METAL GEAR × Arknights   作:安曇野わさび

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顔合わせ

AM 05:35

 

折り畳み式の床に据え付けられた椅子が、正面の大きなモニター画面を前に立ち並ぶ一室で、大勢のオペレーターが一言も発することなく、手元の資料に目を通していた。

中には空気を読まずに大きな欠伸をかましている女性オペレーターもいたが、それをとがめる者もいない。

それほどまでにその場にいるオペレーターのほとんどの神経は張りつめていた。

 

そんな様子を室内を一望できる、モニター前の席でドーベルマンは眺めている。

 

(新設部隊「METAL」か…ケルシー先生が主導だとは聞いていたが、この人選も彼女のものなのか?)

 

ロドス支給の装備を身にまとう下士官が約半数。

前衛、先鋒、重装、狙撃部隊の分隊を率いる彼らはロドスの戦闘班の中では古株といっても過言ではないベテラン揃いだった。

現場で医療活動を行う医療オペレーター達、ワルファリンを筆頭に数名で固まる彼らは各々の資料に目を通しながら、タブレットで何かを操作している。

加えて流通や物資の管理を主とする裏方のオペレーター達。

彼らがこのブリーフィングに参加している理由は、作戦資料を見る限り医療ポッドを現地に持ちこむための事前確認の為だろう。

ヘリのパイロットも何人か参加しているようで、バイザーの大きいヘルメットを膝に抱えて会議が始まるのを待っている。

 

その中でも再編成された行動隊E3の顔ぶれをドーベルマンは見つめる。

現在は隊員のほとんどを先鋒オペレーターで構成するE3だが、もとはエリートオペレーター「ACE」の直轄の部隊であった。

構成員の大半をチェルノボーグで失った彼らは、警備オペレーターのユニット1-25として再編成されたが、あの作戦の生き残りと非番だった部隊の数名(ロドス襲撃の際に被害を受け、さらに隊員数を減らしたが)に加え、訓練期を終えた新兵たちを迎え、繰り上がりで隊長になった先鋒オペレーターのもとに再々編成された。

顔を半分、火傷でただれさせ、黒髪を焦がしたヴァルポの隊長が、ドーベルマンの視線に気づいて会釈する。

 

(…医療オペレーターが騒いでいたのはそういうことか、制止を押し切ってきたな…全く、誰に似たのか)

 

ドーベルマンは会釈を返すと、最前列の席に副官を伴って腰かける人物に視線を向ける。

行動隊E4、元はドクター救出作戦のために編成された重装部隊だが、その際リーダーを務めた女性オペレーター、ニアールの意向でそのまま正式に部隊として認可された部隊である。

ニアールが副官と資料を見ながら小声で話しているのをドーベルマンは見つめる。

 

(ニアールほどの実力者の異動をよく許したものだ、彼女の意思もあったのだろうが)

 

続いてバラクラバで顔を隠した前衛オペレーターと会話を交わしながらタブレットを操作しているコータスの女性オペレーターを見る。

空鼠色の髪を長く伸ばし、コータス特有の長い耳を動かしている彼女は、真剣な表情を隣のオペレーターに向けながら作戦資料に赤線を引いている。

彼女もまた、れっきとしたロドスの前衛オペレーターの一人だ。

 

(サベージ、彼女も参加するのか)

 

ロドスのオペレーターの中でも古株の部類に入るサベージは、本来であれば別の作戦小隊に所属しているはずだが、今回の事例で急遽選抜されたのだろうか、数名の部下を伴って、ブリーフィングに参加しているようだった。

 

(前衛オペレーター達はドクターの直轄…か、これはまた騒がしくなりそうだな)

 

そして自らの隣に腰かけるBSWの面々にも目を向ける。

リスカムとフランカ、外部企業組の彼女達は数度の作戦をジョンと共にしていることを考慮されて、戦闘アドバイザーとして参加している。

バニラとジェシカはオペレーター達と同じ席の列に腰かけているようだ。

 

