METAL GEAR × Arknights 作:安曇野わさび
空調の音が響くほどに静まり返った一室、そこにケルシー、アーミヤ、ジョン。
龍門近衛局所属のチェンにホシグマ、そして彼女たちの部下数名。
ロドス所属のオペレーター、それらを小隊規模で束ねる者たちが、作戦会議室に一同に会する。
3Dマップの表示された円卓には、龍門から提供された鉱山跡が投影されている。
「本作戦の概要を説明する」
円卓から放たれる光源に照らされながら、ケルシーは手元のコンソールを操作する。
「数時間前、我々はレユニオンの襲撃を受け、龍門、そしてロドスの双方にとって重大な役割を持つ存在を拉致された」
円卓に一人の少女の画像が表示される。
「ここには既にこの少女を確認している者もいるが、改めて全体に通しておく。
少女の名前はミーシャ、龍門にとってはレユニオンの攻勢において重要な情報を持つと思われている人物であり…」
ケルシーはロドスのオペレーター達一人一人に目を向けるように、全体に視線を走らせる。
「我々にとっては、組織の根幹を支える信念を揺るがしかねない存在だ。
ロドスのオペレーター達の手に強く力がこもる。
「本作戦は奪還作戦である。
レユニオンに拉致された本対象を彼らから奪還、保護するのが目的だ」
ケルシーがコンソールを操作すると、円卓に再び鉱山跡地の3Dマップが表示される。
ジョンの薄く開かれた瞳に、映像が投影される。
「龍門政府からの情報提供で、彼らの所在と思しき場所を知ることができた。
移動都市龍門から南西方向に約80キロ、鉱石資源発掘の為に開拓された旧ウルサス帝国領の鉱山跡地に、彼らが潜伏していると思われる」
「あれだけの規模のレユニオンがこの場所に?」
青髪の少女、行動予備隊の一つを束ねるオペレーターのフェンが声を上げる。
「いや、既に彼らはいくつかの集団に分離している。
首謀者であるタルラ、そしてあの場にいたと思われる複数人の幹部は既に行方をくらませた」
「では鉱山跡地にいる連中が、ミーシャを確保しているとは限らないのでは?」
バラクラバで顔を覆い隠すペッローのオペレーターが鉱山跡地のマップを見ながらにつぶやく。
ケルシーは円卓にある人物の画像を上げる。
そこにはガスマスクで顔を覆い隠したレユニオンの兵士が表示された。
「…どこかで見た顔だわ」
「あれですね…デブリーフィングで」
オーキッドとメランサが顔をしかめて画像を見つめる。
「この人物はレユニオンの幹部、または部隊の長とみられている人物だ。
艦内での監視記録から「スカルシュレッダー」と呼ばれている、少なくとも一部隊を率いるリーダー格であるのは間違いない」
ケルシーはそこで一拍おき、再びオペレーター達に口を開く。
「このスカルシュレッダーがミーシャの拉致の実行犯であり、今現在も彼女を保護していると思われている。
龍門政府が掴んだレユニオン部隊の所在は、運がいいことにこのスカルシュレッダーの部隊だ。
そして、この人物は保護対象であるミーシャの血縁…姉弟関係にある人物だと思われる」
オペレーター達の間に驚きの波紋が広がる。
途端にざわめきだす会議室。
ケルシーは短くため息を吐き、一席に腰かけるオペレーターに声をかける。
「…ワルファリン」
「ああ」
ざわめく会議室に、椅子から立ち上がった白髪の医療オペレーターのよく通る声が響き渡る。
「みんな聞いてくれ」
ワルファリンのその一言に、会議室のオペレーター達は徐々に静まっていく。
静まったのを確認してワルファリンは再び口を開いた。
「皆の思ったことは、大体だが妾にもわかる。
今回の騒動、ロドスにとっては過去に経験したことのない大損害だった。
その上で、この情報はきっと皆にとっては最悪の想像を促しただろう。
「ミーシャはレユニオンの間者だったのではないか」…と」
ワルファリンは眉間にしわを寄せながらに続ける。
「だが、この少女、ミーシャに関してはそのようなことはないと断言する。
セクター1、シェルターでの襲撃、妾もその現場に居合わせていた。
彼らの交わした会話には、再会した兄弟のそれはあっても、決して間者とその主といった雰囲気はなかった」
ワルファリンはジョンをちらりと見る。
ジョンと目のあったワルファリンは、小さくうなずいた後、ジョンが頷き返したのを確認して目を伏せる。
「…それに、彼女は本当に心の優しい子だ。
襲われる妾の代わりにその身を投げ出して、隠れておればよいのに、皆の制止を振り切ってその身を彼らに晒した。
あれは…あれは決して演技などではない、彼女は感染者だ、それも皆が想像するより、ずっと重い病症を患っている。
だが悲観せず、助けようとする我らに心からの感謝を示していた」
ワルファリンの言葉に、その場にいたオペレーター達は段々とその目に真剣みを宿らせていく。
「助けたい、彼女を悲観と絶望の中に死なせるわけにはいかないのだ」
ワルファリンは最後にそうつぶやくと、音もたてずに椅子に再び腰かけた。
隣に腰かけていた医療オペレーターがその肩をさする。
「ありがとう、ワルファリン。
聞いての通りだ」
ケルシーは椅子から立ち上がり、声に張りを持たせてオペレーター達に声を投げかける。
「我々の信条を再び確認しよう。
我々は病に苦しむ者たちと手を取り合い、その手にメスと武器を握る」
ケルシーが言葉にした信条を、胸の中で再確認するように、アーミヤは胸に手を当てる。
「彼女は私たちの守るべき感染者だ。
私たちには力がある、架け橋たらんとする覚悟もある。
そのうえで彼女の居場所もわかっている、なら我々は何をすべきか」
「「「「全ての者の明日を守る為に!」」」」
「我々が為すべきことを為しに行く。
…なお、本作戦には龍門近衛局、及び保安隊の3部隊が同行する。
これに関しては…ジョン、君に任せて構わないな」
「…ああ」
ジョンはケルシーからの投げかけに腕を組みつつ答える。
その様子を、ホシグマを挟んで腰かけるチェンが睨みつけている。
「AM08:30、ロドスの行動隊の総力を持ってこの鉱山跡地を叩く、準備にかかれ」
「「「「了解!」」」」
…
「新たな人員だと?」
ジョンは隣を歩く
「はい、加えて私たちの…ドクター直轄部隊のコールサインが正式に決定されました」
P・Mは辞令書をドクターに手渡す。
「…『M・E・T・A・L』…メタル、か」
「『MEdical TAsk Law enforcement force』。
医療任務従事 兼 治安維持部隊のもじりだそうですが、なかなかイカして…ドクター?」
「…またこれは…いたずらが過ぎるな」
「な、なにがです?
…ええと、気に入らなかったら再考をお願いしてきますが」
「…いや、これでいい、我々にはおあつらえ向きなコールサインじゃないか。
それよりも、新たに加わった者たちに顔を通しておきたい、まだ時間はあるかな」
「大丈夫です、アーミヤさんに話を通しておきます」
「ああ、頼む」
P・Mが走っていったのを確認してジョンは再び辞令に目を向ける。
(…つくづく、これがまだ夢なのではないかと思わせるものだ。
神様とやらの当てつけか?
…まあ、私にふさわしいコールサインといえば、皮肉なものだがその通りではあるな)
ジョンの脳裏に奇妙な感情とともに、あの武骨な兵器の記憶が蘇る。
(私にここで「
…それは、いくら何でも考えすぎか)
…