代でもない、ましてや…自らに捧ぐ忠でもない。
自らの忠は仲間に…己と同じ「戦士達」に捧げた。
…私の意思はどこかで大きくねじ曲がってしまったのだろう。
そして…「忠」はあの時、あいつの執念とガス缶、安っぽいライターによって燃やされ、朽ち果てた。
大きな意思の衝突、己がために忠を尽くしたあいつに、私の意思は敗れた。
全てが終わったはずだった。
解放、己を縛り続けた精神からの解放…争いからの解放。
しかし。
「…私は、今ここにいる。
借り物の体の中に、全てを変えうる立場で」
…
『私たちから、逃げないで…置いていかないで……』
…
「アーミヤ…」
新たに自らの精神に穿たれた、一人の少女の縋るような願い。
それを受け止める義理はないはずだった。
しかし、そのような考えが少しも沸かなかったのはなぜだろうか。
この体の意思によるものだろうか。
(いや…それは違う)
私はあの時、あのがれきの山の上で、一人の少女の意思を真正面から受け止めた。
震えたのだ。
守らねばならない、救わなければならない…戦わねばならない。
その強烈な意思に、嘗ての光景を見た。
『ありのままの世界のために、最善を尽くすこと』
あの子は、自らの希望、それまで自らを導いてきた者を切り捨てて、それでも私に縋った。
ただ、自らの信じる道のために、私が必要なのだと、己の身を切り崩して。
『自らの意思を信じること』
それがなぜこんなにも簡単なように聞こえて、その実どれほどまでに難しいか。
それを…あんな少女が…。
(そうだ…私は震えたのだ)
あの時、一つの理想を目の当たりにした。
『他者の意思を尊重すること』
…
「…今の私でも…一つの意思に寄り添うことくらいは、できるだろうか」
胸を抑える力が強くなっていく。
「…私は死人だ…解放されし者…そうだ…私には、もうなんの束縛もない」
フードを勢いよく取り去り、ジョン…いや、かつての「ビッグボス」の輝きを宿した瞳で月を見上げる。
「ああ、わかったよ。
もう、考えることはやめた。
あんたがなぜ私を…「
そう言って苦笑を浮かべ、夜空に向かって拳を突き出す。
「…まったく、B級映画のお約束だな。
だが、あんたがそういうのなら、私は今一度、自らの意思を「ここ」で貫こう。
それがあんたの願いなら、私は今一度、この身を闘争の業火に晒そう」
闇夜の月に、ロドスを焦がす業火の火花が、まるで蛍のように宙を舞う。
「ここでもう一度…私は「サーガ」を作り上げる。
この世界が例え紛い物の、夢のようなものだとしても。
…あの子の意思の下、それが…あなたの願いなら」