「…どうかしましたか、ドーベルマンさん」

 

リスカムが視線に気づいて声をかけてくる。

ドーベルマンはほんの少し頬を緩ませる。

 

「いや、すまない。

あの救出作戦からあまりに動きが目まぐるしくてな、整理をつけているところだ」

 

「あー、それ分かるわ。

気づいたら私たち、ドクターの助手みたいになってるし」

 

フランカもまた、椅子の背もたれを大きく傾けてドーベルマンに声をかける。

 

「彼とは出会って間もないですが、確かに内容の濃い数日でしたからね」

 

「同感だ…ドクターが目覚めてからというもの、こうも事態が活発に動き回るとはな。

目が回って仕方がない」

 

ドーベルマンは再び、席に座るオペレーターの面々に顔を向ける。

列の中ほどにいる部隊を見て、ドーベルマンは短く息を吐きだす。

 

行動予備隊A1、A4、A6。

その隊長であるフェン、メランサ、オーキッド。

自らが育て上げたひよこたちが、この重大な作戦のブリーフィングに参加しているのを見て、ドーベルマンは教官としてどれだけの経験を積んでも、慣れそうにない感覚に身を震わせる。

 

(ドクターの指揮能力は買っているということだろうな。

でなければ彼らのような新米、ましてや歴戦の精鋭をあてがうことはしないだろう。

…だが)

 

室内を占めているもう半分。

ロドスの支給装備を身に纏わない者達。

 

(…入職して間もない戦闘オペレーター達を参加させるとは)

 

隊ごとにまとまった席に着くオペレーター達とは違い、間を縫うように空いた席に腰かける彼らは、そのほとんどが目の前にある資料には目もくれずに、各々の作業に勤しんでいる。

 

取り外されたスコープの調節メモリをドライバーでいじるエラフィア。

顎ひじをついて空調が回るのを眺めている珍しい鬼族。

刀を置くために椅子を3つ占領し腕を組んで目を瞑るサルカズ。

ブリーフィング資料を片手に金属容器から飲み物をすする初老のリーベリ。

腕のデバイスから見たこともない機械の設計図をホログラム展開しているエーギル人の少女。

 

ドーベルマンが顔を知っている者だけでも、個性豊かな面々が席に腰かけている。

 

(…特にあのサルカズの剣士、よく許可が下りたものだ)

 

黒髪にサルカズ特有の角を生やす青年剣士をドーベルマンは流し見る。

その時、モニター室の扉が音を立てて開かれた。

サルカズ剣士の目が薄く開かれ、扉の方へ瞳が走る。

P・M(ポジティブ・モンキー)によって開かれた扉からフードを被ったジョンとアーミヤが足早に入室する。

 

室内に入ると同時にフードを取り払い、ジョンは片方の青い瞳を室内に走らせる。

席に腰かけていた数名のオペレーターが立ち上がり、ジョンに敬礼を向ける。

ジョンが敬礼を返すと、彼らは再び席に着き、机上の資料を手に取った。

アーミヤが椅子を引き、ジョンが礼と共にテーブルの上にファイルを置き、腰かけたと同時に室内の照明が落ち、モニターに光がともる。

 

「本作戦はロドスの行動隊3隊と、新たに編成された我々「METAL」で実行する。

本部隊に編成された行動隊、及び予備隊…新たに参加する新規のオペレーターの諸君、既に顔合わせの済んでいる者たちもいるが、改めて自己紹介をしよう。

このような形での対面は不本意だが、私がこのロドスで戦闘指揮官…本作戦の指揮を任されているジョンだ、よろしく頼む。

指揮の補佐としてアーミヤ」

 

「よろしくお願いします」

 

「そして教導官のドーベルマン、BSW所属のリスカム、フランカが戦闘アドバイザーとして参加する。

さて…全員、既に資料は確認済みだな、手短に作戦を説明する」

 

ジョンはファイルを手に取るとドーベルマンに目配せする。

ドーベルマンは素早い動きでコンソールを操作すると、モニターにロドスから鉱山跡地まで光線の引かれたマップを映し出す。

 

「ケルシーから指示のあった通り、我々はAM08:30にこの鉱山跡地に潜伏しているレユニオンを叩く。

現地へは陸路と空路に分かれて向かう。

大まかに分けてチームは3つだ」

 

画面分割されたモニターに組み分けが表示される。

ロドスから鉱山跡地へと三本の光線が引かれ、その一本に画面がズームする。

 

「レユニオンは撤退時に幾つかの足止め要員を置いている。

ドローンから推察される彼らの規模は大したものではないが、これにわざわざ付き合う必要はない。

…だが、見逃すわけにもいかない」

 

マップに幾つかの赤い光点が映し出される。

 

「ヘリでの航空輸送部隊はこれを無視して近衛局隊と現地へ。

足止めに残された部隊は装甲車で陸路を行く部隊が対応しつつ、鉱山跡地を目指す。

現地勢力の抵抗が弱まった所を、ティルトローター機で医療部隊が合流する。

なお、ティルトローター機には緊急時の航空支援も担ってもらう」

 

ジョンの言葉にドライバー、パイロット達が腕を組んで微笑む。

モニターでは陸路を指す光線が途中の赤い光点に差し掛かるたびに×印が光らせながら進み、空路を指す光線がまっすぐに鉱山跡地へと向かう。

 

「大筋はこんなものだ、質問は」

 

室内の数名のオペレーターが手を上げる。

その中でもジョンは同じ席列に腰かけるリスカムに目を向けて頷く。

ジョンが頷いたのを確認してリスカムは口を開く。

 

「現地のレユニオンの規模は把握済みなのですか?」

 

「龍門からの情報によると、レユニオンはこの鉱山跡地までに数度の分裂、再統合を繰り返していると思われるとのことだ。

恐らくは進行ルートの偽装が目的だろう、足止め要員を置くためとも考えられる。

車両の轍の数からみて相当数が途中で別離し、情報を混乱させるのが目的とみられる小規模な合流を繰り返しているようだ。

この様子からみて、レユニオンはドローンに追尾されているとは気づいていない。

不意を衝く高速機動が最適だろう。

鉱山跡地で感知しつづけている熱源反応は大した数ではないが…鉱山跡地だからな、少なくとも大隊規模は潜伏していると思っていい」

 

リスカムが頷き、資料にペンで注釈を入れる。

再度室内に顔を向け、手を上げる者が減ったのを確認して、ジョンは一人の前衛オペレーターに手を向ける。

 

「君」

 

「敵勢力…レユニオンの対応については?」

 

オペレーターの質問を受けたジョンに一斉に視線が集まる。

一呼吸を終え、視線を一度机の資料に向けたジョンは再びオペレーターに向き直る。

 

「でき得る限り、降伏を促すように努める。

負傷したもの、身動きの取れないものは攻撃するな、私刑の類も禁止する。

負傷者に関しては事態の解決後、医療隊の到着時に対応を行う。

…だがこれは明らかな害意を向ける者は例外とする。

仲間を傷つけようとする者には容赦はするな、圧倒的な力で叩き潰せ。

各自自分の身を守ることを最優先に、判断は各々のそれに任せる」

 

ジョンの言葉にサルカズの剣士が鼻を鳴らす。

隣のオペレーターが睨みつけるのを無視して、剣士は自らの獲物に手を這わす。

 

「この作戦は一切の被害を被ることなく遂行させたい。

私も先行部隊に同行するが、現場での判断は君たちの方が優先される。

私の指揮に意見があった場合は遠慮なく言ってくれ」

 

サルカズの剣士が机に肘を突き立てながら、にやりと笑い、周囲の顔を見渡した後にゆっくりと口を開いて発言する。

 

「この…ロドスって場所は、んな甘い考えが通用するような場所なのか?

なら今からでも出て行かせてもらうぞ、こんなにつまらねえ話もないからな」

 

「君は?」

 

ジョンはサルカズの剣士に視線を向ける。

周囲からも注がれるとげとげしい視線を受けても涼しい顔で、エンカクはジョンの手元を指さす。

 

「あ?

…その御大層なファイルに収まってんじゃねえのか」

 

「…んーむ、いやどうだったかな」

 

「…ちっ」

 

ジョンは小首をかしげてエンカクに手を向ける。

 

「あーどうやら載ってないようだ…まあ、そこに座っているということは君もロドスの職員だろう?

新入の者か、それは悪かったな」

 

「…」

 

「どうやら皆も君については知らないようだ。

自己紹介をお願いしても?」

 

「誰が…もう行ってもいいか?」

 

エンカクは立ち上がろうと、足に力を入れる。

 

「大層な口を叩く癖に、随分と堪え性がないな、ますます気になる。

自己紹介を、頼むよ…「エンカク君」」

 

エンカクと呼ばれたサルカズ剣士の額に青筋が浮かぶ。

そしてゆらりとした動きで剣に手を伸ばす。

 

「…てめぇ」

 

次の瞬間だった。

 

「「「…」」」

 

音は一切立たなかった。

 

隣に座るオペレーターから鋭い刃が、エラフィアの少女が足元から取り出したボウガンの矢先が、二アールの取り出したメイスの突起が、エンカクに一斉に向けられる。

 

ジョンの目の前には彼を庇うように、ハンドガンを構えたリスカムと細剣を抜いたフランカ。

そしてローブを翻して立つリーベリ、へラグの姿があった。

 

「…お、おいちょっと待て!」

 

ジョンがあたふたと机から飛び出していくと、へラグがその横に立ち、動きを留める。

 

「…おいおいマジになんなよ」

 

エンカクは不敵な笑みを浮かべて刀に伸ばした手をゆっくりと上げる。

 

「みんな落ち着け、からかったのは私だ、彼が怒るのも無理はない!」

 

皆を鎮めようと前にでるジョンを大きな影が制止する。

 

「ドクター、彼は危険だ。

あなたに対して明確な敵意がある」

 

へラグが半身をジョンの前に晒し、ローブの中で手を刀の柄に添えている。

 

「彼は会議室にあなたが姿を現した時から殺気を放っていた」

 

「それはわかってた、わかってて鎌をかけたんだ、悪かったから、へラグ落ち着け」

 

ジョンはへラグの肩をつかんで椅子まで押していくと、いまだに武器を向け続けるオペレーター達に向かってひらひらと手を揺らした。

 

「みんなもやめなさい、これから大事な作戦だという時に…まあ、発破をかけたのは私だが…。

とにかく、これは私が悪かった。少し遊びが過ぎたんだ。

…ふう、年甲斐もなく焦ったぞ。

すまないエンカク、ちょっとお前にその、なんだ…ムカついたもんだから」

 

「てめえ本当いい性格してんな…」

 

「資料通りの問題児だな君は」

 

「…てめえがいうな。

なるほどな、あの女医先生、意地の悪い配置をしてくれたもんだな」

 

ゆっくりと下げられていく武器を横目に、エンカクはジョンに笑いかける。

 

「もうここはあんたのテリトリーってわけだ」

 

「…つづけてもいいかな?

それとも、退出するかね?」

 

エンカクは、あの瞬間、ローブの中に突っ込まれたジョンの左手を思い出す。

硬質な質感を持つ鋭利なものが、ローブの布地を持ち上げていた。

左手は既に抜き取られ、ローブは柔らかそうな布地に戻っているが。

 

(…あんな短物で受け止められたとは思えねえが、なんだったんだ、あの圧迫感は)

 

「…いいや、やっぱやめた。

「改めて」、あんたに興味がわいたぜ、ロドスのドクターさんよ」

 

「では、もう文句はないんだな…まったく」

 

ジョンは再び椅子に腰かけると、いつの間にか席を立っていたアーミヤに目を向ける。

 

「アーミヤ、君もいい加減そのアーツをしまいなさい、まぶしくて構わん。

…では続けるぞ」

 

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